転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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幕間 不安

「……よし。大体まとまったな、準備は明日だ」

 

クラウスの声は、会議中の張り詰めた空気とは打って変わって、静かで落ち着いていた。

しかしその裏に、隊を守るための決意と重責がにじんでいる。

 

彼は皆を見渡してから、深く息をついた。

 

「時間も遅い。全員、今日はもう休め。……体を壊すなよ」

 

その言葉を受け、皆はそれぞれ短く頷いた。

誰もが表情に疲労と緊張を浮かべながらも、去り際にはどこか覚悟の色もあった。

 

イオリが立ち上がろうとしたそのとき、シーマが彼の隣に近づいた。

ほんの一歩分、距離を詰めて小声で囁く。

 

「早く休むんだよ。明日から、この作戦の準備でバタバタするんだからさ」

 

そして微笑む。

その笑顔はどこか優しく、そして、ほんの少しだけ寂しげだった。

 

「……はい」

 

短く返事をしながら、イオリはその背中を見送った。

シーマは軽く手を振り、闇の中へと姿を消していく。

 

 

艦内・イオリの個室

 

薄暗い部屋の中。

イオリはベッドに体を沈めるが、眠気は訪れなかった。

 

静まり返った天井を見つめながら、思考だけが際限なく広がっていく。

 

(……本当に、うまくいくんだろうか)

 

(事故を装って、ガスの中身を確認する……あの密談に乗った時点で、もう俺たちは命令違反の一線を越えてる)

 

(それでも、やらなきゃならない……でも)

 

枕元で握っていた手が、気づかぬうちに汗ばんでいた。

背中を冷たい不安がじわじわと這い上がってくる。

 

(こんな時……シーマ中尉なら、どう考えるだろう)

 

ふと、あの静かな微笑みを思い出す。

普段は決して見せない、穏やかな表情。

 

――気づけば、イオリの足は、廊下へと向かっていた。

 

 

艦内・シーマの部屋前

 

静かな通路に、イオリの足音だけが響いていた。

薄く汗ばんだ手で、シーマの部屋の呼び出しボタンを押す。

 

ピン、と高く短い音。

 

数秒の沈黙ののち、扉越しに声がした。

 

「誰だい?」

 

「……俺です、イオリです。こんな時間にすみません」

 

「イオリかい? ちょっと待ちな」

 

扉の向こうで、小さな物音がいくつか続く。

足音、タオルを取る音、ドライヤーの風か、それとも衣擦れか。

 

数分後、ウィンと静かな音を立てて扉が開いた。

 

「……どうしたんだい、こんな時間に」

 

そこに立っていたシーマは、いつもとは違う姿だった。

シャワーを浴びた後なのか、濡れた髪をざっとまとめ、シャワー上がりの薄手の軍用Tシャツに軽い上着を羽織っている。

素肌は赤く紅潮し、急いだのか少し息が上がっているようにも見えた。

素肌に近いその姿に、イオリは思わず視線を逸らし、頬が熱くなる。

 

「い、いえ……その……中尉に、話したいことがあって……」

 

「ふ。顔が真っ赤だよ、イオリ。入んな」

 

そう言ってシーマは少し笑い、部屋の奥へと下がった。

イオリはぎこちなく部屋に入り、扉が閉まる。

 

 

シーマの部屋

 

部屋の中は以前見たことがある通り。

飾り気は少ないが、整備された銃器ケースや整頓された書類、窓際には少し読みかけの本が置かれている。

 

「ソファ、座りな。……何がそんなに気になってるんだい?」

 

シーマはタオルで髪を拭きながら尋ねた。

 

イオリは小さく息をつき、心に絡まったものを少しずつ解きほぐすように語り始めた。

 

「……作戦、うまくいくのか不安で……皆の命、俺の判断ひとつで危うくなるかもしれない……」

 

「それで?」

 

