今回は和人の日常の一部を描かせてもらいました。
因みにですが、今の彼では異変解決には参加できません。
魔理沙レベルの実力があればまだしも……フィジカルで勝てても幻想郷独自のあの戦闘方式では、ね?
そんなわけで、本編をどうぞ
僕が幻想入りしてそろそろ半年が経つ。
まだ新居特有の新鮮な木材の匂いが立ち込める自宅の庭にて、僕は毎朝の習慣となっている鍛錬をしていた。
息を深く吸い込み、手に持つ獲物……拾い物の短槍へと意識を集中。
自分の中にあるソレを短槍へと流し込むイメージで力を込めていく。
そして……
「はぁッ!!」
一突き、空を穿つように槍を突き出す。
突き出したその時、短槍に込められたソレが解放された。
まだ日が昇りきらない朝の空を、槍の形状をした光の塊が飛んでいく。
まっすぐ飛んでいったそれはしばらく飛んでいった先でその形状を崩し、まるで花火のごとく無数の小さな光の球となって広範囲に散らばっていった。
弾幕ごっこ。
それは、スペルカードルールと呼ばれる物に則って行われる幻想郷独自の決闘。
人と妖怪の力の差を埋める為、弾幕と呼ばれる霊力や妖力という生体エネルギーのような物で構成された非実体の弾の展開の美しさを競い合う……外の世界のスポーツのような遊びである。
このルールが制定されたのは僕が幻想入りする前らしいが、実際にこの弾幕ごっこが普及したのはつい最近。
空が突如として赤い霧に覆われた、後に「紅霧異変」と呼ばれる事件が起きた時にこのルールが適用され始めた。
この時、異変の解決者である霊夢さんや魔理沙さん……
そして、異変の元凶たる紅魔館という吸血鬼が率いる勢力との武力衝突が発生した際に使われたのが、このスペルカードルールでの決闘だった。
幻想郷の調停者である博麗の巫女である霊夢さんはまだしも、魔法が使えるとはいえただの人間である魔理沙さんが活躍したこの一件。
これにより人間と妖怪の一方的ともいえる戦力差にバランスが生まれた。
強力な力を持つ妖怪たちはある程度の手加減をした上で人を襲うことができ、また人間側もそんな妖怪たちへと真っ向から抗うことが可能となったのだ。
今はまだ人間側で弾幕を使える者は少ないものの、スペルカードルールにおいては弾幕が使えなくても妖怪に勝てる要素がある。
「スペルブレイク」
もしくはスペル取得とも呼ばれるこれは、「スペルカード」と呼ばれる札に込められた必殺技のようなものを回避し続けたり時間制限まで逃げきることにより、スペルカードの効力が切れてその勝負に勝利することができるシステムだ。
実はこれ、僕が幻想入りした時の話を聞いた霊夢さんが取り入れたルールらしい。
基本的に人は先天的な能力でもない限り、専門的な訓練を積まないと妖怪に対抗することができない。
だが、先天的な能力を持つ人間は幻想郷でもわずか一握り。
ほとんどの人間は妖怪に為すすべも無く敗北して命を落とす。
そこで、人間側が生き残れる可能性を高める事を意図してこのルールが制定される運びとなった。
実際、このルールが制定されて以降は外来人の生存率や人里の人々が生きて逃げ切る例も多くなったらしい。
ただ、このルールに乗っ取らない妖怪は依然として人の脅威であり、その大部分は霊夢さんの手で葬られているとはいえ用心するに越したことはない。
そういうわけで、僕自身もこの弾幕を扱う修行を霊夢さんと魔理沙さんにつけられている。
霊夢さんからは、陰陽術や巫術等の霊力を使った身体強化の法や退魔術を。
魔理沙さんからは、魔法やマジックアイテムを活用した弾幕の魅せ方を学んでいる。
そこに生来から備わっていた物……
僕が外の世界で周囲の人々から忌まれていた原因のソレを組み合わせることで、現時点で僕は「人間としては」強者の部類に入る程度の実力を得ることができた。
そのおかげもあってか、最近は妖怪の知り合いも多く増えた。
その例として挙げると、先日恐ろしいほどに強力な妖力のような物を纏った女性が香霖堂に来店していたのだが……
そんな方ともある程度対等に渡り合いつつ、しっかりと仕事をこなすことができた。
何やらこちらを見る目が恐ろしかったが、それでも一度弾幕ごっこで生き延びて見せてからは対等な立場でやり取りをしてくれていた。
生きた心地はしなかったものの、これがルールの制定前だったら容赦なく命を散らしてしまうところであった。
そういった成果もあるため、今日も日課として鍛錬を行う。
一方で、霊夢さんと魔理沙さんから教えられた訓練にはこの鍛錬による修行法以外のものもある。
それは、弾幕ごっこ以外でも使うことがある道具の作成。
例として挙げると、霊夢さんからは除霊や封印に使用する札を量産すること。
術を書き記した大量の札に一つ一つ丁寧に霊力を込めるという、地道なように見えてかなり荒っぽい修行法を教えられた。
こちらも毎日のように日課としてやっている。
ここで作った札は霊夢さんの手に渡り、実際に使用してどれほどの効力があるかを評価してもらっている……のだが。
まぁ……多分自分で作るのをめんどくさがって僕に作らせているのだろうという感じは否めない。
因みにだが……霖之助さんからの話だと、このところ妖怪たちが一層おとなしくなってきているのだそうだ。
なんでもここ最近博麗の巫女の活動が活発化したり、人里の人間たちに大量の札が配られている故に下手に動けないとのこと。
……十中八九、それは間接的に僕のせいなのだろうか?
さすがにある程度安定して高品質な物が作れるようになったら、今のように無償で渡すのは辞めておこうとは思う。
しばらく短槍を用いた弾幕の訓練をしていると、どこからか高速で飛来してくる音が聞こえてくる。
音がする方を向くと、ほうきに乗った魔理沙さんがこちらに飛んでくる姿が見えた。
「よお、カズ。調子はいい感じか?」
「おかげさまで。最近は妖精の子たち相手でも余裕もって相手をできるようになりましたよ。」
ほうきから飛び降り、こちらに歩み寄りながら魔理沙さんは僕の修行の進捗を聞いてくる。
実は、今の槍状の弾幕は魔理沙さんからのアイデアをもとに考案された技だ。
僕自身でも考えてはいるのだが、どうにも弾幕ごっこで必要不可欠な「弾幕の魅せ方」については少々力不足なこともあって彼女の力を借りている。
今鍛錬しているこれも、魔理沙さんの監修のもとでスペルカードへと昇華するために試行錯誤を繰り返している。
「んじゃ、今日はもっとギアを上げていくぜ。覚悟しな!」
「ふふ、お手柔らかにお願いしますよ。」
そう言葉を交わしつつ、僕たちは互いに構え合う。
「「魔符/槍撃「スターダストレヴァリエ/プロト•ランスショット」ッ!!」」
同時に出されたスペルカードの宣言。
決闘ではない、ただの遊びに近い弾幕ごっこの火蓋が切られるのであった。
朝食。
それは生物が目覚めると同時に行う活力の補給である。
生きる為に命を奪い、命を食す。
その行為により人間などの命は脈動し続けるのである。
次回「朝餉」
生命は語る。
生きることも、また闘争なのだと。