グッドトリップ   作:平成

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平成に失恋してるから平成ソングばかり聴いてます
フンガー!


ハウリング

「というわけで、カラオケにやってまいりました」

「どういうわけだ……」

「オレ一曲いれるわ」

「お、猿山早いね」

 

 放課後。結城への説明を求め、オレと猿山、そして被疑者の結城はカラオケにやってきていた。

 密談をするならカラオケだ。令和では、ご時世によってカラオケ施設でのテレワークを提供するサービスも充実していたくらいだし、外部に漏らしづらい話をするにはもってこいだ。

 

「懐かしい曲入れてるね〜」

「懐かしいって……最近のだろ」

「あ、そうだったね。ごめんごめん」

 

 迂闊だ。口が滑った。弛緩した雰囲気に乗せられたな。策士だな、猿山のやつめ。

 猿山のやたらとビブラートを強調した歌唱が室内に染みる。

 マイクで拡張された歌声が反響。

 オレは端末に番号を打ち込みながら、結城の様子を観察した。

 どうも、心あらずといった感じだ。

 

「フライドポテトお持ちしましたー」

「もう一回もういっ……かぁ……」

「失礼しまぁーす」

「結城、お昼食べてなかったろ? 腹ごなしにつまもう」

「おい! いつ頼んだんだよ! 店員にすげー見られたぞ!」

「入室したとき。んー……ちょっと塩気物足りない」

 

 この時点の冷凍フライドポテトってまだこのレベルなんだ。フライヤーの油は全然切れてないし、べちゃっとして塩が飛んでる。今後とも競合が激しくなっていく業界なんだから、フードの充実にも注力してもらいたいものだ。

 パクッとしていたら、遠慮がちに結城も食べ始めた。

 オレはマイクを手に取り、魔法少女のテーマを歌う。

 

まはり〜くまは〜り

「なんだよこの曲」

「うちの母ちゃん世代じゃね? というか色気やべーな樹理の歌声」

 

 歌い終わった。

 ブレイクタイムだ。

 オレは結城と向き直った。

 

「Yo,MC結城 何があったか打ち明けてみな 胸の内」

「おいリト、こいつラップで話聞こうとしてるぞ」

「なんでなんだ……?」

「猿山 盛んな年頃 シットなやつ 女子への妄想が主食 頭ピンクメーン」

「オレへのディスを挟むなよ!!」

 

 フリースタイルとは魂のぶつけ合い。これならば剥き出しの本音ベースで語れるかもと一瞬血迷ったけど、やっぱダメだった。オレはMICを置き、結城に語りかけた。

 

「話してほしい。ここなら、落ち着いて構えられるだろ」

「いきなり落ち着くな!」

「情緒どうなってんだよ」

「……打ち明けやすい空気を作ったんだよ」

「失敗してるぞー」

 

 なんてヤジを送る猿山の目も据わっていた。彼も事情を知りたがっている。

 結城は視線に射抜かれ、萎縮した態度だ。

 涙をこぼすみたいに、彼は言葉を吐いた。

 

「オレ……春菜ちゃんに告白したんだ……」

「おお! ついに殻を破ってたのか!?」

「シェルブリッドだね結城!」

「んだそれ意味わかんねーけどヒャッホイ!」

 

 オレと猿山は肩を組んで喜んだ。気分は彩南町の海賊だ。

 結城は気まずそうに一言付け足す。

 

「それがよ、春菜ちゃんへの告白を通りがかりのララが受け取っちまって……」

「ジーザス……」「神は死んだ……」

 

 途端に泣き崩れた。急転直下である。ララって子、間違いなくあのピンク髪の少女のことだ。だとすれば、オレが道案内したことで一世一代の告白を阻害してしまったのだろうか。

 顔を覆ったまま横目で猿山とアイコンタクト。我ら友達になった日は違えど友の幸せを願う気持ちは同じ! 現代版桃園の誓いに従い、オレたちは結城へ懸命に言葉を飛ばす。

 

「元気だせよ! まずは誤解を解くところからだろ!」

「原因調査だ。事象についてはしょうがない。リカバリーのために必要な体制をすぐに編成しよう」

「うう、お前ら……」

 

 対面の座席に移り、オレと猿山で丸まった背中をさすった。

 

