転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第33話 飼い犬、嗅覚、発覚

重厚な金属扉が開き、革靴の硬い足音が静かに床を打った。

灰銀の髪を後ろに撫でつけ、整然とした軍服に身を包んだ男が、部屋の中央に歩み入る。

――アサクラ大佐。その背後に続く副官は、目を伏せたまま沈黙している。

 

すでに応接の席に腰かけていた艦長、ゲルハルト・アイゼンベルク少佐は、椅子の背から背筋を正して立ち上がり、軽く礼を取った。

整った髭の下に厳格な口元。その姿は、年齢以上の風格を纏っていた。

 

「わざわざ《ヘルヴォル》までご足労とは。……何か、心配事でもおありで?」

 

言葉の端にわずかな探りを込めつつも、口調は丁寧だった。

だがアサクラは、まるでその含みなど意にも介さぬように、鼻を鳴らして椅子へ腰を下ろす。

 

「ふん。大事な初戦だ。しかも“例の任務”もある。監視の目は多いに越したことはない、そう思わんかね、少佐?」

 

「監視、ですか……」

アイゼンベルクの目がわずかに細まる。

「確かに重要任務です。だが、あの部隊をここまで任せたのは――他ならぬ、貴方では?」

 

アサクラの口元が歪む。軽蔑とも、嘲笑ともつかぬ笑み。

「精鋭部隊などと謳ってはいるが、所詮は“寄せ集め”だ。

正規の士官教育も受けていない者も多い。貴様の艦に乗せている“あの新人少尉”などは、まさにその象徴だろう」

 

「……イオリ少尉ですか」

アイゼンベルクは声の調子を変えなかった。だが指先が、肘掛けを軽く叩いた。

 

アサクラは続けた。

「クラウス・シュレンケ。あの男は確かに戦績だけ見れば悪くはない。だが軍規を重んじるという意味では最悪の部類だ。

シーマ・ガラハウに至っては前歴が危うい。実力は認めるが、あれは一歩間違えば“牙を剥く”。

それを取り巻く連中も、好き勝手に動きたがる若造や、半端なベテランばかり。……そんな奴らに、最重要機密を預けねばならん。私の気苦労も少しは察してほしいものだな」

 

吐き捨てるような口調だった。

まるで“餌を投げ与えた猛獣が、いつ暴れ出すか心配している”飼い主のように。

 

沈黙が数秒、艦長室を支配した。

アイゼンベルクは背筋を伸ばしたまま、じっとアサクラの目を見据えた。

 

「……なるほど。つまり、彼らを“信用していない”と」

 

「当然だ」アサクラは即答した。「軍人は信用ではなく統制で動かすべきだ。

だからこそ“首輪”が必要なのだよ、少佐。愚犬が噛みつかぬようにな」

 

それを聞いた瞬間、アイゼンベルクの奥歯がわずかに軋んだ。

口には出さない。だが、その双眸には確かな怒気が宿った。

 

「――お言葉ですが、大佐殿」

低く、抑えられた声で艦長は言った。

「彼らは、ただの犬ではありません。むしろ、軍の常識の枠に収まらないからこそ、貴官が“特殊部隊”として起用されたのでしょう?」

 

アサクラの笑みが消えた。

その目が鋭く、わずかに光を帯びる。

だが、アイゼンベルクは怯まず続けた。

 

「“飼い犬”を雑に扱えばどうなるか、分かっておられますか?

それが――実は狼であったとしたら。

逆に、食い散らかされかねませんよ、大佐」

 

室内に、鋭い静寂が落ちた。

アサクラの顔がわずかに引き締まる。言葉を返すまでの一瞬が、妙に長く感じられた。

 

だが――

 

「……余計なお世話だ、少佐」

 

アサクラは、ようやく吐き捨てるように言った。

それ以上の会話は不要とばかりに、彼は立ち上がる。

「私は自らの責任で動いている。それだけだ。あとは――任務の成功を祈ろうじゃないか。結果がすべてだろう?」

 

足音を響かせ、背を向けた大佐の姿を、アイゼンベルクは背筋を正したまま見送った。

その眼差しは、火花のように静かに、だが決して消えることのない怒りを湛えていた。

 

「――軍人として恥じぬ行動をしろ……か」

誰にも聞こえない声で、艦長は自らの信条を呟いた。

そして、狼たちに再び想いを馳せる。

 

