転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
静まり返った艦内――宣戦布告を明日に控えた晩、艦「ヘルヴォル」は不気味なほどに静かだった。
格納庫では、作業灯の下でカールとクルトが並んで工具を握っていた。アームの制御系統パネルを半ばまで開いた状態で、クルトは小さなランプを指差し、低く言う。
「このランプが点いたら、異常ログは仕込み済みだ。……二重記録の追跡も外した。技術監査に見られても、“予備記録”で通る」
「さすがです、整備長」
カールは感心したように頷きながらも、額には汗が浮かんでいた。緊張、というよりは“責任”の重さに押されている顔だった。
クルトはそんな若い兵士をちらりと見やり、ふっと笑う。
「お前さん、今夜の作業が終わったら、しばらく俺の酒は飲ませねえ。……終わるまではな」
「え、ええ!? そんな……!」
「そんくらいの覚悟でやれってこった」
言いながら、クルトは最後の端子を差し込み、パネルを閉じた。低い音を立ててロックされると、そこには「正常」の表示ランプだけが淡く光っていた。
その頃――第4・第5小隊の隊員たちは、簡易デブリ収集装置を調整していた。ガス拡散直後、残留成分を回収するための簡易ユニット。ハンスは何度もスーツの機密チェックを繰り返し、エーリッヒはセンサーの微調整に神経を尖らせていた。
「確認用のセンサーモード、これでガスの粒子を視認できるはずだ」
「何度やっても慣れねえな、こういう細かい作業……戦闘の方が気が楽だぜ」
エーリッヒが口元をゆがめた。
「“確認”のための作戦にしては、重すぎる代償になりかねないからな。万一、毒性があれば、冗談じゃ済まない」
「だからこそ、俺らが行くんだ。お前が行くなら、俺も行く。それだけだ」
ハンスが不器用に笑うと、エーリッヒも小さく頷いた。
その一方で、艦橋ではイオリとエリックが、操作パネルのシミュレーションを繰り返していた。
「事故発生時、“指揮端末”でどう報告する?」
「アーム異常を検出、通信ログ送信、異常停止信号……すぐにMS隊を向かわせる、って手順です」
イオリの答えに、エリックが少しうなずきつつも、眉をしかめた。
「問題は、焦った演技がどこまで“自然”に見えるかだな。……芝居は得意か?」
「いや、むしろ苦手ですね」
「俺もだ。だが……やるしかない」
ふたりは顔を見合わせ、小さく息を吐いた。
艦の片隅、休憩スペースでは、クラウスがモニター越しに最終確認をしていた。輸送スケジュール、アーム稼働のタイミング、作戦指示――すべてが、予定通りに動くように見えた。
そこへ、艦長ゲルハルト・アイゼンベルクが現れる。
「クラウス。状況は?」
「整ってます。……あとは、本当に“アレ”が毒かどうか、ですね」
クラウスの視線の先には、住民リストが映っていた。コロニー住民の名前、年齢、家族構成、そして避難艇の配置状況。
艦長は静かに頷いた。
「作戦決行のその時、我々は“事故”を確認する。そして同時に、避難命令を出す。ガスの種類に関係なく――市民には逃げてもらう」
「各避難艇の誘導地点に、うちの小隊をばら撒きます。もしあれが毒ガスだった場合、住民に近づける者は我々だけです。……我々がやるしかない」
「その覚悟があるから、お前たちに託した。……くれぐれも、死ぬなよ」
「はい。俺たちは、“真実を確認する”ためにやるんです。正義だの、正しさだのじゃなく――」
「“後悔をしないため”だな」
クラウスは少し目を伏せた。艦長は、煙草を取り出しかけて、しかしやめ、ポケットに戻す。
「作戦前だというのに、既に疲れている自分がいるよ」
「私もです、艦長」
両者とも、笑みをこぼすが、その笑みにはいつもの自信は無かった。
ーーーーーー
作戦前夜。ザンジバル級機動巡洋艦《ヘルヴォル》 喫煙所
戦艦の構造材が放つ無機質な冷たさと、うっすらと焦げ付いたタールの匂いが入り混じった空間。
艦内の喧騒から切り離されたそこは、戦士たちが一時の静寂を求めて足を運ぶ、わずかな“逃げ場”だった。
薄暗い照明の下、壁に設けられた換気スリットが、吸い上げられる煙と共に静かに唸っている。
その隅に、二つの影。
イオリとシーマが、並んでいた。
イオリはタバコを指に挟み、シーマはタバコを持っていなかった。
肩を並べると言っても、ほんの数十センチの距離。
それでも互いに横目で相手を認識し、妙に気配を意識するには十分な間合いだった。
イオリが、火をつけたタバコを指でくるりと回すようにしながら、ぼそりと呟いた。
「……いよいよですね」
言葉は静かだったが、その声には、覚悟と緊張と、どこか小さな諦念のようなものが滲んでいた。
シーマが、ほんの一拍遅れて応じる。
「そうだね」
その短い返事には、戦場を幾度もくぐり抜けてきた彼女なりの重みがあった。
イオリはしばらく黙っていたが、やがて口を開く。
「明日の作戦、事故を装いガスを確認した後、作戦自体の見直しを行い、クラウス大尉が指示してくれる手筈になっています、次に──」
だが、言葉の途中で、シーマが穏やかに、それでいて鋭く遮った。
