ARMORED CORE Ⅵ sidestory - Embers of Rubicon - 作:びわ之樹
大きく溜息をついた機体が機関部から放熱し、濛漠とした熱気と水蒸気が束の間周囲を満たす。
強制放熱処理を90秒、その後は自然冷却へ移行。
元より気温が低いルビコンⅢにおいては、ACの高出力なジェネレーターやブースタであろうとも冷却時間は短く済む。
手慣れた様子で機体を所定のハンガーへと収め、予後の処置を自機のコンピュータへ指示してから、男――『シャクルズ』はコクピットハッチを開放した。
真っ先に流れ込んでくる冷気。次いで油と錆の匂い、耳をつんざく数多の金属の軋み、時折混じる怒鳴り声。うんざりするような生の実感が満ちる外界へと飛び込むように、男は外付けされたハンガーレーンへと脚を下ろす。事前に帰着予定時刻を伝えていたためだろう、整備を委託している機体付の整備員が男の下へ向かって来るのに、さしたる時間はかからなかった。
所はグリッド111、男に宛がわれた所定のAC用ハンガー。
先にグリッド135の掃討任務を受けてから、半月ほどの時間が経過していた。
「今日も無事にお帰りで」
「ああ。…右腕肘関節の動きが少し鈍い。よく見ておいてくれるか」
「承知しました。部品交換はどうします?」
「1000
手短に用件を伝え、男は汗で乱れた髪をかき上げながら乗機――『キャリオン』を見上げた。
濃緑と灰を基調としたカラーリングに、ベイラム系列のパーツとシュナイダー製の脚部を組み合わせた歪なシルエット。そもそもが安価なパーツや中古品で組み上げた
安いが安全な依頼を受けて、終われば報酬を修繕へと費やし、また依頼へと向かっていく。
機体と体と心のボロを繕いながら、そうやってどれか一つが使い物にならなくなるまでこの日々を繰り返していくのだろう。
胸元のポケットから煙草を取り出し、火を点けて一服。脳裏に過ぎった無常観は、立ち上る煙とともに掻き消えてゆく。繰り返していく同じような日々の中、停滞して腐り落ちていくのも――まぁ、悪くはない。
身体の奥底で芯へと沁みついていく、諦念と自嘲。
その乾いた感慨を押しのけるように、先ほどから視界の端をちらちらと覗く人影へと、男はじろりと目を向けた。
「…で。どうしたお前ら。半月ほど見なかったが」
「え。…いやー、ははは…」
「つれないじゃねえか、長期依頼を受けた顔なじみに向かってよ。…まあ結果は散々だったが」
ハンガーレーンの影、操作用コンソールの影から姿を見せたのは、傭兵仲間である『クリンナック』と『ロゼット』。しかしその姿はどう見ても常のものではなく、日頃から傷だらけのロゼットはともかくとして、今日はクリンナックすらも額と左腕に包帯を巻いた痛々しい姿となっている。違和感は外見ばかりではなく、普段は気さくに飄々と話しかけてくる二人が、今日はどこか探るような、それでいて奥歯にものが挟まったような様子を見せていることか引っ掛かりを覚えさせた。
…こいつら、何か厄介事を持ち込もうとしている。
長年培った勘は、男にそう告げていた。
「まぁそう身構えんなって。まずは事の顛末を聞いちゃくれねえか」
「……聞くだけだぞ。とりあえずな」
「まぁまぁ、大したオチも無い笑い話ですから。あ、煙草一本貰いまーす」
「自分のを吸え、自分のを」
無遠慮に胸ポケットへ手を突っ込むロゼットに突っ込み一つ、シャクルズはそれを探るに任せた。どうせ止めろと言って聞くようなタマではない。
――それよりも。
そう促して、男は紫煙を高く吐き出す。
苦笑したクリンナックが語り始めた顛末は、前言通りなんともお粗末なものであった。
曰く、半月前に二人が受託した依頼は『借金王の捜索』。相当の高報酬が掛けられていたようで、長期間の依頼になるにも関わらず二人は一も二も無く受けたのだという。
