キヴォトスの不純物   作:Qurenai

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青い大人

 気づいたら、そこにいた。

 駅......だろうか?穏やかな風が流れるプラットホームに、ぽつりと立っていた。自分の手を見てみると、そこには間違いなく自分の手......人としての手があった。

 

「はは、助けられた......なんて思わないよ」

 

 胸に手を当ててみる。確かにあの時義弟に刺し貫かれた胸は、そんなことなかったかのように塞がっていた。

 ため息を一つ吐き、空を見上げる。青い、碧い空が沈む日によって赤く染まっている。青く、透き通るかのような空。生きてきた中で、このような色を見るのは初めてだった。

 

「兄さん、来てたんですか」

 

 ふと、真後ろから声がした。あの日から、聞くことができなくなり、探し求め続けた旋律の元となった声が。

 

「あ、その驚き方。さてはローランとまた喧嘩しましたね?」

 

 まったく、とため息をつきそうな気配。懐かしい気配。けれど、振り向くことはできなかった。どうして、と言いたかった。仲間を集め、君を集め、それでも望んだ君(演奏)を手に入れることはできず、義弟と戦い続け、ようやく受け入れることができたのに。なんでいまさらと言いたかった。そんな気配を感じ取ったのか、後ろに立つ気配はそのまま動こうとせず、話始めた。

 

「私、やり残したことがあるんです」

 

「ローランがオリヴィエに呼び出されて、出かけたその日、ある女の子が私のもとを訪ねてきました」

 

「おかしな話ですよね。私はいつだって兄さんに手を引かれ導かれる側だったのに」

 

「あの子とはいろんな話をしました。兄さんのこと、ローランのこと、私のこと......そして、私たちが歩んできた道と、あの子にできる精一杯のアドバイス」

 

「柄じゃないとわかっていたんですけど、ローランと一緒に”先生”として余生を過ごすのもいいかもしれないと思ったんです。そして」

 

 

「アイツが現れました」

 

 

「私にできるのは、あの子や近所の人を逃がす時間を稼ぐことだけでした」

 

「泣き叫ぶあの子を説得し、兄さんと、ローランの連絡先......といっても事務所の住所でしたけど......それを託して彼女を送り出しました」

 

「私、ひどいことをしちゃったなぁって。無責任な希望を、あの子に植えつけちゃったなぁって」

 

「兄さん、私が今から言うお願い事......それがどんなにフィクサーとして恥知らずで、無責任なことかは、わかってるつもりです。でも、それでも、お願いしていいですか?」

 

「どうか、私のやり残したことを。フィクサーとしての最後の依頼を、受け継いでくれませんか?」

 

 

 

「やぁローラン、なんで君がここにいるんだい?」

 

 倒れたローランを覗き込む白髪碧眼の男、その顔をまじまじと見つめながらローランは

 

「アル......ガリア......?」

 

 とその名を口にした。かつてあの場所で、確かに自分の手で引導を渡した義兄。何故ここに、何故生きているのか、数多の疑問が頭を埋めつくしていく。十数秒間の静寂はアルガリアの後ろから聞こえてきた複数の足音で破られた。

 

「先生!いきなり飛び出すのはやめてください!心臓に悪いです!」

「......先生?お前が?」

 

 駆け寄ってきた4人の女子、その先頭に居たロイヤルブルーの髪の子が発した言葉に目を見開く。少なくとも、ローランの知るアルガリアという男は先生という職に就くような男ではなかったはずだ。

 

「ちょっと話をしようか、ローラン。君がなんでここにいるのかも含めて、ね」

 

 倒れ込んだままだったローランの腕を引っ張って起こし、着いてきた子達(先頭の子からユウカ、スズミ、ハスミ、チナツと言うらしい)にここで少し待機しておくよう伝え、広場の奥にあった建物の中へと入っていく。着いてこいという事だろうか、今までの所業からは考えつきすらしないような行動に頭を?で埋めつくしながらローランは後に追従した。

 

「お前......」

「言いたいことは分かるよ。自分でもちょっと驚いてるさ。まぁ、だけどお前も知ってるようにこの世界に不変なんてない。だから俺がどう振舞おうと俺の勝手さ」

 

 スタスタと先に行ってしまうアルガリアに置いてかれ無いように、建物を進んでいく。目に入った張り紙にはS.C.H.A.L.Eと書かれていた。

 

「それで、ローラン。お前はなんでここにいるんだい?」

「......護衛依頼だよ。依頼人不明、護衛対象不明......だったんだけどなぁ」

「その様子だと護衛対象は俺か」

 

 はははと笑いながら、アルガリアは手馴れた様子で隠し扉を開け、続く階段を下がって行った。まるで他人事のような彼に若干のイラつきが募る。

 

「なぁ、ここは一体どこの巣なんだ?あんな子らが銃を軽々ぶっぱなしているしその誰もが見たことの無い施術をしている。挙句の果てには頭の法律をまるっきり無視してるような機械もある」

 

 ローランはアルガリアの肩を掴み

 

「なぁ、なんでお前は俺を雇ったんだ?」

 

 と睨みつけた。

 

「......託されたからかな」

「託された?」

「アンジェリカに、ね」

 

 思いもよらない言葉が彼の口から放たれ、ローランの動きが時が止まったかのように止まる。

 

「やり残したことがあるらしいんだ」

「お前の疑問には答えられない。何故なら俺も知らないからな」

 

 身体施術も外れてるからこの手すら振り払えないよとローランの手を振り払おうとしてみせるアルガリア。かなりの力をこめているように見えるが、ローランの手はビクともしなかった。

 

「......俺たちを雇った......と思われる女がいる。元々はアンジェリカを雇うつもりだったらしいけど......その女とこの地下で待ち合わせてる」

「その子から、色々聞くしかないってわけか」

「アンジェリカのことも含め、嘘か誠かもね」

 

 力こそ非力であったが、アルガリアの眼光は、あの時と同じ色であった。もし、アンジェリカの名を使って、自分たちを騙したのであれば、何がなんでもここを地獄へ突き落すという覚悟の決まった目だった。それこそ、かつて殺しあったローランを利用してまでも、と。

 

「はぁ......あの招待状モドキといい、謎が謎を呼ぶな」

 

 アルガリアの肩を離し、二人そろって階段を下っていく。毒気の抜けたアルガリアの態度に、ローランもどこか毒気が少し抜けたようだった。

 そうやってどれくらい地面に潜っていっただろうか。階段が終わり、暗い部屋の前まで到達した。が

 

「なんか扉が開いてるな」

「......いちおうお前が俺の護衛ってことらしいし、盾になってくれるかな?」

「やる気を削ぐ言い方をするなぁ......」

 

 悪態をつきながらも、アルガリアをすぐかばえるようにしながら、部屋に踏み込む。そして、その部屋には

 

「なぁ、俺たちを雇ったのってあんな珍妙な姿をしたやつか?」

「......いや~、違うと思うんだけどねぇ」

「あら?あらあらあらあら?????」

 

 狐のような耳と尻尾を生やし、顔を仮面で隠した少女がいた。

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