◆三人称視点◆
カイザーコーポレーション。
キヴォトスにおいて様々な事業を展開する一大財閥である。
しかしそのやり口は悪徳企業そのもので、違法行為等の黒い噂が絶えない。
ヴァルキューレ警察学校。
キヴォトスの様々な問題対処に携わっている連邦生徒会防衛室直轄の学校。
各学園の自治区外で起きた犯罪を解決する正義の執行官である。
そんな二つが結託して不正行為を行おうとしている。
ヴァルキューレ公安局の違法リベートに関する証拠を確保するため、SRT特殊学園の一年生小隊、RABBITの四名はシャーレの"先生"の指揮下で「クローバー作戦」を開始した。作戦内容は簡単、ヴァルキューレに侵入して証拠を手に入れるだけだ。
一年生と言えどSRT特殊学園の生徒はキヴォトスから選りすぐり達が集うエリート集団。一般的な騒動の対処で精一杯な能力しかないヴァルキューレは4名のRABBIT達にいいようにやられてしまった。
そしてRABBIT小隊のミヤコ、サキ、ミユの3名は癒着の証拠を手にヴァルキューレ警察学校校舎の屋上にいた。モエからの航空支援待ちのためだ。既に屋上への入り口は封鎖した上に階段には地雷をばらまいているため、充分間に合う計算だった。
「……またしても貴様らか」
ヴァルキューレ公安局長カンナが現れなければ。
「公安局長……!」
「扉が開いてないのに、どうやってここまで?」
「建物の外壁をよじ登ってきた」
「マジかよ、10階建て超えてるぞここ……なんつー無茶を……」
「犯罪者を捕まえるためなら、公安局は何でもする」
カンナは銃を構えない。片手にコーヒーカップを持ち、もう片手はクリップボードを抱えるだけ。銃口を向けられているのにこの余裕。ミヤコたちからしたらあまりに無防備すぎて逆に警戒感を強める。
「貴様らはすでに包囲されたも同然。無駄な抵抗は止めろ。こんな犯罪まがいのことをして、今度こそ連邦生徒会から学籍データを抹消させられてもいいのか?」
このRABBIT小隊はヴァルキューレへの留学を拒絶、休校反対のデモとして学園から大量の装備武器弾薬を持ちだしてD.U.の子ウサギ公園を占拠している。しかし何故か防衛室長のカヤはシャーレの"先生"に丸投げして事実上の黙認。今に至っている。
ところが子ウサギ公園を含む子ウサギタウンは再開発が計画されていて、RABBIT小隊は再び居場所を失う瀬戸際に立たされている。ヴァルキューレへの侵入もそれを阻止するための交渉材料を手に入れる意味もある。
「公安局長、そちらの犯罪についてはいかがお考えですか?」
「……! 公安局の取引記録! 入手していたのか……」
「子ウサギタウンの再開発のため、放浪者たちを追い出す。その代わりにカイザーグループとの間で違法リベートが発生していた……そうですよね?」
「連邦生徒会の定めた公的な規則に従わない処理、とでも言いたいのか?」
カンナはミヤコから見て呑気なほどに優雅にコーヒーを啜った。サキは問答無用でその脳天に銃弾を撃ち込もうかとジェスチャーで上申したが、ミヤコは却下する。状況から判断したのではなく、妙な胸騒ぎがしたからだ。
「ところで、SRTでは法学の授業はあるのか? どこまでのリベートが合法でどこからが違法なのか、区別はつくのか? あいにくヴァルキューレとカイザーのリベートは合法と判断されてる。連邦生徒会のお墨付きでな」
「そんな筈ないでしょう。ざっとしか目を通してませんが、明らかにコンプライアンスに接触しているのは私にだって分かります」
「その水準を決めるのは連邦生徒会だ。法が変われば正義と悪の境だって容易く変わってしまう。連邦生徒会長不在のごたごたで役員の誰かがこっそり都合の良い法案を通すのはそう難しくもないんだろう」
つまり、ヴァルキューレ警察学校の理念に反する重大な犯罪、だった。過去形だ。今は違う。どんなに納得いかなくても法に則って正義を執行するヴァルキューレにとってはリベート相手のカイザーはパートナーで、RABBIT小隊は悪なのだ。
「それでいいんですか? 権力者の犬になって歪められた法に従い、貫くべき正義に目を背けるなんて」
「……本当に言いたい放題だな、貴様たちは。確かにヴァルキューレは公正であるべきだろう。しかし世の中は、貴様らが思うほど公正ではない」
