転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第28話 分水嶺

クラウスは机の上に広げられた作戦資料を指先で叩きながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「……まず、催涙ガスの成分だ。分析資料には“非致死性”と書いてあるが、構造式が見当たらねぇ。こんなもん、信じろって方が無理がある」

 

「ガスの搬入についても、妙だね。事前にヘルヴォルに搬入されずに、作戦実行直前の搬入になってるね。しかも搬送記録が暗号化されてて、通常のアクセスじゃ読めない」

 

シーマが静かに言いながら、携えた端末を操作して手元のデータをクラウスとイオリに見せた。

 

「中身を開けるには艦長クラス以上の権限が必要さね。つまり、これは――」

 

「“部外者に見せる気がない”ってこったな」

 

クラウスの言葉に、イオリがうなずいた。

 

「じゃあ、確かめるしかない。俺たちで、艦長に話を通して――真実を見極めるしかない」

 

その言葉に、クラウスはにやりと笑って、シーマとイオリを順に見渡した。

 

「やれやれ……お前ら、もう完全に共犯じゃねぇか」

 

「ま、あたしは最初っからそのつもりだったけどね」

 

シーマが肩をすくめ、笑みを浮かべた。

 

クラウスは軍帽を手に取り、軽く頭にかぶると、静かに立ち上がった。

 

「よし。行くぞ。……艦長に、腹を割って話してくる」

 

ーーーーーー

 

 

ヘルヴォル艦内――艦長執務室。

 

金属製の重厚な扉の前に立つクラウス、シーマ、イオリの3人。緊張が、その場を包んでいた。

 

イオリが息を整え、クラウスを見上げる。

 

「……本当に、いいんですか?」

 

「もう決めたことだろ。引き返す気はねぇよ」

 

クラウスは頷き、目を細める。

 

「艦長は規律に厳しいが、信念のある男だ。……真実を伝えりゃ、無視はしねぇはずだ」

 

「それでも……ただの直訴じゃ済まない可能性もある。最悪、拘束されるかもしれないよ」

 

シーマが静かに言う。

 

「覚悟はできてます」

 

イオリが即答した。

 

「……なら、行こう」

 

クラウスが手を伸ばし、艦長執務室のドアをノックする。

 

「クラウス・シュレンケ大尉です。緊急に、相談したいことが、任務に関わる重大な報告です」

 

一拍の静寂。

やがて、返事が返ってくる。

 

《入れ》

 

扉を、重々しく開ける

 

そこには、姿勢を正し、背後の窓から宇宙を見下ろしていた――ヘルヴォル艦長、ゲルハルト・アイゼンベルク少佐の姿があった。

 

ゆっくりと振り返った男は、3人を鋭い眼差しで見つめ、口を開く。

 

「……クラウス。お前が“二人を連れて”ここに来たということは、並の相談ではなかろう」

 

その声は、厳しくもどこか予感を含んでいた。

 

クラウスは、背筋を伸ばし、毅然とした声で答えた。

 

「はい。艦長……これは、命令違反の誹りを受けても伝えねばならぬ“異常”です。俺たちは――この作戦に、重大な疑念を抱いています」

 

その言葉に、アイゼンベルクの眉がわずかに動いた。

 

「……よかろう。詳しく聞こう」

 

閉まりゆく扉の向こうで、密談が始まろうとしていた。

 

この直談判は、シーウルフ隊の運命を大きく変える――その“分水嶺”となる。

 

ーーーーーー

 

ヘルヴォル艦長執務室。

分厚い扉がゆっくりと閉まり、部屋の中に、静かな緊張が満ちていく。

 

ゲルハルト・アイゼンベルク少佐は、腰を下ろすことなく、まっすぐ3人を見据えていた。

その背後には宇宙の闇が広がり、照明に照らされた銀髪が、毅然たる軍人としての威厳を際立たせている。

 

「……まず、状況を説明しろ」

低く、落ち着いた声音。それでいて、ほんのわずかに警戒を含んでいた。

 

クラウスが一歩前に出て、軍人としての礼を取った後、簡潔に切り出す。

 

「艦長。私たちは、次の降下作戦……“避難誘導任務”における任務内容に不審な点があると見ています」

 

「ふむ」

 

「搬送経路の不自然さ、物資内容の不透明さ、シャトル発着の規模に対する説明の不十分さ。加えて、作戦概要に含まれていた“催涙ガス”の項目――明らかに情報の開示が不完全です」

 

イオリが続けて一歩進み、言葉を継ぐ。

 

