目をやられてムスカになってたせいで遅れました
責任は大佐が負ってくれます()
まぁそんな冗談はさておき、今回は少し外の世界についても触れることになります。
人の定義って……難しいですね
というわけで本編をどうぞ
ある日の昼下がり。
和人は一人、空を見上げながら思考に耽けていた。
思えばここに来てからもう一年以上経つ。
外の世界についてのあれこれはある程度早苗と雑談していた時に聞いてはいるが、彼女が知っているのはあくまでテレビでの情報や人伝の噂など。
心残りというわけではないが、外の世界に残してきたものに対して少し気にかかっていた。
その残してきたものというのは……
「……おじいちゃんの家、今どうなってるかな?」
かつて、幻想入りするまで住んでいた祖父の家。
それがどうなったかが彼には気にかかっていた。
彼の祖父と祖母は何年も前に他界しているが、二人は遺言や正式な手続きなどを遺していた。
おかげで彼は孤児院どころではない場所へと連れて行かれるのを防ぐ事ができ、なんとか幻想入り……本来であれば高校を卒業するまでは安心して人並みに暮らせていた。
もちろん、高校卒業後はすぐに就職して完全に自立するつもりだったのだが……
人生、どうなるものかは分からないものである。
……幻想郷に来てからというものの、なんやかんやで忙しくしていたために外の世界について考えることはそこまでなかった。
しかし早苗と再会した今、彼の中でほんのりと望郷の念がくすぶり出していた。
そんな彼の背後に忍び寄る影一つ……
「かくごぉぉぉッ!」
「おっと」ヒョイ
「へ?にゃぁぁぁぁッ!?!?」
――ズテーーンッ!
突如として背後から襲いかかる少女。
しかし考えに耽けていたものの油断していたわけではない彼に軽く受け流され、容易く地面へと転ばされてしまった。
「……大丈夫ですか?
一応手加減して痛みがないように転ばせましたが……」
「へ、へにゃぁぁぁ……
めが……目が回るぅ〜……」
受け流した際の回転によって目が回ったのか、ふらふらとした様子でへたり込む少女に和人は手を差し伸べていた。
彼女は「橙」。
苗字がないのは彼女がまだ半人前の式神であり、一人前となった時に主から苗字を授かるからだという。
橙は彼女の主人と共によく和人の元を訪れており、そのたびにかまえと言わんばかりにじゃれつきにかかるのだ。
一応これも修行の一環ではあるそうで、和人は彼女の主人から容赦なくいなすか防いでほしいと頼まれていた。
そして、彼女がここにいるということは……
「……今回も失敗してしまったか、橙」
「ら、藍さまぁぁぁ!」
橙は半泣きになりつつ、和人に立ち上がるのを手伝ってもらってから声の主へと抱きつきに行った。
その主名は「八雲藍」。
いつぞやかに暴走した和人を単身で短時間ながらも抑え込み、助っ人数名と協力してこれを鎮めた八雲紫の式神である。
「いつもすまない。
私達が相手だとこの子も萎縮してしまってうまくいかないのでな……」
「いえいえ、紫さんや藍さんにはよくお世話になっていますからこれぐらいは。
僕の方も気配取りの良い練習になりますし」
「……そう言ってくれるだけありがたいよ。
ほら、もう大丈夫だから遊んできなさい」
「はぁい!」
藍に宥められ、すぐに気を取り直したのか和人の方へと駆けていく橙。
彼も膝上に置いていた作りかけの魔道具のパーツを脇に置き、彼女を受け入れる用意をする。
そしてそう間を空けることなく橙の体が跳ね、勢いよく和人の膝へとダイブした。
「にゃぁ〜……ゴロゴロ」
膝のうえでまさに猫のごとく甘える橙。
彼女の頭を撫でつつ、和人は藍と軽い雑談をしていた。
「……なるほどな。
外の世界に遺していたお前の家か」
「えぇ、まぁ……
未練は無いと思いましたが、心の奥ではそうでもなかったみたいです」
なんとなしに藍から考え込んでいた理由を聞かれ、和人は彼女へと自分の心残りについて話していた。
「まぁ、外来人にはよくあることだ。
自分が居なくなった古巣がどうなったか、幻想郷から出るつもりはなくとも気になる者は多い」
「……でも僕はここで生きていくことを決めましたし、こんな体ではどのみち外には戻れませんからね。
どうにかして完全に割り切れたら良いんですが……」
「いや、その必要はないだろう。
そもそもその感情は人間としては当たり前のものだ。
そういった人間性的なものを忘れてしまえば、お前も完全にこちら側……妖怪も同然になる。
忘れるなよ、お前は人間寄りの半妖だからこそ今も生きられてるんだ」
和人の言葉に、すかさず藍はバッサリ切り捨てるように言い放った。
実際、彼や霖之助のような一部の半妖は人間寄りであれば博麗の巫女に退治されることもほとんどの場合は無い。
退治されるとしても、よほどのことをやらかさないとそうはならない。
詰まるところ、人間的な性質を持ち続けるということは彼らのような半妖にとっては命綱同然なのである。
「妖怪も人間も、相手をどう見ているかによってその性質は大きく変わる。
お前が人間でありたいのなら、人間としての感情や思いを忘れないことだ」
そこから先の言葉を出そうとしたところで、藍は自身にかけられた命令を思い出して一旦口を噤んだ。
まだ"その時"ではない。
少なくとも、彼にそれを伝えてすべての計画がおじゃんになることは避けたい。
……自分はともかく、仕える主人達の思惑的にはそうらしい。
だがまぁ、彼女としては……
(……あんまりかもしれないが、死ぬよりはマシであってあって欲しい物だな)
目の前の好青年がせめてまだマシな生を送ること。
それを少なからず願うのみであった。