前回の予告ではあんな感じで書いてはいましたが……
今回も戦闘シーンがありません。
多分次の話からですね。
そんなこともありはしますが、取り敢えず本編をどうぞ。
十六夜咲夜さん。
前の大異変「紅霧異変」の主犯格である「紅魔館」の一員であるメイド長。
聞くところによれば紅魔館唯一の人間であると同時に、あの霊夢さんをして苦戦させたという幻想郷有数の実力者でもあると聞いている。
なんでも、他に類を見ない特別な力を持っているらしいが……
まぁ、それは別に気にする必要はない。
「丁度いいところにいらっしゃいました。ご依頼の品は修理し終わってますよ。」
僕は梱包の手を止め、部屋の端においてあった箱を持ち上げた。
「こちらがご依頼の品です。今確認しますか?」
「えぇ、是非ともお願いいたします」
十六夜さんの確認を取り、梱包に使っていた台とは別の作業台に箱を置いて中身を取り出す。
箱から取り出したのは、少しくすんだ様子ながらも白く輝いて見える精巧な造りの懐中時計。
バラと思われる花のレリーフが彫り込まれたそれは、まるで新品の品であるかのような美しさを見せている。
「あら、それって……」
「貴女が壊した私の懐中時計よ。おかげさまでしばらく能力が使いづらくて困ったわ。」
十六夜さんは僕から懐中時計を受け取りつつ、霊夢さんへとそう返していた。
なるほど……だからあんなにも中の精密部品が滅茶苦茶に破壊されていたのか。
大方霊夢さんの弾幕を受けたとか、そんな感じで壊されたのだろう。
最初にこれが持ち込まれた時は本当に驚いた。
なんせ、外装も所々穴が空いていたが中身が悲惨も悲惨。
いくつかの歯車や地板が捻じ曲がったりへし折れたりしてた上に、針もひん曲がってゼンマイ部分もほぼ全損。
幸いにも他の精密パーツは無事だったが、それにしても幻想郷では手に入りづらいパーツばかりだったためにかなり厳しい作業だった。
何度も失敗しながら霖之助さんも交えてなんとかいくつかのパーツを複製し、ついでにジャンク品の懐中時計を何個かバラして使えそうなパーツを組み合わせた。
外装に関しては霖之助さんが上手いこと銀を使って補修し、最後の磨き上げやレリーフの微調整を僕がやることになった。
失敗が許されない一点ものの修理故に相当時間や労力はかかったが、これ以上ないほどに完璧な状態で修復することができた。
修理が完了した時に酌み交わした酒は、それはもう美味かったものだ。
……さて、話を戻そう。
そんな苦労をかけながら修理したため、今回の依頼は相当に修理費がかかった。
その為、請求もかなりのものになるのだが……。
「取り敢えず、これでよろしいでしょうか?」
「拝見させていただきま……っ!?」
手渡された報酬。
白金と思われる貴金属の台に、エメラルドと思わしき大粒の宝石が嵌め込まれた精巧なブローチだ。
「こういった物でも支払いができるとお聞きしていましたので、それなりの物をご用意させていただきました。……これでは不充分でしょうか?」
「しょ、少々お待ち下さい!」
僕は急いで奥の部屋に置いてある道具を取り上げ、その中にブローチをセットした。
魔道具「アプレイザーmk-Ⅱ」
僕と霖之助さんが共同で制作した魔道具の一つだ。
幻想入りしていた複数の古い解析機器に対して霖之助さんの技術で概念的合成を行い、それを僕がそこら辺のスクラップを使って組み上げた本体へと移して製作された。
僕の家にあるこれはその2号機であり、1号機はあまりにも大きい為に香霖堂の一角に設置した小屋へと安置してある。
まぁ大きい分あちらの方が性能やら機能やらでは高いパフォーマンスを発揮してくれるのだが。
「これは……本当に大丈夫なのでしょうか…?」
ひとまず鑑定してみた結果、間違いなくこれには白金と上等なエメラルドが使われていた。
デザインはシンプルだが、状態も非常に良いためにかなりの値打ち物となる。
……これは流石に対価として釣り合っていない気がする。
もちろん、高すぎるという意味でだ。
「えーっと……十六夜さん。こちらの品では対価として高すぎると申しますか………」
「そうですか……それは困りましたわ。」
僕からの返答に対し、十六夜さんは少し困ったような様子だった。
どうやら霊夢さん達が暴れた影響で破壊された紅魔館の修復をするにあたって、紅魔館が確保していたこちらの通貨が底をついてしまっていたらしい。
一応今は多少再確保できてはいるものの、そのほとんどは紅魔館としての所有になるためにこの時計の修理費の支払いには使えない。
故に物々交換となるのだが、彼女が個人的に所有している財産の中で動かせる品がこのブローチしか無いのだそうだ。
「じゃあさ、咲夜が適当になんかを追加で頼んじまえば良いんじゃないか?」
僕達が頭を悩ませている最中、魔理沙さんがそんな意見を出してきた。
「丁度良いし、その払い過ぎな分で雇ってカズも連れていけば良いだろ。」
「……それもそうね。手が多くあるに越したことはないもの。でも、大丈夫なの?」
「ソイツは私が稽古つけてるんだぜ?そこでだらけてるぐうたら巫女よりかは使えるな。」
「……何?喧嘩売ってんの?」
魔理沙さんの最後の一言に対し、霊夢さんが不機嫌そうな声で抗議している。
……未だロッキングチェアの上でだらけているが。
「えぇっと……それってどういう……」
「おっと、そうだった。カズにも説明しなきゃな。」
「魔理沙、私が雇うんだし説明の方はこっちでするわ。貴女は霊夢の方を頼むわね。」
僕の疑問に対し、彼女たちはこう答えた。
―――今回の異変解決に同行し、力を貸してほしいと。
正しき流れであれば存在し得ないもの。
それは、解決者達の結託。
より力のある物や者を排し、平穏をもたらせるのであれば。
彼女たちは手を組み、必死に足掻こうともがき続ける。
次回「異変――道中」
吹きつける吹雪の中から、少女は微笑む。