さて、これにて風神録編こと「妖怪の山と守矢神社」編は完結となります。
ようやっと入れられたボトムズ要素の断片が出たものの、今はまだ開発のための研究段階。
まだまだヤツが日の目を浴びるまでには時間がかかります。
ちなみにですが……次の日常回への導入も混ぜてあります。
まあ前回でも匂わせましたし、それについてはちゃんと回収します。
というわけで、本編をどうぞ
追伸:またしても一旦次回予告は停止です。
次の章までお楽しみに
妖怪の山の騒動が終結してはや二日。
山の中腹にある天狗の集落では終戦と条約締結を祝した宴会が開かれていた。
主な参加者は天狗や河童等の山陣営の妖怪達だが、その中で唯一外部協力者である外様の和人が招かれて参加していた。
「お初にお目にかかります、天魔様」
「頭を上げられよ和人殿。
此度の戦において、貴殿は影の功労者とも言える。
今宵はその功に報いる為、立場を気にせず宴会を楽しまれるといい」
「はい、お言葉に甘えさせていただきます」
集落の中央付近に位置する屋敷。
宴会場となっているそこは天魔や大天狗が寝泊まりする御殿であり、その最奥にある部屋では天魔に加えて大天狗達が和人を迎えるように集結していた。
「……我々としては多少の褒賞も用意したいところではあったが、契約により我々にできるのはこうして宴に招く程度。
どうか許されよ」
「いえ、お招きいただいただけでも恐縮でございます。
それに……既に対価については頂いておりますので」
「ふむ……なれば、我々なりに手厚くもてなさせてもらうとしよう。
我々にとって貴殿の存在はその対価を優に超えていると示さねばな?」
天魔は和人にそう語りかけた後、パンパンと手を叩いて襖を開けさせた。
襖の向こうから現れたのは正装を着た文と椛であり、二人とも天魔達へと礼を取りながら入室した。
「射命丸、犬走。
客人の案内ともてなしを天魔の命にてお前たちに任せる。
失礼の無いよう、しかと頼んだぞ」
「「は、承知いたしました」」
「……それでは和人殿。
またこのような機会があれば、その時は酒を酌み交わそうぞ」
「もったいなきお言葉、感謝いたします。
それでは失礼いたします」
和人は天魔へと一礼し、文と椛と共にその部屋を退出した。
「……元が人間だったとは思えぬほど礼儀がなっていたな」
「うぅむ、あれが守矢のところの巫女と同じ外の世界の人間とは信じられぬな。
奴の爪の垢でも煎じてあの無礼な巫女に盛るか?」
「やめておけ。
あの神々の怒りに触れれば今度こそ血を見ることになるぞ?」
三人が去った後、部屋の中では大天狗たちが和人についての話題で持ちきりであった。
自分達どころか天魔と相対しても物怖じもせず、そのうえで粗相の無い立ち振舞いで礼儀を尽くした彼の姿はまさにイレギュラー。
彼らの中の人間の印象とは大きく違いがあり、大天狗達は困惑しながらも好意的に受け取る者が多かった。
「……天魔様。
やはり、あの者をこちらへと引き入れるべきでは……」
「ならん。
奴は賢者たちに飼われた駒、我々はあくまでそれを借り受けただけなのだ」
進言してくる大天狗の言葉を一蹴し、天魔は目の前へと配膳された盃を手に取る。
中には並々と白く透明な酒が注がれており、相当な上物であろうそれを彼は一気に飲み干した。
「……しかし、奴らの駒として使い潰されるのが惜しい者であったのもまた事実。
ならば、奴がこちらに引き込まれようと思える程に我々は手を尽くせばよい話だ」
「なるほど……では、我々から何か贈るべきでしょうか?」
「"物"は契約に触れる故にできん。
……しかし、"者"であれば問題はあるまいよ」
「……なるほど。
では、犬走が適任かと」
「ふむ……あやつならこの短い期間でも多少の気心は知れてるやもしれぬな。
犬走の異動の調整も含めて飯綱丸、お前に一任しよう」
「は、承知いたしました」
進言してきた大天狗に変わり、天魔は飯綱丸に命じながら盃に酒を注ぐ。
「……今宵は酒も一段と美味いな」
再び波々と注がれた酒を見つつ、天魔はポツリとそんな言葉を零していた。
酒の味に混じるのは勝利の余韻か、それとも……
「いやぁ〜、お見事でしたよ和人さん!
まさか大天狗様や天魔様を前にしてあれほど冷静に立ち回れるとは……
やはり、外から来た人間達の中でも只者ではないですね!」
「……文さん、お客人に失礼がないようにと先ほど言われたばかりでしょう。
申し訳ありません、和人さん。
こんな調子ですが、一応上司なので私からはどうにも止めづらく……」
「いえいえ、構いませんよ。
むしろ変にかしこまれたほうが違和感もありますし、せっかくのめでたい祝いの席で堅苦しいのもあまり空気的にはよくないでしょうから」
宴会場までの廊下を歩きつつ、三人は先ほどまでの厳かな雰囲気を消して雑談に興じていた。
「そうそう、今日はせっかくのめでたい日なんですから!
