転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第29話 仲間、密談

艦長室を出た三人は、無言のまま短い通路を歩いた。

各々の顔に浮かぶのは、重たい決意と、揺るがぬ覚悟。

 

この先、どんな結果になろうとも――

この作戦は、自分たちの責任になる。

 

だからこそ、言葉にせずとも、三人の呼吸は揃っていた。

 

ブリーフィングルームのドアが閉まると同時に、シーマが先に口を開いた。

 

「“事故を装って確認しろ”、ね……。やっぱり、あの艦長、ただの堅物じゃないね」

 

「だが、手段はこっちで考えろ、ってことだ」

クラウスは壁に背を預け、腕を組む。

 

イオリは会議卓の端末を起動し、貨物搬入ルートと作戦当日のシャトルスケジュールを呼び出した。

 

「当日、貨物が積み込まれるのは第2格納庫。時間は――降下作戦の2時間前。搬入作業は補給班が行いますが、警備はシーウルフ隊が分担する予定です。各小隊に警備配置が割り振られるはず」

 

「なら……」クラウスがうなった。

 

「事故を起こせるとすれば、その時しかない。積み込みの最中に、何らかのミスを装って――ガスコンテナのひとつを開ける。それしかないな」

 

シーマが端末に目を細めた。

 

「……だか、やるなら確実に、そして自然に。何より“誰にも怪しまれないように”やらなきゃねぇ。

連邦のスパイじゃなく、ジオン兵としての“誤操作”に見えなきゃ、即拘束されちまうよ」

 

「問題はそこです」

イオリが画面を指差す。

 

「この“Z-86型保管コンテナ”、密閉構造で二重ロック。通常の事故じゃ開かないようになってる。

物理的に破損させるか、誤った操作で角度を歪めて破損……でも、どちらにしても“やりすぎ”たら上層部が動く」

 

クラウスは思考に沈み、目を閉じる。

 

「――必要だな。他の小隊の協力が」

 

「……だね」シーマが小さく頷いた。

 

「事故に見せかけるには、搬入班、警備班、輸送経路の把握、そして時間稼ぎの担当。最低でも、2小隊以上が連携して動かないと、自然な“事故”は成立しない」

 

「だが、下手をすれば全員が処分される。最悪、軍法会議もあり得る。協力を求めるには、それだけの“理由”を提示しなきゃならない」

 

イオリは、画面を閉じて顔を上げた。

 

「……説得します。俺がやります。あの人たちなら、話せばわかってくれるはずです」

 

クラウスとシーマは、少し目を合わせたあと、ゆっくりと頷いた。

 

ーーーーーー

 

詰所の照明は、いつもより暗く感じた。

クラウス、シーマ、そしてイオリの三人が立つ前に、整備用の長机を囲むようにベテランたちが座っている。

 

グスタフ・ヴァールは、ずっと目を伏せたまま煙草をくゆらせており、

エーリッヒ・ヴォルツは、片肘をついて沈黙しており、ハンス・グリューネルだけが、表情に出さぬよう注意深く様子を伺っていた。

 

クラウスが口を開く。

 

「……突然で悪い。だが、他でもない。お前たちにしか頼れない話だ」

 

それから一呼吸。空気が、張り詰める。

 

「今回の降下作戦――搬入される“催涙ガス”の正体が怪しい。俺たちは、毒ガスの可能性を疑っている。

もし本当なら、民間人への使用を含む非人道的な作戦になる」

 

その言葉に、エーリッヒの眉が僅かに動いた。

 

「根拠はあるんですか?」

 

「確たる証拠はない。だが、状況がそれを裏付けてる。……ガスの中身は開示されず、警備配置にしても妙に厳重だ、しかし、作戦配備はずさんだし、市民の避難についてもまるで考えられてない」

 

クルト整備長が顔を上げた。

鋭い目がクラウスを射る。

 

「隊長、その推測だけで、作戦妨害をする気か? 俺たちが“軍人”だってこと、忘れたわけじゃねえだろ?」

 

「忘れてない。むしろ、俺たちが“軍人”だからこそ……やらなきゃならねぇ」

 

クラウスが、一歩前に出る。

 

「俺たちは国に忠誠を誓った。だがそれは、“正義を捨てる”って意味じゃない。

もし俺たちが毒ガスを運び、ばら撒く片棒を担がされるなら……その先に待ってるのは、“何も信じられなくなる戦争”だ」

 

「正義だと?」グスタフが唐突に、しかし、静かに言った。

 

「隊長あんたは“戦争に正義がある”と思ってるのか? だったら俺が、この腕で殺すことになる、連邦の兵士や、基地ごと爆破する技術者たちに――どう弁明すればいい?」

 

