さて、ここからは再び始まる日常編!
まぁ実のところコレを挟む間に次の異変の方での内容を詰めてるんですけど……
その繋ぎと彼の置かれている状況を説明するためにも、この日常回は必要なんですよねぇ……
そろそろ例の"アレ"に関わる大きな進展も出したいですし、その調整のためにも……ね?
それこそボトムズだってずっと戦いっぱなしでもなく、色々な過程の描写を入れてますから。
というわけで、ちょっとだけ幻想郷の闇がほのかに香る本編をどうぞ
日常:和人の修行
ある日の白玉楼。
屋敷の奥にある修練場にて、三人の人影があった。
「…………」
「ふむ、いい調子ですね。そのまま心を静め、気を練っていきましょう」
「……やっぱり、習得が早いわね。これも天性の才なのかしら?」
「いえ、これはただ単に努力が実りやすいのでしょう。
霊夢のような才能任せではなく、彼なりに工夫や技術への理解を深めているやり方です」
一人は座禅を組んで目をつむり、修練場の奥にある置き石のうえで瞑想をする和人。
そんな彼を指導するかのように声をかけているのはピンク髪の女性………
妖怪の山の仙人にして幻想郷の賢者たちの一角である「茨木華扇」その人であった。
その横では八雲紫がスキマから身を乗り出すようにその様子を見ており、何処か複雑そうな表情をその手に持つ扇子で覆い隠していた。
「……しかし習得は早いですが、それはあくまで技量だけ。
器はかなりの時間をかける必要がありますね」
「変に暴走されるよりはその方が良いわ。あの子の負担を増やしたくはないですもの」
「………………」
二人からの厳しい言葉を聴きつつも、和人は集中を続ける。
彼の周りでは白玉楼の幽霊たちが踊るように回りあっており、その光景はまるで魂達が渦を巻いてるかのようであった。
というのも彼は瞑想しつつも自身の能力とその他の力を併用して制御しており、霊たちの持つ負の要素の力だけを吸収しつつ指向性を持った生命エネルギーとして供給しているのだ。
まぁ簡潔に言うのであれば、霊たちが自分の周りに滞留するように力を使用しているのである。
その修行の目的や原理は定かではないものの、少なくとも彼女達の視点では順調らしい。
「……しかし、意外なものですね?
妖怪の賢者たる貴女が半妖……それも、元外来人にここまで気を回すとは」
「……………。」
華扇のその言葉に、紫はただ押し黙っていた。
「どのような関わりや目的があるのかは分かりませんが……
あまり無茶はさせないことですね」
「……分かっているわ。
そう簡単に彼に死なれてはこっちも色々と面倒ですもの」
そう返す紫は……まるで何かを願うかのようでありながら、それに対して不服そうな感情を宿した目を和人に向けていた。
「……まぁそれについては良いでしょう。
そろそろ時間ですしね」
そんな紫の様子から目を逸らし、華扇は二回ほど手を叩いた。
その途端、先ほどまで渦を巻いていた幽霊たちが散り散りに離れ始めた。
最後の一体が修練場を去ると同時に、大きく息を吐きつつ和人が目をゆっくりと開いた。
「今日のところはこれで充分でしょう。
次は妖夢との稽古ですね」
「はい、ありがとうございました」
特にこれといってアドバイスや労いをするでもなく、華扇は和人を次の修行へと送り出した。
和人は軽く一礼を返し、近くに置いていた木刀と先端に布を巻いた棒を持ってその場を後にしていった。
「……さて、八雲紫。
一体何を企んでいるんです?」
「………どうしても聞くのかしら?」
和人が去ってその場に取り残された二人………
華扇と紫は向き合う形で話を続けていた。
「……少なくとも、私から見て彼はそこら辺にいる普通の少年でした。
そんな彼に何をさせようとしているんです?」
「すべては幻想郷のため………それだけじゃ駄目なのかしら?」
「それにしたって妙な話ですよ。
確かに彼にはそれなりの才覚や伸び代はありますが……そもそも幻想郷の守護者ということであれば貴女や霊夢、他にも"後戸の国の秘神"等がいるはずでしょう?」
「………それだけでは足りないのよ」
紫は何かに歯噛んでいるかのような渋面を作り、顔を隠す扇子を持つ手の力をギリギリと強める。
「そう、何もかもが足りないのよ………だからこそ、彼の存在が必要なの」
「………その割にはとても嫌そうですね?
まるで貴女の意思ではないようですが………」
「……私だって……こんなことは望んでないわ」
ポツリと、彼女は言葉を零す。
それは妖怪の賢者としての言葉ではなく……八雲紫という個人の言葉であった。
「……でも、こうでもしないと幻想郷は守れない。
せめて……せめてあの子が不幸にならないようにすることしか、私にできることはないの」
「……その為に一人の若者を使い潰しますか。
賢者も堕ちたものですね」
八雲紫の言葉に、華扇は吐き捨てるように言葉を返していた。
「なんとでも言いなさい。
そもそも、アレにはそれ以外の価値は無いのですもの」
「……道を誤れば、その先は地獄ですよ?
あの裁判長も、貴女のその行いには呆れるでしょうね」
「……私のこれが誤ってるというのなら、もうすでに私は道を外れたも同然よ。
私は……私はあの子を救うことができなかったのだから」
紫はそう口にしつつ、遠くの空を見上げた。
暗い冥界の空には星一つたりとも浮いておらず、時折霊がふわりと漂うばかりであった。
「でも……今回こそはなんとしてでも成功させるわ。
その為なら……私は外道に落ちる覚悟があるもの」
紫はただ、空を見続けた。
まるでその先で見る誰かを偲んでいるかのごとく……。
遠くから聞こえる、気迫のこもった声と木のぶつかり合う乾いた音を耳に響かせながら。