キヴォトスの不純物   作:Qurenai

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黒い大人

「いっったたたた......いささか乱暴すぎないか......?」

 

 爆心地から聞こえる大人の声。先ほどまで鳴り続けていた銃声が鳴りやんだからか、やけにその声は通った。それこそ、後方にいたもう一人の大人にまで。

 

「......」

 

 呆然、という言葉がしっくりくるだろうか。今まで少女の拘束から逃れようと暴れていた彼はその碧眼を見開いて、爆心地を見つめている。

 

「先生?」

 

 先ほどまで暴れていた人が急におとなしくなったので、どこか怪我でもしたかと少女が気にかけて声をかけるが微動だにしていない。

 

「大丈夫で......」

 顔を覗き込んでもう一度確認しようとしたところで、少女の動きが止まった。先生と呼ばれた大人の表情は、とてもではないが普通のものではなかった。口角が少し上がってはいるが、目は笑っていない。嫌悪か、疑問か、ある種の失望か、もしくはそのすべてがないまぜになったかのような目で爆心地を見つめていた。

 

「ははっ......わかっていたはずなんだけどな」

 

 すっと立ち上がり、目の前の大人と同じように塵を払った彼は、ゆっくりと傍にいた少女に振り返る。

 

「あー、えーっと、チナツ?だっけ?君は通信機持ってる?」

「え?あ、はい。持っていますが......」

「前線張ってる子達にちょっと伝えて欲しいことが」

 

 

 

「......あれ、手袋が......」

 

 爆心地、周囲の沈黙の原因である黒ずくめの大人ことローランは塵を払ったときに自分の目に映った手に違和感を覚えた。あの日以降、いかなる時でも外してこなかった手袋が無かった。

 数日間にも及ぶ連続戦闘などの修羅場でも決して脱げることなく、破れることも無かった手袋の消失。考えられることは、1つだった。

 

(幻想体のページに入った時のように、没収されたのか?)

 

 手袋の消失、それはローランにとっての彼女との縁だけでなく、武器や帰還手段を失ったことを示している。気休め程度に周囲の地面を探そうとしたが

 

「......」

 

 バァンという乾いた銃声と自分のすぐ近くを通過して行った弾丸に遮られた。視線の先には、フルフェイスのヘルメットと学生服というなんとも珍妙な格好の少女たちがこちらに向けて銃口を向けて居た。特に目をひくのは、少女たち全員の頭の上に浮かんでいるおそらく何かしらの身体強化施術であろう光輪と、その少女たち全員が銃を所持していること。こんな年齢の少女たちが銃を持っているなんて、とんでもない区に来てしまったのではないかと一抹の不安が頭をよぎるが

 

「いきなり空から降ってくるなんて......お前も連邦生徒会長の差し金か!!」

 

 激昂するかのような声と、ぞろぞろと現れる同じ様相の少女たちに張りつめていた気を幾分か緩めた。現れた少女たちの動きや、少女の激昂のしかたというか感情の動きからして、少なくとも翼などの統制された軍隊ではないだろうとあたりをつけられたからだ。

 それはそれで、ここはどこでこの子たちは誰だという疑問は残るのだが、少なくとも初っ端からタブーハンターや指などに手袋なしの状態で囲まれるというのは回避できている。

 

「ま、まぁ落ち着い」

「得体が知れなくても相手は丸腰だ!囲んでフクロにしちまえ!」

 

 一応対話を試みてみるが、それは失敗に終わった。ローランに向けられた銃口から無数の弾丸が吐き出される。その一つ一つが確実に頭や胸に飛んでくるわけではないが、少なくとも路地裏で偶然拾った銃をぶっぱなしてくるような輩よりも狙いは正確である。ローランは横っ飛びで第一射を回避し、近くの遮蔽物まで走り出した。本当は横っ飛びで遮蔽物の後ろまで飛び込みたかったが、皮肉にもローランが着地した衝撃で横っ飛びで入れそうな範囲の遮蔽物になりそうな瓦礫は吹き飛んでいた。

 

「ガキの頃に戻った気分だよ全く!」

 

 第二射を何とか瓦礫の陰に隠れてやり過ごし、周囲を見渡す。何か武器になりそうなものがあればいいのだが、あいにくとそう都合よく転がってはいなかった。

 

(徒手格闘でどうにかなるか......?一対一ならまず大丈夫だが、如何せん数が多い。それに......)

