ワカモとシュロのデュエル。現在シュロのターン、バトルフェイズ中。
ワカモのフィールドにはフィールド魔法《宵闇の聖域》、永続罠《狐狗狸さん》。そしてどうやら「い」と記された霊魂は永続魔法カードのようで、モンスターゾーンにセットされています。手札は0枚。ライフは8,000のままです。
シュロのフィールドには《麗の魔妖-妖狐》、《餓者髑髏》、《麗の魔妖-妲姫》。そして伏せカードが1枚。手札はあれだけ連続で展開したにも関わらず3枚と、消耗が少ないです。ライフは5,350、同士討ちと直前のバーン効果で削られましたか。ちなみに墓地の「魔妖」は8体ですか。
「一体何が……!?」
《麗の魔妖-妖狐》から飛び出した霊魂に襲われたシュロの歯が震えています。
それを眺めるワカモはくすくすと笑ったのでした。
「どうやらシュロの狐さんは魂では私への攻撃を嫌がっているようで」
「……っ! そんなわけあるはずないでしょうよぉ!」
「それで、残りの2体は攻撃するのですか? しないのですか?」
何とか立ち上がったシュロは《餓者髑髏》と《麗の魔妖-妲姫》を見やり、ワカモのフィールドを凝視します。ワカモの傍にはこっくりさんの道具が並べられ、得体のしれない霊魂が2つ浮かんでいます。
シュロは《骸の魔妖-餓者髑髏》での攻撃を宣言しようとして、言葉が尻すぼみになり、結局攻撃しないでバトルフェイズを終えました。完全耐性の無くなった《餓者髑髏》での攻撃は無謀だと判断したのでしょう。
「カードを1枚伏せてターンエンドします……」
「どうやらこっくりさんが何か告げたいようですよ」
再び真っ白な指が添えられた硬貨が動き始めました。いろはの順に書かれたひらながの上を滑った硬貨は、「ど」を示します。すると霊魂がもう一つ浮かび上がり、蝋のように白い手が動かす筆で「ど」と記載されます。
《宵闇の聖域》も《狐狗狸さん》も私の知らないカードです。キヴォトスにのみ存在するカードかと検索をかけてみましたが、ヒットしませんでした。だとしたらワカモだけが使うオリジナルカードなのか、それとも……。
「では私のターンですね。ドロー」
ドローカードを見たワカモは、能面で表情が全く見えないのですが、最初は目を見開いてドローカードを見つめ、直後に笑ったようでした。馬鹿にされたと受け取ったのかシュロは憤慨した様子でしたが、ワカモは気にもとめません。
「私は《妖仙獣 左鎌神柱》と《妖仙獣 右鎌神柱》をペンデュラムゾーンにセットします」
「《左鎌神柱》と《右鎌神柱》~? 大したペンデュラム効果も無いですし、手札0枚では役立たずですねぇ」
「ふふっ。私はスケール3《妖仙獣 左鎌神柱》とスケール11になった《妖仙獣 右鎌神柱》でペンデュラムスケールをセッティング。これで私はレベル4~10が召喚可能になりました」
ワカモのフィールド魔法の影響で色を失った周囲一体に光の柱が立ち上りました。それに2体のペンデュラムモンスターが昇っていきます。モンスターたちの上には大きく3と11の数字が輝きました。
「万物に宿りし八百万の神々よ。現し世にてその大いなる力を示し、私どもを導きたまえ! ペンデュラム召喚!」
しかし、そんな輝きは一瞬で失われました。光の柱に挟まれた空間に漆黒の穴が空き、中から古書が飛び出てきたのです。それは闇と血のような液体をこぼれ落とし、再び猫鬼の妖怪が不快な雄叫びを上げて這い出てきたのです。
「再びおいでなさい、《魔妖仙獣 猫鬼黒影》!」
まさか、《クロカゲ》は儀式モンスターでありながらペンデュラムモンスターでもあるのですか。なので破壊されたら墓地へはいかずに表側表示でエクストラデッキに行き、ペンデュラム召喚でフィールドに戻ってきた、と。