“首輪ではなく、信頼を――それでこそ獣も、仲間となるのだ。”

 

ーーーーーー

 

艦内で最も天井が高く、コンテナや補給物資が並ぶ第2カーゴデッキ。

微細な粉塵と金属の匂いが入り混じる中、無骨なフォークリフト型マシンが唸りを上げ、大小のコンテナを吊り上げては次々と宇宙へ運び出していた。

 

作業員たちは慌ただしく動いていたが、目立つのは――ジオン公国制式ではない、黒いマーキングが施されたコンテナ。

 

それが、今回の作戦で最も重要かつ、最も危険な“貨物”であることを知る者は、ほとんどいない。

だが、そこに足を踏み入れた者たちは――知っていた。

 

「……あれが、“例のガス”か」

 

口を開いたのはクラウス大尉。

無精髭を撫でながら、少し険しい表情で並ぶコンテナを見つめる。

その隣には、シーマ中尉が無言で立っていた。

その鋭い視線は、明らかに一つの疑念に向けられていた。

 

――“催涙ガス”の名目で送り込まれたこのガス。

その中身に、本当に“それだけ”しか入っていないのか。

 

「……ここからコロニーに持ち込む前に、確認しないと」

 

イオリ少尉の声が、周囲に聞こえぬよう抑えられたトーンで落ちる。

その横では、カール・シュナイダーとエリック・ホフマンが緊張気味に頷いていた。

 

「まったく、ただの補給って話だったが……妙に厳重な運搬体制だな」

 

とぼやくのはハンス軍曹。

隣のエーリッヒ軍曹はコンテナに取り付けられた封印のタグを見て、眉をひそめた。

 

「軍の通常物資じゃ見ねえ形式のタグだな……どうも怪しい」

 

皆が感じていた――明らかな“違和感”。

 

だが、そこに重たい足音が響いた。

 

「ほう……皆そろってお出迎えか? 実にご苦労なことだな」

 

その声に、場が一瞬で張り詰める。

シーウルフの面々が一斉に視線を向ける先、階段を下りてくる男が一人。

 

――アサクラ大佐。

 

その背後には、親衛隊所属と思われる数名の兵士たちが控えていた。

 

「……これは、ご足労いただき恐縮です。大佐殿」

 

クラウスが軍帽に手をやるが、その声には明らかな緊張と警戒が滲んでいた。

だがアサクラは、それに構う様子もなく、悠然と歩を進める。

 

「ふん、補給作業とはいえ、最重要物資の搬出だからな。

私が監視に入るのも当然だ。……まさか、異論でも?」

 

「とんでもない」シーマが即座に応じる。その目は氷のように冷たいが、声は穏やかだった。

 

「“慎重すぎるくらいが丁度いい”と、どこかで誰かが言っていたのを思い出しました」

 

アサクラは、口の端だけをわずかに吊り上げた。

 

「皮肉も覚えたか、シーマ中尉。……だが、皮肉や舌先三寸で戦争は勝てんぞ」

 

「心得ております」

 

その応酬を横目に、イオリが小声でクラウスに問いかける。

 

「どうします? 確認作業……あれじゃ、無理ですよね」

 

「いや、予定通りやる」

クラウスの声は低く、力強い。

 

「当初の予定とはだいぶ狂うが、ヤツがいるからこそ、“事故”って体裁が意味を持つ。……今やらずにどうする」

「即席でやるぞ」

 

イオリは小さく頷くと、クルト整備長に合図を送った。

クルト整備長が頷き手際よく搬出作業を進めるふりをし、あらかじめ計画していた“アクシデント”の布石を打ち始める。

 

その最中――

 

フォークリフトに吊られたコンテナが、わずかにバランスを崩し始める。

誰かが叫ぶ。「危ない、荷重が――!」

そして――

 

ガコンッ――!!!

