転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第22話 2人と2機

静かな艦長室。天井の照明は落とされ、艦内照明の淡いブルーライトが部屋の一角を照らしている。

重厚な木目調のキャビネットから取り出されたボトルが、琥珀色の液体をグラスに注いでいた。

 

「スコッチだ。こいつはルウムの商人から手に入れた……開けるのは、いつもお前と飲む時だけにしてる」

 

「贅沢ですね、艦長。まるで最後の晩餐みたいじゃないですか」

 

クラウス大尉が笑いながらグラスを受け取り、静かに音を立てて乾杯した。

 

カツン、とグラスが鳴る。

 

「……さて、今日は何の話です?」

 

艦長――ゲルハルト・アイゼンベルクは、琥珀の液体を口に含み、少しだけ間を置いて言った。

 

「……シーマのことだ。最近、妙に疲れた顔をしている。お前、何か知っているか?」

 

クラウスは黙っていたが、やがてグラスの中で氷を揺らしながら答えた。

 

「……知っています。あいつ、自分の訓練の時間を削って、イオリの指導をしていますからね」

 

「ほう……自分の訓練を?」

 

「それだけじゃない。部隊訓練が終わった後、夜中に出撃ログを入れてる。……あいつ、自分の腕が鈍ることを恐れてるようです」

 

艦長は静かに眉を寄せた。

 

「誰に命令されたわけでもないのに、か」

 

「当然です。あいつは、“誰よりも強くなければならない”と思ってる。それがこの部隊で生き残るための、あいつなりのケジメなんでしょう」

 

氷が静かにグラスの中で回った。

 

「責任感の強い女だ……だが、それに押し潰されかけているようにも見える。お前は、それでいいのか?」

 

「私はもう、あいつの背中を押してやることしかできません」

 

クラウスは、すっとグラスを置いた。

 

「……そうか、それで? あの若い少尉は方は」

 

艦長が煙草をくゆらせながら問うた。

 

クラウスは黙って一口酒をあおり、目を細めた。

 

「あいつは、まだまだです。状況の見極めも甘いし、隊の扱い方もぎこちない。戦術面も独りよがりなところがある」

 

「ふむ、辛口だな」

 

「だが……」

 

クラウスの視線が、揺れる酒の中の小さな泡へと向く。

 

「――磨けば、光る。目の色が違う。やるべきことを理解しようと足掻く姿勢もある。今までの新人とは、根が違う」

 

アイゼンベルクは黙って聞きながら、煙草の火をゆっくりと揉み消す。

 

「あいつが一人前になったら、きっとシーマと並んでこの部隊を引っ張っていく存在になる。……いや、それだけじゃないな。シーマの手綱を取れるかもしれん」

 

「ほう、それは大した評価だ」

 

「若いからこそ、強くなれる。……いずれこの部隊は、あいつらの時代になる」

 

グラスが静かにテーブルに置かれる音だけが、重く響いた。

アイゼンベルクはわずかに目を細めて言った。

 

「――お前がそう言うなら、俺も期待しよう。クラウス、あいつを頼むぞ」

 

クラウスは無言で頷いた。

 

ーーーーーー

 

廊下の曲がり角を抜けた先、艦内の共有スペースに差し込む柔らかな光が、静かなひとときを演出していた。

 

この時間帯、整備士たちは格納庫での作業に戻り、パイロットたちはブリーフィングやシュミレーター訓練で忙しく、空間には人影もまばらだった。

 

そんな中、イオリはふと、窓際のベンチに腰掛ける小柄な人影に目を留めた。

 

「……中尉?」

 

座っていたのは、間違いなくシーマ・ガラハウ中尉だった。

 

彼女はいつものように背筋を伸ばし、神経を張り詰めた姿勢ではなかった。

服装は、パイロットスーツの上衣を腰の部分でくくり、今は上は白いトレーニングウェア1枚、身体を窓枠に預けるようにし、瞼を閉じて静かに呼吸をしていた。

束ねられた漆黒の髪が肩口で揺れ、彼女の吐く息が、ガラスに一瞬だけ白く曇りを生む。

 

イオリは一歩、足を止めた。

 

(……中尉が……寝てる?)