和人さんもこう言ってることですし、そう肩肘張らずにいきましょう!」
「……はぁ。
何故天魔様はこの人も案内係に……」
「まぁまぁ……一応射命丸さんも今回は頑張ってくれてましたし、これぐらいは大目に見ましょう?」
若干調子に乗っている文に呆れる椛を宥めつつ、和人は今日までにあったことの顛末を思い出していた。
まず、妖怪の山と神社……「守矢神社」の関係について。
終戦の翌日に出された草案を元に双方の代表者同士で協議をした結果、山の頂上と参道として整備される予定の人里に続く通路の一つを妖怪の山が守谷神社側へと貸与。
その変わりに天狗達山の妖怪とは対等な立場で取引などを行うこととし、過度に干渉したりしないということで条約が締結された。
今は力を大きく失っているとはいえ、それでも相手は古くから存在する戦神。
そんな相手にこれほどの好条件で条約を結べたのは山としては上々であった。
次に例の試作歩行戦車……「ファイティングドッグ」について。
結論から言えば試作されていた五機のうち三機を稼働させて二機が全損。
唯一生き残った二号機は最後に放った主砲のチャージ弾の負荷で砲口が酷く痛んでおり、その他のいくつかのパーツも強度不足などで少しガタついてしまうという結果に終わった。
しかし肝心の運用データなどは脱出した鳥ゴーレム達の方に記録されていたため、回収したデータからのフィードバックも次からの試作機で実装されるとのことだった。
もちろんこのデータは和人も受け取っており、にとり達のとは別の物を開発する為に使われている。
……先ほど天魔との会話で言っていた報酬というのが実はこれである。
そして3つ目なのだが……
霊夢が戦闘中に壊されてしまったエナジーシューターについても語ろう。
結論から言えば、和人はこの件について許した。
許しはしたのだが……変わりに霊夢は数週間ほど和人の作るご飯を禁止という一見軽そうな罰を受けることになった。
……しかし、これを言い渡されたときの霊夢の顔には絶望の二文字が書かれていた。
霊夢だけではなく魔理沙もだが、二人は朝飯や夕飯を和人に作らせることが多い。
二人とも彼が来るまでは自炊もしていたが、出会って数日後に彼の手料理を食べた時から揃って胃袋を掴まれていた。
料亭とかで出るようなレベルで美味い和人の料理に二人の口は慣れ親しんでおり、自炊するぐらいなら彼のところに食材を持ってきて作ってもらったほうが良いと言う程までに彼の料理に依存していた。
だが、そんな和人の料理を食べるのを禁止されたのであれば霊夢としては絶望でしかない。
もちろん彼女は自炊できるが……
和人の料理に慣れ親しんだ彼女の口的に、自身の作る飯はかなり物足りない。
味噌汁だけでも出汁の取り方や味噌の分量、具材の大きさ等のバランスが和人のものとは大違いなのだ。
今頃霊夢は博麗神社で和人の渡したレシピ本を元に再現しようと四苦八苦しているだろうが、それがうまくいってるかどうかは……
ということもありはしたが、ひとまずはこの件についても落とし前がついたことで一応は解決。
エナジーシューター自体は改良版を製作中であり、改良版は銃本体へ結界札による自動防御システムが組み込まれる予定となっている。
……もっとも、コスト的に量産には適さないためにワンオフ品になるだろうが。
とまぁ、そんなこんなで事態は一応の解決を見せていた。
……しかし、和人には内心気がかりな事があった。
それは守矢神社……ひいてはその巫女について。
和人が住んでいた集落には神社がなく、参拝などをする際には付近の街に存在する神社へと行く必要があった。
和人も昔、今は亡き祖母に連れられて何度も参拝をしに行ったのだが……
その神社の名前が「守矢神社」だった。
実は和人、天狗達からは「山の上に現れた外の世界の神社」としか聞かされておらず、肝心の神社の名前については一切聞かされていなかったのだ。
故に、その名前を聞いた時に彼は耳を疑った。
さらにそれを和人へと教えた魔理沙によると、その神社の巫女は自分達と同じぐらいか少し年が上ぐらいの少女だったと聞く。
それを聞いて和人が思い出したのは外の世界の中学校での記憶。
……過去の出来事によって同級生やそれに親しい下級生達からは嫌悪されていた一方、そうでもない後輩達からは男女問わずに彼は慕われていた。
そんな後輩達の一人に、代々件の神社を祀る一族の出身の少女がいた。
明るく振る舞う彼女の姿に心のなかで防壁を築きながらも眩しく感じ、時折面倒を見ていた事がある少し手のかかる後輩。
まさかとは思いたくないが、彼女もまた幻想郷へとやってきたと思われる。
和人にとってそれは喜ぶべき事とは言えない……しかし、逆に嫌悪してるわけでもない。
彼は一年と半年ちょっと程幻想郷で暮らしているが、その短期間でこの世界の過酷さを身に染みて体験している。
特に彼は今半分だけ死霊という半妖の一種へとかわり果ててはいるが、その前は生身の人間として活動。
その間に味わった幻想郷の過酷な環境の洗礼を嫌というほど味わっている。
文明が発達した外の世界とは文化や何もかもの利便性が大きく違い、比較的色んな意味で頑丈な和人ならまだしも最近まで外の世界の女学生だっただろう彼女がこの世界で生きていけるのか……
彼の中ではそんな心配が重くのしかかっていた。
……しかし、今のところ彼から積極的に接触をするべきではない。
山の情勢もやっと落ち着いたとはいえ、それでもまだ何の拍子に再燃するかは未知数。
様子を見て、完全に状況が落ち着いてからのほうが互いの為にもなるだろう。
それまでは……
「あ、文さん!?流石にその量は……!」
「いやいや、いけますって!あの萃香さんとサシで飲み合ったと聞きますし、それならこの程度水を飲むかのように飲み干してくれますよね!」
「あ、あはは……お手柔らかにお願いしますよ」
今この時を楽しみつつ、彼女の安全を願おう。
和人はそんな思いを口に含み、文から差し出された大盃いっぱいの酒と共に一気に飲み干すのであった