 

轟音とともに、コンテナの一つが床に落下した。

鋼鉄がひしゃげ、床に金属の悲鳴のような音が響き渡る。

 

 

「ちっ……やっちまったか……!」

 

「すぐに確認を――! 中身が無事かどうか、早く!」

 

混乱に紛れて、エリックとイオリが慌てたような演技をする。

 

作業員たちが後退し、緊張と動揺が波紋のように広がったその中央で、真っ先に叫んだのは――

 

「な、なにをしている!? 馬鹿者! 早く逃げろ! 漏れたら終わりだぞ!」

 

アサクラ大佐の声だった。

その声には、明らかに“恐れ”があった。

指揮官としての威厳も忘れ、顔面を青ざめさせた彼は、部下たちを押しのけながらカーゴデッキの出口へ向かって我先に逃げようとする。

 

「退避だ!いいから退避しろ!」

 

「大佐、落ち着いてください!」

 

副官の必死の声にも耳を貸さず、まさにパニックそのものの態だった。

 

その中、冷静に動いていたのは――ハンス軍曹とエーリッヒ軍曹だった。

 

「スーツ装着完了。中身、確認するぞ」

 

二人は素早く毒ガス耐性のあるパイロットスーツを着用し、落下したコンテナに近づいていく。

シールの剥がれかけた蓋を慎重に開け――内部の確認を行った。

 

「……あったぞ。これを見てくれ」

 

エーリッヒが示したのは、赤と黒の化学危険ラベル。

その中央には、誰が見ても分かる――**“神経ガス”**の文字。

 

「間違いない。これは、殺傷兵器だ」

 

「漏れてない……密封は保たれてる。だが……内容は明らかに“催涙ガス”なんてもんじゃねぇ」

 

その言葉を聞いたとき、誰もが確信した。

 

――アサクラ大佐は、毒ガスの使用を命じていた。

 

「これは……どういうことですかな、大佐殿?」

 

低く、鋭く、クラウスの声が響く。

その声音には――明確な怒気が滲んでいた。

 

アサクラは、ガスが漏れていないと知ると、急に態度を切り替えた。

それまでの狼狽ぶりが嘘のように、顔を引き締め、唾を吐くように言い放った。

 

「ふん……茶番はもういい!何をしている、早く搬出を再開しろ!命令だ!命令通りにしろ、犬どもが!!」

 

クラウスの表情がわずかに曇り、しかし目は冷ややかに光る。

 

「お言葉ですが、大佐。我々が受けた命令は“催涙ガスの搬送”と、“そのガスを使用した市民の避難誘導”でした。

このような毒ガスを使うとは、一言も聞いておりませんが?」

 

「お前たちには関係ないと言っている!軍人なら命令に従え!さっさと運び出せ!」

 

その怒鳴り声に、シーマが一歩前へ出た。

その目は冷酷で、まるで氷刃のようだった。

 

「……市民の虐殺に手を貸せというのかぃ、大佐。……冗談じゃないよ」

 

クラウスが言葉を継ぐ。

 

「我々は命令された通りに行動してきた。だが、現状が命令と違うのであれば、話は別です。

我々シーウルフ隊は、コロニー市民への毒ガス使用を拒否し、避難誘導と人命保護を優先する行動に切り替えます。

この件は軍司令部へも正式に報告させていただきます」

 

その一言に、アサクラの顔が激しく歪む。

 

「ふざけるなあああ!!」

 

怒声と共に、彼は腕を振り上げる。

 

「貴様らごときが、コロニーひとつの市民を守って何になる?!

あれは連邦に協力している裏切り者どもだ!!全員死んで当然だろうが!!

いいか、もう毒ガスについては貴様らが“勝手に用意した”ことにしてあるのだ!

最終報告では、すでにお前たちに責任が来るようになっている!今更引き返せんぞ?それでもやるか?!」

 

その瞬間だった――

 

「その必要はない。大佐」

 

低く、鋭く、だが静かな声が、アサクラの背後から響いた。

 

艦長――ゲルハルト・アイゼンベルク少佐が、部下たちを率いてカーゴデッキに現れた。

背後には、ジオン軍正規の武装兵が控え、厳しい表情でアサクラを取り囲む。

 

艦長は一枚の紙を手にしていた。

その手元の書類を掲げながら、静かに口を開く。

 

「ふむ、これは不思議なことですな。ここに、大佐ご自身の署名がある作戦計画書があります。

内容は“毒ガスの搬送と注入”……こちら、あなたの筆跡ですな?」

 

アサクラの目が見開かれ、血の気が引いた。

 

「き、貴様……それを、どこで手に入れた?!」

 

