転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

28 / 94
第26話 開戦、暗躍

ジオン公国軍機動巡洋艦「ヘルヴォル」 ブリーフィングルーム

 

その知らせは、突然やってきた。

 

艦内の警報が静かに鳴り、重厚な自動扉が開く。次々とブリーフィングルームに入ってくるのは、ジオン公国の精鋭──シーウルフ隊の面々だ。

 

隊長のクラウス・シュレンケ大尉を先頭に、各小隊長とその部下たちが順に席に着く。無駄口を叩く者はいない。空気には、どこか緊張と期待が入り混じっていた。

 

中央の演壇に立つのは、「ヘルヴォル」艦長、ゲルハルト・アイゼンベルク少佐。背筋を伸ばしたまま、隊員たちをゆっくりと見渡し、そして口を開いた。

 

「諸君3日後の──U.C.0079、1月3日をもって、ジオン公国は地球連邦政府に対し、正式に宣戦布告する予定だ」

 

一瞬、ブリーフィングルームが静まり返った。

 

息を呑む音。わずかなざわめき。

 

「本格的な、全面戦争だ。……そして我々は、開戦と同時に、“特殊任務”を命じられる見込みだ」

 

アイゼンベルク少佐の声は重く、しかし毅然としていた。

 

「任務内容の詳細は後で説明書するが、諸君らには既にその適性が認められている。選ばれた部隊だ。誇りを持て」

 

その言葉に、ベテランたちはうなずき、若手の中には瞳を輝かせる者もいた。士気が、目に見えて高まっていく。

 

クラウス大尉が立ち上がり、隊員たちに向けて力強く声をかける。

 

「……ついにだ。俺たちが待ち続けた時が来た。戦争は決して楽じゃないが──この時代に生きる者として、選ばれた者として、恥じない戦いをしよう。シーウルフの名に懸けてな」

 

「よっしゃ!!」

「連邦の連中に目にモノ見せてやる!」

部隊員たちの声が重なり、ブリーフィングルームに響く。

 

その中で、イオリは一人、背筋を伸ばしたまま拳を握っていた。

 

嬉しさや高揚感ではなく──胸の奥に、どうしようもない重さがあった。

 

(あと3日……本当に、始まるんだな。人が、殺し合う戦争が)

 

視線を落としたまま、彼はそっと息を吐いた。

 

そんなイオリの隣で、誰かが気配を感じたように身を寄せてくる。

 

「……顔が固いよ、イオリ」

 

耳元でささやくような声。少しだけ、口調が和らいでいた。

 

「シーマ中尉……」

 

思わず名前を呼び返しそうになって、イオリは言葉を飲み込む。シーマは、にやりと笑う。

 

「戦争なんて、誰だって怖いもんさ。でも、怖いままじゃ生き残れないよ。緊張してるヒマがあったら、腕の一つでも磨きな」

 

彼女の声には、からかうような軽さがある。それでも、イオリの胸の奥の張り詰めた糸が、ほんの少し緩んだ。

 

「……はい。でも、やっぱり……俺は怖いです。誰かが死ぬことに慣れたくはない」

 

その言葉に、シーマはふと真顔になる。

 

「……偉いじゃないか、イオリ。そう思えるうちは、あんたは壊れてない。……でも、戦場じゃその気持ち、簡単に潰されるよ。」

 

静かにそう言う彼女の目は、どこか遠い場所を見ていた。イオリは、その横顔から目を離せなかった。

 

やがてシーマは、視線を戻し、いたずらっぽく笑う。

 

「だから、あんたはあたしの後ろに隠れてな。シーマ様が、しばらくの間は守ってあげるよ」

 

「……それは頼もしいですね。でも、できれば俺も、あなたの隣に立ちたいです」

 

思わず口をついて出た言葉に、シーマがぴたりと動きを止めた。

 

二人の間に、ほんの一瞬の沈黙。

 

「……生意気になったじゃないか、イオリ、でも、しばらくは無理だね、あんたは第3小隊長、あたしは第2小隊長だからね」

少し照れたような、でもどこか嬉しそうな声でそう言うと、シーマはふいと視線をそらした。

 

イオリも、思わず頬を赤らめながら、前を向いた。

 

その一言一言に、互いの存在が、確かに心を揺らしていた。

 

