アビドスに近づくにつれて段々と家屋が少なく……というか一面の砂漠になっていきました。見渡す限り黄金色の大地が広がり、それを貫くように二車線の道路が延々と伸びています。周りにはせいぜい鉄塔と送電線があるぐらいですか。
ヒナが今向かっている先はアビドス高等学校の自治区。出張している"先生"の滞在先でもあります。ここにゲヘナの風紀委員が委員長のヒナの承認無しに部隊を派遣したため、現地に足を運んで事態の収拾に当たるのだとか。
「道路自体はきちんと舗装されていて助かりました。このDホイールはオフロードでも走れますがそれ専用ではないので速度が出せませんからね」
「各自治区とを結ぶ幹線道路はアビドス最後の生命線だもの。セイント・ネフティスが最優先で保守してるみたい」
「さすがに高速鉄道は走っていませんか」
「砂漠横断鉄道は色々あって頓挫してしまってる。無理なインフラ整備が自分の首を絞めて衰退に拍車をかけたの」
現在アビドス高等学校は廃校の危機に立たされています。理由は急速に進む砂漠化とそれに伴う砂害で人口が急減しているため。"先生"からシャーレに届く報告によれば他にも色々な要因があるようですがね。
そんなアビドス高等学校を何らかの理由で廃校に追い込みたいカイザーコーポレーションがゲヘナの便利屋68という自称アウトロー企業を雇ったことが風紀委員の出動に繋がったのだとか。
「ちなみに、Z-ONE先生だったらアビドスの借金はどう返す?」
「土地だけは有り余っているのですから、大規模な風力発電所や太陽光発電所を建設するのがいいでしょう。少なくとも私が知る範囲での大国はそのようにして都市部へ電力を届けていましたよ」
「砂嵐で壊れちゃうんじゃない?」
「それはメンテナンス次第ですね。それに太陽光パネルで覆われた地表は温度が下がり、雨が降りやすくなるとも論文に書かれていました」
とはいえそんなインフラ整備には現在アビドスが背負っている借金を超えた大金が必要になるので、本末転倒なのですがね。やはり学校だけで返済するのは現実的ではないように思えますが……何か事情がある?
砂漠を抜けると段々と砂に埋れた街が見えてきました。廃墟ではありません。つい昨日まで人が住んでいた街に砂漠が急激に侵食している。そんな不思議で異常な光景が広がっていたのです。
「GPSか何かで風紀委員の生徒達の場所は分かりますか?」
「問題無い。案内する」
ヒナのナビに従って道路を走ります。まだアビドスに残る住人が生活するために必要な最低限の道路は掃除されていましたが、それでも端には砂が残っていましたし、脇に目をやれば砂に埋もれた道路も見えました。
進むにつれて次第に人の営みが見えてきました。寂れているとはいえまだここで暮らしている証が確認出来ます。移住すればいいのに、と人は簡単に言いますが、そう簡単にこれまでの自分を捨てられるほど人は強くありませんしね。
その時、遠くからの爆音が耳をつんざきました。何か大砲でも撃たれたのかと思ったのですが、ビルの隙間から見えたモンスターの姿で何があったかを悟りました。モンスターの放った爆炎が相手を吹っ飛ばしていたのです。
それは悪魔のようなドラゴンでした。
漆黒と真紅に彩られた身体は筋肉質、雄々しき翼と巨大な角。
この絶対的強者の放つ威圧感。このモンスターはまさしく……、
「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》……!?」
いや、私の知るシグナーの竜とは少し違う? ジャック・アトラスが従えていた《レッド・デーモンズ・ドラゴン》よりも更に魔人さが増している印象の個体のようです。どことなくヒナの《魔王龍ベエルゼ》にも近い在り方にも感じますね。
その《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の亜種が薙ぎ払うのはゲヘナの風紀委員の部隊員のようでした。そのドラゴンを従えているのは緋色、つまりスカーレットの髪を伸ばしてコートを着たゲヘナの生徒のようです。
「さあ、この調子でガンガン攻めるわよ! レベル8の《琰魔竜レッド・デーモン》にレベル2の《ヴィジョン・リゾネーター》をチューニング!」
自信に満ちた笑みを零しながら彼女は新たなチューナーモンスター《ヴィジョン・リゾネーター》を特殊召喚し、そのままシンクロ召喚へと繋げます。
「泰山鳴動! 山を裂き地の炎と共にその身を曝しなさい!」
現れた《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の亜種の進化形態は《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》等と違い、更に悪魔としての側面が強くなっていました。そして目立つのが両腕から生える巨大な刃物でしょうか。
「シンクロ召喚! 私のアウトロー、《琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル》!」