「じゃあ、あのかわいー子がララちゃんってのか? 芸能人でも見ねーぞあんなレベル」

「あ、おう……実家を家出してきたやつなんだけど、昨日その……オレの家の付近で迷い込んできて」

 

 言い淀みながら結城は、言葉を探すように視線を惑わせる。

 かなり厄介だなー。

 

「家出少女か。ご家族の事情は聞けたのかな。結婚を報告せずに済ませるなんて、早計どころか非常識もいいところだ」

「非常識……まあ、そうだな。あいつスッゲー非常識なやつなんだよ。だから、オレが春奈ちゃんへの告白だって弁明するより先に、結婚するーって」

「なるほど。それで事態が大きく複雑化してしまったのか」

 

 結婚とは、好き同士が一緒になれば幸せーとなるほど単純ではない。

 社会を生きるのは『個』ではなく『集合体』だ。二人三脚で手を取り合って生きていく関係なのだから、摩擦を呑み込んでいける理性と感性、どちらとも一致できる相手でないと、二人で生きるのは厳しい。まして、結城本人が本意でないものなら、関係は歪んでいくだろう。

 第一、子どもの裁量で決めていい話ではない。

 心意に決めるのはいいが、事実的に断定するのは双方の幸せにつながらない。

 

「スッゲーかわいいし、それでもいいってオレは思っちゃうけどなー」

「猿山、それは本人が酷だよ」

「わかってるって。こいつまじで西蓮寺ラブなんだぜ?」

「わ、わざわざ言うなよ!」

 

 赤面して立ち上がった彼は、泣かんばかりに必死だった。純情だった。

 

「オレは自分を変えたかったんだよ。猿山みたいに行動力あって、秦野みたいに女の子相手で物怖じしない態度が欲しかったってのに……!」

 

 若者の成長には目を見張るものがある。

 驚いた。この短い関係性、そして浅い関係値でも、彼は影響を受けるくらいに素敵な感性を持っている。外面じゃなく、内面を等身大で評価することができる。

 

「だってのに……」

「結城、心配ないよ。あなたはオレが見てきた人間の中で、誰よりも誠実な男だ」

 

 彼の荷を少しでも担おう。

 テレポートしたことだとか、少女の境遇だとか、そういったものは二の次だ。

 彼はいま、少年として当たり前の想いを遂げようと苦しんでいる。

 だったら大人としてオレは、子どもの不安を和らげよう。

 

「断言させてもらう。結城ならきっと、誤解を解く以上の結果……そうだな、西蓮寺さんも、ララさんも納得いくだろう結果を選べるよ」

「秦野……お前……」

「あと……言うタイミングなかったけど、今朝、結城を探してるララさんに道を教えたんだけど、告白ってひょっとして登校時間にしたのかな」

「秦野……お前……!!」

 

 憤懣やるかたないとばかりに結城は声を震わせた。

 申し訳ないから、せめて今日の会計はオレが持とうと心に決めた。

 

「ああもうちくしょう! オレも歌ってやる!」

 

 頭を掻き、結城は端末を操作し始めた。

 吸い尽くしたコップの底。

 安っぽいプラスチック容器の表面に浮かぶ汗。

 立ち上がり、ドリンクバーに向かった。

 

 

「なぁ、いいだろ? オレたちの部屋こいよ」

「えぇ〜? ちょっとわかんないです……」

「オレ歌まじやべーの。ライブもやってんよ、知ってる? 時々駅前でも弾き語りしてんで」

「わかんないです……」

 

 見知った制服。

 落ち着いた緑色のボブカットの少女。クラスメイトだ、とオレは見とめた。

 ドリンクバーの周囲。男が三名、彼女に向かって何か囁いている。

 染めた頭髪に剥き出しのチェーン、威圧するために肩をいからせた態度。

 ナンパだ。しかもだいぶ強引な。

 大人として無視するわけにはいかない。

 

「新井さん、お待たせ」

「あァん? なん……だ……!?」

「え、秦野くん……?」

「いやー、格安だからって人数をわけずに部屋を一緒にするんだったね」

「アァ……!? コラ、なにしゃしゃりでてんの?」

 

 メンチビームを切られた! タンカバトルだ!

