転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
訓練空域を後にし、イオリとシーマのザクは緩やかな編隊を組んで母艦へ戻っていた。
艦のシルエットが宇宙の闇に浮かび上がる中、2機の推進音だけが静かに響く。
機内に流れる沈黙は、気まずいものではなく、どこか心地の良い余韻に包まれていた。
その沈黙を、イオリの落ち着いた声が破る。
「……中尉」
「ん?」
「……疲れているように見えます。あまり無理をなさらないでください。今日は、もう休みましょう」
しばしの沈黙のあと、通信からふっと小さな笑いが漏れた。
「……あんた、何歳だっけ?」
「20です」
「20のくせに、よくそんなことが言えるね。……でも、そうだね。今日はもう休むことにするよ」
通信越しに、わずかに力の抜けた声が返ってくる。
その声には、どこか素直な――まるで張り詰めていた弦が少し緩んだような響きがあった。
イオリは一呼吸おいてから、言葉を続けた。
「……中尉。次の訓練の後も、また1人で訓練するつもりですか?」
「……ああ?」
「もし、するなら。次も、俺が付き合います」
少しの沈黙。通信の向こうで、シーマが言葉に詰まったのがわかった。
「……なんで、あんたがそこまで」
「訓練のため、です。中尉のように動ける人と模擬戦を重ねる機会なんて、滅多にありませんから。それに――」
言いかけて、イオリは言葉を飲み込み、次の言葉がでなかった。
ー「それに1人にしておけない」ー
何故こんな言葉を言いそうになったのか、自分で驚いていたからだ。
一方、シーマはというと、舌打ち混じりにため息を吐く。
「……ふん。勝手にしな。あたしは1人の方が楽だけどね」
「了解しました」
「でも……そうだね。どうせ付き合うっていうなら、足を引っ張らないでくれるかい?」
「それは……頑張ります」
再び、小さな笑いが通信に乗って聞こえてくる。
だが、今度の笑いには、どこか柔らかい温度があった。
やがてザクは艦内格納庫の誘導ビーコンを捉え、帰投のシークエンスに入る。
並んで帰る2機の姿は、どこか前よりも自然に見えた。
ーーーーーー
ガコン――というモーター音とともに、イオリのザクが整備台に固定された。
ハッチがゆっくりと開き、緊張の残る身体でイオリは機体を降りる。
まだ呼吸は荒く、汗がスーツに滲んでいる。
だが、それ以上に胸を満たしていたのは、達成感と、確かな充足感だった。
(ついていけた……ちゃんと……)
「やっと帰ってきたか!機体から降りたらさっさと休むんだぞ!俺は今からお前らの機体の整備をしなきゃならんからな!!」
ホッとしたのも束の間、クルト整備長から怒号が聞こえる。
すぐ隣のザクのコックピットが開く音がして、
「すまないね、整備長。すぐに降りるよ」
降りてきたのは、もちろん彼女――シーマ・ガラハウ。
「ふぅ……しっかし、思ったよりは動けるじゃないか。新人」
整備台にブーツの音を響かせながら、肩の緊張をほぐすようにストレッチをして、ちらりとイオリに視線を向ける。
「中尉……お疲れ様でした」
イオリが礼儀正しく頭を下げると、シーマは小さく笑った。
「堅いねぇ、あんた。……ねえ、新人」
「はい?」
「あんた、タバコは吸うのかい?」
突然の問いに、イオリは少し目を丸くしてから、真面目な口調で答える。
「いえ、自分は吸ったことがありません」
「はん、真面目だこと。……お子様だねぇ、まったく」
シーマは鼻で笑うと、手袋を器用に外してポケットに仕舞いながらイオリに背を向ける。
「ついてきな」
それだけ言って、すたすたと歩き出す。
イオリは一瞬戸惑うも、「はい」と一言返して、彼女の背を追った。
ーーーーーー
喫煙ルームは、格納庫の奥まったスペースに設けられた簡素な区画だった。
壁の一面に換気フィルターが設けられており、灰皿のついたスチール台と簡易椅子が二つ並んでいるだけ。
シーマは慣れた様子で腰掛けると、ポケットから細身の銀ケースを取り出し、その中からタバコを1本取り出し、ライターをカチリと点けた。
シュウ――という音と共に煙が立ちのぼり、艶やかな紫煙が彼女の頬をかすめて漂う。
「……さっきは、助けてくれてありがとうね」
その言葉は、あの訓練中の一幕――
彼女がデブリにぶつかりかけた瞬間、イオリが咄嗟に叫び、機体を寄せて進路を逸らした場面を指していた。
「いえ……当然のことをしたまでです」
イオリは真っ直ぐに答える。