シーマが前に出た。

彼女の目には、かすかに怒りと悲しみが宿っていた。

 

「……あんたが殺すのは、“敵”だ。少なくとも、銃を取って、こちらを殺そうとする相手さ。

でもこれは違う。もし毒ガスなら、戦おうともしてない民間人を、赤子を、病人を……問答無用で殺す作戦なんだよ」

 

沈黙。

 

それは、重たい鉄板のように、詰所を覆った。

 

イオリが、震える拳を机の上に置いた。

 

「俺は、新人です。まだ、戦争を“語る”には早いかもしれない。

でも……このまま黙っていたら、何年経っても、“自分のことを許せない人間”になります」

 

ベテランたちが、彼を見た。

 

イオリは視線を下げず、言葉を続けた。

 

「俺はこの部隊が好きです。クラウス大尉の背中も、シーマ中尉の強さも、整備長の小言も、エーリッヒ軍曹の冷静さも、グスタフ曹長の戦いぶりも……全部、俺が“ジオンでいたい”と思わせてくれる人たちです。

だから、あなたたちの誇りまで、汚させたくない」

 

沈黙が、さらに重く落ちた。

 

エーリッヒが、机に置いた手をぎゅっと握った。

 

「……軍は、命令に従う場所だ。疑ってはいけない場所でもある。

でも……命令が間違っていたら……それでも、黙って従うのが正しいのか……って、時々……思ってたよ」

 

彼は、低く、だが確かに言った。

 

「俺は、隊長たちに力を貸す。確認しなきゃいけない。俺自身のためにも」

 

ハンスもゆっくりと頷いた。

 

「この作戦に協力すること自体が、すでに“覚悟”だ。なら、その前に中身を確かめる。それは当然だと思います」

 

グスタフが、ゆっくりと立ち上がった。

 

煙草を捨て、帽子を脱ぎ、頭を掻いたあと、深く息を吐いた。

 

「……お前たちのその“青さ”、正直うらやましいよ。

俺は、とうの昔に忘れちまったもんだからな。……だが、いいさ。たまには、青臭くてもいい」

 

クラウスは彼らを、見ながら

 

「責任は、俺たちが持つ。作戦のタイミング、事故の導線……すべて俺が練り直す」

 

その言葉にと共に、シーマとイオリは深く頭を下げた。

 

ーーーーーー

 

暗がりに包まれた小さな部屋に、イオリ、エリック、カールの三人がいた。

窓のない空間は、時折響く艦の機械音だけが聞こえ、沈黙をより深く染め上げていた。

 

イオリは壁に背を預けたまま、俯き気味に息を吐いた。

 

「……いきなり呼び出して、悪かった」

 

カールが椅子の背もたれに体を預けながら、軽く肩をすくめる。

 

「いや、別にいいっすけど……雰囲気、やけに重いっすね。

なんか、あったんすか? 変な任務でも入ったとか」

 

エリックは、そんなカールを横目で制しつつ、静かにイオリを見つめていた。

 

「少尉……ただごとじゃなさそうですね」

 

イオリは一呼吸置いて、二人に向き直った。

彼の目は、普段とは少し違っていた。躊躇いも、威圧もなく、ただ“覚悟”だけを湛えていた。

 

「……今回の降下作戦、実は少し……気になる点がある。

俺はそれを、どうしてもこの目で確かめたい。……けど、それには、どうしても……お前達の力が必要だ」

 

カールが、眉をひそめる。

 

「なんすか……“この目で確かめたい”って。

作戦内容に、なんかおかしいとこでもあるんすか?」

 

イオリは答えない。いや、答えられない。

だが、彼の沈黙は、何より雄弁だった。

 

「……なるほど。軍の命令に、疑問があるってことですか」

 

エリックが、慎重に言葉を繋げる。

 

「違うかもしれない。でも――そうかもしれない。

だから、確かめる。俺たち自身で」

 

イオリは、それだけを言った。

 

カールは腕を組み、眉間に皺を寄せた。

 

「でもそれ……バレたら、やばいっすよね。命令違反ってやつっす。

最悪、艦から放り出されるんじゃ……」

 

「……覚悟はしてる。全部、俺の責任にする。

だから、部下を巻き込みたくはない。だが――信じたいんだ。俺たちが“何のためにここにいるのか”を、もう一度確かめるためにも」

 

イオリの言葉は、決して声高ではなかった。

けれど、その一語一語が、カールの胸を重く打った。

 

エリックが、深く息をついた。

 

「少尉……その“確認”、本当に必要なんですね」

 

イオリは、はっきりとうなずいた。

 