 こういう時はタンカを切るって喧嘩番長で学んだ。

 オレは男と新井さんの間に体を割り込ませ、同じくビームを射出する。

 

「オレの友達の友達の友達は超ヤンキー!」

「な、なんだこいつ!」

 

 メンチビームの押し合いはオレが制した。

 気色ばむ男たちに対し、勢いそのままに続ける。

 

「お兄さんたち、無理矢理女子を誘うのは感心できないな」

「ああ!? んだテメェ!?」

 

 オレの胸ぐらを強引に掴んでくる。

 腕力だけで無理矢理寄せようとしてくるが、たいした負荷ではなかった。堪えずとも、そのまま自然体で佇む。重心を使うんだな。

 

「は……? 岩……?」

「服が伸びちゃうだろうが」

 

 ただでさえ最近大胸筋がパンプ気味で型が崩れてきてるのに。

 眉をひそめ、詰め寄る。

 気圧されたのか、男たちは及び腰となった。

 

「こいつ、やべえ!」「逃げろ、村松さんに報告だ!」「彩南にやべーのいっぞ!」

「村松……?」

 

 捨て台詞を残し、彼らは自室へと逃げ帰っていった。

 頭の淵に違和感をひっかけながら、オレは縮こまったままの新井さんに向き直った。

 

「もう安心だよ。何があったの?」

「こよみと一緒に来てるんだけど、アイツら部屋に無理やり入ってきて……」

「白百合さんとか。彼女はまだ室内?」

「うん……私がドリンク注ぎに行く間引きつけて、店員さんに連絡してもらおうと思って」

「ナイス連携だ。怖かったろうに、よく機転を利かせたね」

「え……う、うん」

「帰り何時かな? あと一時間したら帰るから、タイミングあったら駅まで送るよ」

「私も二時間パックで入ったから、同じ」

「そう、なら送ってく。まださっきの奴らが目をつけてるかもしれないし」

「なんでかな、秦野くんって見た目怖いのに、話してるとすごい落ち着く」

「ハハ、そう言ってくれると男冥利に尽きるよ」

 

 オレンジジュースを注入~。

 緊張で乾いた喉を潤す。マナー悪いけど。

 

「あはは、そんな怖い顔して子ども舌かい」

「……いいでしょ、好きなものはずっと好きで」

 

 視線を逸らした。彼女みたいな若い子に子どもっぽいと言われると、どうにも立場がないように感じる。

 

「じゃあ、オレあそこの22号室だから。次絡まれたらすぐにきて」

「あ、うん……また後で」

 

 手を振り、すっかり盛り上がったふたりの元へと戻った。懐メロしか流れない空間は、胸の奥を安心させる不思議な安心感を形成していた。

 

 

「やっばぁ……不意打ちでしょ、こんなの。顔赤くないよね、私」

 

 

 

「オレはさしすトリオのそれぞれの幸せを摘み取るなんてできない」

「なんの話だ?」

「秦野が育ててるひまわりの話だよ。名前つけるくらい可愛がってるんだ」

 

 もう会計間近。

 耳に残る残響。室内で飽和した歌声の気配。

 最後まで皿に余ったポテトを処理しながら、話し込んでいた。

 

「ひとりたりとも剪定したくないんだけど、どうすればいいのかな」

「まあ、プラントを別ければいいんだよ。管理は大変だけど、そうすれば互いの栄養を奪い合うことも無くなる。家庭菜園ならそれが一番」

「世界をもう一つ創造するみたいなものか。園芸ってジェネシスだね」

 

 得心して呟く。

 と、ちょうど受話器が鳴った。

 伝票をとって立ち上がる。

 

「じゃあ今日はお開きだ。結城、困ったことがあったらオレたちを頼ってくれよ」

「ああ、サンキュー……どうなるかわかんねーけど、なんか大丈夫な気がしてきた」

「やっぱオレは納得いかねーけどなー。ララちゃんみてーなかわいい子が、リトの元に突然押しかけてくるなんてよー」

「まあ、不思議な縁が結びついたのかもね。明らかに異国の子っぽかったけど、どうやってきたのかな」

「は、はは……不思議だよなぁー」

 

 駄弁りながら会計を終え、店の外に出る。

 と、頭上から影が落ちた。

 オレは思考が凍結(フリーズ)するのを感じた。

 件の少女、ララさんが、中空でふわりと浮き上がった体勢で停止していたのだ。

 え、飛んでる……??

