グッドトリップ   作:平成

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あー!平成って言ってなーーーい!


スペーストーク

 向日葵(さしす)に水を与えながら、ケータイで時事を追う。

 ここ最近の習慣だ。

 スマホよりも不便だが、ケータイにはケータイの味わいがある。フォントの輪郭がぼやけた光彩。個人ブログをいくつか巡回する。

 メールボックスに着信。今日の課題を確認する結城のメッセージ。返信を打ち込みながら、東の空を染め出した朝日に視線を流す。

 太陽よりも遠く、人の暮らす場所がある。

 どんなニュースのトピックも、この事実に勝るインパクトを持たない。

 

「宇宙人って何食べんだろ……」

 

 思わず、声に出していた。

 馬鹿げた空想ではなく、地続きの現実だ。

 地球とは異なる環境で育まれた生態系、培われた文明。同じヒト型をしているのか、擬態している種族もいるのか。考え出したらキリがない。

 エイリアン、E.T.など、人間が思い描く宇宙人像は、あくまでフィクションだ。

 結城は宇宙人に対する関心は薄かったが、オレは日増しに増えていってしまう。

 

「アポロ11号は月に行ったきりだってのに」

 

 異星の少女は、どうやって、どうしてこの星に来たのだろうか。

 


 

 宇宙人という存在が発覚したものの、オレが過ごす日常に大まかな変化はないと呑気に考えていた。だが、タイムリープの時と同じように、変化が訪れるのは突然だった。

 朝の教室。始業のチャイムを背負い、彼女は行儀良く突撃してきたのだ。

 制服姿。瑞々しい肌。

 美人は何を着ても似合うが、彼女のスタイルはとびきりだった。乱れない長髪は粒子を転がすように光を弾き、異国感のある瞳は宝玉の輝きを放つ。

 圧倒的な存在感に、クラスの誰もが目を奪われる。

 

「やっほーリト、きちゃった♡」

「きちゃった、じゃ、ねぇぇええ!」

 

 まさかの宇宙人が乱入。招かれざる客にリトが吠えた。

 オレも瞠目とともに立ち上がっていた。宇宙人が転入!? ナンデ!?

 沸騰した感情が教室を熱となって包んでいるようだった。

 

「ララ・サタリン・デビルークです! よろしくねー!」

 

 全ての視線が彼女に集まっていた。

 自然と、彼女の挙動は注目を浴びる。

 そのしなやかな指が、オレの顔を指した。クラス中の視線がオレに向く。何、ターゲットのヘイト管理が人権級のキャラ?

 

「あー! リトとおんなじクラスだったんだ、ぐうぜーん!」

「知っているのか、ララちゅわん!?」「またジュリだ! またジュリだぁ!」

 

 ぴたりと照準された視線。

 騒然とするクラスメイト。

 いっちょ暴動でも起こそうかといった空気。参戦ムービーを見た海外の反応みたいだな。

 どう鎮めたものか。

 結城が焦ったようにオレを見つめている。

 オレは結城へとアイコンタクトを試みた。

 クワッ、と目を見開く。

 

「うわどうしたんだ!? 目ェこわっ!」

「…………」

 

 ダメだった。

 結城から視線を外し、満面の笑みを浮かべた少女に手を挙げる。

 ララさんは無邪気な笑顔で手を振ってくる。オレも社会人(ビジネス)スマイルを浮かべて対応する。貼り付けた表情の裏で、オレはひどく冷静な思考をしていた。

 可愛い姿をしているが、彼女は宇宙人だと聞く。みんなは可愛い立ち振る舞いにすっかり絆されてしまったけれど、せめてオレだけは警戒しておかなくては。何を企んでいるかもわからないのだ。ひょっとして、彼女がイーカンジに地球(ペコポン)侵略を目論む宇宙人なのかもわからない。マスコットとは後ろ暗いものを隠すものだ。

 結城がオレの警戒を見て、「やはりあいつは頼りになる」とばかりに目を輝かせている。任せろ親友。オレはあなたの味方だ。

 と。

 彼女はオレの方にも近づき、笑顔を咲かせた。

 

「リトの友達だよね! よろしくね!」

「どちゃくそ良い子じゃねえか。よろしく頼むよ」

「早くも陥落してる!?」

 

 結城がコミカルに椅子からずっこけてた。ごめん、守れなかった。

 

「ララ! どうやって学校に入ったんだよ!」

「えっと、コーチョーって人に頼んだらいいよーって」

「軽っ! 転入試験しろよ!」

 

 ……あの校長ならかわいいからオッケーですとか言いそうだな。

 

 ララさんのニュースは、学校内を稲妻のごとく駆け巡った!