「怖いんです。もし俺の読みが外れて、ガスが違うものだったら……俺たち、上に楯突いたただのバカです。なのに、皆は俺の判断を信じて動いてくれてる。……それが、重くて」

 

シーマは黙って話を聞いていた。

そして、濡れた髪を拭き終え、イオリの隣に腰を下ろす。

 

「気持ちは、よくわかるよ」

 

彼女はそう言って、少しだけ笑った。

 

「じゃあさ、今夜は気休めでもいい。少しだけ付き合ってくれるかい?」

 

「え?」

 

「まだ、あんたとは一緒に飲んだことなかったね。ちょっと待ちな」

 

そう言うと、彼女は棚の奥から小さなボトルとグラスを取り出した。

ラベルの擦れた古びた瓶。

「滅多に飲まないやつさ」と、どこか嬉しそうに言いながら。

 

イオリはグラスを受け取りながら、少し驚いた顔で尋ねた。

 

「これって……」

 

「一緒に命張った奴としか飲まない酒だよ。つまり、あたしにとって、あんたはもうそういう存在ってことだよ」

 

言葉の重みと、あたたかさが心にじんと染みてくる。

グラスの中身はほんの少し。だが、それ以上に心が満たされていく。

 

「……ありがとう、シーマ中尉」

 

「“中尉”はやめときな。今夜は“シーマ”でいいよ」

 

そう言って、彼女は柔らかい笑みを浮かべながらグラスをイオリに向けた。

イオリも応じるように、静かにグラスを掲げる。

 

「乾杯。……この作戦が無事終わったら、あんたと一緒に本物の酒場に行くよ。休暇をとって、くだらない話しながら、酔っぱらってさ」

 

「本当に……行ってくれますか?」

 

「あんたが生きて帰ったらね。もちろん、あたしもだけど」

 

その夜、静かに交わされた約束は、戦火を越えた先に灯る、ささやかな希望だった。

 

ーーーーーー

 

夜更けの艦内は、静かだった。

シャワーの音が止み、髪に残る水滴を拭いながら、シーマはふと壁際の時計を見る。

一日が終わったという安堵と、明日からの準備に向けて少し気を引き締めていた時――

 

ピン。

 

あの小さく高い電子音が、思考のすべてを途切れさせた。

シーマはわずかに眉を上げる。

 

(こんな時間に?)

 

誰だろうと訝しみながらインターホンに応じると、返ってきた声は――

 

「……イオリかい? ちょっと待ちな」

 

少し驚いた。

予想外だった。

だがその声に、心の奥が小さく波を立てるのを感じた。

 

(……どうしたんだい、こんな夜更けに)

 

この時間帯に来ること自体が余程のことだとういうことは分かる。

それでも最初に浮かんだのは「なんで今なんだい、このタイミングで……!」という焦りだった。

 

(ったく……こっちは今シャワー上がったばかりだってのに)

 

髪はまだ湿っていて、肌もほんのり火照っている。Tシャツに上着を羽織っただけの、あまりにもラフな姿――

軍人として、いや、上官として見せるべき格好じゃない。

それがわかっているのに、拒む気持ちはなぜか湧いてこなかった。

 

手早く髪を拭いながら、内心の動揺をなんとか押し殺す。

自分は彼の上司で、年上で、何よりこの艦内で冷静さと厳しさを保つべき立場にある――そう思えば思うほど、今この状況の“甘さ”に戸惑いを覚えた。

 

(……落ち着け、シーマ。あんたがドギマギしてどうすんのさ)

 

深呼吸を一つ。

気持ちを整えると、意を決して扉を開けると、そこに立っていたのは、どこか落ち着かない様子のイオリだった。

彼の視線が自分の姿を見た途端に逸れたこと、頬を赤らめたこと――それに、思わず微笑んでしまった。

 

「……どうしたんだい、こんな夜更けに」

 

