Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

93 / 195
ワカモ、1ターンキルの応酬をする

 黒い和服の女性は自分の腕に(和服の袖越しではなく直に)装備した扇型デュエルディスクからカードを取り外し、《餓者髑髏》と《妖狐》を消失させ、地面に降り立ちました。音が全く立たないしなやかな着地でした。

 

 ワカモもフィールドにセットされた《狐狗狸さん》他を回収します。フィールド魔法《宵闇の聖域》が無くなったことで辺りの薄暗さと色の薄さが解消され、再び太陽の光が降り注ぐ明るい情景が戻ってきます。

 

 私とユカリもそれぞれドラゴンを回収します。ユカリは大事に至らずにすんで

 

「コクリコ様ぁ! 手前は、手前はぁ~!」

「おお、よしよし。粗相してるなぁ。代えの衣は用意しとる。この風呂敷を持って物陰で着替えてきたらええ」

「……っ! は、はい……///」

 

 涙を零しながらシュロはコクリコと呼ばれた女性に駆け寄りますが、シュロが抱きつこうとする前にコクリコは風呂敷に包まれた着替えを差し出します。シュロはあまりの恐怖で少しばかり漏らしてしまっていて、ようやく気づいたシュロは赤面しながら風呂敷を持ってこの場をあとにします。

 

 ワカモとシュロのデュエルは受講者たちに多大な影響をもたらしていました。恐怖で気絶した者、寒そうに震えた者、金縛りにあって動けない者など、後でトラウマになってしまいそうな衝撃的な体験をしてしまったことでしょう。

 

 しかし、キヴォトスにいる以上このようなデュエルに遭遇することは稀によくあるでしょう。その時に恐怖や絶望に支配されて何も出来なかったら生存率が著しく下がってしまいます。このような危険は一度は味わっておくべきです。再び遭遇しないよう危険意識を働かせられるように、そして対峙したら立ち向かえるように。

 

「久しぶりやなぁワカ「ユキノです」……ユキノ」

「お久しぶりですねコクリコ女史。お元気そうで何よりです」

「ウチの子が世話になったなぁ。お調子者やし手ぇ焼いたやろう」

「あの子をこのデュエル講義に参加させたのは貴女の指示だと聞きましたが」

 

 どうやらコクリコはワカモも正体を察しているようですし、お互いに顔見知りのようです。しかし気さくな間柄ではないとワカモが若干警戒した様子からも分かりました。コクリコの接し方も友人ではなくあくまで知人に対するもののようです。

 

「まさかシュロに闇の決闘を味わわせるためですか?」

「怪談を語るなら怪談をその身で味わってこそ言葉に霊力が宿る。舌先三寸の井戸端話は怪談家には要らんわ。ユキノがおってええ機会やったしなあ」

「反応がいちいち面白いものでついつい興が乗ってしまいました。貴女が可愛がるのも分かる気がします」

「これで少しは成長してくれたらええのやけど」

 

 ユカリが「え、わざわざ恐怖を体験させによこしたんですの?」と正直な感想を呟きます。私も全くその通りだと思いましたが、それがコクリコのシュロを育てる方針なのだとしたら、虐待や心身の傷に発展しない限り口を出すべきではないでしょう。

 

 コクリコは軽く笑いながらデュエルディスクを展開し、収めていたデッキを入れ替えました。それを見たワカモ、能面で顔は見えませんが、多分彼女は嫌そうな顔をしたことでしょう。

 

「ところで、せっかく再会したんやし、一局やろか?」

「お断りします。私たちではデュエルになりません。もはやポーカーですよ」

「そないなデュエルもある、と見本を見せるのも講義になるやろ」

「……では先攻と後攻を交互に1回ずつで」

 

 ワカモはため息を漏らしてからデュエルディスクを展開し、デッキを組み替え、コクリコと少し距離を離しました。また闇の決闘をやるのか、と周囲の受講者は怯えましたが、普通のデュエルをやるんだと宣言します。

 

 今度はどんなデュエルを見せてくれるのか、ユカリは固唾を飲んで見守ります。着替え終わったシュロは声を張り上げてコクリコを応援しました。シュロはコクリコの勝利を疑ってないようですが、自分が負けた相手が油断ならないからでしょう。

 

「「決闘!」」

 

 デュエル開始の宣言をし、互いに手札をデッキから取りました。

 

「では私の先攻から。手札から《王家の神殿》を発動。効果を発動して《狐狗狸さん》をセットしてそのまま発動します」

「何もあらへん。続けとくれ」

「バトルフェイズ。先攻1ターン目は攻撃出来ませんが、速攻魔法《時の飛躍-ターン・ジャンプ》を発動します」

 

 《王家の神殿》は本来古代エジプトにおけるファラオの墓を再現したものの筈ですが、ワカモが出現させたのは厳かな雰囲気な神社でした。そう言えば帝が死したあと神として崇め奉られることもあるんでしたね。

 

 ワカモは再び和紙と白い手を出現させます。そして硬貨が動いてひらがなの「め」を指し示し、「め」と達筆で書かれた霊魂が浮かび上がります。そして、速攻魔法を発動した途端、突如「い」「ど」「ゆ」の霊魂が出現します。

 

 確か《ウィジャ盤》は相手のターン終了時に「死のメッセージ」カードをフィールドに貼る効果。もしかしてワカモの速攻魔法は3ターンもターンをスキップさせる効果でしょうか?

