「だぁーかぁーらぁー!いい加減、それやめてあげてください!」
朝のシャーレに少女の叫び声が響く。少女の視線の先には2人の大人が銃を分解し、カスタマイズしている光景が広がっていた。それだけなら、少女......早瀬ユウカはここまで叫ばなかっただろう。しかし、問題はそのカスタマイズしようとしている銃にところどころこの大人たちが選ばないであろうチャームが着いている点である。
「えっと......なにか問題があるかい?ユウカ」
「そうだぞ、せっかく頭の監視がなく、こんなに銃を大っぴらにぶっぱなせるんだ。撃たなきゃ損だろ早瀬」
だいたいお前も銃を携帯しているだろう?と言いたげな二人はユウカの怒りに首を傾げながら、まぁいいかとカスタマイズの続きに入る。
「そうではなくてですね!いくら不良達とはいえ銃を奪ってバラバラにするのはやめてあげてくださいっていう話をしているんです!」
その言葉を聞いた瞬間ピタッと動きが止まる二人。そして何を言っているんだと言わんばかりの怪訝な表情で
「「え、なんで?」」
と息ぴったりに返した。
「いいですか!銃っていうのは私たちとほぼ一心同体、苦楽を共にするもので......」
「そりゃ武器だからな。それがどうかしたか?」
「そんなものを奪うっていうのは倫理観にかけ......」
「それを言い出したらほとんど丸腰の僕ら二人を銃で武装して囲って襲撃する子達の方が倫理観に欠けるんじゃないかなぁ」
珍しく意見があったなと目を合わせる大人二人。アルガリアのコート(連邦生徒会から支給された防弾コートであり、白を基調として青の差し色が入っている制服じみたものである)は大きな傷はないにしろところどころ煤けており、幾度となく襲撃があったのが伺えた。本来の二人であれば、襲撃がいくら来ようと無傷で切り抜けることができただろうが、アルガリアは身体施術がすべて外れ、ローランは手袋がなく自身の得物が鹵獲したものしかない状態だった。
「それにしてもです!先生方は一週間前、シャーレに着任したときも銃を押収していたじゃないですか!」
「あーあれか?そこに立てかけてあるぞ」
そういってローランが指をさした先に視線をやると、そこにはもうすでに銃とは呼べないであろう、バットのような鈍器が立てかけてあった。どれだけ乱暴に扱えばそうなるのか、わからないくらいにあちらこちらがへこんでいるそれは、持ち手にしているであろう部分が銃身の形を保っているため、かろうじて銃と認識できる。それを見てユウカは呆れ果てたようにため息をつき、どこかへと電話し始めた。一言二言、何かを言ったのち、ローランに向きなおったユウカはローランの首根っこをグイっとつかみ上げる。
「ローランさん!ちょっとついてきてもらいますよ!」
「あ、おい!ちょっと!!!なんで俺だけ!!!」
「あ な た が 護 衛 だ か ら で す !」
「ははっ......そのまま帰ってこなくてもいいからね」
ユウカに電話の片手間でズルズルと引きずられていくローランを見送りながらアルガリアは心底楽しそうに手を振った。
「やぁユウカ。君が電話をくれるなんてまた何かm......珍しいからびっくりしたよ」
ユウカに引きずられ、電車に乗り(ここでローランが何故か思いっきり抵抗し始めたため、ユウカが一発頭を殴って文字通り引きずっている)、ミレニアムを歩くこと十数分。少し広めの倉庫のような場所に連れてこられたローランたちを出迎えたのは、工具を持った長髪の女子だった。興味深げに引きずられてきたローランを眺めており、その視線に知り合いの工房所属のフィクサーと同じようなものが混じっているのが感じ取れる。
「初めまして、私は白石ウタハ。ここ、エンジニア部の部長をやらせてもらってるよ」
「ローランだ、よろしく」
差し出された手を握り返すローラン。どこか探るような握手に、少し顔をしかめている間にウタハとユウカの話が進んでいく。
「貸し一つ、返しに来たわ」
「あぁ......あのことかい?律儀だね、別に気にしてないと言ったのに」
「個人的にそういうの残したくないのよ。ほら、探してたでしょ、例の武器のテスター」
ユウカのその言葉を聞いて、彼女の目が細められる。ふむふむと言いつつローランの周りをくるくると回るウタハ。
「もしかして、噂のシャーレとかいう組織の先生という人物かい?」
「あー......俺は先生ではないよ。その護衛」
「ふーむ......申し訳ないが、ローランにはヘイローもない。テスターとしては力不足だと思うのだが」
言外に護衛にもと言いたげな雰囲気が彼女から漂う。その雰囲気は、自分の作る武器は君の手に収まるようなものじゃないと言いたげな工房と似たようなものだった。
「私も最初はそう思ってたわ。けど、これを見て」
そう言ってユウカは彼女に自分の端末を見せた。角度の問題で、ローランには見ることができないが、それは映像記録だった。一週間前、アルガリアとローランが着任したあの時の戦闘のものである。丸腰で、複数の相手から銃口を向けられているという状況から、一発の被弾もなく不良を鎮圧していくあの姿。多少ブレがあれど、その動きのほとんどかカメラに収められていた。それを見進めていくうちにどんどんウタハの表情が変わっていく。
「これは......ちょっと話が変わってくるかな」
あらかた見終わったのか、ウタハはローランのほうに向きなおった。
「ついてきてくれるかな?」
そういってローランを倉庫の奥へと連れていく。ある程度奥に進んでいくと、複数の装備が無造作に転がっているエリアに到達した。巨大な製作中であろう大砲のようなもの、一体ぜんたいどういうものかわからないが、複数の銃口と思わしきものがついたもの、ローランの目にはそれがどのようなものかわからない、しかし武器であろうものが鎮座していた。そして、その中にあったアタッシュケースのようなもの、ウタハはそれを手に取り、ローランに投げ渡した。
「開けてみてくれ」
そう言われ、そのケースを開く。ぷしゅーと音を立て、開いたケースの中から出てきたのは、白い金属の棒状の武器。ローランにとってはなじみがないものだったが、それは伸縮式の警棒だった。
「それは、試作品でね。新素材開発部と共同開発で作成されたものだ」
ウタハがつらつらと開発経緯について説明しているのを聞き流しつつ、ローランはそれを手に取って振り回してみる。当たり前のことだが、今まで使いまわしてきた銃を鈍器として見立てたものよりも取り回しがよく、何故か手になじむような感覚がする武器だった。
「ヴォルフスェック鋼鉄、オーパーツと呼ばれる謎の鉱石とその他もろもろを元に製作されたものだ。元々はネルに試してもらう予定だったんだがいろいろあって頓挫してしまってね......どうだろう、時々データを提出してもらえるなら、それを差し上げようと思うんだ」
「......もらっといてよかったぁ」
ミレニアムからの帰り道。あの後、ウタハにデータ収集用の機器、それの使い方や色々なことを教えてもらい、すっかり暗くなった街を歩いていたローラン。シャーレの付近まで歩いてきたその時、自分を突き刺すような多くの目に囲まれているなぁと感じながらそう呟いた瞬間
「......」
ローランの目の前に見たことある少女が立ちはだかった。狐耳、尻尾に銃剣のついた長銃、そして極めつけはその特徴的な狐の面。
「少し、お時間よろしいかしら?」
あの日、地下で見たあの少女が有無を言わせぬ雰囲気を纏い、多くの不良を引き連れて、目の前に立っていた。
なんと評価軸が赤くなりました。応援、ありがとうございます。
あと少しだけプロローグが続きます。
どうかお付き合いいただけると幸いです。