「端末で確認できた限りでは、“ガス”の仕様は非公開。構造式も添付されておらず、しかも配備されるのは、作戦実行直前です。……これは“避難誘導”ではなく、何かを隠している動きです」

 

アイゼンベルクの眉が僅かに動く。

 

「ガスの正体は……催涙ガスではない、ということか?」

 

「はい」

 

イオリは即答した。

 

「しかも、使用目的は“民間人の制圧”です。つまり……これは、完全な非武装目標に対する攻撃――避難以外の"何か"が行われる可能性があると、我々は見ています」

 

シーマは、イオリの隣に立って言葉を加える。

 

「作戦を進めれば、取り返しがつかない事態になりかねない。だから、今こうして直訴しに来たんです、艦長。……私たちの独断では、どうにもならないからです」

 

再び沈黙。

アイゼンベルクの鋭い眼差しが、クラウスからイオリ、そしてシーマへと順番に向けられる。

 

その眼は、疑念ではなく――観察していた。

3人の言葉に、信念があるか。怯えや利己心ではなく、真正面から真実を問いに来ているのか。

それを見極めるように。

 

やがて、アイゼンベルクは静かに息を吐いた。

 

「……お前たちの疑念には、筋が通っている。感情論ではない、情報に基づいた論拠がある。……だが」

 

その口調が、わずかに重たくなる。

 

「それが“妄言”である可能性も、否定できん」

 

イオリが、息を飲む音を立てた。

 

「“命令”というものはな、若造――」

アイゼンベルクの視線が、まっすぐイオリを貫いた。

 

「上に立つ者が、戦況全体を見て決定する。全貌が見えぬ下の者に、その意図は測れん。

“不可解”に見える命令も、時には必要な決断であることもある。……だからこそ、軍隊は命令系統を守らねばならん」

 

だが――と、彼は言葉を続けた。

 

「それでも。……俺は、部下の声を“無視”する上官ではない。

現場の兵士が、命を賭けて訴える言葉は、軽んじるべきではない。だからこそ、俺は判断するための“確証”が欲しい」

 

その声に、クラウスが静かに問う。

 

「……確認の許可を、いただけますか?」

 

「不可能だ」

 

アイゼンベルクは即答した。

 

「先程、少尉が説明した通り。件の“ガス”は、作戦当日に直接、現地宙域に搬送される。しかも、最高機密指定の貨物。情報アクセスには大佐級以上の認証が必要だ。俺ですら、今は詳細を知ることができん」

 

シーマが目を細める。

 

「つまり……ガスの中身を確認するには、“作戦当日”まで待たねばならない、とおっしゃるので?」

 

「ああ。しかも、お前たちがそれに触れることは、原則として作戦実行中のみだ、それ以外では禁じられている」

 

部屋の空気が、再び張り詰めた。

 

しかし、アイゼンベルクはそのまま言葉を続けた。

 

「だが――」

その声には、わずかな熱がこもっていた。

 

「事故なら……話は別だ」

 

イオリが顔を上げる。

 

「……事故?」

 

「作戦当日、ガスが積み込まれるタイミングで“事故”を起こせ。積荷の固定不備、格納庫内でのシステムエラー、あるいは搬送ルート上の機械トラブル。形式は問わん。

とにかく、“予期せぬ形で”一部の積荷を開ける状況を作れ」

 

クラウスが、じっと艦長を見つめる。

 

「それは……艦長の命令、ということで?」

 

「……違う。あくまで、俺は“アドバイス”をしたに過ぎん。理解したか、クラウス?」

 

その目は鋭いが、確かに味方だった。

 

「……はい、艦長」

 

クラウスは敬礼した。

 

「その“アドバイス”、しかと胸に刻みました」

 

アイゼンベルクはゆっくりと頷き、最後に静かに言葉を締めくくった。

 

「……軍人としての責務と、人としての正義。それは時に相反する。だが、どちらかを選べと迫られた時、自分に恥じぬ方を選べ。

それが、俺の信条だ。……それを選べる男たちが、俺の部下であることを誇りに思う」

 

その言葉に、3人は無言で頷いた。

 

ヘルヴォル艦内。

その一室で交わされた密談は、まだ誰にも知られていない。

だが――その時、確かに、歴史の歯車が一つ、音を立てて動いたのだった。

 

 




あれ?まだ一年戦争はじまってないやん。と、きづいた今日この頃

好きなキャラ

  • 主人公
  • シーマ様
  • クラウス大尉
  • カール二等兵
  • エリック伍長
  • ハンス軍曹
  • エーリッヒ軍曹
  • グスタフ曹長
  • クルト整備長
  • ゲルハルト艦長
  • アサクラ笑
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