◆三人称視点◆
星界の三極神。その力はアビドスの三幻神にも匹敵する。
あまりに強力なため召喚には連邦生徒会へ申請して許可を貰う必要がある。しかし後処理が面倒になるからと申請が通った例はこれまで数え切れる程しかない。
「貴様らの理屈なら正義を貫くためなら正当な手続きを踏まなくてもいいんだろう? それがいかに危険かじっくり見ていろ」
「いえ、この場で局長を無力化します」
「無駄だ。三極神は一度召喚されればしばらく顕現し続ける。神のカードとはそういうものだ。習わなかったのか?」
「くっ! RABBIT2、RABBIT4! 公安局長は私が見張っていますから、あなた達は《極神皇トール》の対処を!」
「了解!」
しかしサキやミユが行動に移る前にトールは動き出していた。巨大な戦鎚を掲げ、モエの乗ったヘリコプターに狙いを定めている。ヘリの真正面には"先生"が召喚しただろう《希望皇ホープ》が現れたが……、
「無駄だ! 《極神皇トール》は相手フィールドの全ての表側表示モンスターの効果をターン終了時まで無効化する。《希望皇ホープ》で攻撃は無効に出来ない」
「モエ! "先生"!」
エフェクトアブソーバー。《極神皇トール》が指差した指先より放った雷撃により二本の剣を構えていた《希望皇ホープ》の体勢が崩される。そして、無防備になった《希望皇ホープ》に神の鉄槌がくだされようとしていた。
「《極神皇トール》で"先生"にダイレクトアタック! サンダーパイル!」
《極神皇トール》は《希望皇ホープ》もまとめてヘリコプターを撃ち落とす。戦鎚に弾き飛ばされたヘリは圧縮された鉄くずに成り果てて、燃えて夜空を照らしながら遥か彼方へと消えていった。
そんなヘリから人影が離れた後、パラシュートが開かれる。一瞬肝が冷えたサキとミユだったが、それがモエと彼女に抱えられた"先生"だと分かって胸を撫で下ろす。片手で器用にパラシュートを操作し、モエはサキたちのいるビルの屋上に着地した。
「"先生"! モエ! 無事だったか!」
"うん、モエが私を抱えてヘリから脱出させてくれたんだ"
「あー……さすがに死ぬかと思ったー」
常に笑顔を絶やさないモエだったがさすがに恐怖で顔が引きつっていた。"先生"もまた顔が強張り、顔色が心なしか悪い。気のせいでもとっさの脱出劇のせいでもなく、《希望皇ホープ》を戦闘破壊された反動かもしれない。
そんな生還を喜び合う間も無く、《極神皇トール》はサキたちめがけて手を突き出してきた。あまりに巨大なので狭い屋上では回避しようがない。そして自分たちの重火器でどうにか出来る相手でもない。
「ふんっ、いくら神が凄くたってデュエルモンスターズなんだから攻撃力4,000超えるなんて早々無いだろ。ならこいつで仕留める!」
迫りくる《極神皇トール》の手に線が走った。その線は手から腕、肩、胴にも波及していく。やがて《極神皇トール》は唸り声を発しながらよろめき、戦闘破壊された。場には戦士が一人剣を構えるのみだった。
「《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》! 《DNA改造手術》とのコンボで攻撃力は3,800だ。御大層だったわりに大したことなかったな」
「それはどうかな?」
「は? ……いや、待て。嘘だろ……!?」
戦闘破壊された《極神皇トール》だったが、夜天を割くように天から光が降り注ぎ、ゆっくりと《極神皇トール》が降臨する。再び大地を踏み締めた《極神皇トール》は構えを取った。
これこそが三極神が他のモンスターと一線を画す効果。三幻神のような強固な耐性こそ無いものの、破壊してもなお降臨してフィールドを支配する。
「三極神は破壊されたターンのエンドフェイズに無条件で蘇生できる」
「冗談じゃない! そんな馬鹿げた効果を持つモンスターなんて……!」
「モンスターではない、神だ」
カンナの訂正にサキは思わず唾を飲み込んだ。