ーーーーーー

 

艦長ゲルハルト・アイゼンベルク少佐は、沈黙の中で数秒の間を置いてから、再び口を開いた。彼の背後のホロ投影機が作動し、コロニーの構造図と航路予測マップが空中に浮かび上がる。

 

「これより通達するのは、ジオン公国軍が開戦と同時に実行する“最初の一撃”に関わる作戦だ」

 

隊員たちの顔が引き締まる。先ほどの昂揚とは異なる、明確な“任務”への覚悟が、その場に広がっていく。

 

「対象は、連邦政府が管理するサイド2・8バンチ……コロニー“アイランド・イフィッシュ”だ」

 

ホロ映像には、美しい緑と都市を抱える円筒型コロニーが映し出される。その周囲には、連邦軍の艦艇が配置されているのが見て取れる。

 

「本作戦は、ジオンの宣戦布告と同時に実行される先制攻撃作戦である。まず、我が艦を含む艦隊は連邦軍の迎撃艦隊を撃破し、その後、シーウルフ隊には直接コロニー内部に侵入してもらう」

 

隊員たちは真剣な表情で映像と艦長の言葉を追っている。

 

「作戦の目的は、コロニー市民の“避難誘導”だ」

 

意外な言葉に、隊員の中からわずかなざわめきが走る。

 

「……避難、ですか?」

 

クラウス大尉が眉をひそめながら尋ねると、アイゼンベルクは静かに頷いた。

 

「ああ。我々がこのコロニーを制圧した後、当該コロニーは“質量弾頭”として地球連邦軍本部・ジャブローへの攻撃に使用される。民間人を巻き込むことは、公国軍としてできるだけ避けねばならん。ゆえに、住民の完全避難が我々の任務の一つとなる」

 

一瞬の静寂のあと、ハンスが小声で「地球に……落とすのか」と呟いたが、誰もそれに返す言葉はなかった。

 

「……ですが、艦長。住民が拒否した場合は?」

 

エーリッヒが慎重な声で問うと、艦長は少しだけ言葉を選びながら答える。

 

「その可能性も想定されている。抵抗があった場合は“催涙ガス”を使用し、一時的に鎮圧した上で避難シャトルへ誘導する。あくまで非殺傷性の手段であり、必要最小限の制圧行動とされている」

 

ホロ映像には、コロニー内に展開する避難シャトルの配置と、住民誘導ルートが表示されていた。

 

イオリはその作戦図を見つめながら、僅かに眉を寄せた。

 

(……なんだろう、この違和感は)

 

市民を“助ける”という建前。コロニーを“落とす”という現実。それが同じ作戦の中に並列していることに、胸の中で何かが引っかかっていた。

 

隣にいたシーマが、ふとイオリの様子に気づいた。

 

「……考えすぎだよ、イオリ」

 

「……シーマ中尉……」

 

「嫌な予感は、戦場じゃよくある。でも、それをいちいち気にしてたらキリがないよ。……少なくとも、私たちは民間人を避難させる。それが命令だし、きっと正しい」

 

彼女はそう言って微笑むが、その目の奥に一瞬だけ、イオリと同じ“疑念”の影がよぎったのをイオリは見逃さなかった。

 

「……はい。俺、命令に従います。でも……シーマ中尉。もし何かおかしいと感じたら、そのときは──」

 

言いかけた言葉を、シーマはそっと遮るように笑って返す。

 

「その時は、その時さね。まずは生き延びなきゃ、何も言えないからね」

 

イオリは小さく頷き、視線を正面に戻す。

 

この作戦が、後に彼らの運命を大きく変える“引き金”になるとは、まだ誰も知らなかった。

ーーーーーーー

 

重厚なドアが無音で開くと、薄暗い指令室には既に数名の影が揃っていた。壁に埋め込まれたモニターにはサイド2・8バンチ「アイランド・イフィッシュ」の全体図と、その構造、主要施設、避難シャトルの発着場などが詳細に表示されている。

 

アサクラ大佐は静かに室内へと歩み入り、卓上のホログラム投影装置に指をかざした。

 

「始めましょう。時間が惜しい」

 