――『借金王』とは、ルビコンⅢでも悪名高い人物である。通り名は『ノーザーク』。涼やかにして巧みな弁舌、一見して誠実そうな相貌。そしてルビコンにおけるランカーでありAC乗りとしても通用する名声。それら全てを駆使してあちこちの金融機関や商業団体から借金を繰り返しては踏み倒すという、控えめに評しても狂った金銭感覚を持つ人格破綻者として裏で名を馳せた男であった。当然買っている恨みの数はそこらの犯罪者の比ではなく、それ相応に高額の懸賞金が掛けられていたのだろう。
当然、そんな狡猾な人間が堂々と借金取り――あるいは暗殺者――の到来を待つ訳は無い。
意気揚々と潜伏地点に乗り込んだクリンナックらの追跡を巧みに躱し、半月近くの間ノーザークは逃げに逃げ続け…最終的に、屈指の重工業製造組織『RaD』が拠点を構えるグリッド086へと潜り込んだのだという。
他星系ならばいざ知らず、ルビコンにおけるRaDはコーラルから精製した薬物を常用する連中――平たく言えば
そんな連中の縄張りに二人は飛び込んだ訳である。
当然無事に通過できる訳も無く、侵入して早々に四方八方からMTの袋叩きに遭い、ACを損傷。到底ノーザークの捜索どころではなく、這う這うの体でグリッド086から逃げ出したという訳であった。
もちろん依頼未達に伴い報酬はゼロ。機体の修理費に長期間の派遣による
「それはご愁傷様だったな。それで?MTにでも乗り換えるか」
「バカ言え、逆転の目は考えた。
「きな臭い匂いがしてきたな」
自嘲から一転、目を輝かせて語調を変えるクリンナック。応じて見せるシャクルズの表情は、眉唾とでも言わんばかりの怪訝そうなものだった。
『壁』とは、解放戦線が有するべリウス中部の要塞である。
高い岩壁が南面する正面方向には多数の砲台と入り組んだ市街が控えており、中ほどにはMTでの渡渉が困難な深い堀。さらに周囲は高い山々と崩壊したグリッドが並んでおり、迂回や側面攻撃も困難と、地の利を生かした不落の要塞として君臨していた。立地としてもべリウス北部と中部を繋ぐ回廊の中継地として輸送、軍事の両面から見た重要性も極めて高く、解放戦線にとっては無くてはならない拠点と言っていいだろう。
当然、企業側にしてみれば、ここを突破しなければべリウス中部の掌握や北部への侵攻は絶望的である。それゆえにベイラム、アーキバスともに『壁』は最優先攻略対象として見做されており、事実ベイラムはつい先日、精鋭部隊を投入して『壁』の攻略――壁越えと俗称される作戦を展開した。
とはいえ、いかに兵力に優るベイラムといえども馬鹿正直な正面攻撃以外に採れる戦術は無く、結果的に攻略は失敗。精鋭のレッドガン部隊も失い、多大な損害を受けて退却したのだという。噂ではアーキバスも近々の作戦展開を進めているらしく、CoAにも『壁』絡みの依頼が多く出されている現状であった。
「まあそんな訳で。失った分を取り返そうと、私とクリンナックは必死の思いで壁越え関係の依頼を探して来た訳ですよ。丁度シュナイダーが『壁』側面の侵攻ルートを抑える依頼を出して来てたので、何とかそれを勝ち取ったんです」
「ところが、だ。シュナイダーの連中、土壇場になって依頼を取り下げやがった。ふざけた話だぜ」
「企業ってのは得てしてそんなもんだ。災難だったな」
「って訳で相談なんだが。何か高額の依頼って来てないか?俺達3人でそれを受けるってのはどうだ?」
「あ、もちろんシャクルズに損はかけませんよ。報酬はシャクルズ2、私達二人が1の割合でOKです。私達はまとまった金が手に入るし、シャクルズは単独じゃ受注できない高額な依頼を受けられて、企業の覚えもめでたくなる。どーです?」
…なるほど。