アルと呼ばれた女子が召喚した《レッド・デーモン・ベリアル》が吠えると風紀委員の部隊員達が気圧されて怯みました。風紀委員達を率いているらしい銀髪褐色の生徒も焦りを隠せていません。
「出た、アル様のエースモンスター!」
一方のアルが味方している側はと言うと、深紫の少女が歓喜の声を上げ、黒のメッシュが入った白髪の少女がやれやれと一息つき、赤紫の服を着た少女が笑顔で舌を軽く舐めていました。少し離れた位置では"先生"が各生徒に指示を出していますね。
「バトルよ! 《レッド・デーモン・ベリアル》でイオリの《終焉の王デミス》に攻撃! グレート・サミット・ブレイカー!」
「ぐっ! やられたか……くそっ!」
《レッド・デーモン・ベリアル》の攻撃でイオリと呼ばれた生徒のモンスターは一刀両断されました。他にもモンスターを召喚している風紀委員の部隊員もいましたが、アルの大型シンクロモンスターを処理出来そうな個体はいないようですね。
しかしソリッドビジョンで現場に姿を投影させる藍色の髪をした生徒、おそらく彼女がこの部隊の指揮官でしょうか、は戦闘続行する構えのようです。物量で押し切る作戦でしょうか。
「これ以上は不毛ね。介入する」
Dホイールから降りたヒナが無線通信を入れ、あちら側に自分の姿を投影させました。こうしてみるとキヴォトスでもソリッドビジョンは決闘以外にも活用されているようですね。
ヒナが姿を見せると風紀委員達、とりわけソリッドビジョンで投影している藍色の生徒が焦っているようでした。どうやらヒナにこの無断の派遣がバレて介入されるとは全く想定していなかったようです。
「アコ」
「……え? ひ、ヒナ委員長!? きょ、今日はシャーレに当番だったのでは?」
「さっき帰ってきた。今どこ?」
「その、えっと……ゲヘナ近郊で風紀委員のメンバーとパトロールを……。い、今はちょっと立て込んでいるので後ほどまた連絡いたします!」
「立て込んでる? 珍しい。パトロール中に何かあったの?」
「え? その、それは……」
ヒナは通信を入れながら向こうへと歩んでいきます。後列の風紀委員はヒナの登場に気づいて驚きの声を上げます。やがては風紀委員の包囲を抜け、"先生"やアル達のいる中心へと到達します。
「他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないことが?」
「……へ?」
「アコ。この状況、きちんと説明してもらう」
さて、その後の顛末は詳しく語らなくてもいいでしょう。
ヒナの登場で便利屋68の生徒は忽然と姿を消し(ヒナは事態の収拾を優先して見逃したのでしょう)、残った"先生"指揮下の生徒がアビドスの対策委員とも分かり、アビドスの代表者らしいピンク髪の少女の登場をヒナが警戒しました。
それからヒナはアビドスの対策委員会に風紀委員長として自治区への介入を正式に謝罪し、イオリとチナツ等風紀委員全部隊に撤収命令を下します。納得がいってないようでしたがヒナが睨んだら大人しく従いました。
「先生。出張お疲れ様です」
"お疲れ様ですZ-ONE先生。わざわざD.U.からヒナを送りに?"
「ええ。ああ、こちらは差し入れです。アビドスの子達と分けてください」
"ありがとうございます。これからそのまま帰るんですか?"
「はい。日が沈む前には戻れるでしょう。ではお疲れ様でした」
"道中お気をつけて"
私は"先生"と差し入れを渡してから少し会話し、Dホイールの方へ戻りました。来た道をそのまま戻ればいいだけですからナビは要らないでしょう。そのままアビドスを去ろうとしたのですが……Dホイールに乗る前にヒナに服を摘まれました。
「Z-ONE先生。ゲヘナまで送って」
「イオリ達と一緒に帰還してはどうですか?」
「一刻も早くゲヘナに戻ってアコを問いたださなきゃいけない。車やヘリより先生のDホイールの方が速い」
「風紀委員の子達が納得しているなら私は構いません」
「文句は言わさないから問題無い」
念の為にイオリ達の方を伺いましたが、ソリッドビジョンのアコが何だか悔しそうな以外は納得しているようでした。ただ、イオリが諦めた様子で「しょうがないよ」とアコを宥めているのを初め、本当に文句を言わせていないだけのようですが。
私はヒナへと手を差し伸べて自分のDホイールへと乗せ、私もDホイールにまたがります。私とヒナそれぞれが挨拶を送ったところでDホイールを走らせました。目的地はゲヘナ。アビドスからならハイウェイで行けばいいでしょう。
このまま何事もなくヒナを送り届けられればよかったのですが、そうは問屋が卸しませんでした。
◇陸八魔アル
デッキは【レッド・デーモン】
エースモンスターは3種類の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》
切り札は《えん魔竜レッド・デーモン・ベリアル》
まだバーニングソウルに目覚めてないのでその先は召喚不可。
◇銀鏡イオリ
デッキは【デミスルイン】
エースモンスターは《終焉の王デミス》
切り札は《終焉の覇王デミス》
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