 

その姿はあまりにも静かで、そしてどこか儚げだった。

 

いつも彼女が見せる、鋭い視線。厳しく、冷たく、時に苛立ちすら混ぜて部下を叱るあの気迫。

けれど今は――ただ、疲れた女性が休息をとっているだけの姿だった。

 

ふと、その目線が彼女の腕や肩、細くしなやかな身体の線を辿っていく。

 

衣服の上からでもわかる、その華奢な肩幅。

包み隠しているつもりでも、女性らしい身体の起伏は意識してしまうほどだった。

 

(……こんなに、細かったのか)

 

(毎日のように訓練をして、俺よりもずっと先を行ってて……でも、こんな身体で、あんな重たい機体を動かしてたのか)

 

イオリの中で、ひとつの認識が変わっていくのを感じた。

 

同じ部隊の小隊長。厳しい教官のような存在。

 

だが今、この瞬間の彼女は、そうした肩書きの一切を脱ぎ捨てた――一人の“女性”だった。

 

思わず心配がこみあげる。

 

「……中尉、大丈夫ですか? かなりお疲れのように見えますけど」

 

その声に、シーマはゆっくりと片目を開け、俺を見ると、一瞬驚いたように見開くが、すぐに

 

「……あんたね、人のこと心配する前に、自分の心配でもしてな」

 

吐き捨てるような言葉の中に、少しだけ、眠気の残るかすれが混じっていた。

そして彼女は、まるで何事もなかったかのように立ち上がり、乱れた髪を整えもせず、そのまま去っていった。

 

俺はその背中を見送る。

あの華奢な身体が、戦場の最前線に立とうとしている。

そして今も、自分の知らないところで――何かを背負っている。

 

(……やっぱり、何か隠してる)

 

この瞬間、イオリの中に「気づかなければならない」という想いが芽生えた。

 

ただの好奇心じゃない。

ただの義務感でもない。

 

彼女のことを知りたい。

 

ーーーーーー

 

俺は、端末の前で眉をひそめていた。

 

訓練後の定期メンテナンス記録を確認するために立ち寄った整備区画。

だが、ふとした違和感が彼の目を留めた。

 

「……シーマ中尉のザク……? 出撃回数……多すぎないか?」

 

第3小隊も第2小隊も、通常の訓練スケジュールではせいぜい一日1回、多くて2回の出撃が限度のはずだ。

だがシーマ機のデータには、明らかにそれを上回る回数の出撃記録が残されていた。

 

しかも、記録された時間帯は夜間や明け方が多い。

公式の訓練記録には載っていない――つまり「非公式」の出撃。

 

(……まさか、中尉が……一人で?)

 

疑念を確信に変えるべく、俺は整備担当の男を探して歩き出す。

そして、喫煙エリアの奥――作業用のベンチに腰掛け、コーヒーを片手にしていた男を見つけた。

 

「クルト整備長」

 

声をかけられた男――クルト・ヘルツァーは、ちらりと視線を上げて煙草を指に挟みながら返す。

 

「ん? どうした坊主、また無茶な機動で関節にガタでも来たかい」

 

「……シーマ中尉のザクの記録、見ました」

 

クルトの動きが、一瞬止まった。

コーヒーを口元まで持っていきかけた手が、中空で止まる。

 

「夜間出撃が多すぎる。記録にも残ってない。中尉が一人で、訓練してるんじゃありませんか?」

 

イオリの真剣な目を見て、整備長はひとつ長いため息をついた。

 

「……あの女狐め、バレちまったか。ま、隠しとくには無理があったな」

 

「どうして……?」

 

「アイツな、自分のことは後回しにして、お前の面倒を見てる。それで訓練時間が削られてるってわけだ。だから、誰にもバレないように、みんなが休んだあと、こっそり出て行ってる」

 

「……」

 

「このことは、みんなには黙っててくれって頼まれてる。あいつなりに気ィ遣ってるんだよ。上官としても、女としてもな」

 

整備長は苦笑しながら煙草をくゆらせ、再びベンチにもたれた。

 

「わがままを言ってすまないね。このことは内密に頼むよ、ってよ。……まったく、あんなガキが、意地だけで飛び続けてりゃ、機体も泣くってモンさ」

 

俺の胸に、重いものがのしかかった。

 

(……俺のために、自分を削ってまで……)

 

イオリは無言で深く頭を下げた。

 

「整備長、ありがとうございました。――俺、ちょっと出てきます」

 

クルトは「へっ、勝手にしな」と笑いながらも、どこか安心したように目を細めた。

 

ーーーーーー

 