わざわざこちらの帰還を狙って訪れてきた理由に、シャクルズはようやく合点がいった。つまりは当てにしていた依頼を不意にされたので、その分をこちらの高額の指名依頼で補えないかと考えた訳である。
折しも数日前、確かに
正直に言って、現状そこまで資金面で困窮している訳では無い。こちらの都合だけで言えば、いくら報酬割合が高いとはいえ、わざわざ危険の大きい依頼を受ける道理は無いのである。かといって、一応顔見知りの二人をすげなく追い返すというのも気が咎める所ではあった。
何より、二つ返事で受けるには気になる点もある。
「なるほど、都合は分かったが…一つ気になる。シュナイダーは何で急に依頼を取り下げた?」
煙草を指に挟み、一息吐き出してから、シャクルズはクリンナックへと疑問を向ける。
シュナイダーといえば、ルビコンにおける2大企業の片割れであるアーキバスの傘下企業として知られている。アーキバスが近々壁越えを計画しているのならば、むしろ側面戦力が必要となるのはこれからではないか。それをなぜ、敢えて今放棄したのか。壁越えの噂は虚報だったのか、あるいは急場で作戦の変更でもあったのだろうか。
用心深く背景を疑うシャクルズに対し、クリンナックからの答えはあっけらかんとしたものだった。
「あー…そういや言って無かったな。他に依頼する当てが見つかったんだとよ」
「当て?」
「そ。俺たちはあっさり見替えられたって訳さ。…噂をすれば、だな。見てみろよ」
そう言って顎をしゃくったクリンナックに促され、シャクルズはその先――左奥のガレージの方へと視線を送る。ACの格納ブロックにして3つを隔てたそこには、濛々と廃熱の水蒸気を纏って鎮座する白塗りのACが1機。そして周囲に設けられたタラップを歩く、3人の人物が見て取れた。何くれかを話す素振りで、それらは目の前を横切る方向へと脚を向けている。
距離が近づくにつれ、その輪郭は明瞭さを帯びていく。
遠目で察するに、人物はいずれも女。
先頭を歩くのは、スーツ姿にベージュのロングコートを纏い、眼鏡をかけた金髪の女。その傍らにさながらコバンザメのように随い、ショートヘアに整えた茶髪頭をへこへこと下げるスーツの人物も見て取れる。その更に後ろには、AC用に調整されたと思しき耐圧スーツを身に付けた小柄な白髪の少女が無表情で付き従っていた。
変わり者が多いルビコンにおいても、少なからず浮いている様相の三人組。クリンナックの言う『当て』が果たしてあれなのか今一つ自信が持てず、シャクルズは思わずクリンナックに向き直った。
「…あれか?」
「ああ。何でも新興の
「あ!それにあの女、最初に依頼投げて来たシュナイダーの奴じゃないですか!こちとら本腰入れてやる気だったのに…!」
「…どいつだ?あのヘコヘコ頭下げてる腰巾着か?」
「そう!あれですあの女!…ちょっと文句言って来てやりますよ!腹立って来た!」
「おいバカ、止めとけって。…たく、止めてやるか。アホらしいが仲裁も年長者の責務だ」
「顔がにやけてるぞクリンナック」
「…へへ、そうか?」
目敏く恨み骨髄の人物を見つけたらしく、弾かれたように飛び出していくロゼット。半ば呆れたようにため息を漏らしたクリンナックとシャクルズも、ゆっくりと彼女が向かった方向へと歩き出していった。
何か面白いことが起こりそうだ。言葉にせずともそう顔に書いてあるクリンナックの傍らで、シャクルズは掌を庇のように額へと当てる。果せるかなその先では、早速にロゼットが三人組の中ほどにいる女へと噛みついている様子が見て取れた。
「…だーかーらぁ!土壇場で依頼取り下げるならせめて謝罪なり詫びの品なりあってしかるもんじゃないですか!?」
「んー、しかしねぇ。契約相手方の決定権はこちらにあるのだし、何より君たちとは正式に締結する前だったのだから…」
