転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
ーー開戦まで後2日ーー
艦内の照明は夜間モードに落ち、静けさがあたりを支配していた。
だが、格納庫の一角、非常灯が淡く照らす壁際に立つ一人の影があった。
イオリは壁にもたれながら、手元の端末に映る作戦司令書をじっと睨んでいた。
「……おかしい」
呟いた声は、誰に届くでもなく空気に溶けた。
だが彼の目は真剣そのもので、その手は時折震えていた。
「こんな……生活区域の人口密集地に……催涙ガスなんて、置くのか?」
マップには、ガス展開地点が赤いマーカーで記されていた。
その多くが、住宅区や学校施設、医療ステーションの近くを囲うように配置されている。
「もし、ここでガスが撒かれたら……」
イオリの脳裏に浮かんだのは、泣き叫ぶ子供、逃げ惑う市民、混乱するシャトル乗り場。
戦場ではない――日常の只中で、突然に死と混乱が訪れる光景だった。
「……パニックになる。避難どころじゃない……」
さらにマップをスライドさせ、避難ルートを確認する。
複雑に折れ曲がる通路、封鎖されそうな狭い連絡路、遠回りになる補給ライン。
「……これじゃ、シャトルまで辿り着けるのに時間がかかりすぎる……」
まるで、“逃がす気がない”かのようだ。
イオリは端末を下ろし、深く息を吐いた。
その胸の奥、感覚とは言えぬ感覚が、不気味に疼いている。
「開戦まで後2日、なのに、なんだ……この感覚。まるで……腹の底から冷えるような……」
理屈ではない、“直感”だった。
命令に従って動けば、何かが、取り返しのつかないことになる――そんな確信にも似た不安。
そのとき、不意に背後から声がした。
「どうかしたのかい、イオリ。そんな難しい顔しちゃって」
シーマだった。
いつもの皮肉気な笑みは控えめで、その目は鋭く、イオリの内面を見透かそうとするように揺れていた。
「……シーマ中尉。今、お時間いただけますか」
イオリの真剣な声に、シーマは少しだけ表情を変えた。
その瞳に、わずかな警戒と、同時に興味が灯る。
「……あたしの部屋で話そうか。人気もないし、ゆっくりできる」
そして彼女は、くるりと踵を返し、無言のまま歩き出した。
イオリも黙ってその後に続く。
シーマ中尉の部屋に入った瞬間、イオリは少し驚いた。
そこには、戦場を駆け抜ける彼女からは想像もつかない、整然とした空間が広がっていた。
シンプルな私物の並び、清潔なベッドメイキング、埃一つない床。
どこか軍人らしい無駄のなさと、生活感のバランスが絶妙だった。
(……几帳面なんだ)
「で? なにかあったのかい?」
椅子に腰掛け、シーマは落ち着いた様子で問いかけた。
イオリは静かに頷き、手元の端末を開いて話し始めた。
作戦司令書のガス展開地点、避難経路の不自然さ、そして感じた違和感――
言葉を選びながらも、イオリは自分の思考を丁寧に吐き出した。
シーマは黙ってそれを聞いていた。ときおり頷き、口元に手を添えて考える仕草を見せる。
やがてイオリの説明が終わると、彼女は深く息を吐いた。
「たしかに、怪しいね。言われてみれば……いくつも引っかかるポイントがある」
「やっぱり……そう思いますか」
「あたしもさ、この作戦、どこか“整いすぎてる”気がしてたんだよ。ブリーフィングの資料も妙に簡素だったし……艦長にも事前報告が回ってないって話、聞いたことある」
そう言ってから、シーマは真剣な目でイオリを見た。
「でもね、これは……あたし達クラスで何とかなる話じゃないよ。勝手に疑って動けば、軍規違反で処分される可能性だってある。……だけど、それでも、見過ごせない」
その声には、覚悟のようなものが滲んでいた。
長年、軍の闇をかいくぐってきた彼女だけが知る、“現実”があった。
「まずは、クラウスに相談しよう。あいつなら、真面目に受け止めてくれる。あんたの勘を、無視するような人じゃない」
イオリは少し安堵の色を浮かべたが、シーマはさらに言葉を重ねた。
「でもね、イオリ。もしこれが……あんたの想像する通りなら――」
そこまで言いかけて、シーマは短く笑った。だが、その笑みはどこか乾いていた。
「……あたしらシーウルフ隊は、“地獄”をつくることになるよ。知らずに手を汚して……そのツケを背負う。いや、背負わされるって方が近いかもね」
「……」
イオリは静かに目を伏せた。
この隊が、仲間が、罪もない人々を巻き込むなんて、絶対にあってはならない。
だからこそ、この“直感”を信じる必要がある――そう思えた。
「行きましょう、中尉。……クラウス大尉に、話を」
「そうだね。あたしらの良心を、見捨てないためにね」
そして二人は、静かに立ち上がった。
その背中には、確かな決意が刻まれていた。
ーーーーーー
「クラウス大尉、少し、お時間をいただけませんか」
イオリの真剣な声が、艦内の静けさを破った。
その隣に立つシーマは、無言で立っていた。
「……いいだろう。入れ」
部屋に通されると、クラウス・シュレンケは端末の画面を閉じ、静かに二人を見つめた。
机の上には、すでに開かれていた作戦司令書。そこには“例の作戦”の要項が記されている。
「その顔……何か言いたいことがあるんだな。どうした、イオリ」
「……この作戦、どうもおかしい」
イオリの言葉は、まっすぐだった。
緊張もしている。だが、それ以上に「信じたい」という意志が強く出ていた。
クラウスは黙っていた。
一瞬、目を細め――そして、手元の端末を指で軽く叩いた。
「この作戦の内容は、俺も知ってる。お前らに渡されたのと同じだ。……コロニー市民の避難を迅速に進めるため、一部で催涙ガスを展開して“誘導”する。それで連邦の抵抗を抑えつつ、コロニーを質量弾頭として落とす。……そういう任務だ」
「……避難誘導のために、催涙ガスを使うって……」
イオリは、言葉を選びながらも、抑えきれない疑念をそのまま口にした。
「こんな人口密集区域にガスなんか使えば、パニックになります。そもそも、避難経路も不自然に複雑で、まるで避難を遅らせてるみたいなんです。……まるで“避難させる気がない”ような……」
クラウスは、重く息をついた。
だが、その表情は変わらない。
「お前が言うことは、わかる。だがな……命令なんだよ、イオリ」
「……軍人は命令に従うもんだ。それが戦場ってもんだよ」
クラウスの口から、低く響いたその言葉。
穏やかな口調ではあったが、それは明確な“線引き”だった。
イオリは、拳を強く握った。
胸の奥が熱く、重苦しくなる。
……命令。それは、たしかに軍人としての義務だ。
だが、それが“虐殺”だとしたら?
