転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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幕間 シャアという男

この士官学校に入ってから、俺はずっと静かに爪を研ぎ続けてきた。

 

目的はただ一つ——ザビ家への復讐。

 

俺の父、ジオン・ズム・ダイクンは殺された。

表向きには病死とされているが、そんなものは欺瞞だ。

ザビ家の連中が仕組んだ暗殺に決まっている。

 

その証拠に、父の死後、デギン・ソド・ザビは政権を掌握し、

息子のギレンは独裁者としての地位を確立し始めた。

 

俺はあの一族を絶対に許さない。

やつらを滅ぼし、父の名を取り戻すために、俺はここにいる。

 

そのために、俺は天才でなければならなかった。

この学校で最も優秀な成績を収め、軍の中枢に食い込み、

最終的にはザビ家の懐へと入り込む。

 

俺は、俺の計画のために、ここでのすべてを利用するつもりだった。

周囲の人間も、教師も、訓練も、俺にとっては目的を果たすための手段に過ぎない。

 

——最初は、イオリ・クローネも、その一人のはずだった。

 

彼の名を初めて聞いたのは、入学間もない頃だったか。

成績優秀者の名簿の中に、見慣れぬ名があった。

 

イオリ・クローネ。

 

家柄に特筆すべきものはない。

政治的な背景も、コネもない。

 

ただの孤児院出身。

 

だが、成績は優秀で、シミュレーター演習の結果も上々だった。

何より、常に俺のすぐ後ろをついてくるような位置にいた。

 

俺の成績には及ばないが、それでも凡百の士官候補生とは一線を画していた。

 

最初は目障りだった。

俺がこの学校の頂点に立つのは当然のこと。

だが、その背後にしぶとく食らいついてくる存在がいるのは、どうにも気に障った。

 

——だが、ある時ふと気づいた。

 

こいつは俺に勝とうとしているのではない。

俺の背中を見て、自分を高めようとしているのだ。

 

「シャア、お前には敵わねぇけど……それでも、俺は俺なりにやるさ」

 

かつて、訓練の後にイオリが言った言葉。

 

俺には敵わないと認めながら、それでも必死に前へ進もうとする。

 

普通の人間なら、劣等感を抱くか、諦めるか、あるいは妬むか。

だが、イオリにはそれがなかった。

 

俺をライバル視するのではなく、俺を指標にして成長しようとしている。

 

それは、俺にとって奇妙な感覚だった。

 

俺はずっと、他者を利用する側だった。

誰かと「並び立つ」という考えは持ったことがなかった。

 

——だが、こいつは違う。

 

俺を利用しようともせず、

俺に媚びるわけでもなく、

ただ、俺と共に進もうとしている。

 

「馬鹿なやつだ」

 

そう思いながらも、俺は少しずつイオリを意識するようになった。

 

最初は、こいつがどれほどのものかを試すつもりだった。

 

シミュレーターでの模擬戦。

戦術演習での協力。

実技訓練での組み手。

 

そのたびに、こいつは俺に食らいついてきた。

 

結果として、こいつは俺の「隣にいる」ことが当たり前になっていた。

 

——だが、それは俺にとって悪いことではなかった。

 

……もしかしたら、それは初めての「友情」というものだったのかもしれない。

 

俺はザビ家を討つために、誰も信用しないつもりだった。

他者と馴れ合うつもりもなかった。

 

だが、イオリは気づけば俺の隣にいた。

 

そして、俺にとって「利用する対象」ではなく、

ただの「同期」として存在するようになっていた。

 

「お前さ、たまには一緒に飲みに行こうぜ?」

 

「遠慮しておく」

 

「つまんねぇやつだな……まあ、お前らしいけどよ」

 

「フン……」

 

イオリは俺が何を考えているかを詮索しない。

俺の過去を知ることもなく、

ただ「シャア・アズナブル」として俺を見ている。

 

……それが、妙に心地よかった。

 

「シャア?」

 

「何だ?」

 

「お前って、たまにすげぇ遠くを見てるよな」

 

「……そうか?」

 

「何か、手の届かないもんを見てるような、そんな感じがするぜ」

 

イオリの言葉に、俺は言葉を詰まらせた。

 

こいつは何も知らないはずだ。

俺の目的も、俺の過去も、俺が何を望んでいるのかも。

 

それなのに、こいつは妙に勘が鋭い。

 

(手の届かないもの、か……)

 

俺が望んでいるのは、ただ一つ。

 

ザビ家の滅亡。

 

俺がこの世で唯一、手にするべきもの。

 

……だが、そのために「今あるもの」を捨てるべきなのか?

 

それが「友情」だとしても?

