転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第24話 巣立ち

 

宇宙に散る星々が、ラウンジの窓から静かに覗いていた。

人工照明に照らされたその空間は、昼間の喧騒から離れ、落ち着いた空気に包まれている。

 

クラウス・シュレンケ大尉は、ラフな格好でいつもの席に腰を下ろし、琥珀色の液体が揺れるグラスを見つめていた。

その向かいに座るのは、シーマ・ガラハウ中尉。煙草をくわえたまま、パイロットスーツの上を腰部分で結んだ状態でソファに深く体を預けている。

 

「……で、少尉はどうだ?」

 

不意にクラウスが切り出した。

揺れるグラスの中で、氷が小さく音を立てる。

 

シーマは煙草の煙を吐き出しながら、視線を逸らす。

 

「ああ……まあ、多少はマシになったよ。訓練中に死なれる心配は、もうしなくて済みそうだね」

 

「ふん……ずいぶんと手厳しいな」

 

クラウスは薄く笑った。

だが、その目は油断なくシーマを見ている。

 

「あの坊主。お前が付きっきりで訓練してるって話、あっという間に広まったな」

 

「まったく……どいつもこいつもヒマそうだねぇ。こっちは真面目に鍛えてるってのに」

 

「真面目に、ねぇ?」

 

クラウスがグラスをテーブルに置く音が、わずかに響いた。

 

「……お前にしては、ずいぶん時間をかけてると思ってな。まさか――気に入ってんじゃないだろうな、あの坊主を」

 

「はあ?」

 

シーマの表情がわずかに動いた。

眉間にしわを寄せ、煙草をくわえたまま睨み返す。

 

「冗談はやめとくれよ。あたしが誰かを“気に入る”なんて柄じゃないでしょ」

 

「それはそうだな。……だが、お前にしては妙に熱心に見える。坊主が“誰か”であることに、少しずつ慣れてきてるような……そんなふうに見えるがな」

 

「見当違いだよ、クラウス。あたしは、ただ必要だから鍛えてるだけ。前線に出れば命がいくつあっても足りない。だから教えてる、それだけさ」

 

「ふぅん……“それだけ”ねぇ」

 

クラウスは肩をすくめ、ウイスキーを口に含んだ。

 

「……じゃあ、次の部隊訓練次第で、そろそろ“付きっきり”の必要もなくなるかもしれんな。あいつも随分と仕上がってきてるようだし」

 

その言葉に、シーマの動きがほんのわずか止まった。

 

火の消えかけた煙草を見つめ、何かを言いかけたが……口には出さず、静かに吸い込む。

 

「……そうなれば、それに越したことはないね。あたしの手も空くし、別に困ることじゃないさ」

 

「そうか?」

 

クラウスはその言葉の裏にある“ためらい”を感じ取りながらも、あえて追及はしなかった。

 

「……まぁ、あの坊主は悪くないヤツだよ。教えれば吸収するし、根性もある。だが――お前が誰かを受け入れるようになるとはな。少し驚いたよ」

 

「誰かを“受け入れる”?クラウス、何を言ってるのさ。あたしはそんな柔(やわ)な女じゃないよ。……ただ、見込みがあるから見てるだけ。あの新人を“特別”だなんて思っちゃいないさ」

 

「……ああ、そうだな」

 

クラウスはふっと目を細め、窓の外の宇宙に視線を向けた。

 

「でもな、中尉。誰かに時間を割くってのは、それだけで十分“特別”なんだよ。――本人が気づいてなくてもな」

 

その言葉に、シーマは黙った。

消えかけの煙草を灰皿に押しつけ、もう一本を取り出す。

 

ライターに火をつけながら、小さく吐き捨てるように言った。

 

「……あたしは、誰かを特別にしたいなんて思ってないよ」

 

「それでも、アイツはお前にとって……ちょっとは“特別”になりつつあるんじゃないか?」

 

クラウスの言葉に、シーマはあえて答えなかった。

代わりに、長く煙を吸い込み――無言のまま、細くそれを吐き出した。

 

クラウスはそれ以上何も言わず、ただ静かに笑う。

その笑みは、どこまでも温かく、見守るような笑みだった。

 

「……ま、次の訓練が楽しみだな。お前の“教育の成果”ってやつを、しっかり見せてもらおうか」

 

「ふん、見てな。あの新人、きっと驚かせてくれるよ」

 

シーマはそう言って、煙草を口にくわえたまま立ち上がった。

だが、その背中はほんの少し――名残惜しげに揺れていた。

 

ーーーーーー

 