 

 瓦礫から少し顔を出してみれば、謎の大きな機械がギャリギャリと音を立てて動き始めていた。今までの人生で見たことがないものであったが、その特徴的すぎる円筒状のものが、銃と同じようなものであるというのはローランの想像通りであろう。発射されれば簡単に家屋の壁を吹き飛ばすであろうそれに、頭の法律はどこに行ったんだよと悪態をつきながら思考を回し、突破口を探る。数秒後

 

「奪うしかないよなぁ」

「かはッ......」

 

 不用心にもローランが遮蔽物に使っている瓦礫まで一人で近づき、銃口を突きつけようとした少女の首を掴み、思いっきり地面に叩きつけながらローランはそう呟いた。叩きつけられた衝撃で空を舞った少女の小銃を空中でキャッチし、流れるように少女の腹に照準を合わせる。

 

「すまんな」

 

 一言だけ謝って引き金を引いた。少し引き金を引いただけで数発の弾丸が射出されたのを見て、贅沢な銃だなと感想を抱きながらも、意識を遮蔽物の向こう側にいる少女たちに向ける。ひい、ふう、みぃ、ざっと目算で15人前後と謎の機械が一つ。足元で動かなくなった少女の耐久性とかを鑑みるに、少女たちのほうはどうにかなるだろうとあたりをつける。

 

(問題は......あれをどうするかか)

 

 ローランは遮蔽物の瓦礫から飛び出しながら、目につく少女たちのフルフェイスのヘルメットで見えないが、おそらく目があるであろう位置めがけて射撃しつつ、さりげなく機械にも銃弾を撃ち込んだ。カンカンと金属を弾くような音と、亀裂すら走りそうにない表面の傷。いきなり目潰しされ、悶絶している少女たちの鳩尾や後頭部を弾切れになった小銃でぶん殴りながら、少女たちの携行している銃では全部鹵獲したとしても真正面からは勝てないだろうと解析する。

 

(動きが比較的鈍いのが救いだな)

 

 少女たちの銃弾を避け、ヘマをやらかした奴に近づき、もはや鈍器と化した銃器で殴り倒す。そうやって動きを止めることなく戦闘しているためか、あの機械の照準はローランを捉え切れていなかった。

 

「おま、こっちにくるn......」

 

 残った一人、後退りしている少女の顔面を銃器で叩き、怯んだ隙に鳩尾に蹴りを叩きこむ。

 

(やっぱ頭の輪っかは強化施術か)

 

 先ほどから割と全力で交戦しているローランだが、骨やら何やらを砕くような感覚は伝わるものの、明確に命をとったというような手ごたえは感じていなかった。おそらく、頭の輪っかのあれが強化施術で、とんでもない耐久性を付与しているのだろうとあたりをつけるが、そんな施術......しかもこんな年端もいかない少女が受けられるような施術が果たして都市であっただろうかという疑問がもたげてくる。

 

「っと!」

 

 半身で意識の外側から飛んできた何かをスレスレで避けた数秒後、背後から爆音と爆風。あの機械から発射された砲弾だった。直撃したらただじゃすまないだろうなぁと、余計なことを考え始めようとしていた意識を切り替え、さあどう対処しようかと目を細めるローラン。機械である以上、核となる場所や、操縦室のようなものがあるはずだからそこを探るかと方針を立てたその時だった

 

「え?」

 

 ローランが倒した少女たちがいた場所とは別方向の場所から鋭い銃撃音が鳴り、機械の装甲に小さな穴が開いたのは。そこから漏れ出る茶色の液体を見て、ローランの背筋が凍る。

 

「やb……」

 

 とっさに両手をクロスさせ防御姿勢をとるのと、その機械が爆ぜるのはほぼ同時だった。爆発自体はローランに届かなかったが、その爆発で吹き飛んだ瓦礫がローランに直撃する。衝撃を逃すために、一旦後ろ向きに倒れつつすぐ起き上がれるように調整し、起き上がろうとするが

 

「やぁローラン、なんで君がここにいるんだい?」

 

 

 倒れこんだローランを覗き込む碧眼と目が合った。

 




戦闘描写って難しい
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