 彼女は顎を引き、パッと笑顔を咲かせる。

 

「あー! リトいたー! もー、私ひとりで家の準備したんだからね!」

「ら、ララ……どうやってここが……」

「ほら、家に帰って地球のゲームしよー!」

「ちょ、襟掴むな、ってどわぁぁああ!!?」

 

 結城は、彼女に首元を掴まれ、そのまま離陸した。

 重力を感じさせない浮遊感。

 上空にレールが引かれているかのように、ふたりは滑走して夕焼けの街に飛んでいった。

 オレは猿山と目を合わせた。呆気に取られていた。

 彼は瞠目の表情で、今起きた現象を共有してこようとする。

 

「ララちゃん……パンツ白かったな……!?」

「ブレないな、こら」

 

 そこじゃないだろ、絶対。

 今の一件で確定だ。

 ララという少女は超常を従えており、結城は巻き込まれた。

 とんだスペクタクルな青春だ。

 嘆息しながら、どう力になるものかと眉間の皺を深める。

 

「お待たせ、秦野くん……」

「お、新井さんに白百合さん」

「秦野……私のさやかに何を……」

「ちょ、ちょっとーこよみー?」

 

 店の入り口から出てきたクラスメイトを見て、猿山がオレを見やる。

 

「お前……ダブルブッキングしてやがったのか……!?」

「違う違う。さっきドリンクバーの前でナンパされちゃってたから、せめて電車に乗るまで送るって約束してたんだよ」

「オレは今……お前が憎い……!!」

「え!?」




新井紗弥香ちゃんにフォーカスされた読み切りは週刊少年ジャンプ2019年22・23合併号で確認できます。公式アプリからバックナンバーを購入できますので、ぜひ。

樹理くんって大体荒事がなれそめになるね。


さやかちゃんは付き合い始めたら彼氏の趣味に染まり尽くします。前提知識はそこからです。髪型も好みに寄せて、彼氏がいい反応をした美容院のシャンプーを使って、彼氏の視線から自分のどこに惹かれてるのか頑張って分析しようとします。自分が彼女であると噛み締めたいから、私の彼氏さんはしょうがないですね〜なんて軽口を叩くのが癖になるわけですよ。ちょっと重いかななんて思いつつ、高額なプレゼントで気を引こうと努力します。ふたりの時間を作りたいなぁと思い、彼氏付近のアパートに引っ越すんです。まずね。そこから同棲へのプロセスを積むために通うんですよ。少しずつ自分のアメニティを増やして、彼氏のシャンプーの減り具合を管理するんです。で、自分の好きなマグカップを某無マークブランドで一緒に選ぶんです。お揃いのね。どっちを使ってもいい共用のやつ。数ヶ月後やっとの思いでこぎつけた同棲。自分の生活用品を揃えるために駆け回った日、先に眠ってしまった彼氏の二の腕をむくれながら触って、浮き出た血管にドギマギしながら自分の指でなぞるんですよね。つーっと。あとから自分の安易な行動を恥じつつ、頬を染めて彼氏の腕を自分の枕にします。起床したさやかちゃんは、先に起きた彼氏が乱れた布団を自分にかけてくれたと気づき、寝ぼけ目を細めて唇を綻ばせます。ほっぺたにちょっと湿った感触があってキスされてたって事実にとんでもなくキュンキュンしちゃうんです。布団を抱き寄せ、一人で迎えたはずの朝を二人分の体温で感じるために、その余熱と香りを嗅ぐんです。そして、ゴミ出しから帰ってきた彼氏を玄関で迎え、帰ってくるまでの五分間でばっちりヘアセットと歯磨きを終えた姿で、起こしてよ、と抗議でほっぺたを膨らませながら腕を広げるんですよ。汎用的(あたりまえ)普遍的(ありふれた)。そんな幸せを得て、胸がいっぱいな気持ち。好きな相手をおかえりと迎えられる幸せ。そうして夜明けと共に迎えるダークネスを握ってほしいです、大将。
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