 天真爛漫。超絶美少女。

 あらゆる噂が人を呼び、学年問わず、その好奇な目は休憩時間ごとに押し寄せてきた。

 コンビニのエロ本コーナーの前を通るように、男子たちは不自然なスピードで教室を覗き込んでくる。変な場面で特殊な歩法をつかうなよ。

 

 思春期だなー、と廊下を眺めた。

 クラスメイトも、いつ話しかけるものかと牽制し合っているようだ。カジノでバカラの手札を絞るような緊張感を各々発している。かくいうオレも、めちゃくちゃ話しかけたくてしょうがなかった。宇宙人あるあるめっちゃ聞きたい。天冥の標のようなSF活劇は実在するのかな。宇宙の帝王っているのかな。柄にもなく少年の心になっている。

 しかし中々どうしてタイミングを掴めない。話しかけようにも、何か不思議な結界が形成されており、誰も近づけない。聖少女領域である。

 

 張本人のララさんは、意外にも殊勝な態度で授業を受けた。

 突然押しかけてきただけに、そのギャップは凄まじく感じた。落ち着きがない性格かと思ったが、授業中は淑女然とした高貴な振る舞いで静かなものだった。

 数学が得意なようで、問いに対して見たこともない公式で解答を提示してクラスを驚かせた。先生は新理論だ! と興奮して職員室へとすっ飛んでいってしまった。

 

「ふんふーんふーん」

 

 彼女は二つ隣の座席を陣取り、支給された教科書を興味深そうに読んでいた。座席の隙間から、小悪魔っぽい尻尾がゆらゆらと揺れている。彼女の思惟に応じ、小動物のように揺れる尻尾は、宇宙人としての側面を色濃く反映している。

 一見すると純真な少女と見紛うが、その正体は異星人なのだ。目的が不透明な以上、オレは緊張を解くわけにはいかなかった。

 新井さんが先陣きって話しかけている。オレはこっそりと観察する。気分は昆虫観察記(ファーブル)だ。

 

「ララさんって結城の親戚で、遠い海外から来たんだって? 教科書とか板書とか読めそう?」

促成(インスタント)言語学習(ラーニング)で把握できてるから平気だよ! ニホン語、なかなか奥が深いね〜!」

《ララ様、お控えください!》

「…………」

 

 無言でオレは呻いた。

 隠す気ないだろあの子。ボロしかない。いつ失言するかと結城もハラハラしているようだ。

 彼女の髪飾りが機械音で発声していた。よく見れば、先日のララさんが被っていた帽子とデザインの嗜好性がかなり類似している。

 あれも宇宙のオーバーテクノロジーであろうか。オレはウズウズしてしょうがなかった。

 

 そうこうしているうちに昼休み。

 オレは意を決し、彼女に呼びかけた。

 

「ララさん、少しいいかな」

「どうしたの、えっと……」

「秦野樹理だよ。こっち風に言うと、秦野が家名で樹理が名前だね」

「ジュリだね! どうしたの?」

「結城と一緒に話がある。屋上まで付き合ってくれ」

 

 目配せをすると、結城もこっちに集まってきてくれた。

 その肩を組み、顔を寄せる。声を顰め、耳元で語りかけた。

 

「結城、作戦会議だ。ララさんのこと、認識を共有しなきゃいけないだろ」

「あ、ああ……! 心強いぜ……!」

 

 宇宙人とコンタクトだ。本心だとオレはドキドキしていた。

 猿山も仲間になりたそうにこちらを見ている! 今回は内密な話で済ませたい。オレはごめんとジェスチャーして視線を振り切った。キラーパンサーの目つきがオレを見送った。

 廊下を歩くだけで人目を惹く。しかし、オレの悪名がいい感じに作用したのか、話しかけてくる人間はいなかった。悲しいが、人避けに役立てて今回はありがたかった。

 

 屋上の扉を開け放つ。

 風に(なび)く髪を抑え、ララさんが陽光に目を細めていた。

 大粒な瞳だ。謎の引力で、視線を引き寄せてくる。

 

学校(ガッコー)って楽しいね! お城と同じくらいにたくさん人がいて、みんなが元気で溢れてる!」

「ララ、なんで来たんだよ?」

「リトと一緒にいたかったもん♡」

 

