ほぼ全部最初から書き直しだったせいでちょっと時間かかりました……。
それと、「設定をプロローグの時点で明らかにして欲しい」というご意見がありましたが、シナリオの都合上ここで全部ぶちまけると今は良くても後が余計薄味になってしまうのでもう少しお待ちいただければと……
それでは本編をどうぞ
追記:今回から後書きは某次回予告風にしてみます。ネタ切れになるまでは可能な限りやりたいです。
いまだ日が昇り切らない山の中。
シャランシャランと杖のように突くごとに鳴る簡易的な槍を頼りに下山していく。
辺りから聞こえてくるのは鳥のさえずりや、まるでざわめくような木々の擦りあう音のみ。
(……まだ、この辺には居ないみたいですね。)
心のなかでそうつぶやきつつ、周囲への警戒を強め続ける。
先程、レールカーの修理の際に連絡を取っていた農家のお爺さんから教えられた存在……最近このあたりの山々で目撃されているツキノワグマ。
通常のクマとは思えないほどに大きい体躯をした、いわゆるヌシと言われる化け物が今いる山の近くで目撃されたという話だった。
この近辺には基本的にクマは生息していない。
というのもこの辺の山は急勾配の山に囲まれた土地であり、川も集落のど真ん中にある池と隣町をつなぐ一本ぐらいしかないこともあって水場があまり多くない。
数少ない小さな泉がいくつかの山の中腹だとかにありはするが、そんな山々はこことは反対の方向に偏っている。
詰まる所このあたりはクマのような人に危害を加える獣にとっては住みづらい土地であり、たとえ住んでたとしても水を求めて人間の集落へと接触してしまうことにもなる為にほとんどの場合は駆除される。
……だが、稀にだが流れ者がやってくることがある。
この山は祖父の一族が管理し続けていた土地なのだが、極稀に天敵がいないゆえに育った豊かな自然の恵みを狙った獣が迷い込むことがある。
山には自然の恵みだけではなく、古くから使われ続けてる山菜の畑もある為に多くの地元住人が足を踏み入れる。
あまりにも危険な奴は猟師に依頼して駆除してもらうようにしているが、中にはここに住み続けることができずに山から出ていくことも多い。
そんな事もあって、流れ者の大型の獣が確認されると人の生活圏にも現れやすくなるためにこの地域では発見次第すぐに住人への情報共有が行われる取り組みが行われている。
あまり自分は集落の人達から良い目では見られてはいないものの、それでもこういった気づかいをしてくれるのはありがたいものだ。
……そうしてしばらく降りていくと古い獣道へとたどり着いた。
ここから先は茂みこそ無いが樹木の密度が高い。
警戒するに越したことはな……
そこで、鼻が鉄っぽい臭いを感じた。
どこか生臭い……そして、懐かしくも自身の記憶を嫌な方向に刺激する。
ガサリ
遠くからそんな音が聞こえた。
僕はすぐさま息を殺し木の裏に隠れた。
隠れた樹木の裏から少しだけ顔を出して音のなった方向を警戒する。
すると再びガサリと音を立て、茂みから何かが獣道の方へ飛びだし……
「フゴッ。」
……見慣れたイノシシが飛び出してきた。
この辺固有のイノシシ等の獣達はご老人方が上手いこと可愛がったりして人馴れしており、山の恵みに加えて規格外品の野菜の余剰分まで貰うことがあるために人を襲うことはほとんどない。
あっても、他所から来た馬鹿が変なちょっかいかけて怒らせた時ぐらいだ。
今、飛び出してキョロキョロと辺りを見回している個体はこの辺を縄張りにしている食いしん坊であり、近くに人がいると分かったらよく餌を強請りに来る。
故に、今飛び出してきたのも僕の鈴の音を辿って餌を強請りに来たのだろう。
ため息をつきつつ、そいつの前に出ようとしたところで動きを止めた。
さっきの足音はイノシシの物だった。
ならば、血の匂いは一体……
「……ッ!?」
その時、いつ以来かも分からない強烈な嫌な予感が全身を走った。
何かが………すぐ後ろに……!?