シーマはふっと微笑むと、ケースからもう1本タバコを取り出し、イオリに差し出した。
「はいよ、感謝のしるし。1本、どうだい?」
イオリは一瞬ためらい、そして首を振る。
「いえ、自分は吸えませんので……」
「ったく、なんでも経験だよ。お坊ちゃん」
そう言って、無理やりイオリの手にタバコを握らせる。
「えっ、あの……」
「いいから、火ィつけてみな。怖がることないよ」
観念したイオリはぎこちなくライターを受け取り、火をつけた。
おそるおそるタバコを口にくわえ、煙を吸い込む。
次の瞬間――
「っ、げほっ、ごほっ……!!」
「ぶっ……ぷははははっ!」
咳き込むイオリの姿に、シーマは声を上げて笑った。
からかうような、けれどどこか柔らかい、心からの笑み。
その笑顔は、普段の鋭さとは違う、あまりに自然で――美しいものだった。
イオリは咳き込みながら、呆然とその表情を見ていた。
(こんな顔、するんだな……)
笑い終えたシーマは、ふっと息を吐いてタバコを灰皿に押しつけると、すっと真面目な表情に戻った。
「……明日から、また厳しくいくよ。覚悟しな」
「はい。よろしくお願いします」
迷いなく、真っすぐな眼差しでイオリが答えると、シーマはわずかに口元を綻ばせた。
「ったく……新人がどこまで育つか、見ものだね」
椅子を蹴るように立ち上がり、軽く伸びをすると、シーマは背中越しに言った。
「今日はもう休みな。――体は、資本だからね」
「……了解です、中尉こそ休んでくださいね」
「ふ、わかってるよ、あたしも今日はもう休むよ」
その声を背に、シーマは足音軽く部屋を後にした。
喫煙ルームに一人残されたイオリは、使いかけのタバコを見つめ、そっと灰皿に置いた。
何かが、始まった気がした。
だけど、それが何かは――まだ、わからないままだった。
ーーーーーー
最初の訓練から数日。
イオリとシーマは、夜間や早朝の訓練スケジュールを密かに共有するようになっていた。
明確な指示はない。
ただ、どちらからともなく整備区画に現れ、互いに目が合えば、頷いて、格納庫へと向かう。
最初はぎこちなかった空気も、少しずつ、どこか自然なものへと変わっていく。
それでも、会話は多くない。
互いの呼吸音と、訓練時の通信以外に、余計な言葉はほとんど交わされない。
けれど――
「今の、回避軌道……前よりだいぶ早くなったじゃないか」
「中尉の動きが見えてきたんです。反応できるようになってきた、というか……」
「あたしの癖でも読めたってのてのかい?」
「はい。……でも、まだ完全じゃないです」
「ふん、まあ悪くない」
そんな些細な会話が、自然と交わされるようになっていた。
戦場を知らぬ訓練のなかで、イオリは確かに成長を遂げていた。
追いつこうとしていた背中――
いつしか、ほんの少しだけ、肩を並べる距離になりつつあった。
ーーーーーー
ある日の訓練後。
2人は格納庫から出る廊下を歩いていた。
汗ばむパイロットスーツの襟を緩めながら、シーマが何気なくつぶやく。
「……最近さ、あんたの動き、妙に整ってきたね」
「ありがとうございます」
「褒めてるんじゃないよ。あたしを真似たって限界はある。あたしを超えなきゃ、意味がない」
「……はい」
即答するイオリに、シーマは少しだけ目を細めた。
素直で、真っ直ぐで、無駄なことは言わない。
生意気な新人だと思っていたその青年は、静かに、しかし確実に、彼女の中で存在感を強めていた。
それが嬉しくないはずがなかった。
けれど、それを認めることもまた――怖くもあった。
(いつか――こいつも、ここから出ていくのかもね)
心の奥に浮かぶそんな思いは、シーマ自身も気づかぬほどに小さく、けれど確かにあった。
ーーーーーー
艦内の食堂は、ちょうど昼の混雑を迎えていた。
銀色のトレイに載せられた軍用食を手に、それぞれのテーブルに散らばるシーウルフ隊の面々。
笑い声、箸の音、缶詰のプルトップを開ける音。活気に満ちた空間の片隅で――
「おう、イオリ少尉じゃねぇか。今日もご苦労さん」
顔を出すなり、イオリはぐいと肩を抱かれた。
声の主はグスタフ・ヴァール曹長。ベテラン中のベテランで、陽気なムードメーカー。
「ちょっとあんたら、見た? 昨日の夜訓練。誰かさんと誰かさん、ちゃ〜んと一緒にザクで戻ってきたってさ」
その隣でエーリッヒ・ヴォルツ軍曹が声をあげ、意味深に眉をひくひくと動かす。
「見た見た。あれってもしかして、“新婚訓練”ってやつですかねぇ? 機体も心も密着中って?」