 問いに対し、彼女はハグで答えた。

 結城の顔が赤熱化。これが異星のコミュニケーションか、と舌を巻く。

 

「仲睦まじいね。ララさん、誘いを受けてくれてありがとう。今後とも交流を深めるために、今日は結城と一緒にご飯を囲ませてほしい」

「うん! 私もジュリと食べれるの嬉しいなー!」

「随分と無邪気だなぁ」

 

 たまらず破顔した。

 彼女は性格面でも、絵に描いたように純粋だった。

 壁沿いに3人で並んで腰を下ろし、思い思いに弁当を持ち寄った。

 弁当箱を慣れない手つきで開けるララさん。おお、地球のものだ。

 

「何食べるの?」

「美柑が持たせてくれたお弁当だよ〜! すっごく美味しいの!」

「へ〜! おお、卵焼きにタコさんウィンナー……非常にオーソドックスな愛情が溢れた弁当だなぁ。あっれれ〜おっかしいなぁ〜? 結城のと随分とレパートリーが似通ってるなぁ。というかまんまだなぁ」

「あ、ああ偶然だな」

「同居してるんだ?」

 

 結城が噴き出した麦茶が虹を作った。図星か。

 家出までは聞いていたけれど、同居までしていたのかぁ。技術力だけじゃなく男女の仲まで進展してるんだ、宇宙って。うちゅうってすげー。

 今更隠すことだろうか。少しうんざりとする。まあ、思春期男子にとって彼女のような子と同居しているって事実(こと)は、意識するだけで弾けてしまいそうな爆発物には違いない。女の子に耐性がない彼にしてみれば尚更だ。

 それに、ララさんの人気ぶりを顧みるに、あらぬ誤解を男子から買って恨まれるのも想像するに難くない。

 

「家出をしたって結城から聞いたが、どうして地球(こっち)にきたの?」

「ん〜! キュークツだったの!」

「その髪飾り、喋るの?」

「うん。ペケっていうの」

《ララ様! 内密にせねば!》

「あ〜……」

 

 言い淀み、後頭部を掻く。

 どうしたものか。オレはすでに結城から事情を聞き及んでいるが、一応は宇宙人について秘密にする方針らしい。

 

「ララ、秦野はお前が宇宙人だって気づいちまってるぞ」

「え!? ほんと!?」

 

 見かねた結城の助け舟。

 意外にも、ララさんの反応は好意的だった。上擦った声で、喜色に溢れた笑顔を浮かべた。

 

「それなのにご飯誘ってくれたの?」

「うん、結城の友達だしね」

「じゃあ私とも友達になってくれるんだ?」

 

 彼女が顔を向けてくると、白い首を桃髪が撫でる。さらりと解けるストレート。鮮やかで、目に焼き付く。触れてみたい、などと邪にも考えてしまう。オレは自制心をもって視線を振り払い、無言で頷いた。

 

「やった! ペケ! 友達が増えたよ!」

《ララ様、そう単純な問題ではありません! あなたはデビルーク星のプリンセス、事が公になれば、ご学友にも命の危険が及ぶやもしれませんのに……!!》

「い、命?」

 

 随分と穏やかじゃない。

 オレは結城へと視線をシフト。彼も焦った顔をしている。

 

「コイツの言ってること、マジかも……オレも昨日の夜、ララの騎士だかいうやつに追われたし……」

「うーん……異星人との喧嘩か……」

 

 想像もつかない。荒事にはなれているものの、あくまで地球人同士の抗争程度だ。護衛の術を身につけておく必要があるかもしれない。

 

「テレポートってどうやったの?」

「あれはね、私の発明品だよ! 使うと違うところに転送できるんだよ〜!」

「その代わり、服は持ってけねーから裸になっちまうけどな」

「点と点が線で繋がっちまったな」

 

 先日、保健室の前で発光と共に置き去りにされていた結城の服。

 あれは、ララさんのテレポートのデメリット部分であったのか。

 というか、彼女が作ったのか、あの超技術発明。

 オレの中で打算が弾かれる。ピコンと頭部で電球が閃いた。

 

「じゃあさ、もしも異星人との喧嘩が起きた時のために、何か発明品を貸与してほしいな」

「任せてよ〜! リトの友達だし、特別だよ!」

《そう安請け合いをなさらないでください、プリンセス!》

「何よ、ケチ!」

 

 ガッツポーズをとった。

 純粋さを利用する罪悪感はあるが、彼女が好意的に協力してくれるのが嬉しかった。

 結城が硬い表情で尋ねる。

 