 

「は? はああぁぁ? インチキ効果もいい加減にしてくださいよぉ!」

「1枚伏せてターンエンドです。さ、コクリコ女史のターンです」

 

 シュロの抗議の声を一切無視してフェイズを進め、ワカモは手の仕草でコクリコに促しました。

 

「我のターン。ドロー」

「この瞬間、罠カード《死の宣告》を発動。このカードを墓地に送って、《死のメッセージ「き」》を魔法&罠ゾーンに出します。はい、これで「冥土逝き」のメッセージが揃ったので、私の勝利です」

 

 ユカリはぽかんと口を開きっぱなしになりました。シュロは目を見開いて驚愕しています。私は思わず「これは酷い」と呟きそうになりました。まさかのほぼ先攻1ターンキル。これでは手札誘発カードを握っていなければ対処しようがありません。

 

 ソリッドビジョンでの演出は黒い鳥居が形成されるところまででした。ワカモ曰く、リアルソリッドビジョンモードをONにすると白い手が伸びて相手のデュエリストを引きずり込むようになるのだそうです。闇の決闘でなければ本当に冥土に逝かないようですが。

 

 互いに全てのカードをデッキに戻してシャッフル。再びデュエル開始の宣言をします。今度はコクリコの先攻。先程黒い鳥居を《餓者髑髏》で破壊したこととワカモの発言から、彼女も【魔妖】デッキと思われますが……。

 

「魔法カード《二重召喚》を発動。《精気を吸う骨の塔》と《翼の魔妖-波旬》を通常召喚する」

「……サレンダーしていいですか?」

「だーめ。《翼の魔妖-波旬》の効果でデッキから《麗の魔妖-妲姫》をリクルートする。さ、《精気を吸う骨の塔》の効果でデッキから2枚捨てぇや」

 

 あ……(察し)、とこの場にいたデュエリストならほとんどが思ったことでしょう。先程のシュロの連続シンクロを見ていたら、特殊召喚する度にデッキからカードを2枚捨てさせる《精気を吸う骨の塔》がどんな結果をもたらすかは明らかです。

 

「ほんならレベル3,5,7,9,11の順に「魔妖」シンクロモンスターをシンクロ召喚。都度《麗の魔妖-妲姫》を蘇生させとるから、特殊召喚は10回。20枚デッキから捨てぇや」

「それで次は連続リンク召喚でしょう? もうデッキ全部捨てても構いませんよねえ?」

「一つ一つ丁寧にやるのもまた風流やろう? リンク2,3,4,2,3,4の順に「魔妖」リンクモンスターをリンク召喚。24枚やな」

「とっくに私のデッキは0枚なんですけど」

「ほんなら我の勝ちやなあ」

 

 デッキ破壊による先攻1ターンキル。ワカモは何も出来ずに負けました。

 ユカリは「こんな戦い方もあるのですね」と惜しみない拍手を送ります。

 シュロは自分が勝ったかのように大喜びではしゃぎました。

 

 互いにとんでもないデュエルでしたね。百鬼夜行のデュエリストは皆こんな感じなのでしょうか? とユカリの方を見やると、とんでもないと言わんばかりにユカリは全力で顔を横に振ってきます。

 

「相変わらず《時の飛躍-ターン・ジャンプ》はエグい性能しとるわあ。《呪いの双子人形》はまだ使うてるん?」

「アレは初見にこそ有効なカードであって、コクリコ女史は嬉々と黒の葛籠を選ぶでしょうよ。そちらこそ《終焉の秒読み》はまだ使っているんですか?」

「【魔妖】と相性悪いしなあ。デッキ破壊の方がお手軽やし。お遊びで別デッキにしとるよ」

 

 さて、と。ワカモとコクリコの感想戦も程々に、デュエル講義を続けましょう。いかに普通でないデュエルが危険かはきちんと実感してくれたでしょうし、自分のみを守るための立ち回り、実際遭遇した際の対処法を教えなくては。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 あっという間の一週間でした。講義は概ね好評で、初めてカードに触った受講者は引き続きデュエルモンスターズをやってくれると言ってくれました。嗜む程度だったデュエリストも本気で強くなりたいと思うようになってくれました。

 

 ニヤ達陰陽部へ報告を済ませましたし、D.U.に帰るとしましょう。今から帰れば日付をまたぐ前までに到着する見込みです。明日も仕事があるので、悪影響を及ぼさないよう身体を休ませないと。

 

「ユウセイ先生、どうもありがとうございました。また百鬼夜行に来ていただけたら身共が案内しますわ!」

「ええ。是非よろしくお願いします。次お会いした時はデュエルしましょう」

「その時は身共は百花繚乱のえりーとになっていますわ! ぐれーとに成長した身共をご覧に入れましょう!」

「では、また会いましょう」

 

 ユカリを初めとして受講者が見送ってくれました。ユカリはああ言いましたが、彼女との再会は思ったよりも早くになったとだけ追記しておきましょう。まさか彼女と共にキヴォトスの存亡をかけた異変に対処することになるとは、この時想像もしていなかったのです。

 

 なお、ワカモがユキノの名を騙ったことであのような闇の決闘をしたユキノの名は百鬼夜行に知れ渡ってしまいました。それを知ったユキノは改めてワカモを逮捕する決意を固めたのでした。

 

 そして、どうしてコクリコがシュロに怪談を直に味わってもらったかを知るのは、もう少し先の話になります。




◇勘解由小路コクリコ
使用デッキは【魔妖】……を軸にした【アンデットデッキ破壊】
サブデッキとして【終焉の秒読み(終焉のカウントダウン)】も使う。
どちらかと言うと1、2ターンで相手を敗北に追いやる速効型の構築を好む。
しかし昔は別のデッキを使っていたらしく……。

ご意見、ご感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。