無数の機影が宇宙空間に展開していた。

宙域に設置された目標ポイントに向かい、各機が順にフォーメーションを組み、模擬戦訓練を行う。

 

その中心には、シーウルフ隊のパイロットたち――そして、かつて初めての部隊訓練において、部隊員から叱責された新人士官、イオリ・クローネの姿があった。

 

「第3小隊、目標地点に到達。次、突破行動に移る!」

 

通信機越しに、カールの声が響く。

 

「了解っす!少尉!いつでもどうぞ!」

 

仲間の信頼を背に、イオリのザクは滑るように宙を走った。

 

ブースターを噴かすタイミング、機体の姿勢制御、僚機との間合い。

かつては不安定だったそれらが、今では水を得た魚のように“自然”な動きに変わっていた。

 

「進路クリアだ!続け!」

 

『了解!続きます!』

 

後方から声をかけるエリックも、どこか誇らしげだ。

 

ミスは、ない。

 

危険な交差ポイント、連携行動、戦術判断――

いずれも、シーマが付きっきりで叩き込んできた内容だ。

それを、イオリは確かに身につけていた。

 

遠く離れた指令ポジションの中で、シーマ・ガラハウ中尉はその様子を見守っていた。

オペレーター越しの映像ではあるが、そこには紛れもない“成長した彼”の姿がある。

 

「……見事なもんだよ、新人」

 

小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

訓練プランはすでに後半。

ここまでノーミスでこなしているのは、イオリ率いる第3小隊だけだった。

 

「第二ポイント通過、全機損耗なし!」

 

無線の声に、艦橋の空気が一瞬だけ和んだ。

それだけ、今日のイオリの動きは誰の目にも明らかだった。

 

しかし。

 

『次の部隊訓練次第で、そろそろ“付きっきり”の必要もなくなるかもしれんな』

 

先日のクラウスの言葉が、思い浮かぶ、それと同時にシーマの胸には、得体の知れない“空洞”のような感覚が広がっていた。

 

――良かった。

――ようやく、あたしの“手”が必要なくなったんだ。

 

そのはずなのに、心のどこかがざわついている。

 

嬉しいのに、寂しい。

頼られなくなることに、戸惑っている。

 

「……何言ってんだい、あたしは……」

 

そっと目を伏せる。

 

あの訓練後の夜、咳き込みながらタバコを吸ったあの“新人”が、今や完璧に小隊を先導し、部隊全体を視る広い視野も手に入れた、信頼される存在になっている。

 

それは誇らしい。

間違いなく、あたしが育てた結果だ。

それに――あたしに心を開いてくれた“誰か”が、立派に歩き出したという証明でもある。

 

けれど、

 

2人で訓練していた頃の記憶が、ふと頭をよぎる。

苛立ち、嘲り、怒鳴り、それでも必死についてこようとしていたイオリ。

ぶつかり、衝突し、それでも食らいついてきた。

 

あの時間を、いつの間にか楽しみにしていた自分もいる。

――そのことに今になって気づいてしまった。

 

「中尉、どうかされましたか?」

 

オペレーターが声をかける。

 

「……なんでもないよ。ただの、ちょっとした……燃え尽き症候群ってやつさ」

 

そう言って、シーマはわざと皮肉めいた笑みを浮かべた。

けれどその目は、イオリのザクが完璧な動きで仲間を導く姿を、じっと追い続けていた。

 

ーーーーーー

 

ザンジバル級「ヘルヴォル」のMSデッキ。

パイロットやクルーが寝静まった頃、イオリ・クローネ少尉はいつも通り、自分のザクに向かって歩いていた。

いつのまにか周知になっているが、恒例のシーマとの訓練に向かうためだ。

目線の先――そこには、シーマ・ガラハウ中尉の背中があった。

 

いつものように声をかけようと口を開きかけたその時、シーマはふいとこちらを見もせず、機体のコクピットへ入る。

その横顔が一瞬だけ見えた。

どこか――寂しそうで、哀しげで、でも何かを振り切ろうとするような、そんな表情だった。

 

「……中尉」

 

呼びかけた声は、機体のハッチ音にかき消される。

そのままイオリも自分のザクに乗り込み、コクピットを閉じた。

 

静寂の宙域。

恒星の光が、緩やかに機体を照らす。

2機のザクが向き合っている。

 

『……新人。今日が最後の訓練さね』

 

シーマの無機質な通信が入る。だがその声には、どこか覚悟のようなものが滲んでいた。

 

「……え?」

 

『部隊訓練であれだけ動けりゃ、もう、あんたに教えることなんてない。』

 

少しだけ間が空いた。

 