そう感じた時には既にその場を跳んで避けていた。
その場から跳び避けてまもなく、グシャリと音を立てて黒く太ましい何かが隠れていた木へと叩きつけられた。
叩きつけられた場所から半ばへし折れた木の向こう。
そこには、今まで見たことがないほどの巨体を持つツキノワグマがいた。
「GURRRR……!!」
独特な獣臭に加え強烈な血の匂いを纏うそれは、僕に対して殺意の籠もった凶暴な視線を向けていた。
それは恨みだとか、そんな人間らしい物ではない。
ただ食欲に塗れた獲物を確実に狩り喰らわんとする、野性的かつ貪欲な殺意だった。
「フゴッ!?フガガガッ!!」
その音に驚いたイノシシがその場で跳び跳ね、すぐにその場からにげようとしたが……
何を思ったか、急にクマへと突進していった。
「GUUッ…!?」
僕の方だけを見ていたクマはその急な攻撃に対応できず、もろにその腹に一撃を受けた。
食いしん坊なくせして対して運動をしていないそいつの突進は重量分だけでも相当な衝撃だったようで、クマは大きく後ろにのけぞるかのようによろめかせた。
イノシシはその場からすぐさま走り去って逃げ出そうとしていた。
だが、それは叶わない。
すぐに態勢を立て直したクマの掬い上げるような一撃がイノシシの顔面横に突き刺さる。
ゴキャリッ
途轍もなく嫌な音を大きくたてて、イノシシの体が浮いた。
一瞬見えたその目には既に生気が無く、首が普通は向かない方向へと曲がった状態で僕の横を飛んでいった。
「うっ…………ッ!!」
その姿に思わず声を上げかけるが、彼の作ったこの隙を無駄にすることは出来ない。
僕は木の間を縫うかのように、その場から逃げ出した。
普通であればクマから背を向けて走って逃げるなど自殺行為だ。
だが、この状況においてはむしろとどまる方が危ない。
クマはイノシシから興味を逸らし、こちら目掛けて木をなぎ倒しながら全速力で追いかけてきた。
バキャッ、ゴキャッ、メシャリッ
奴の腕が振るわれ、その巨体がぶつかるたびに木がへし折れていく。
少しでも動きを止めれば、あっという間に距離を詰められてしまうだろう。
だが急な運動であることもあり、筋肉の疲労と息切れも近い。
このままではなにかの拍子に動きが止まり、同時に僕の命もそこで止まることになるだろう。
一か八か
一縷の望みをかけ、僕は右手に握ったままだった槍を後ろへと投げる。
投げられた槍はへし折れた木の後ろにあったクマの顔面部へと吸い込まれるように飛んでいき……
グサリッ
「GUUGYEEAAAAッ!?!?」
運が良いのか、その血走った目へと勢いよく突き刺さった。
これにはクマも堪らず大きく怯み、引き抜こうと藻掻き出す。
だが、暴れた影響で柄が半ばでボキリと折れてしまい、寧ろ深く突き刺さりだしたようで更にのたうち回りだしていた。
藻掻き暴れるたびに奴の目からは大量の血が飛び散り、痛みに呻く奴の咆哮が轟く。
そんな隙を、僕は見逃さなかった。
僕はすぐにその場から走り去った。
後ろなど振り返ることも出来ない。
とにかく、その場から必死に逃げることだけを考えた。
逃げて、逃げて、逃げ続け………
いつの間にか、霧のような何かにまかれながらも逃げ続けた。
死から逃げた先に待つ者はまた死であった。
見慣れぬ土地、謎多き住人。
そこはもはや、常識など通じぬ楽園。
彼はそこで未知なる者へとコンタクトを取る。
次回、「少女」
運命に磔にされた者は誰か。