「……イオリ」
その一言で、イオリは言葉を止め、思わずシーマの横顔を見た。
「言っておくけど、市民全員は救えないと思っておきな。そんな簡単な話じゃないんだよ」
シーマの声は、低く、苦味を帯びていた。
イオリが吸い込む煙草の火が赤く揺れる。その火を見つめながら、彼女は続ける。
「それと、自分の命を投げ打ってまで、助けようとするんじゃないよ。アンタはそういうところ、あるからね。無茶しそうで、こっちが心配になる」
イオリは一瞬、何も言えずにシーマを見つめた。
それが叱責であることは分かっていた。だが、それ以上に――それは“想ってくれている”からこその言葉だった。
シーマは目を逸らさずに、
「作戦が終わったら、酒場に行くんだろ?」
その言葉に、イオリはハッとする。
思わず笑ってしまいそうになるくらい不意を突かれた。
そして、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……分かっています。中尉と飲みに行くの、楽しみなんですから」
その言葉に、シーマもふっと目を細めた。
鋼のように冷たい戦士の顔が、わずかにほころぶ。
「そうかい」
彼女はタバコの箱を取り出し、中から一本を口に咥える。
だが、すぐに眉をひそめ、軽く舌打ちするように呟いた。
「……ライターを忘れたよ」
ポケットを探る仕草に、イオリは慌てて自分のライターを探す。だが、その動きを見て、シーマが言った。
「いいよ、これで」
そう言って、イオリが咥えていたタバコの火口に、自らのタバコの先をそっと重ねてきた。
距離は、一気にゼロに近づく。
シーマの顔が、目の前にある。
その瞳、その睫毛、肌の輪郭。
タバコ越しに、微かに唇の温度すら感じられそうな至近距離。
イオリの心臓が、強く脈打つ。
音が聞こえてしまいそうなほど、早く、熱を帯びて。
ドキドキする。けれど、逸らせない。
シーマは火がついたのを確かめると、ほんの少しだけ距離を取って、煙をふっと吹き上げた。
その動作の中にも、わずかに残る緊張があった。
彼女自身もまた、内心ではドキドキしていたのかもしれない。
それを隠すように、自然な笑みを浮かべて言った。
「ありがと」
その微笑みは、これまで見せてきたどんな戦場での表情とも違っていた。
柔らかく、どこか寂しげで――けれど、確かな温もりがあった。
そして彼女は、そっとポケットの中に手を入れる。
そこには、ちゃんとライターが入っていた。
触れた指先に、微かな熱を感じながら、シーマは誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「……やっぱり、アンタは危なっかしいよ、イオリ」
その声に、イオリは気づかなかった。
ただ隣で、黙って同じ煙を吸いながら、遠くにある明日を見ていた。
喫煙所の空気が、いつもよりわずかに、甘く、切なかった。
それが戦の前夜だと、二人とも忘れたことはなかった。
けれど確かに、そこには“戦い以外の何か”が、静かに芽吹き始めていた。
ーーーーーー
艦橋奥の一角、緊急時の会議用に設けられた狭い作戦ブース。
薄い蛍光灯が机の上に配された資料を白く照らし、周囲の陰影を際立たせていた。ブースには、クラウス・シュレンケ大尉と、艦長ゲルハルト・アイゼンベルク少佐の二人だけ。互いに深く椅子に身を沈め、重苦しい空気のなかで言葉を選びながら語り合っていた。
「……では、君の見立てでは、この“ガス”がもし毒ガスだったとして、すべての市民を救うことは――?」
艦長の問いは静かでありながらも、言葉の奥に強い意思を宿していた。
それに応えるクラウスの声もまた、慎重で、そして率直だった。
「……無理でしょうな。艦長」
クラウスは目を伏せ、両手を組んで額に添える。まるで、重すぎる現実を言葉にするための助走のように。
「まず、脱出艇の数が圧倒的に足りません。我々が提供できるのは、ヘルヴォルに搭載された艇数機と、限られた輸送機。それに……」
言葉を区切り、クラウスは資料の中から一枚を抜き取って机に置く。そこには、問題となるコロニー“アイランド・イフィッシュ”の概略構造と、避難経路、脱出設備の配置図が簡易的に記されていた。
「コロニー自体にも、非常時の脱出用シャトルが備えられてはいますが……何十年もメンテナンスされていないものばかり。稼働する保証はありません。仮に稼働しても、混乱の中での誘導には相当な人員が必要になる」
クラウスはわずかに眉をひそめた。
「現場で誘導できる兵は我々――シーウルフ隊のみ。ですが、我々の人数は限られています。小隊規模の部隊で、複数区域にわたる避難誘導など……正直、手が回りません」
艦長は黙って頷いた。クラウスはさらに続ける。
「ただ……もし“毒ガス”だった場合。これだけははっきり申し上げますが、“ガス注入作戦”そのものは阻止できます。何故なら――」
クラウスはまっすぐに艦長を見据えた。