「……は? はあぁぁああ!?」
「ペンデュラム召喚に成功した《猫鬼黒影》の効果を発動。デッキから永続魔法《猫鬼の猟奇な領域》をサーチし、そのまま発動します。さあ、猫鬼黒影の領域にいざなって差し上げましょう」
《クロカゲ》が吠えると猫鬼を起点に闇が侵食して辺りを包み込みました。しかし闇には支配されず、《クロカゲ》の無数の瞳、そして闇の中に浮かぶ《クロカゲ》と同じような赤い目が無数に開眼し、シュロを見つめました。餓者髑髏と妖狐という大妖怪を従えているシュロが軽く悲鳴を上げました。
「バトル。《魔妖仙獣 猫鬼黒影》で《骸の魔妖-餓者髑髏》に攻撃。疾走する猫鬼夜行!」
《猫鬼黒影》がしなやかに身体を動かしながら高速で突進。《餓者髑髏》が骨一つ一つにバラバラにされてしまいます。《猫鬼黒影》は遥か彼方の暗闇へと姿を消し、いつのまにかワカモの元へと戻っていました。
「そんな、攻撃力3,300もある《餓者髑髏》が戦闘破壊を……!? 攻撃力が下がってるのに……!」
「さて、どうしてでしょうね?」
ワカモは徹底して自分のカードの効果を説明しないつもりのようです。おそらくは永続魔法の効果によるものと推測されますが、こちら側からもカードテキストは一切記載されていないかのように表示されています。
ワカモはそのままシュロへとターンを譲り、シュロは怖気づきながらもデッキから1枚ドローしました。シュロは手札、フィールドの状況を素早く再確認し、強い眼差しでワカモを睨みつけます。
「永続魔法《魔妖壊劫》とフィールドの《麗の魔妖-妲姫》を墓地に送って《魔妖壊劫》の効果を発動、1枚ドロー。それから墓地の《魔妖壊劫》の効果を発動して、このカードと《翼の魔妖-波旬》を除外して、墓地の《翼の魔妖-天狗》を特殊召喚しますよぉ」
「ふむ、なるほど。そうきましたか。ではチェーンして《猫鬼黒影》の効果を発動。《猫鬼黒影》を破壊して、《猫鬼の片鱗トークン》を4体攻撃表示で特殊召喚いたします」
《猫鬼黒影》が咆哮を上げると、突如《猫鬼黒影》が炎を上げて爆発四散。代わりに紅い霊魂が3つ浮かび上がりました。不気味に漂っていますがどこか儚く、今にも消えてしまいそうです。
「何のつもりかは知りませんが……。墓地から蘇った《翼の魔妖-天狗》で、その小賢しいフィールド魔法を破壊しますよぉ!」
「化身を呼ぶ鬼哭!」
《天狗》が動作をし始めたその時でした、紅い霊魂が1つ《天狗》の方へと飛来して自爆します。《天狗》は破壊こそされませんでしたが効果の発動を妨害されてしまい、フィールド魔法の破壊には至っていません。
「自壊して破壊を無効にするトークン!? 猪口才な……っ!」
「さて、いかがなさいますか? 攻撃をしたければご自由にどうぞ」
「……罠カード《魔妖変生》を発動して、《餓者髑髏》を蘇生。これで完全耐性に加えて効果の対象にもなりゃしません。小細工ごとぶち抜いてやりますよぉ! バトル! その《猫鬼の片鱗トークン》を粉砕!」
「く……!」
《餓者髑髏》が薙ぎ払った《猫鬼の片鱗トークン》は辺りに火の粉を撒き散らしながら消えていきました。《魔妖壊劫》の効果が切れたとはいえトークンでは攻撃力3,300の超大型シンクロモンスターに全く歯がたちません。
「続けて《翼の魔妖-天狗》で攻撃……!?」
「霊魂呪縛撃!」
ワカモの挙動を見逃すまいと観察していたら、彼女はデュエルディスクを装備しないで手札の無い右手だけで器用に硬貨を指で弾き上げ、手の甲の上に乗せました。シュロはソリッドビジョンの霊魂に襲われていて気づいていないようです。もしや効果発動の処理にコイントスをしている……?
