転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
宇宙に散る星々が、ラウンジの窓から静かに覗いていた。
人工照明に照らされたその空間は、昼間の喧騒から離れ、落ち着いた空気に包まれている。
クラウス・シュレンケ大尉は、ラフな格好でいつもの席に腰を下ろし、琥珀色の液体が揺れるグラスを見つめていた。
その向かいに座るのは、シーマ・ガラハウ中尉。煙草をくわえたまま、パイロットスーツの上を腰部分で結んだ状態でソファに深く体を預けている。
「……で、少尉はどうだ?」
不意にクラウスが切り出した。
揺れるグラスの中で、氷が小さく音を立てる。
シーマは煙草の煙を吐き出しながら、視線を逸らす。
「ああ……まあ、多少はマシになったよ。訓練中に死なれる心配は、もうしなくて済みそうだね」
「ふん……ずいぶんと手厳しいな」
クラウスは薄く笑った。
だが、その目は油断なくシーマを見ている。
「あの坊主。お前が付きっきりで訓練してるって話、あっという間に広まったな」
「まったく……どいつもこいつもヒマそうだねぇ。こっちは真面目に鍛えてるってのに」
「真面目に、ねぇ?」
クラウスがグラスをテーブルに置く音が、わずかに響いた。
「……お前にしては、ずいぶん時間をかけてると思ってな。まさか――気に入ってんじゃないだろうな、あの坊主を」
「はあ?」
シーマの表情がわずかに動いた。
眉間にしわを寄せ、煙草をくわえたまま睨み返す。
「冗談はやめとくれよ。あたしが誰かを“気に入る”なんて柄じゃないでしょ」
「それはそうだな。……だが、お前にしては妙に熱心に見える。坊主が“誰か”であることに、少しずつ慣れてきてるような……そんなふうに見えるがな」
「見当違いだよ、クラウス。あたしは、ただ必要だから鍛えてるだけ。前線に出れば命がいくつあっても足りない。だから教えてる、それだけさ」
「ふぅん……“それだけ”ねぇ」
クラウスは肩をすくめ、ウイスキーを口に含んだ。
「……じゃあ、次の部隊訓練次第で、そろそろ“付きっきり”の必要もなくなるかもしれんな。あいつも随分と仕上がってきてるようだし」
その言葉に、シーマの動きがほんのわずか止まった。
火の消えかけた煙草を見つめ、何かを言いかけたが……口には出さず、静かに吸い込む。
「……そうなれば、それに越したことはないね。あたしの手も空くし、別に困ることじゃないさ」
「そうか?」
クラウスはその言葉の裏にある“ためらい”を感じ取りながらも、あえて追及はしなかった。
「……まぁ、あの坊主は悪くないヤツだよ。教えれば吸収するし、根性もある。だが――お前が誰かを受け入れるようになるとはな。少し驚いたよ」
「誰かを“受け入れる”?クラウス、何を言ってるのさ。あたしはそんな柔(やわ)な女じゃないよ。……ただ、見込みがあるから見てるだけ。あの新人を“特別”だなんて思っちゃいないさ」
「……ああ、そうだな」
クラウスはふっと目を細め、窓の外の宇宙に視線を向けた。
「でもな、中尉。誰かに時間を割くってのは、それだけで十分“特別”なんだよ。――本人が気づいてなくてもな」
その言葉に、シーマは黙った。
消えかけの煙草を灰皿に押しつけ、もう一本を取り出す。
ライターに火をつけながら、小さく吐き捨てるように言った。
「……あたしは、誰かを特別にしたいなんて思ってないよ」
「それでも、アイツはお前にとって……ちょっとは“特別”になりつつあるんじゃないか?」
クラウスの言葉に、シーマはあえて答えなかった。
代わりに、長く煙を吸い込み――無言のまま、細くそれを吐き出した。
クラウスはそれ以上何も言わず、ただ静かに笑う。
その笑みは、どこまでも温かく、見守るような笑みだった。
「……ま、次の訓練が楽しみだな。お前の“教育の成果”ってやつを、しっかり見せてもらおうか」
「ふん、見てな。あの新人、きっと驚かせてくれるよ」
シーマはそう言って、煙草を口にくわえたまま立ち上がった。
だが、その背中はほんの少し――名残惜しげに揺れていた。
ーーーーーー
無数の機影が宇宙空間に展開していた。
宙域に設置された目標ポイントに向かい、各機が順にフォーメーションを組み、模擬戦訓練を行う。