部屋の中心に立つ将校風の男が小さく頷いた。「まず、“ブリティッシュ作戦”の第一段階として、アイランド・イフィッシュへの侵攻を開始します。現地には公国軍の正式な参戦布告が出されると同時に、特殊海兵隊を投入する段取りで問題ありません」

 

アサクラは無言で頷き、指先でホロ画面を操作する。画面上に、特殊海兵隊の名前と所属モビルスーツ、配備された兵員と装備品一覧が浮かび上がる。

 

「問題は“ガス”の取り扱いだ。すでに特殊海兵隊には“催涙ガスによる避難誘導任務”として通達済みだ。あくまで彼らの任務は“民間人の制圧と誘導”――聞こえは悪いが、戦時下ではよくあることに見える。疑念を抱かせる要素は最小限に抑えてある」

 

隣に座る情報将校が補足する。「ガスコンテナの外装は催涙ガス容器に偽装済み。識別コードも書き換えられています。現場でコンテナを開けでもしない限り、気付くことは不可能でしょう」

 

アサクラの口元がわずかに緩んだ。

 

「開けさせない段取りになっている。輸送中の安全性を口実に、密閉状態で特殊海兵隊に運搬させ、設置完了後に遠隔信号で解放する仕様だ。現場のパイロットたちは“散布”のタイミングすら知らず、命令された場所に容器を置くだけ。簡単だろう?」

 

通信の向こう、別の将校が皮肉気に笑う。「催涙ガスと信じ込ませ、毒ガスを撒かせるか。人道的任務を与えられた気でいる連中が、自らの手で市民を皆殺しにする。まったく、悪魔も舌を巻く策だな」

 

アサクラは一切の表情を変えずに言った。

 

「感情論は不要だ。我々は戦争をしている。勝つためには、“都市ひとつ”程度の犠牲は必要だ。――まして、あのコロニーには“連邦の心臓部”ジャブローを打撃するだけの質量がある。ましてや、コロニー自体は連邦側だ、人命を残す必要など、初めから計画にはない」

 

室内が静まり返る。誰一人、反論の声をあげない。代わりに、冷たい現実だけが空気を支配した。

 

「それに」アサクラは続ける。

「あの連中には“責任”を取ってもらわねばならん。全てが終わった後で、“作戦の独断的行動により毒ガスが使用された”と報告すればいい。特殊海兵隊が単独で市民にガスを使用し、結果的に大惨事を引き起こした――それで済む話だ」

 

「特殊海兵隊のその後は?」

 

「当然、“汚れ仕事”の専門部隊として、以後は裏任務に従事させる。本人たちには“責任の贖罪”として、正規軍から外されたと言い聞かせる。……万が一、命令を拒否するようなことがあれば、そのときはその時だ。軍事裁判にでもかけてしまえばいい」

 

情報将校が苦笑する。「よくもまぁ、手際がいいものですな」

 

「当たり前だ。この計画は半年以上前から準備されていた。そもそも、特殊海兵隊を“精鋭部隊”と称して編成したのも、この日のためだ。貧困層出身、身寄りなし、問題の少ない忠実な兵士を選び、徐々に孤立させておいた。どこにも逃げ場はない」

 

アサクラはホログラムの中で、特殊海兵隊の顔写真に視線を走らせた。

クラウス・シュレンケ。シーマ・ガラハウ。イオリ・クローネ。……どの顔にも、一切の情が宿ることはなかった。

 

「彼らは“駒”だ。使い終わった駒は、処分する。それが戦争というものだ」

 

そう言いながら、アサクラは静かに立ち上がった。

 

「……では、各自持ち場に戻れ。“開戦”は近い。すべて、手筈通りに」

 

背後で重厚なドアが閉まり、密談は夜の闇に沈んでいった。

 

そして、何も知らないシーウルフ隊は――

“人道任務”という名目の地獄へ向けて、着々と準備を整えていた。

 




アンケート結果、やっぱりガス回避ですねー
まぁ、でも、いうじゃないですか。可愛い子には旅をさせよってね……
ていうのは、さておき、アンケート協力ありがとうございました!
また順次投稿していきますー!
追記、開戦までの日にちが未記載でしたー!

シーマ様の今後

  • 史実通り毒ガス!!けど復讐するよ
  • 主人公勘づき毒ガス回避
  • 毒ガス!するけど、軽め
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。