『最後だよ、今日で。だから――全力で来な』

 

「……でも、自分は、まだ――」

 

『言ったろ。今日が最後だって』

 

そして次の瞬間――

 

「っ……!!」

 

イオリの視界を、強烈な閃光と衝撃が貫いた。

シーマのザクが、スラスター全開で超高速起動をかけていた。訓練区域の空間座標を完全に把握し、重力の残響とデブリの流れを読んで滑るように飛ぶ。

 

まさに“空間そのものを支配する”動きだった。

 

『……ついてきな』

 

シーマのザクはデブリ帯を斜めに切り裂き、視界の端に飛び出たかと思えば、数秒後には死角からの急襲を仕掛けてきた。

 

「くっ……!」

 

イオリのザクが咄嗟に回避する。だが、ほんの少しでもタイミングがズレていれば、頭部を撃ち抜かれていた。

 

シーマは、機体の慣性を完全に手足のように操っている。旋回、加速、空中制動、そのすべてに“無駄”がなかった。

 

だが、それ以上に──

 

(この動き……感情が、乗ってる)

 

イオリは思った。

シーマの攻撃には、ただの実力だけじゃない、何か“強い想い”が込められていた。

 

“試すように”

“拒むように”

“伝えたいように”

 

その複雑な感情が、戦闘行動の一つ一つに滲んでいた。

 

「……中尉、本気で殺す気ですか……ッ!」

 

『甘えた口を叩く余裕があるうちは、まだまだだね!』

 

そう叫ぶように返したシーマの声には、明らかに苛立ちと──そして、“切なさ”があった。

それに、通信用モニターに映る彼女の顔は……

 

(どうしてそんな顔をするんですか、中尉……)

 

なにかに堪えるような顔をしていた……

 

イオリのザクは、追撃をかわしながらシーマの動きに食らいついていく。

空間を切り裂くような弾幕、狭いデブリ間のすれ違いざまの格闘攻撃。通常の訓練ではありえない、文字通り“実戦以上”の模擬戦だった。

 

数分間、一瞬たりとも気を抜けない神経戦。

イオリは必死で喰らいついていくが、シーマの機動はそれすらも引き離すように、さらに鋭さを増す。

 

(……そんなに俺を、遠ざけようとしてるのか……)

 

イオリは息を吐き、バーニアを最大に吹かす。

 

「だったら……見せますよ。俺の“全力”を。」

 

突如、イオリのザクが反転し、シーマのザクの進路に回り込む。

そのままマシンガンを構え、誘導射撃──しかしこれは“フェイク”。

砲火の中をすり抜け、シーマの動きを読んだイオリが、デブリの影から一気に飛び出す。

 

『……っ!?』

 

シーマが初めて、目を見張った。

その回避運動に、いつもの余裕がない。

 

イオリのザクはシーマ機の目の前。

マシンガンの銃口が、シーマのザクの頭部に、寸分違わず突きつけられていた。

 

『……ふっ。大したもんだよ、新人』

 

機内で、シーマはふっと目を細めてモニター越しにイオリの機体を見た。

 

『あんた、今日で“新人”卒業だ』

 

なにか吹っ切れたような顔でシーマが告げる。しかし、

 

「……まだまだ、教えてもらいたいこと、たくさんあります。中尉」

 

息も絶え絶えなイオリの荒い息遣いが聞こえる。

 

『……勝手に、終わらせないでください』

 

しばらくの沈黙が、虚空を包んだ。

静寂の中、シーマのザクがゆっくりと肩を落とす。

 

『……バカだね、あんた』

 

いつもなら茶化して終わらせるのに、今日のシーマは沈黙をひとつ挟んだ。

 

『……寂しくなるじゃないか、そういうのは』

 

小さく、しかし確かにそう呟いたシーマの声に、イオリは言葉を返せなかった。

 

だが彼女は、すぐに調子を戻すように口調を切り替える。

 

『新人、なんて呼べないね。もう』

 

「……じゃあ、これからは“イオリ”と呼んでください」

 

沈黙。

一拍おいて、シーマが鼻で笑う。

 

『……生意気な口きくようになったね』

 

「成長の証だと思ってもらえると」

 

『……ふん、調子に乗るんじゃないよ。次はそうはいかないかもしれないよ』

 

突然、彼女のザクが翻る。

 

『さぁ、艦にもどるよ、"イオリ"さっさとしな』

 

そう告げるのだった。

 




主人公やっと訓練終了ー笑

シーマ様の性格について

  • これ位が丁度いい、デレるのが待ち遠しい
  • もっとツンツン、デレはいらない!
  • もっと包容力がほしい
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