 

俺はイオリを利用するつもりだった。

それが、いつしか「対等な仲間」として見てしまっている自分がいる。

 

「お前が何を考えているかは知らねぇけどよ」

 

「あんまり気負いすぎるなよ、相談くらいだったら乗ってやるよ」

 

(……バカなやつだ)

 

だが、こいつが俺の隣にいることは——

俺にとって、悪いことではないのかもしれない。

 

——シャア・アズナブルが初めて「誰かと共に歩む」と思った瞬間だった。

 

イオリとの友情が芽生えたことで、俺の日常は少しだけ変わった。

 

俺は孤独で構わないと思っていた。

ザビ家を討つためなら、他人に心を許すべきではない。

 

それなのに、イオリは変わらず俺の隣にいる。

 

シミュレーター訓練でも、実技演習でも、

こいつは俺の背中を見ながら食らいついてくる。

 

「シャア、今日こそお前を倒すぜ」

 

「……言うのは自由だ」

 

口ではそう言いながらも、俺はどこか楽しんでいた。

 

イオリは俺に勝てない。

だが、単なる凡庸な士官候補生とは違い、確かな成長を見せていた。

 

シミュレーター訓練では、俺に次ぐ好成績を収め、

近接戦闘の訓練では、他の候補生よりも粘り強く戦い抜いた。

 

「くそっ……また負けたか……」

 

模擬戦で俺に敗れ、地面に膝をつくイオリ。

だが、悔しさをにじませつつも、その目には挫折の色はなかった。

 

「まだまだだな」

 

「うるせぇ……でも、次は勝つからな」

 

そう言って拳を差し出すイオリに、俺は少しだけ躊躇った。

だが、次の瞬間には、自然とその拳を受けていた。

 

——シャア・アズナブルが、誰かと拳を合わせる日が来るとは思わなかった。

 

演習が終わったあと、俺とイオリは並んで訓練場の端を歩いていた。

 

「お前、相変わらず容赦ねぇな」

 

イオリが肩を回しながら言う。模擬戦とはいえ、相当な疲労があるのだろう。

 

「戦いに手加減は不要だろう?」

 

「それもそうか」

 

イオリは苦笑しながら肩をすくめた。

 

──この男は、俺にとって奇妙な存在だ。

 

最初に会った時から、どこか異質な雰囲気を纏っていた。

 

他の士官候補生とは違う。優秀ではあるが、純粋なジオンの軍人らしい思想を持っているわけではない。

 

それなのに、俺に必死に食らいつき、競い合い、成長していく。

 

「それにしても、お前もずいぶん強くなったな。今日の奇襲は俺も驚いた」

 

「へへっ、そりゃどうも」

 

イオリが得意げに鼻を鳴らす。

 

「だが、俺を倒すにはまだ足りない」

 

「チッ、わかってるよ。次は勝つって言ってんだろ」

 

その言葉に、俺は静かに笑った。

 

(もし、こいつがもっと力をつければ……)

 

俺の計画に賛同して、共に戦ってくれるだろうか。

 

「……楽しみにしているよ、イオリ」

 

談笑しながら歩いていると、向こうから来る一団に気づいた。

 

中央に立つのは、ジオン公国の公子──ガルマ・ザビ。

 

彼と付き従う士官候補生たちが、談笑しながら歩いてくる。

 

ガルマが俺を見つけると、笑顔を向けてきた。

 

「シャア!今回の演習も見事だったな!」

 

「そんなことはないさ、いつも通りだよ、ガルマ」

 

俺は以前から親しくなっていたガルマに答える。

 

ガルマの目が横にいるイオリへと向いた。

 

「そちらは?」

 

「ああ、イオリ・クローネだ。ルームメイトさ」

 

「へぇ……」

 

ガルマはイオリを見て、少しだけ眉をひそめた。

 

「シャア、お前が優秀なのはわかっているが……こういう者とも親しくするのか?」

 

ガルマの言葉に、イオリが微かに目を細める。

 

「こういう者?」

 

「いや、別に悪い意味じゃないさ。だが、シャアはもっとふさわしい人間と付き合うべきだと思ってね」

 

ガルマはあくまで軽い調子で言ったつもりなのだろうが、俺は内心で眉をひそめた。

 

(貴様がそれを言うか……)

 

この男は根っからの貴族意識を持っている。俺を気に入っているのも、その才能ゆえだ。

 

「まぁまぁ、ガルマ。俺はイオリを認めている。こいつは俺の良きライバルであり、友人だ」

 

「ふーん……まぁ、お前がそう言うなら」

 

ガルマは大して興味もなさそうに肩をすくめた。

 

一方でイオリは、特に気にした様子もなく、ふっと笑った。

 

「まあ、俺はシャアほど優秀じゃないしな」

 

そう言って、軽く手を振るとその場を離れた。

 

ガルマは少し驚いたように彼の背中を見送る。

 

「……あれは気にしていないのか?」

 

「さあな」

 

だが、俺はわかっていた。

 

イオリは、そういうことを気にしない男ではない。

 

ただ、それを態度に出さないだけだ。

 

その夜、俺はベッドに横たわりながら天井を見つめた。

 

ガルマは……使える。

 

ザビ家を討つために、俺の手駒となるだろう。

 

だが──

 

「……イオリ、お前はどうする?」

 

今のところ、イオリは俺の目的を知らない。

 

だが、もし俺が動いた時……

 

あいつはどうする?

 

「……ふっ」

 

俺は微かに笑い、目を閉じた。

 

イオリが俺の前に立ち塞がるなら、その時は……

 

 




読まなくてもいいシャアの独白でしたー
前も同じこと言いましたが、もう!すぐ!学校編終わります。
最初は短編でいいかーと思い、学校編も軽く流す予定でしたが、案外長くなってしまいました。
いつ終わるのやら(´・ω・`)
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