とどめを刺すようにハンス・グリューネル軍曹まで口を挟むと、周囲の隊員たちがどっと笑いに沸いた。
イオリは少し苦笑しながらも、手にしたスプーンを止めなかった。
「任務の一環です。中尉が見てくださるうちに、学べるだけ学ぼうと」
「うわ、真面目〜。でもさぁ、訓練ってさ。なんでふたりきりじゃないとダメだったんです?」
「そうそう、ヴォルツおじさんも混ぜてほしかったな〜?」
「やめてくれ、シーマの指導に耐えられるのは、この坊ずくらいだ。俺らじゃ身体がもたん」
「けどさぁ、さすがに最近は目立ちすぎだよ? もう艦内じゃ有名だぞ? “姉御と若造の夜間デート”ってな」
「訓練です。再三言いますけど、訓練です」
「「「“訓練(意味深)”な」」」
またも笑いが起きる。
イオリが食事を続けようとすると、エーリッヒが顔を寄せ、ひそひそと囁いた。
「……でさ。実際どうなの?」
「どう、とは?」
「ほら。中尉、たまにお前にだけ優しい顔するじゃん? あれ、もしかして特別な感情ってやつじゃないの?」
「ないと思います。そんな風に見えるなら、俺が誤解を生むような態度を取っていたのかもしれません。気をつけます」
「ちぇっ、つまんねぇなあ。……でもまあ、姐さんが誰かに心を開いてるっぽいのは、ちょっと嬉しい気もするけどさ」
「それな。姐さんって、誰にも懐かない猫みたいなもんだと思ってたし」
「いや、猫っていうか……あれだろ、アフリカのサバンナにいる、群れないメスライオン?」
「獰猛で孤高。でもたまに懐いてゴロゴロしだしたら、ちょっと可愛い……みたいな?」
「お前ら、シーマに聞かれたら全員ぶっ飛ばされるぞ」
イオリは思わず笑ってしまいそうになるのをこらえつつ、トレイを持ち上げて立ち上がった。
「……俺は訓練で成長できたと思っています。それ以上でも以下でもありません」
「おお、堅物だ!軍人気取りだ!」
「くそっ、正論言われると茶化せねぇな!」
「いいねぇ、だんだん”小隊長の貫禄”ってやつが出てきたじゃねーか」
笑いの中、イオリが食堂を後にすると、ふとドアの向こう、廊下を歩く女性の姿が見えた。
シーマ・ガラハウ。煙草を片手に、こちらに気づくでもなく歩いていく。
どこか――ほんの少しだけ、彼女の背中が柔らかく見えた気がした。
ーーーーーー
その日の訓練後、イオリはメンテナンスベイで1人、ザクの脚部チェックをしていた。
シーマが隣に現れ、何気なく言った。
「……さっき、グスタフたちに冷やかされてたね」
「聞いていたんですか?」
「ああ。まあ、あたしも悪かったかもね。こそこそ夜に2人で抜け出してたら、そりゃ目立つってもんさ」
「……気にしてません」
「気にしていいよ。あたしはお前さんが誤解される方が、ちょっと……嫌だからさ」
一瞬だけ言葉に詰まったが、イオリは静かに微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、俺は中尉の訓練で救われました。誤解されても、後悔はありません」
その言葉に、シーマの唇がふっとほころぶ。
「はん……ほんと、そういうとこ、お子様じゃなくなってきたね」
「成長しましたか?」
「ああ。……悔しいけどね」
それは冗談めいていたけれど、ほんの少しだけ本音が混じっていた。
艦内の誰もが冷やかし半分に笑っている。
だが、その中で少しずつ、確かな信頼と絆が生まれていた――
うん?(;゚д゚)(つд⊂)ゴシゴシ(;゚Д゚)…?
いつのまにかお気に入りが200件超えていました爆泣
初めての投稿でこんだけの方に見ていただいて光栄のかぎりです
皆さんシーマ作品を待ち望んでいたと言うことですね!
私もです!!!爆笑
なにかアドバイスとか感想があれば教えて頂きたいです。まだまだ文才がないので、ここはこうした方がわかりやすい等、もちろんシーマ様への、愛を語ってもらっても大丈夫です!
引き続き頑張りまーす!
ちなみに当初は短編予定だったのに、いつのまにかめちゃ長編になってました笑
シーマ様はたぶん喫煙家です、たぶん
シーマ様の性格について
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これ位が丁度いい、デレるのが待ち遠しい
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もっとツンツン、デレはいらない!
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もっと包容力がほしい