「した!しましたよ契約締結!私もクリンナックも!」
「え、そうなの?だったら回線遅延で報告が入れ違いになったのかなー?いやー申し訳ない申し訳ない」
「むきー!!」
…暖簾に腕押し、そう評さざるを得ない状況に、シャクルズとクリンナックは苦笑を漏らす。
そもそも、こういった場での理性的な要求や説得にロゼットは致命的に向いていない。金銭第一、利益優先の信条が先行し過ぎるがゆえに感情的になり易く、容易に矛先を外される事がままあるのである。
平行線、と言うよりもはや敗色濃厚な戦況に、シャクルズは一歩前へと出る。ロゼットがこれ以上滅多なことを言って事態がややこしくなる前に、助け舟を出すのが上策であった。
「ロゼット、そこまでにしておけ。…あんたか、シュナイダーの社員ってのは。手を焼かせて悪かったな」
「あ、やっと大人が来てくれた。もー、お宅の飼い犬かい?ちゃんと手綱を握ってて貰わないと」
「誰が犬だこらー!」
「ブリギッタ上席主任。貴女もその辺りにしておきなさい。いくら相手が吹けば飛ぶような木っ端傭兵とはいえ、礼儀に反しますわよ」
挑発と言うも愚かな、露骨な侮辱の言葉に、ロゼットの身体がびきりと強張る。シャクルズが咄嗟に腕を抑えて羽交い絞めにしなければ、彼女はそのままスーツの女へと殴りかかっていただろう。
怒りを露わにするロゼット、苦笑を張り付けたクリンナックを前に対し、冷徹に見下す金髪の女。腰巾着――ブリギッタと呼ばれたシュナイダーの社員は揶揄うような笑みを刷き、事の趨勢を窺っている。ひと悶着ありそうな気配を見て取ったのか、周囲から注がれるはいくつもの野次馬根性の視線。
剣呑な空気の中、最初に口を開いたのは先頭の高慢な女だった。
「お初にお目にかかりますわ。私はPMC『
「そして私はシュナイダー社技術部の上席主任、ブリギッタ・メーリヒさ!今後も我が社の商品をどうぞご贔屓に!」
「うるせーシュナイダーの商品もう買わないですからね!そもそも使ってないけど!この高燃費!紙装甲!」
怒りに任せてバタバタと腕を振り回し、隙あらば飛び掛からんと暴れ回るロゼット。両腕の膂力を活かしてその体をがっしりと抑えながら、シャクルズの目は二人の後方に佇む小柄な少女――モルガナの紹介に言う『レヴェナントⅨ』へと目を向けた。
色素の抜けた中ほどの長さの白髪、おおよそ表情と言うものを示さない無機的な相貌。体付きこそ華奢に見えるが、前髪の隙間には縫い跡が垣間見え、左右の上腕や首には金属や樹脂製のデバイスが直に装着されている。ちらりと隣のクリンナックへ向けた目くばせに、彼もまた同意を示して微かに首肯した。その特異的な姿に対する見解は、お互い共通という訳である。
強化人間。それもおそらく、第6世代以前の旧型と見ていいだろう。
現行の強化人間は第10世代が最新とされるが、そうした最新鋭の施術は当然限られた設備でしか行うことができず、自然として大企業所属の強化人間に限られている。一方で短期間使い捨ての兵器として強化人間には一定の需要があり、かつ宙域経済圏間の経済格差の拡大から貧民層は絶えず一定以上が存在するため、素体とする人間にも事欠かない。
需要があり、供給の路もまた整っているとすれば、帰結する先は一つである。
すなわち、巷間には無免許の施術者による強化人間の
旧型強化人間は、感情やそれを表現する機能が欠損することも多いと言われている。
なるほど確かに、眼前でロゼットとブリギッタが口論を続けるにも関わらず、その表情は全く変化を見せていなかった。表情筋は機能を失ったかのようにぴくりとも動かず、それどころか腕も脚も拍動すらも、感情らしい感情を見せる箇所は欠片も――。
《(´・ω・`)》
……ん?