「直感でもある。だがもう後戻りはできない。

このまま見て見ぬふりはできない。……だから、俺は動く」

 

沈黙が部屋を包む。

しばしの間、誰も口を開こうとはしなかった。

 

カールが、ふと天井を見上げ、ぼそりと呟いた。

 

「俺、正直言って……めっちゃ怖いっすよ。

なんか……見ちゃいけないもん、見る気がするっす」

 

イオリは微笑を浮かべたが、それはどこか苦しげだった。

 

「俺も同じだ。でも、知るべきことを知らずにいたら……いつかきっと、もっと大きな後悔になる」

 

エリックが、少し笑った。

 

「らしくないですね。少尉が弱音を吐くなんて」

 

「……人に頼れるようになったってことだよ」

 

カールは、しばらく目を伏せていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。

 

「……わかったっす。少尉がそこまで言うなら、俺、付き合うっすよ」

 

エリックも、椅子の背から体を起こし、真顔で言った。

 

「俺も、やりますよ。

ただし……本当にヤバそうだったら、すぐ止めますからね。それだけは、約束してください」

 

イオリは、しっかりと二人の顔を見て、力強く頷いた。

 

「約束する。ありがとう、二人とも……」

 

彼の声には、深い感謝と、揺るぎない決意が込められていた。

 

小隊の三人は、静かに視線を交わした。

もう、言葉はいらなかった。

 

ーーーーーー

 

エンジンの振動音すら届かない、使われなくなった格納ブロック。

今夜、その薄暗い区画に集まったのは、シーウルフ隊の中でも選ばれた者たちだった。

 

作戦当日まであと2日。

“ガスの中身”を確認するための唯一のチャンス――そのために、「事故に見せかけて積荷を開く」作戦を、ここで練らなければならない。

 

金属の壁に背を預けて座っていたグスタフが、酒瓶を掲げて一口飲み、ため息まじりに言った。

 

「……まったく、面倒な話だ。艦長がガスの中身を事前に見られないってのが、まず無理がある。だったら、当日に事故を装うしかない。だが――」

 

「“事故”ってのは、よく練らないと本当に事故る」

 

ハンスが腕を組んで続けた。

 

「“作業中の誤作動”か、“積荷の落下”。あるいは“輸送ラックのトラブル”。どれも可能性はあるが……艦内でやるのはリスクが高い」

 

エーリッヒも頷く。

 

「搬出のタイミングは、MSへの装備品積み込みと一緒。艦内で不自然な騒動を起こせば、すぐ整備科や警備班が駆けつけてくる。

……やるなら、宇宙空間。降下艇搬出中だ」

 

クラウスが頷きながら、手元の簡易モニターに指を走らせる。表示されたのは、当日の輸送シーケンスだ。

 

「ここだ。ガスの入ったコンテナは、降下艇に積み込まれるまで数分だけ、宇宙空間に晒される。艦から搬出された直後、MS用のアームで吊り下げられ、艇の格納ハッチへ移される。この“空中受け渡し”の最中に、トラブルを装う」

 

「吊り下げ中にアームが“誤作動してコンテナを落下”、だな」

 

グスタフがうなりながら言う。

 

「コンテナは衝撃で部分破損、中身が“わずかに漏れた”。そのタイミングで、中身がガスかどうかを確認する。……その程度の事故なら、あとの言い訳は整備側でどうとでもなる」

 

艦内の人目を避けて行われた密談は、クラウス大尉の決断によって、徐々に“作戦”の形を帯び始めていた。

 

「……あとは、“細工”をどう自然に見せるかだな」

 

クラウスが呟いたその瞬間、格納庫の奥の暗がりから、ふわりと煙の匂いとともに現れた影があった。

 

「――その辺の“自然な細工”なら、俺の出番かねえ、大尉」

 

現れたのは、酒の香りを身にまとった男、整備長クルト・ヘルツァーだった。

 

「クルト。聞いてたのか」

 

「聞こえちまうさ。それにここの壁は薄い。……まぁ、おかげで俺も事情が飲み込めたよ。いい度胸してるじゃねえか、隊長さんよ」

 

クラウスはため息をついた。

 

「勝手に立ち聞きしておいて、ずいぶんだな」

 

「立ち聞きはしたが、口は軽くねえさ。あんたの顔を潰す気もねえ。……だがな、大尉」

 

クルトはゆっくりと歩み寄り、クラウスの前で立ち止まる。

 

「もしその“ガス”が、お前らの言う通りのもんなら……俺にも責任はある。“何も知らずに、あれを積んだ整備長”ってな。そいつは気分が悪い」

 