「伝手というものがありましてね。あなたが上層部に隠していたものを、私にも入手できないわけではない。

それに、この書類には、作戦内容の改竄と、認可手続きの不備が見られる」

 

艦長の目が、射抜くようにアサクラを見据える。

 

「よって、あなたは作戦内容の偽装および許可の不正取得の疑いで、身柄を拘束させていただきます。

よろしいですかな、大佐?」

 

アサクラの顔が怒りと焦燥に染まり、次の瞬間――

 

「貴様らぁああああ!!撃て!!全員撃ち殺せ!!」

 

彼の副官に命じると同時に、部下たちが一斉に銃を構える――

イオリは咄嗟にシーマの前へ壁になるように立っていた。

そんなイオリをみたシーマが「イオリ…?!何やってんだい!」と怒気を露わにしそうになった時、その瞬間、艦長が声を張り上げた。

 

「やめんか!!」

 

響き渡る一喝。

その声は、まるで戦艦そのものが咆哮したかのような力強さを持っていた。

 

「貴様らも、ジオンの軍人であろう。こんな茶番のために、命を捨てるつもりか?

最後くらい、軍人として潔く散る覚悟はないのか?……銃を下ろせ」

 

沈黙――

そして、アサクラの副官たちは、ゆっくりと銃を下ろした。

 

アサクラが、驚愕と裏切りの混じった目で部下たちを見つめる。

 

「き、貴様ら……なにをしている……!」

 

だが、誰も答えなかった。

ただ、静かに彼から目を逸らした。

 

アサクラは、項垂れた。

その背中からは、もはやあの傲慢な威圧感は消えていた。

 

「連行しろ」

 

艦長の一言で、武装兵たちがアサクラに近づき、拘束具を嵌めた。

 

「……おのれ……この私が、こんな連中ごときに……!」

 

呟きながら、彼はその場から連れ去られていった。

カーゴデッキには、重苦しい沈黙が落ちる。

 

クラウスが深く息を吐いた。

 

「……とんでもない任務を押し付けられたもんだ」

 

「でも……まだ、間に合うかもしれない」

「俺たちで……救える命があるなら、動くしかない」

 

イオリが静かに答える。

 

シーマはそんなイオリの肩を掴み、無理やり振り向かせる。

その表情には明確な怒りがあった。

 

「あんた!どういうつもりだい?!いつあたしがあんたの身を犠牲にしてまで、守ってくれって頼んだんだい!」

 

その声音には、怒りと悲しみと心配が入り混じったようだった。

そんな彼女にイオリは「怒ってる時も、綺麗なんだな」と何処か場違いなことを考えている自分に苦笑しながら、

 

「すみません、体が勝手に動いていました」

 

と謝罪する。そんな姿を見たシーマは舌打ちをしながら

 

「今度同じことをやったらただじゃおかないからね」

 

と言い残し、自身のザクの元へ歩いていくのだった。

 

クラウスは

 

「終わったか?痴話喧嘩は」

 

と笑を浮かべながら揶揄う、イオリは

 

「やめてくださいよ大尉、自分でも驚いているんです。」

「始めましょう。――できるだけ多くの市民を助けるために」

 

ここから、シーウルフ隊の本当の戦いが始まる。

 

 




連投失礼、書き溜めているので。結構早い間隔で投稿できてる嬉しさよ
艦長ゲキシブ、アサクラ笑
シーウルフ隊毒ガス回避!!
いやーよかった!!………かな?笑
史実と全然違う展開に読者の方々も混乱していると思いますが、やっぱりここは二次小説、シーマ様を救済したいという小説なので、悪しからず
実は、今後の展開として、毒ガスはフツーに騙された撒きまくって、虐殺する。シーウルフ隊はどん底に当たる。でも頑張って生き抜く、最後はアサクラに復讐するって流れが僕が当初から考えてた展開でした。
ですが、アンケートではみなさん毒ガス回避が見たかったようなので、急遽変更です笑
なので、変なところがあればすみませんが!多めに見てください笑

好きなキャラ

  • 主人公
  • シーマ様
  • クラウス大尉
  • カール二等兵
  • エリック伍長
  • ハンス軍曹
  • エーリッヒ軍曹
  • グスタフ曹長
  • クルト整備長
  • ゲルハルト艦長
  • アサクラ笑
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