「だいたい商品を売る企業人がそんな態度でいいんですかー!傭兵仲間に言いふらしますよシュナイダーのサービス最悪だって!」
「やだー威力業務妨害ー。困るなぁ君、穏便に頼むよー。また適当に投げ込み依頼出すからさ」
「せめて指名依頼にして!?」
《_(:3」∠)_》
いや。明らかにおかしい箇所がある。
具体的には、彼女が首から下げた文庫本大程度の薄層フィルム型ディスプレイ。よく見れば、そこには旧世紀に端を発する記号で形作られた表情――顔文字が表示されているのである。その時々で表情が切り替わっている所から察するに、おそらく体内に埋め込まれたデバイスが脳波を測定し、ディスプレイに反映させているのだろう。
感情が無いという訳では無いのだろうが、何と言うべきか…まぁ、個性的な見た目であった。
「そこまで。私たちはこちらへの登録事務を済ませなければなりませんの。それに…ああ、油臭い、埃臭い、焦げ臭い。こんな所に長居しては体に障りますわ」
《('ω'*)》
「他に用事が無いようでしたら、私たちはこれで。ごきげんよう」
「ごきげんようランク外傭兵諸君!また会おう!」
「おととい来やがれですよ、この悪徳コーディネーター!」
悪態をつくロゼット、それを受け流して視線を合わせ、振り返ることなく歩き出すPMCの二人。飄々とした様子でこちらを振り返り、ひらひらを手を振るブリギッタ。――そして一連の騒ぎを終え、やや疲れた面持ちで見送る男二人。まるで嵐の到来のような時間を経て、シャクルズとクリンナックは同時に溜息をついた。
「…なるほど、アレか」
「そういうこった。ま、傭兵同士の角突き合いなんてルビコンに限らず日常茶飯事だ。別に大した事でも…どうした?」
「いや、事のついでにな」
クリンナックへ応じるのもそこそこに、シャクルズは腰の小物入れから眼帯型の電子拡大鏡を取り出し、額へと装着。左目部分に4種設けられたレンズを回し、中程度望遠でACのガレージへと頭を巡らせた。言うまでも無く、その向かう先は先ほど搬入されたレヴェナントⅨのACである。
傭兵である以上、いつ戦場で敵対するか分からない。ましてルビコンを訪れたばかりでデータの少ない人物であれば、可能な時に情報を集めておくに越したことはない。
それに加えて、先ほどちらりと遠目に機体を見かけた際に、気になった点があったのである。
倍率を変え、各部へと視線を移して映像を録画してゆく。
基本の構造は、軽量志向の近中距離機。フレームは白を旨として塗装され、上半身にはアーキバス性のパーツが採用されていることが伺い知れる。整備用足場のせいで脚部は定かでないものの、全高を見る限りでは少なくともタンク系ではない事は確かだった。
概観すれば、至って普通のACの範疇。それを覆す違和感というのは、その頂点部にあった。
――頭部が、無い。
おおよそACにおいて、コアや腕部、脚部に加え、センサーや姿勢制御等を担う頭部は必要不可欠なパーツである。例えばシャクルズが駆る『キャリオン』のように平たい形状の頭部を装備する事例もあるにはあるが、あの機体にはそうした『一見頭部に見えないパーツ』すら一見して見当たらない。これから装備する積りなのか、それとも何か秘密があるのか、現時点ではどうとも伺い知れなかった。
「まあいいさ。それよりシャクルズ、元の話に戻るが」
「…そうだな。気が乗る訳じゃないが…3人もいれば構わんだろう。ロゼットもいいな?」
「はー、はー!もう…もし戦場で出会ったら吠え面かかせてやりますよ…!」
「ロゼット」
「え?あ、はいはい!何の話です?」
「壁越えの関連依頼の件だ」
「あ、私はシャクルズさえ良ければ!」
ようやく戻って来たロゼットを横目に、拡大鏡を外して小物入れへとしまいこむ。大金の依頼を目の前に溌溂とした様子を見せるロゼットに苦笑しつつ、向けられたクリンナックの目くばせに大して男は軽く頷いた。
大規模な交戦の可能性もある以上、大豊の依頼には正直前向きではなかったが、三人もいれば大抵の状況はどうとでもなる。何より顔なじみ二人の困窮を見過ごすには忍びなく、企業へも二人へも恩を売っておけば今後何かと助かる事もあるだろう。
我ながら、言い訳じみた理由付けだ事だ。
頭の片隅に浮かんだ自嘲を、男はそっと隅の隅へと追いやった。
「決まりだな」
「受注の回答は俺の方からしておく。あの連中のことは一旦忘れて、依頼に集中するぞ」
「応!です!」
3者の合意を示すように翳した掌に、ロゼットが、次いでクリンナックが手を叩きつけて快諾を返す。面倒な…もとい面白そうな連中が増えたとはいえ、木っ端傭兵が行う事に変わりはない。人と己の命をてこに金を稼ぎ、食い繋いでいく以外の生き方などもとより存在しないのだ。
爆ぜるような掌の音は遠く響き、ガレージを囲う鉄壁にいつまでも残響を漂わせていた。