その瞬間、言葉がこみ上げた。
口に出したら、後戻りできない。
けれど――
「たとえそれが……っ!」
イオリは一歩、クラウスに踏み出すようにして叫んだ。
「たとえそれが“虐殺”だったとしても――大尉は、それに従うのか!?」
部屋の空気が凍りついた。
クラウスの目が細められる。
その瞳は、若き隊員の激情を見据えるように、真っすぐに。
隣にいたシーマも、わずかに眉を上げた。
驚きと、少しの誇らしさが混じったような表情で、ふっと息をついた。
「……落ち着きな、イオリ」
彼女の声は、決して怒っていなかった。
むしろ、宥めるように――だが、芯のある強さを帯びていた。
「クラウスも、その作戦を“頭から信じてる”わけじゃないんだよ。そうだろ?」
イオリは、きょとんとした顔になる。
「え……?」
クラウスは、深くため息をついた。
そして、椅子から立ち上がり、窓際までゆっくりと歩いた。
遠く、戦艦の格納庫を見下ろすように、腕を組んで――
「やっぱ、オメェにはわかるか、シーマ」
呟くように、だが重々しく。
「……確かにな。俺はこの作戦、最初っからどこか引っかかってた。
避難誘導ってわりに、あまりにも準備が杜撰だ。
避難経路は分かりづらく、シャトルの発着枠も絞られてる。
なのに“催涙ガス”なんてものを使う計画。……最初に読んだときから、違和感はあったさ」
振り返ったクラウスの顔には、苛立ちと疲れが浮かんでいた。
「だがな……俺は“ジオン兵”だ。部隊を率いる隊長だ。
確たる証拠もなしに上の命令を否定して、勝手に動いたら……部隊ごと粛清されるリスクだってある」
言葉を区切り、クラウスはイオリをじっと見つめた。
「……俺一人の判断で、シーウルフ隊を地獄に送るわけにはいかねぇんだよ」
その言葉に、イオリは押し黙った。
責めたつもりはなかった。
でも――彼の言葉には、確かに正しさもあった。
だが、それでも。
「……」
シーマが、静かに口を開いた。
「クラウス」
その一声で、空気が変わる。
「……あたしらシーウルフ隊はね、そんな“柔な隊長”に付いてきたわけじゃないんだよ」
その声は、じわりと熱を帯びていた。
「……クラウス、あんたがいたから、みんな付いてきた。
あんたの命令なら、誰だって喜んで死地に向かう。
あんたが“意味がある”って思った任務なら、躊躇なく従う。
だけど――自分の意思を曲げてまで、軍の"犬"に成り下がるつもりなのかい?
それが、あたしたちの“隊長”かい?笑わせてくれるね」
クラウスは、言葉を失った。
長い沈黙。
そして――小さく、笑った。
「……ふん」
その笑いには、懐かしさのような、諦めのような、様々な色が混ざっていた。
「誰に向かってそんな偉そうなこと言ってやがる……シーマ」
彼はゆっくりと、背筋を伸ばした。
「だが、そうだな。……俺たちは“狼”だ」
低く、力強く――その声が響いた。
「上層部の犬なんかじゃねぇ。
俺たちは群れてこそ強えぇ“狼”だ。
一人で吠えても意味がねぇ、仲間がいるから戦えるんだ。……それを忘れてたよ」
その目が、ようやくイオリと向き合った。
「すまんな、シーマ。……そして、イオリ」
クラウスは真っ直ぐに向き直った。
「お前の言葉は、正しかった。……軍人ってのは、命令に従うもんだ。
だが“正義を捨てる”ことまで命じられてるわけじゃねぇ。
お前の疑問を、もう一度聞かせろ。細かくな」
イオリは、驚いた顔を見せ――
そして、ゆっくりと頷いた。
「……はい」
部屋の空気が変わった。
隊長としての威厳を保ちながらも、仲間として共に歩むことを選んだ男。
正義を信じ、声を上げることを恐れなかった若き士官。
そして、その二人を支える、包容力と信念を持つ女性士官。
狼たちは歩みを同じくする。
うぅーーーーん
この展開はどっちに転ぶ?笑
作者もまだ悩んでまーす!笑
みなさんシーマ様好きですもんね、あんな荒んでるシーマ様みたくないよね(´・ω・`)
僕もだーーーーー!!笑
追記、開戦までの日付書いてなかったっす(^◇^;)、前話にも記載してますわ
好きなキャラ
-
主人公
-
シーマ様
-
クラウス大尉
-
カール二等兵
-
エリック伍長
-
ハンス軍曹
-
エーリッヒ軍曹
-
グスタフ曹長
-
クルト整備長
-
ゲルハルト艦長
-
アサクラ笑