その声が、いつもより少しだけ優しくなってしまったことに、シーマ自身も気づいていた。

そして目の前に立つイオリ――そのぎこちない表情と、視線を逸らす様子に、思わず笑いがこみ上げる。

 

(ったく……ほんと、純だね、あんたは)

 

いつもの鋭い目つきとは違う、どこか迷子のような眼差し。

それが気になった。放っておけなかった。

 

「入んな」

 

自分でも、なぜそう即座に言ったのかはわからなかった。

でも――“来てくれたこと”が、心のどこかで嬉しかった。

艦内では上官と部下の関係であり続けることが、どれほど互いを守るためか分かっている。

けれど、この夜は……その境界が、少しだけ揺らいでいた。

 

彼の不安は、すぐに伝わってきた。

ソファに腰掛けた彼の肩は張っていて、言葉の端々に自責と懸念が滲んでいた。

それを聞きながら――シーマは、自分の若い頃のことを思い出していた。

 

(……あたしにも、あったよ。自分の決断が、仲間の命を左右するって知ったときの恐ろしさが)

 

過去、自分も同じように震えていた。

違うのは、その時、誰にも相談できなかったということだ。

部隊の中で孤独を選び、誰にも弱さを見せずにいたあの若い日々を――

今、目の前にいるこの青年には、同じような思いをさせたくなかった。

 

「……気持ちは、よくわかるよ」

 

そう返した時、自分でも驚くほど自然に声が出ていた。

気づけば、あの酒を手にしていた。

仲間としか、いや“信じた奴”としか飲まない特別な酒。

本当は、戦いの先にいる誰かと静かに酌み交わす日のために残しておいたものだった。

 

でも――

 

(あんたとは、いま飲みたいと思った。

 多分、あたしはもう、あんたをただの“部下”として見られなくなってきているのかね)

 

それは恋とは少し違う、でも、どこかにそれに似た温もりを帯びた想い。

シーマ自身、それを完全に言葉にする術を持っていなかった。

ただ、今夜だけは彼の心を支えたかった。

孤独の重さを、少しでも分け合いたかった。

 

「“中尉”はやめときな。今夜は“シーマ”でいいよ」

 

そう言ったとき、自分の声がほんのわずかに震えていたことを、イオリは気づいていないだろうか。

気づかれていないと願う反面、気づいていてほしいとも思う。

 

(この作戦が終わったら――)

 

そう、もし終わったら。

彼と生きて、酒場でくだらない話をして、他愛ないことで笑い合いたい。

そんな未来を、願っている自分がいることに気づいていた。

 

(バカだね、あたしも)

 

そんな風に自嘲しながらも、どこか安らいでいた。

目の前の青年が、こんなにも真っすぐに悩み、足掻き、命の重みを考えてくれることが――

シーマの心を、ほんの少しだけ、救っていた。

 

彼のグラスと自分のグラスが、静かに触れ合う音が鳴る。

その音が、戦場の喧騒の中で失われていた、人と人とのつながりを確かめるように響いた。

 

――たとえ朝が来れば、再び上官と部下の距離に戻るとしても。

 

今夜だけは。

この夜だけは――

彼の隣に、静かに寄り添っていたかった。




なんか、もう付き合えば?
と言いたいところだが、まだまだ自分の気持ちに気づかない2人って感じね。うーん笑
みなさん遅くなりましたが、お気に入り300件突破ありがとうございます!
自分のシーマ様愛が皆様に伝われば幸いです。
あと、感想や素直な評価お待ちしています!
初めての二次小説で何をどう書いたらいいのかわかっていない部分もありますので、皆様の声を励みにしたいと思っています。

好きなキャラ

  • 主人公
  • シーマ様
  • クラウス大尉
  • カール二等兵
  • エリック伍長
  • ハンス軍曹
  • エーリッヒ軍曹
  • グスタフ曹長
  • クルト整備長
  • ゲルハルト艦長
  • アサクラ笑
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