クラウスはじっとその目を見つめ、そして静かに言った。

 

「……協力してくれるか」

 

「当然だ。言うまでもねぇ」

 

クルトの口元がゆるむ。

 

「で、俺の役回りはなんだ?」

 

クラウスは即座に指示を与えた。

 

「事故を装うには、“アーム誤作動”の名目が必要だ。だがその誤作動を裏付ける“整備記録”や“点検記録”がなければ、不自然になる。整備班の記録を調整し、直前に“異常兆候あり”という診断ログを残せるか?」

 

「ログの改竄か。ああ、それくらいは朝飯前だ。副整備長には“念のため予備整備記録を残した”って言っておけば済む話だ。……だが、あくまで整備不良が原因だって印象を与える程度にしといた方がいい。誰かが“調査”を始めたとき、足がつくからな」

 

「わかった。あくまで自然に、“事故の土壌があった”ように見せてくれ。あんたにしか頼めない」

 

「任せな。……それともう一つ、オマケだ」

 

クルトは懐から銀色の小型パーツを取り出した。

 

「何だそれは」

 

「安全ロックの“物理キー”だよ。アーム起動時に自動ロックが働くのを解除できる。通常じゃ使わねえが、事故に見せかけて“制御不能”にしたいなら、これが役に立つ」

 

「……どこから持ち出した?」

 

「忘れたよ。酒のつまみに紛れてたかもな」

 

そう言ってクルトは笑ったが、その目は冴えていた。

彼は飄々としているが、真剣なときは誰よりも冷静に、そして精密にことを運ぶ――それを全員が知っていた。

 

クラウスは小さく頷いた。

 

「……ありがとう。心強い」

 

「礼はガスの中身が分かってからでいい。……もし、ただの催涙ガスだったら、笑って酒でも飲もうや」

 

「……ああ」

 

その短いやり取りの間に、整備長の参加は決定された。

クルトの技術が加わることで、“事故”はさらに“本物”に近づいた。だが、それは同時に**「この作戦に一切の失敗は許されない」**ということを意味していた。

 

クラウスは仲間たちに視線を戻し、最後の確認をする。

 

 

「よし。それじゃあ、詳細の時間割を確認する。ガス搬出の午前0900からだ、クルト、カール、仕掛けはその直前の0500に設定して、アーム制御系統の整備記録は当日朝に上書きしろ」

 

「了解っす」

 

「あいよ」

 

「次だ、“事故”発生後、最初に現場に駆けつけるのは第4、5小隊。エーリッヒ、ハンス――お前たちだ」

 

「了解」

 

「現場の空間は散布直後の残留ガスで満たされる可能性がある。フルスペックのパイロットスーツで臨め。現場での任務は二つだ――異常を“確認”すること、そして可能であれば“証拠”を持ち帰ること」

 

ハンスが眉をひそめる。

 

「ガスが本当に毒なら……多少漏れただけでも、スーツ越しで危険かもしませんね」

 

「そのために、行動は最短で。確認できるなら視覚、無理なら機材越しに。無理にサンプルを取る必要はない。“肉眼で見て明らかに催涙ガスじゃない”と判断できれば、それで十分だ。命は最優先だ」

 

クラウスの声に、二人は真剣な面持ちで頷いた。

 

「エリック、イオリ――お前たちは事故発生時に“指揮席にいる”役を担ってもらう。アーム操作の異常に気づいたふりをし、状況を指揮官に報告。艦内の混乱を最小限に抑えろ」

 

「了解しました、大尉」

 

「はい」

 

「――これで全員の役割が整った。ここから先はもう、誰も途中で抜けられない。やるか、やらないかだ。……覚悟はあるか?」

 

「やります、大尉」

 

「もちろんだ」

 

「……ガキじゃないっすよ、俺も」

 

「俺に言わせりゃ、お前らは“バカ正直なガキ”だ。だが、信じられるガキだ」

 

クルトがぼそりと呟いた。

 

その言葉はどこか温かく、そして鋭かった。

重苦しい緊張の中に、ひとときの温度をもたらす。それが、彼なりの“励まし”だった。

 

「よし、決行は、宣戦布告の後だ。気を引き締めろ、後2日だ。時間も遅い、全員今日は休め」

 

クラウスが、場を締める。

そしてその夜、シーウルフ隊は――

それぞれの任務に向かって、静かに動き始めた。

好きなキャラ

  • 主人公
  • シーマ様
  • クラウス大尉
  • カール二等兵
  • エリック伍長
  • ハンス軍曹
  • エーリッヒ軍曹
  • グスタフ曹長
  • クルト整備長
  • ゲルハルト艦長
  • アサクラ笑
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