その中心には、シーウルフ隊のパイロットたち――そして、かつて初めての部隊訓練において、部隊員から叱責された新人士官、イオリ・クローネの姿があった。
「第3小隊、目標地点に到達。次、突破行動に移る!」
通信機越しに、カールの声が響く。
「了解っす!少尉!いつでもどうぞ!」
仲間の信頼を背に、イオリのザクは滑るように宙を走った。
ブースターを噴かすタイミング、機体の姿勢制御、僚機との間合い。
かつては不安定だったそれらが、今では水を得た魚のように“自然”な動きに変わっていた。
「進路クリアだ!続け!」
『了解!続きます!』
後方から声をかけるエリックも、どこか誇らしげだ。
ミスは、ない。
危険な交差ポイント、連携行動、戦術判断――
いずれも、シーマが付きっきりで叩き込んできた内容だ。
それを、イオリは確かに身につけていた。
遠く離れた指令ポジションの中で、シーマ・ガラハウ中尉はその様子を見守っていた。
オペレーター越しの映像ではあるが、そこには紛れもない“成長した彼”の姿がある。
「……見事なもんだよ、新人」
小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。
訓練プランはすでに後半。
ここまでノーミスでこなしているのは、イオリ率いる第3小隊だけだった。
「第二ポイント通過、全機損耗なし!」
無線の声に、艦橋の空気が一瞬だけ和んだ。
それだけ、今日のイオリの動きは誰の目にも明らかだった。
しかし。
『次の部隊訓練次第で、そろそろ“付きっきり”の必要もなくなるかもしれんな』
先日のクラウスの言葉が、思い浮かぶ、それと同時にシーマの胸には、得体の知れない“空洞”のような感覚が広がっていた。
――良かった。
――ようやく、あたしの“手”が必要なくなったんだ。
そのはずなのに、心のどこかがざわついている。
嬉しいのに、寂しい。
頼られなくなることに、戸惑っている。
「……何言ってんだい、あたしは……」
そっと目を伏せる。
あの訓練後の夜、咳き込みながらタバコを吸ったあの“新人”が、今や完璧に小隊を先導し、部隊全体を視る広い視野も手に入れた、信頼される存在になっている。
それは誇らしい。
間違いなく、あたしが育てた結果だ。
それに――あたしに心を開いてくれた“誰か”が、立派に歩き出したという証明でもある。
けれど、
2人で訓練していた頃の記憶が、ふと頭をよぎる。
苛立ち、嘲り、怒鳴り、それでも必死についてこようとしていたイオリ。
ぶつかり、衝突し、それでも食らいついてきた。
あの時間を、いつの間にか楽しみにしていた自分もいる。
――そのことに今になって気づいてしまった。
「中尉、どうかされましたか?」
オペレーターが声をかける。
「……なんでもないよ。ただの、ちょっとした……燃え尽き症候群ってやつさ」
そう言って、シーマはわざと皮肉めいた笑みを浮かべた。
けれどその目は、イオリのザクが完璧な動きで仲間を導く姿を、じっと追い続けていた。
ーーーーーー
ザンジバル級「ヘルヴォル」のMSデッキ。
パイロットやクルーが寝静まった頃、イオリ・クローネ少尉はいつも通り、自分のザクに向かって歩いていた。
いつのまにか周知になっているが、恒例のシーマとの訓練に向かうためだ。
目線の先――そこには、シーマ・ガラハウ中尉の背中があった。
いつものように声をかけようと口を開きかけたその時、シーマはふいとこちらを見もせず、機体のコクピットへ入る。
その横顔が一瞬だけ見えた。
どこか――寂しそうで、哀しげで、でも何かを振り切ろうとするような、そんな表情だった。
「……中尉」
呼びかけた声は、機体のハッチ音にかき消される。
そのままイオリも自分のザクに乗り込み、コクピットを閉じた。
静寂の宙域。
恒星の光が、緩やかに機体を照らす。
2機のザクが向き合っている。
『……新人。今日が最後の訓練さね』
シーマの無機質な通信が入る。だがその声には、どこか覚悟のようなものが滲んでいた。
「……え?」
『部隊訓練であれだけ動けりゃ、もう、あんたに教えることなんてない。』
少しだけ間が空いた。
『最後だよ、今日で。だから――全力で来な』
「……でも、自分は、まだ――」
『言ったろ。今日が最後だって』
そして次の瞬間――
