キヴォトスの不純物   作:Qurenai

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シャーレの始まり

「......」

 

 ノックダウンした敵から拝借した銃は、既に使い物にならないだろうから上に置いてきたことを、いまさらながらローランは後悔していた。その表情は仮面に隠れて見えないが、敵対する意思がある場合、こちらは丸腰である。

 

「あ......」

 

 それに加えて、彼女の狐のような耳と尻尾。上でも大きな羽を生やした少女がいたが、かなり特殊な身体施術......かつてのG社のようなものだろうか?とにかく、頭の光輪含めローランが見たことのない施術であるのは間違いないだろう。

 

(まさか、E.G.Oっていうわけじゃ......流石にな。図書館で相対した時のような特有の雰囲気もない)

 

 頭によぎるのはかつて言語の階に存在した”オオカミ”。アンジェラが話をしていた旧L社の支部にはまた別の幻想体が居るらしいので、目の前にいる少女が何かしら別のE.G.Oを装着している可能性は数パーセントではあるものの存在する。

 

「し、」

「し?」

「失礼致しましたぁあああああああああ!」

 

 しかし、その心配は杞憂だった。突如としてそう叫んだ少女は真っすぐにローランに突進、やっぱり戦闘になるのかと身構えたローランの肩を踏み台にして跳躍、すさまじい速度で階段の奥に消えていった。

 

「「......はぁ?」」

 

 あまりにも唐突な展開に、去っていった階段を見つめることしかできない二人。一体あれは何だったんだと二人で顔を見合わせるが、特に急に追いかける必要のある相手でもないかと結論付ける。そうこうしているうちに、再び階段から足音が響いてきた。まさか、さっき上へ行った子が何かを取って戻ってきたのかと思い、身構えるが

 

「お待たせしました」

 

 降りてきたのは先ほどの少女ではなかった。白を基調とし、ところどころ夜空を連想させるような青の差し色の入った服、おそらくどこかの組織の制服であろうそれを着用した少女というよりは女という雰囲気を漂わせた人。ただ、頭の上の光輪や、腰に下げられた一丁の大型の拳銃が彼女もまた今まで出会ってきた人と同じであることを示している。

 

「......?何かありましたか?」

 

 たった今大急ぎで階段を駆け上がっていった彼女と鉢合わせはしなかったのだろうか、それとも彼女とは敵対関係にないのか、何故階段を見つめていたのだろうかと言わんばかりに首をかしげている。

 

「いや、なんでもないよ」

「......そうですか」

 

 アルガリアの返答を少しいぶかしんだが、そんなことをしてる暇はないとでもいうようにローランに向き直る女性。

 

「初めまして。私は連邦生徒会所属、七神リンです」

 

 そういって手を差し出してくるリンと名乗った女性。正直なところ、握手というものにあまりいい思い出がない、というか自分がアンジェラ暗殺のために使おうとした手段のうちの一つなため、若干躊躇するローランだったが

 

「安心しなよ、ローラン。ここには何もT社のアレのような装置もなければ、それを使うような奴もいないから」

 

 というアルガリアの言葉で、しぶしぶ握手に応じた。

 

「ローランだ。おm......君が依頼主ということでいいのか?」

「正確には違いますが......その通りです。その辺の説明や、契約内容の確認などをしたいのですが......その前に」

 

 リンは、部屋の奥に進み、その机の上においてあった板、おそらくタブレット端末であろうそれをアルガリア先生に手渡した。

 

「受け取ってください」

「タブレット端末......ずいぶんなものが出てきたね?」

「これが、連邦生徒会長が先生に残したもの。”シッテムの箱”です」

 

 アルガリアが興味深げに受け取ったそれは、ローランの想像を超える謎の物体だった。曰く製造会社も、OSも、システム構造も、動く原理でさえ不明。リンたちでは起動することすらできなかったらしいそれは、アルガリアの持ち物であり、アルガリアならばそれを使ってリンたちが直面している問題のうちの一つを解決することができるらしい。

 

(あいつ、あんなもん持ってたっけな)

 

 ローランはアルガリアのことを赤の他人以上には知っているが、あんなものを持っているところは見たことがなかった。手に取った時の仕草も、初めて手にするような仕草だった。

 

「邪魔にならないよう、離れています。ローランさん、こちらへ」

 

 部屋の隅に移動しながら、アルガリアを盗み見る。その目は、画面の光を反射してるからか、少し青く光って見えた。

 

 

「つまり、俺を雇ったのはその連邦生徒会長で、その人は失踪。んで、君はその代理......ということか」

「はい、概ねその認識で間違いありません」

 

 アルガリアがタブレットに向き合って数分、ローランはリンを質問攻めにしていた。しかし、手に入った情報はこの場所の名称、雇い主の失踪、そして彼女たち”生徒”の特性。ローランの知りたかった情報からは少しズレていた。

 

「にしても、”学園”都市ねぇ......」

 

 タブレットを凝視し続けるアルガリアを眺めながら、頭の中で考える。見せてもらった地図を見ると、明らかに自分たちがいた都市よりも広く、ローランが考えていたどこかの巣ではないかという予想は砕け散った。そして、彼女たちの光輪、ヘイローというらしいが、これは生まれつきあるものらしく、これがあると耐久性が劇的に向上し、銃弾などが直撃しても”痛い”くらいで済むらしい。そんなのありかよと文句を言いたくなったローランだったが、上で少女たちと戦った際、特に支障なく鎮圧できたからそこまで問題はないかと思い込むようにした。

 

「ん?」

 

 考え事をしていたローランの耳がピクリと動く。次の瞬間には音を立てて暗かった部屋の照明がつき、その部屋にあった各種端末が音を立てて起動し始めた。それと同時に、リンに電話がかかってきたらしく、リンが少しローランから離れる。

 

「......はい、わかりました」

 

 そのまま、アルガリアの方へ歩いていき

 

「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認されました」

 

 と告げた。どうやら、アルガリアはやり遂げることができたらしい。続くリンの口から語られた、行政管理うんぬんや、停学中の不良たちの処遇(あれも生徒なのかと呆れはしたが)、自分たちが所属することになる目的のない組織、連邦捜査部”シャーレ”の説明を聞きながら考える。これからどうしようかと。

 話を聞く限り、自分たちが所属する組織には本当に目的がない。目的がないくせに、持っている権力は都市でいうところの頭に匹敵するようなもの。アルガリアには何かしらの目的が存在するのだろうが、ローランにとってはここに来た目的があの招待状モドキを送りつけてきた人物である以上、その人物が失踪状態となってはお手上げだった。

 

「すごい組織に入っちゃったねぇ、ローラン」

「他人事みたいに言うがおそらく大変なのはお前だぞ」

 

 彼女が置いていった書類の山。支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請......正直な話、その連邦生徒会長とやらを探す前にこれらの問題をどうにかしようと模索するのが先じゃないのかと言いたくなったローランだったが、上に立つような人間じゃない言葉なんてと飲み込んでいた。

 

「ははは、でもこういう仕事が得意な人材もいるだろう?ねぇ、ローラン」

「......確かに俺は事務所の隊長とかをやってた関係で書類仕事には強いが......俺は護衛で雇われたんじゃないのか?」

「護衛でも所属はシャーレなんだから俺の下だよ。じゃあ、仕事にかかろうか」

「はぁ......」

 

 これから何をしようかと考えていたが、当分は考える必要はないかもしれないと思うローランだった。

 

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