SRTには特権がある。権力者、金、そんなヴァルキューレが妥協し続けた障害をもろともせずに正義を執行してきた。その間ヴァルキューレは汚い現場でどれだけ妥協に濡れながら公務を処理してきたか。
「手を汚さずに、正義を掲げ続けることなどできない! それが社会だ、現実だ!」
カンナの叫びは果たしてミヤコ達に現実を思い知らせるためのものだったか。それとも例え正しくなくとも公的な規則に従わざるを得なかった自分の無力さへのものだったか。おそらくどちらともだろう、とミヤコは思った。
"……カンナ"
そんな時、ミヤコたちの無線から"先生"の声が聞こえてくる。
"信念を貫くのは大変かもしれない。それでも……最終的に自分の未来は、自分で判断し続けていくものだよ"
「それでも……自分の信念だけに従っていたら、私は全てを失ってしまう……!」
"RABBIT小隊のみんなは、ほぼゼロからのスタートだったよ"
「……!」
"大丈夫。状況は大変だろうけど、辛いだろうけど。それでも行き先は、自分で決められるよ"
「……」
"先生"からの言葉にサキ、ミユ、モエ、そしてミヤコが同調するが、カンナは逆に冷めた。カンナはカップの中に残ったコーヒーをあおるように飲み干し、カップの取っ手をベルトフックにひっかけた。
「正義を執行する者が自分の好きなようにやる、それを人は無秩序と言うんだ! 法は、規則は個人個人で違う正義と悪を統一させる定規みたいなものだ! "先生"、あなたは狂った定規の尺度を修正する資格がありながら定規が気に入らなければへし折れと言うのか!」
カンナは夜空を睨みつける。否、空を割くプロペラの音を睨んだのだ。それはミヤコ達を回収しに来たヘリのもの。あの中には操縦者のモエ、そしてRABBIT小隊を指揮していた"先生"が乗っている。
「それ以上動かないでください! 動くと撃ちます!」
ミヤコたちはカンナに銃口を突きつける。しかしそんな危機的状況でもカンナは怯む様子はなく、それどころかミヤコたちを気にすることもない。怒りの矛先は自分へ、そして"先生"へと向けられていた。
ミヤコはカンナが指一本でも動かしたらためらいなく引き金を引くつもりではいるが、何かを見落としている気がしてならない。注意深くカンナを観察するが、特にこれと言って自分たちを制圧できる武装を隠し持ってはいなさそうだが……。
「もう行動する必要はない。必要な展開は既に終えている」
「何を言って……?」
「ところで、貴様らは三幻神や三幻魔は知っているか?」
「は? ……アビドスやゲヘナに伝わる強力な神、悪魔のことでしょう」
唐突な質問に反射的に間の抜けた反応をしてしまったが、ミヤコは律儀に答える。アビドスの生徒会長やゲヘナの議長が従えた強大なモンスター。そういった相手への対処もSRTでは必須課題だったから。
その問いの意味はすぐに分かった。カンナが腕に抱えていたクリップボード、これはケーブルで背中のモーメントに繋がっているデュエルディスクだとミヤコはようやく気付いた。そして、既にモンスターゾーンに1枚カードがセットされているとも。
「星界の扉が開くとき、古の戦神がその魔鎚を振り上げん。大地を揺るがし轟く雷鳴とともに現れよ!」
D.U.地区にあるヴァルキューレ警察学校の周りは摩天楼だ。数十メートル、数百メートル規模のビル群が並んでいる。ここまでの発展ぶりはあとせいぜいミレニアムでしか見れないだろう。
そんなビル群の間から、巨人が姿を表した。
古の戦士といった武装をした厳つい巨人は地面に立っているはずだがビルの屋上にいるミヤコたちよりも高い位置に頭部がある。これほどまで巨大なモンスターはミヤコたちも目にしたことがなかった。
そして、それ以上に襲ってくるのが威圧感、圧迫感。この戦慄はこれまでどんな凶悪犯、兵器を目の前にしても感じたことがない。
圧倒的強者の到来。
百獣の王を目の前にした兎がこんな感じなのかも、とサキは感想を抱いた。
「神のカード……」
「これがヴァルキューレに伝わる神、星界の三極神。その一体、《極神皇トール》だ」
カルバノグ1章は全略予定でしたが、唐突に思いついたラストシーンだけ掲載。
ご意見、ご完走お待ちしています。