しかし、蘇っても攻撃力は《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》の方が上。ミヤコに銃口を向けられているカンナはカードのプレイングが出来ないので実質《極神皇トール》は棒立ち状態。これならいくらでも対処のしようが……、
そこまで考えを巡らせ、一つ深刻な問題があったことを思い出してしまった。そもそも自分たちはこの屋上からヘリで脱出しようとしていたのに、その逃走手段をカンナに潰されてしまっている、と。
「もう一度だけ言う。貴様らはすでに包囲されている。無駄な抵抗は止めろ」
「公安局長」
事実を突きつけるカンナに対して銃口を向けていたミヤコは、冷静だった。
「あなたが言う「正義」はきっと間違っていないでしょう。ただ私が思うのとは違うというだけで」
「SRTでは治安のためなら法を犯しても良い独善を正義と呼称するのか?」
「権力や悪法に縛られない超法機関、それがSRTです。確かに連邦生徒会長がいない今はその正義が暴走する恐れが無いとは言い切れません。それでも本来の正義を果たせない理由を誰かのせいにはしません」
「……!」
「正義を果たすためにどんな判断をし続けてきたのか。それがSRTとヴァルキューレの違いです」
「……。何とでも言え。私は私の勤めを果たす」
カンナは苦悶の表情を浮かべながらコーヒーを飲もうとして、とっくに飲み干したことを今更思い出した。やるせなさをごまかすことも出来ず、カンナは《極神皇トール》を見上げた。
「《極神皇トール》で《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》を攻撃!」
「はぁ!? 攻撃力が高いモンスターに攻撃を?」
「罠カード《極星宝メギンギョルズ》を発動。《極神皇トール》の攻撃力を倍にする。更に罠カード《ミョルニルの魔槌》を発動。《極神皇トール》は2回攻撃が出来る」
カンナは罠カードの発動をデュエルディスクへの音声操作だけで行った。ミヤコが見た限りクリップボードのデュエルフィールドにセットされていたカードは3枚。これで打ち止めのはずだ。
「マジか! 対抗手段を……!」
「遅い! サンダーパイル!」
サキが防御札で対処する前に《極神皇トール》の一撃が《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》を粉砕。その勢いのままにミヤコたちに戦鎚が振り下ろされようとしていた。
「《極星宝メギンギョルズ》は本来ダイレクトアタック出来なくするが、幻神獣族として召喚された三極神にはその効果は適用されない。これで終わりだ」
「《フォートレスドローン・ビーハイブ》を融合召喚……!」
「それがどうした!」
《極神皇トール》の一撃で粉砕されようとする間際、ミユが機械族融合モンスターを融合召喚。戦闘用ヘリが《極神皇トール》の前に立ちふさがる。しかし先程撃ち落とされたヘリと大きさは大差なく、《極神皇トール》とは比べるまでもない。
しかし、《フォートレスドローン・ビーハイブ》から全弾発射されたミサイルが《極神皇トール》の戦鎚を跳ね飛ばし、更には次々と《極神皇トール》へと着弾、爆発炎上する。《極神皇トール》は向かい側の超高層ビルに当たる前に消失した。
「……《リミッター解除》か。機械族には爆発的火力があるんだったな。だがどんなに破壊したところで《極神皇トール》は地上に舞い戻る。無意味だ」
「くひひっ。それはどうかなぁ?」
「何だと?」
「やった! これ一度は言ってみたかったんだぁ。ほら、上見て上」
「上……?」
モエに促されたカンナが夜空を見上げると、摩天楼の都市を巨大な影が覆うとしていた。その正体は上空を飛行する巨大な空母。キヴォトスの上空では飛行船が飛んでいるが、それよりも全長、直径共に上回っている。
そんな巨大な飛空艇が今まさに天から舞い戻ろうとする《極神皇トール》の進路を阻む形で立ちふさがった。そのまま地上ではなく甲板に着地させるつもりか、とカンナは疑ったが、飛空艇から次々と戦闘機が発艦する光景を見て違うと悟った。