「っ……!!」
イオリの視界を、強烈な閃光と衝撃が貫いた。
シーマのザクが、スラスター全開で超高速起動をかけていた。訓練区域の空間座標を完全に把握し、重力の残響とデブリの流れを読んで滑るように飛ぶ。
まさに“空間そのものを支配する”動きだった。
『……ついてきな』
シーマのザクはデブリ帯を斜めに切り裂き、視界の端に飛び出たかと思えば、数秒後には死角からの急襲を仕掛けてきた。
「くっ……!」
イオリのザクが咄嗟に回避する。だが、ほんの少しでもタイミングがズレていれば、頭部を撃ち抜かれていた。
シーマは、機体の慣性を完全に手足のように操っている。旋回、加速、空中制動、そのすべてに“無駄”がなかった。
だが、それ以上に──
(この動き……感情が、乗ってる)
イオリは思った。
シーマの攻撃には、ただの実力だけじゃない、何か“強い想い”が込められていた。
“試すように”
“拒むように”
“伝えたいように”
その複雑な感情が、戦闘行動の一つ一つに滲んでいた。
「……中尉、本気で殺す気ですか……ッ!」
『甘えた口を叩く余裕があるうちは、まだまだだね!』
そう叫ぶように返したシーマの声には、明らかに苛立ちと──そして、“切なさ”があった。
それに、通信用モニターに映る彼女の顔は……
(どうしてそんな顔をするんですか、中尉……)
なにかに堪えるような顔をしていた……
イオリのザクは、追撃をかわしながらシーマの動きに食らいついていく。
空間を切り裂くような弾幕、狭いデブリ間のすれ違いざまの格闘攻撃。通常の訓練ではありえない、文字通り“実戦以上”の模擬戦だった。
数分間、一瞬たりとも気を抜けない神経戦。
イオリは必死で喰らいついていくが、シーマの機動はそれすらも引き離すように、さらに鋭さを増す。
(……そんなに俺を、遠ざけようとしてるのか……)
イオリは息を吐き、バーニアを最大に吹かす。
「だったら……見せますよ。俺の“全力”を。」
突如、イオリのザクが反転し、シーマのザクの進路に回り込む。
そのままマシンガンを構え、誘導射撃──しかしこれは“フェイク”。
砲火の中をすり抜け、シーマの動きを読んだイオリが、デブリの影から一気に飛び出す。
『……っ!?』
シーマが初めて、目を見張った。
その回避運動に、いつもの余裕がない。
イオリのザクはシーマ機の目の前。
マシンガンの銃口が、シーマのザクの頭部に、寸分違わず突きつけられていた。
『……ふっ。大したもんだよ、新人』
機内で、シーマはふっと目を細めてモニター越しにイオリの機体を見た。
『あんた、今日で“新人”卒業だ』
なにか吹っ切れたような顔でシーマが告げる。しかし、
「……まだまだ、教えてもらいたいこと、たくさんあります。中尉」
息も絶え絶えなイオリの荒い息遣いが聞こえる。
『……勝手に、終わらせないでください』
しばらくの沈黙が、虚空を包んだ。
静寂の中、シーマのザクがゆっくりと肩を落とす。
『……バカだね、あんた』
いつもなら茶化して終わらせるのに、今日のシーマは沈黙をひとつ挟んだ。
『……寂しくなるじゃないか、そういうのは』
小さく、しかし確かにそう呟いたシーマの声に、イオリは言葉を返せなかった。
だが彼女は、すぐに調子を戻すように口調を切り替える。
『新人、なんて呼べないね。もう』
「……じゃあ、これからは“イオリ”と呼んでください」
沈黙。
一拍おいて、シーマが鼻で笑う。
『……生意気な口きくようになったね』
「成長の証だと思ってもらえると」
『……ふん、調子に乗るんじゃないよ。次はそうはいかないかもしれないよ』
突然、彼女のザクが翻る。
『さぁ、艦にもどるよ、"イオリ"さっさとしな』
そう告げるのだった。
主人公やっと訓練終了ー笑
シーマ様の性格について
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これ位が丁度いい、デレるのが待ち遠しい
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もっとツンツン、デレはいらない!
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もっと包容力がほしい