妖精達が夏を刺激しているのか、空気ごと灼熱地獄と化している今日この頃。
こんな暑さじゃわかさぎ姫も川ん中で引きこもってるんじゃないかと思いつつ、なんとかこうとか一本仕上げてまいりました。
因みに今回はほぼ東方要素しか無いです。
というか元からベースの原作がそれなので、偶にはオンリー回も入ることになるんですよねぇ。
というわけで、本編をどうぞ
ある日の香霖堂。
あいも変わらず人の出入りは少なく、店内にはいつも通り椅子に座って新聞片手に茶を飲む店主と奥の作業場で商品の修理作業をする店員の姿しか見当たらない。
……しかし、そんな代わり映えしない日常を送る香霖堂へと忍び寄る影。
カランカランと鐘を鳴らし、店の扉が開かれた。
「いらっしゃ……おっと……?」
来店に気がついた霖之助が声掛けをしようと新聞から目を離したその時、入口に立つ少女を見て霖之助は固まった。
ただの妖怪や妖精であるならばいつも通りの対応、風見幽香のような強力な妖怪でも普通に接客してもてなすこともできる霖之助。
しかし、そんな彼が入口にいる来客……
カエルを模したかのような帽子を被る少女を見た瞬間、本能的に冷や汗をかきながら硬直してしまった。
「いやぁ〜、失礼するよ〜!
話には聞いてたけど、あんまりお客さん居ないんだねぇ?」
見た目こそ幼く見えるが、霖之助は彼女の力……
祟と呼ばれ恐れられる負の力とそれを統率する神の力を感じ取っていた。
「……ははは、外の世界から来た神にまで店の評判が届いていて光栄だよ」
「おぉっと、別に乏してるわけじゃないさ。
ただ、ゆっくりと買い物をするならここはうってつけっては聞いてるよ」
そう言いつつ少女……守矢の神の一柱「洩矢諏訪子」はケタケタと笑いながら店の中へと入ってきた。
「いやぁ、茶まで出してもらって悪いねぇ〜」
「神を迎えるときは礼儀正しくと教えられてるからね。
これはほんの気遣いさ」
「おや、そりゃどうも。
それじゃあ遠慮なく」
ズズズと茶を啜る諏訪子を傍目に、霖之助は店の商品の目録を用意していた。
これは和人が念のためにと制作していたものなのだが、まさか本当に使うことになるとは霖之助は思ってもみなかった。
「……さて、何をお求めだい?
ここ香霖堂では外の世界の物を含めて色々と取り扱ってるよ」
「うーん、そうだねぇ……
そういえば、こっちでは電気を使わない家電ってやつがあるんだろう?
早苗のお土産にしたいし、ちょいと見せてくれないかい?」
「あぁ、魔道家具だね。
一応一通り在庫はあるからそう時間を取らずに持って行けるよ」
「おっ、そりゃいい」
早速、諏訪子は手渡された目録を見始める。
目録は文の協力もあって射影機を使った写真付きとなっており、わざわざ倉庫まで見に行かずともどんなものかを見れるようになっていた。
「お、これ確か十数年くらい前に売られてた冷蔵庫だね。
幻想郷じゃあこんなのでも最新なんだねぇ」
「……こういったのは神はよく知らないと思ったけど、案外詳しいんだね」
「ハハッ、私らもずっと神社の本殿にいるわけじゃないからね。
たまには早苗たちが暮らしてた社務所も兼ねた家に取り憑いて、"てれび"とかいう光って音の鳴る箱から色々と近頃の流行りだとかを見てたもんさ」
「てれび……あぁ、あの機械か。
こっちじゃ全く使えなかったけど、外の世界では色々な事が知れる機械の瓦版みたいな物だと聞いてるよ」
「そりゃこっちじゃでんぱとかいうのは届かないだろうしねぇ〜。
河童辺りがそういう装置を作ったりしないのかい?」
「いや、まったく聞かないね。
そもそも幻想郷じゃあ文屋の新聞とか井戸端の噂のほうが早く流れるから、わざわざ大袈裟な装置を作ってまでやる必要が無いんだと思うよ?」
「それもそっか」
和やかに話は進んでいるが、一半妖でしかない霖之助が相手しているのは遥かに格が上の神。
それも、かつては国を治めていたらしい土着神と彼は聞いている。
ある程度いつも通りの調子で話してはいるが、一方で霖之助の背中には冷たいものが流れ続けていた。
「……ところで、だけど」
突然、諏訪子の纏う空気が変わった。
「幻想郷にはわたしら以外にも外から来た奴がいるって聞いたんだけどさ?」
「あ、あぁ。
霧の湖の畔に住んでる吸血鬼とか、偶に迷い込む外来人とか色々と居るけど……」
「……そのうちの一人がここで働いてるって聞いてさ?
ちょっと会ってみたくなって来たんだけど……今、どこにいるのかな?」
「……!」
霖之助はそこで気がついた。
彼女は……古道具や魔導家具のような香霖堂の商品ではなく、店員である和人が目当てで来たのだと。
目当ては分かったものの、何が目的か分からない以上迂闊に作業場から和人を呼び出すわけにもいかない。
この場をどう切り抜けようかと霖之助は頭を捻らせていた。
しかし……
「よ、香霖!邪魔するぜ!」
「あぁ、魔理沙さん!今霖之助さんは接客中みたいですから仕事の邪魔は……!」
突然勝手口の戸が開いたかと思うと、いつも通りの調子な魔理沙とそれを引き留めようとする和人の二人が店内へと入ってきた。
そして間もなく……
「……んん?
お前、もしかして早苗のやつが言ってた諏訪子って神か?」
「……神?ということは、もしや……」
魔理沙の声に和人は怪訝そうな顔をし、諏訪子の方へと視線を合わせた。
そんな彼の様子に諏訪子はニヤリと笑みを浮かべ………
「や、久しぶり……いや、こうしては始めましてかな?
随分と大きくなったね」
まるで数年ぶりに再会した親戚のごとく、彼女は気さくに和人へと声を掛けていた。