「《幻子力空母エンタープラズニル》の効果はっつどう! オーバーレイユニットを
1つ使って《極神皇トール》を除外するよ!」
「なに!?」
「くひひっ! さあ「幻獣機」たち、派手にやろうか! カーニバルだよ!」
フォーメーションを組んだ「幻獣機」モンスターたちが《極神皇トール》を狙い撃ち。蘇った《極神皇トール》は大地を踏みしめること無く再び退場させられてしまう。《極神皇トール》の戦闘破壊は夜空に打ち上げられた花火のように夜を明るく照らした。
カンナの手札にはテキスト外効果で幻神獣族を除外から蘇生させられる《奇跡の光臨》があるが、ミヤコに銃口を突きつけられている状態ではカードをセットするのは不可能。もはや彼女に打つ手はなかった。
「これで神は蘇りません。私たちの勝利です」
「もう逃げ道は無いのにか?」
「その心配は無用だよー。ほら、迎えが来たもん」
ミヤコはサキに合図を送ってカンナが抱えていたクリップボードを没収させる。そしてモーメント動力炉と繋がっていたケーブルを切断。強制的に機能停止させた。これで逃走中に《極神皇トール》を再召喚される可能性は潰した。
程なく、《幻子力空母エンタープラズニル》より発艦した《幻獣機コルトウィング》がミヤコたちのすぐ上までやってきた。「幻獣機」の中でも珍しい垂直離着陸能力のある機体で、ビルの屋上にいるミヤコたちも問題なく回収出来る。
「総員、ハーネスを準備。順番に離脱します」
「装着完了、上げて!」
「しっかり捕まってなっ!」
モエがデュエルディスクを操作して《幻獣機コルトウィング》を遠隔操縦。一番最初にモエと"先生"が、次にサキとミユが離脱する。
ミヤコはサキに没収させた銃火器を屋上の隅の方へと蹴りやり、彼女に敬礼した。
「それでは失礼します、公安局長。次回は出来れば、もっと良い形で」
ミヤコが離脱、それと同時に《幻獣機コルトウィング》が高度を上げ始め、《幻子力空母エンタープラズニル》へと向かっていった。同時に《幻子力空母エンタープラズニル》も速度を上げ始め、ヴァルキューレ警察学校上空から離れていった。
カンナは腰にぶら下げていたコーヒーカップを取り、それから上着の内ポケットに入れていた小さなペットボトルから冷たいコーヒーを注ぎ入れる。それを一気に飲み干し、カンナは深い溜め息を漏らした。
「始末書を、用意しておくとするか」
この後、ヴァルキューレとカイザーの癒着の情報はクロノスに垂れ流されて世間一般に暴かれた。いかに違法ではないとは言え世論が権力の腐敗に怒りの声を上げたたため、連邦生徒会で修正法案が可決されたことでようやく事態は収束していく。
そんなヴァルキューレの規律を正す修正法案を提出したのは防衛室長のカヤだったが、連邦生徒会長が行方をくらました後にリンたちが膨大な業務で疲弊している隙をついて合法リベートのラインを大幅に引き下げたのもカヤである。
「ま、今の連邦生徒会の信用を無くす効果はありましたし、良しとしますか」
カヤは密かに企んでいる計画が順調に進んでいることに満足し、計画書の項目にチェックマークを入れた。
◇空井サキ
使用デッキは【バスター・ブレイダー】
エースモンスターは《バスター・ブレイダー》
切り札は《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》
◇風倉モエ
使用デッキは【幻獣機】
エースモンスターは《幻獣機ドラゴサック》
切り札は《幻子力空母エンタープラズニル》
◇霞沢ミユ
使用デッキは【ドローン】
エースモンスターは4種類の「ドローン」リンクモンスター
切り札は《フォートレスドローン・ビーハイブ》、《コマンドローン・ダブルスナイパー》
これでカルバノグの兎編1章は終了となります。次回からいよいよ最終編です。
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