「くぅぅっ! 鬱陶しいったらありゃしませんよぉ! どうせこれも所詮フィールド魔法効果なんでしょう!」
「激昂する暇があるなら早くフェイズを進めてくださいな」
「このっ……! カードを2枚伏せてターンエンドです」
「どうやらこっくりさんがまた何か言いたいようですよ」
複数の白い指が添えられた硬貨が独りでに動き、今度はひらがなの「ゆ」を示しました。その文字に対応した霊魂が浮かび上がります。「め」と「い」と「ど」と「ゆ」……これで4文字。こっくりさんは一体何を語ろうとしているのでしょうか。
「では私のターン。ドロー。ではペンデュラムスケールをセッティングして……」
「ふ、うふふ……あっははははっ!」
ワカモが再びペンデュラム召喚の構えを見せたところ、シュロが突然大声で笑い出しました。涙を浮かべて腹を抱えて、最後には咳き込んで。本当に見ているこちらも気持ちがいいほどの大笑いでした。
「何か面白いことでも思い出しましたか?」
「あー、愉快痛快とはこのことですよぉ。面白いものはこれからお見せしましょう。リバースカードオープン、罠カード《逢華妖麗譚-魔妖不知火語》を発動!」
「……!」
「《翼の魔妖-天狗》を墓地に埋葬して、このターン互いの手札・デッキ・EXデッキからのモンスターの特殊召喚を封じます!」
いけない。これでワカモはペンデュラム召喚、そしてトークンをリリースしてのリンク召喚も封じられました。ワカモの手札はドローした1枚のみ。魔法・罠カードだったら魔妖の猛攻をしのぎきれないかもしれません。
「どうですかぁ? なすすべを失った気分は。惨めですねぇ悔しいでしょうねぇ。せっかくですしそのお面を外して悔し顔を手前に見せてくださいよぉ」
「なるほど。でしたら私は《猫鬼の片鱗トークン》2体をリリース」
「……は?」
「レベル10《魔妖仙獣 独眼群主》をアドバンス召喚!」
ワカモが呼び出した最上級モンスターは紅い龍の妖怪。右目に火が灯っていますが、むしろ龍は全身が燃えています。しかし熱さを感じさせる炎ではなく、人魂のように冷たい炎との印象を受けました。
龍の妖怪が咆哮を上げると《餓者髑髏》の周囲につむじ風が舞い、やがて風は突風となり、終いには竜巻となり、《餓者髑髏》は神隠しにあったかのように忽然と姿を消したのでした。
シュロは口をパクパクと開閉し、唖然とするしかありませんでした。
《猫鬼の猟奇な領域》
永続魔法
(1):自分フィールド上に表側表示で存在する「妖仙獣」モンスターの
攻撃力・守備力は自分フィールド上のカードの数×100ポイントアップする。
(2):自分フィールドに「猫鬼の片鱗トークン」が特殊召喚された時、「猫鬼の片鱗トークン」は以下の効果を得る。
●「破壊する」効果が発動された時、このカードを破壊して発動できる。その効果を無効にする。(効果名:化身を呼ぶ鬼哭)
(3):相手のスタンバイフェイズ時、自分フィールドに表側表示の「魔妖仙獣 猫鬼黒影」が存在しない場合、このカードを破壊する。
その後、エクストラデッキに表側表示の「魔妖仙獣 猫鬼黒影」がある場合、そのカードを召喚条件を無視して特殊召喚する。(フェーズ3移行の再現)
この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃力が1,000ダウンし、以下の効果を得る。
●このカードの(4)の効果は発動できない。
●フィールド上のこのカードが相手によって破壊された時、その破壊を無効にしてこのカードを墓地に送る。(クロカゲ撃破の再現)
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