「というか、命の危険って……宇宙人って物騒な奴らばっかなんだな」

「私は話したことあんまりないんだけどね、いろんな人がいるんだよ〜! 地球人と全然違う子もいるけど、大体の外見は似ているかも? 専門分野じゃないから深くは断定できないや!」

「へ〜。じゃあ、ララさんの尻尾もそうなの」

「うん、これはデビルーク星人(わたしたち)の特徴だね。自由に動かせて便利なの」

「なるほど……構造は似ているが、一部の性能や外見に異相が見られるんだな」

「確かに〜! いろんな人がいるけど、環境適応のために身体的特徴がどこか突出しているかも? 人によっては擬態したり、性転換したり? ごめんね、専門分野じゃないからこの程度しか話せないや」

「興味深いなぁ」

 

 内心で、言葉を継ぐ。

 特に、彼女の見解だ。感性というか、倫理観というか。興味深いというより、感心してしまった。

 いろんな(タイプ)がいる。多様性に対する受け止め方は、宇宙規模(スケール)になっても同じことなんだな。

 結城が彼女を宇宙人として煙たがらないのも理解できた。彼女は少女としてあまりにも等身大に生きている。結城は、彼女の態度をそのままオレに写す鏡のようになっていたのだ。あまりにも透き通って反射するとか、結城の心はウユニ塩湖に違いない。

 

「ララさんは結城のどこに惹かれたんだ?」

「えーとね、リトは私の気持ちに向き合ってくれて、この人ならきっと、どんな困難だって大丈夫だって思えたの」

圧倒的解釈一致(それな)

「お、オレの話はいいだろ! 今はこれからの対策をだな!」

「寝顔もすっごくかわいんだよー!」

「結城、そこまでの仲に……!?」

「そ、それはコイツが勝手にベッドに、にに、に……」

 

 ぼふん! と音を立てて結城の頭がパンクした。

 うわー。同衾……は生々しいな、添い寝したってところかな。

 もしも、結城の恋慕が遂げられず、このままララさんとの結婚することになったとしても、オレはスピーチをやり遂げたい。昼休みが終わる頃には、心からそう思えていた。

 

「じゃあそろそろお開きだね。ララさん、発明品の件はまた後日頼むよ」

「うん! とびっきり可愛い子を用意しておくから!」

 

 サムズアップを交わす。間で結城が辟易とした表情でため息を吐いていた。

 屋上から廊下に降りると、ジャージ姿の先生に目をつけられてしまった。

 

「そこの3人、屋上で何をしていた?」

 

 甘いルックスで女子人気の高い佐清(さすが)先生だ。謹慎中に、二、三言交わしたっけな。

 慌てて頭を下げる結城を横に、オレは会釈で応対する。

 

「すみません、彼女は転校生ですので少し生徒たちの喧騒から離すべきかと独断で」

「最近のお前の行動、目に余るぞ」

「ええ、ええ。申し訳ないです」

 

 ヒソヒソと周りが囁く。

 佐清(さすが)先生さすがよ、などと語呂のチープな賞賛があちこちで上がっていた。

 オレは目を合わせ、そのまま謝罪を繰り返した。

 

「もういい、今回は大目に見てやる。さっさと行くんだな」

「はい、以後は屋上の私用をいたしません。失礼します」

 

 離れたのを見計らい、3人で息をつく。

 それから顔を見合わせて笑った。

 

「危なかったな、いまの」

「だね、怒られちゃうとこだったよ」

佐清(さすが)先生って、あんな目をしてたっけ……?」

「ん……? 何がだよ」

「いや、無機質な感じがしたんだよ」

 

 違和感は結城と共有できなかったが、オレは不思議な確信が胸にあった。

 観測し()た限り、どうも作り物めいていたような。

 

「……まあいっか」

 

 今はとにかく、オーバーテクノロジーな開発品に想いを馳せよう。

 なんだろうな、スペースガンとかもらえないかな。




積読本消化してたらもっと読みたくなって積読本が増えちゃいました…………………………………………………………
読書とは別件の私用でこっちの執筆おくれてます!感想評価コメントは全て目を通してますので、ぜひ感想お寄せください!あとここすきも嬉しいです!執筆前にチェックしてます!やる気になってます!全部!えっちいの描きたいから性癖だけ開示します!
肉付きがいい女性の裸エプロンを正面から見た時に見える、はみ出したヒップラインが服としての要件を叶えられない不器用な手品(clumsy trick)だって思います
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