「我々が通達された作戦内容――“催涙ガスによる住民の無力化と避難誘導”という名目と、実際の内容があまりに乖離しているからです。毒ガスだと判明すれば、それを理由に現場での拒否、あるいは遅延を正当化できます。そこに法的な正当性はなくとも、現場判断としては通せるはずです」
「しかし……」
クラウスは言葉を重ねた。
「コロニー落とし自体は、止まらない。命令の根幹はそこにありますから。仮に毒ガスの注入を防げたとしても、最終的にこのコロニーは“兵器”として運用される。あの核パルスエンジンが搭載されるまでの間に、どれだけの市民を避難させられるか……それが我々の勝負です」
机に置かれたコロニーの図面を、クラウスの指がなぞる。居住ブロック、工業区域、学校、市場……そこに暮らす無数の人々の姿が、頭の中に浮かぶ。
「ですが、避難を拒否する者も出るでしょう。中には、自分の家を離れたくない者も、軍を信じていない者もいます。高齢者や障害を抱えた人々も――全員が素直に従うとは、到底思えません」
そしてクラウスの声が、一段と低くなる。
「……我々が救えるのは、あくまで“従ってくれる者たち”のみです。全員を助けるのは、物理的に不可能です。となれば、避難に優先順位をつけるしかありません」
艦長の目が鋭くなるのを、クラウスは感じた。
「優先順位……か」
「はい。子供。病人。未成年。女性。軍として、人道的判断を下すならば、そういった“守るべき存在”から先に、というのが基本です。現実的にはそれもまた争いを生むでしょうが、それでも……命の重みを測るのは、我々です」
一瞬、二人の間に言葉が途切れた。静寂の中で、機器の微かな作動音と、遠くで鳴る艦の定時報告が耳に届いた。
アイゼンベルクは、ゆっくりと問いかける。
「……その話。隊には?」
クラウスは短く息をつき、椅子に背を預ける。そして、静かに答えた。
「話していません。毒ガスだと分かった時点で、必要に応じて指示するつもりです」
「なぜ先に話さなかった」
「話せば……彼らは“すぐにでも動こう”とするからです。やりかねませんよ、独断で――先に潜入して住民に警告するようなことを」
「……なるほどな」
「しかし、艦長――」
クラウスはゆっくりと笑みを浮かべる。苦笑とも、誇りともつかぬ、わずかな感情を乗せて。
「奴らは、分かっています。口には出さなくても、“全員を救えない”ことぐらい。分かった上で、それでも動く。そういう連中なんです」
「……信じているのだな、君の部下を」
「もちろんです。バカで、頑固で、融通の利かない連中ばかりですが――」
クラウスは、遠くを見るような目で言った。
「……でも、あいつらは人を見捨てない。自分の命を投げ出してでも、目の前の誰かを救おうとする。だからこそ、最後の瞬間まで、その背中を預けられるんです」
アイゼンベルクは目を細め、数秒黙ったのち、煙草を取り出しかけて、やめた。代わりに手を組み、机の上に置いて言う。
「……俺も、君たちを信じよう。だが、決して無理はするな。君の命も、部下の命も、俺には等しく重い」
「了解しました、艦長」
クラウスは敬礼こそしなかったが、その瞳は静かな敬意に満ちていた。
ブースの外では、艦が静かに巡航を続けている。
コロニー“アイランド・イフィッシュ”に向かって――決して戻れぬ航路を進みながら。
もう付き合えよー!!となっている作者です笑
このタバコのシーン、みなさんご存知かと思いますが、某有名アニメのオマージュです。
さぁ、自分なりにコロニー作戦の概要をまとめたのですがどうでしょうか?
矛盾点とか多いにあると思いますが、目を瞑っていただけると、幸いです
好きなキャラ
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主人公
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シーマ様
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クラウス大尉
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カール二等兵
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エリック伍長
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ハンス軍曹
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エーリッヒ軍曹
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グスタフ曹長
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クルト整備長
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ゲルハルト艦長
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アサクラ笑