暗い宇宙に展開されたサブフィールド。人工的な微光に照らされ、無数の訓練用デブリが静かに漂っている。

 

その中を縫うように、一機のザクIIが疾走していた。

 

搭乗しているのは、シーマ・ガラハウ中尉。

ブースターの火花と共に、彼女の機体は鋭く旋回し、標的となる訓練用ドローンを次々と撃破判定にしていく。

 

だが、その動きには、かすかに“重さ”があった。

 

(くっ、腕が……反応が鈍い)

 

連日の訓練による疲労が、身体の芯に溜まり始めている。

それでも、彼女は動きを止めない。止めたら、何かが崩れてしまう気がして――

 

そのときだった。

 

『―中尉!』

 

通信が開く。背後から、ザクの影が高速で接近していた。

 

「……はァ?! なんであんたがここにいるのさ!」

 

驚愕の声。イオリ・クローネ少尉の機体だった。

 

『整備記録を見ました。中尉のザクだけ稼働時間が不自然に多い。……整備長から聞き出しました』

 

「ちっ……あの呑んだくれ、口が軽いんだよ」

 

シーマは舌打ちしながらも、顔にはほんの一瞬、苦笑めいた色が浮かぶ。

 

『俺も、同行させてください』

 

イオリの声は真っ直ぐだった。シーマの孤独な戦いに、心を動かされた男の声だった。

 

「ふん、あたしは1人でしたいんだよ! ――付いてくるってんなら、ついてきてみなっ!」

 

その瞬間、シーマの機体が一気に加速する。

 

標的でもないデブリの隙間を、爆発的な加速で抜けていく。まさに高機動宙間戦闘の真骨頂。

一見、強引とも思えるラインを正確にトレースし、流れるように突き進んでいく。

 

『速っ……でも――負けませんよ!』

 

イオリもまた、全力でブースターを噴かした。

 

視界の端で、デブリが音もなく通り過ぎる。わずかでも機体を傾ける角度を誤れば、衝突は免れない。

だが彼は食らいついた。必死に、シーマの背中を追う。

 

(これが……この人の戦い方……!)

 

シーマは振り返らない。

まるで試すように、なおも速度を上げていく――が。

 

「――っ……!」

 

突如、機体がわずかにバランスを崩す。

 

疲労で反応が遅れた。スラスターの吹き返しが一瞬遅れ、デブリの回転軸に引っかかりかける。

 

『中尉! 危ないっ!!』

 

イオリが叫ぶ。

 

刹那、彼のザクが加速し、シーマ機の腕部をがっちりと掴む。

慣性で揺れる彼女の機体を制御しながら、ブーストで姿勢を立て直す。

 

漂っていたデブリが、彼らのすぐ脇をかすめて通り過ぎていった。

 

直撃していれば、大破は免れなかっただろう。

 

シーマは一瞬の沈黙の後、やや不機嫌そうに口を開いた。

 

「……誰も助けてくれなんて言ってないよ」

 

『それでも、放っておけませんでした』

 

イオリは静かに返す。

 

数秒の間、無言が宇宙に広がったあと――

 

「……でも、助かったよ。ありがとね」

 

それは、彼女から初めて聞いた“素直な”言葉だった。

 

イオリは、照れたように苦笑した。

 

『いえ。俺は……ただ、中尉と一緒に、強くなりたいだけです』

 

その言葉に、シーマはふいに視線を逸らした。

 

「……ま、少しは骨のある奴ってとこか」

 

通信越しでもわかる微かな笑み。

その表情に、これまでにない柔らかさが宿っていた。

 

そして――

 

宙域の二機のザクは、そのまま訓練を再開する。

今度は“並んで”。

 

デブリの狭間を、標的ドローンを、互いに声をかけ合いながら攻略していく。

 

その夜。宇宙の静寂に、微かな絆の火が灯り始めていた。

 




うーーーん、シーマちゃわーん!!
は!…………失礼。
シーマ愛が爆発しそうになりました。こんなシーマ様をアニメでも見たかった、なぜ連邦ばかりが主役側なんだ。クソが!!!
と言う冗談はさておき、皆さんどうですか?投稿スピードの具合、描きダメしてるやつを、編集とかしながら頑張ってますが丁度いいですかね?笑

シーマ様の性格について

  • これ位が丁度いい、デレるのが待ち遠しい
  • もっとツンツン、デレはいらない!
  • もっと包容力がほしい
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