転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
ザンジバル級機動巡洋艦《ヘルヴォル》・ブリーフィングルーム前通路
コロニー脱出から数時間後。
《ヘルヴォル》のブリッジ前方モニターには、地球圏に向かって加速する巨大コロニーの姿があった。
燃え尽きぬよう設計された核パルスエンジンが、鈍く不気味な光を何度も何度も点滅させ、静かに、そして確実に推進力を積み上げていた。
それは、もはや止めようのない暴力だった。
人の意思など、とうに置き去りにしていた。
《シーウルフ隊》の面々が、その姿を黙って見つめていた。言葉が、出ない。
誰もが、そのコロニーの中に今も残っているかもしれない命を思い、沈黙の中で拳を握っていた。
「……ちくしょうがッ!!」
沈黙を破ったのは、グスタフ・ヴァール曹長だった。
彼の怒声が金属の壁に響き、付近にいた隊員たちが振り向く。
グスタフは、側にあったダストボックスを思い切り蹴り上げた。
ガンッ!という甲高い音と共に、それが壁にぶつかり転がる。
「元はと言えば……アサクラの野郎が、最初から避難誘導に全力を当ててりゃ……! 市民はもっと助かったんだ……!ふざけやがって……!」
その怒りは、もはや誰にも止められないほどの正当なものだった。
エーリッヒが項垂れながら呟く。
「……そうだぜ。なぁ……。これが……“作戦”かよ。人の命を、なんだと思ってんだ……」
隊員たちはそれぞれに顔を歪め、口元を押さえて涙を堪える者もいれば、壁に拳を打ちつける者もいた。
誰もが、自分がもっと早く動けていれば……と、悔いを噛み締めていた。
「野郎……ぶん殴ってやるよ。ぶっ殺してやる……」
ハンス・グリューネル軍曹が、立ち上がって通路の奥へと進もうとする。
その目は血走り、全身が怒りで震えていた。
だがその腕を、クラウス・シュレンケ大尉が掴む。
「やめろ、ハンス」
静かだが、力強い声だった。
「……アイツになにかしたところで、どうにもならん。死んだ人間が戻るわけじゃない」
ハンスはその手を振り払おうとするが、クラウスの目を見て、力が抜けた。
「落とし前は、必ず付けさせる。俺たちに出来る事は……俺たちが“軍人”として、ジオンが始めた戦争の中で、何を選び、何を為すかを通して示すものだ」
クラウスの目は怒りを押し殺し、深く、哀しみに滲んでいた。
「後でブリーフィングを行う。それまで解散だ」
彼がそう言うと、隊員たちはそれぞれの想いを胸に、静かにその場を離れていった。
⸻
《ヘルヴォル》艦内・喫煙所
数十分後。
薄暗い喫煙所。換気装置の静かな唸りの中、赤く光る小さな火が、ひとつ揺れていた。
シーマ・ガラハウ中尉が、1人でタバコを吸っていた。
その視線の先には、依然として地球へと進むコロニーの姿があった。
不自然なほど静かなその背中は、普段の彼女からは想像もできないほど弱々しかった。
揺れる肩、細く震える指先。
その中にあるのは、自分が置いてきた命たち――その影。
「やっぱり、ここにいましたか。……探しましたよ」
低く、けれど優しい声が背後から聞こえた。
シーマはほんの一瞬だけ振り返る。
だが何も言わず、視線をコロニーへと戻す。
そこへ、イオリ・クローネ少尉がゆっくりと近づいてくる。
彼も黙ってポケットからタバコを取り出し、スッと口にくわえ、ライターの火をつけた。
その仕草は、かつて不慣れだった彼からは想像できないほど、落ち着き払っていた。
今の彼が背負っているものを物語っているかのようだった。
「……中尉、先ほどは……すみませんでした。呼び捨てにしてまで、止めてしまって」
イオリの声には、真摯な謝意が込められていた。
だが、シーマは返さない。沈黙のまま、タバコをふかし続ける。
それでも、イオリは続けた。
「でも、黙って見過ごすことはできませんでした。……あのまま時間が過ぎれば、中尉が脱出できなくなるかもしれなかった。……そんなこと、絶対に嫌だったんです」
それを聞いたシーマは、煙をゆっくりと吐き出してから、ようやく口を開いた。
「……わかってるさ。あたしを思って、連れ出してくれたってのは」
彼女の声は低く、かすかに震えていた。
「ふっ……情けないねぇ。あたしがさ……“全員は助けられない”って、あんたに言ったのにね。なのに、いざって時に……足が止まったのは、あたしの方だったよ」
シーマのタバコを挟む指が、わずかに震えていた。
彼女はそれを隠すように、目をそらす。
イオリはそっと彼女の隣に立ち、ただ同じコロニーを見つめた。
何も言わず、ただ静かに寄り添うように。
「……俺は、中尉のこと……守りたいと思ったんです」
その言葉に、シーマの目が少しだけ大きく開いた。
だが、イオリはそれ以上は言わず、視線を逸らしたまま、タバコの灰を落とした。
沈黙が、再び流れる。
だがそれは、気まずさではなく、どこか穏やかで、温かい静けさだった。
やがて、シーマが小さく呟く。
「……変わったね、あんた。本当に」
その声には、どこか安堵のような、寂しさのような感情が混じっていた。
そして、彼女は初めて、イオリの方を正面から見た。
その目には、涙の跡が微かに光っていた。
イオリは、そんな彼女にそっと微笑みを返す。
言葉はなくとも、想いはしっかりと通じていた。
遠く、加速するコロニーの光が、静かに、二人の横顔を照らしていた。
ーーーーーー
タバコの火が細く燃え尽き、空気の中に微かな香りを残して消えた。
それでも、シーマは立ち尽くしていた。
視線は地球へ向かうコロニーに釘付けのまま、眉間には深い皺が寄っている。
イオリの言葉が、胸の奥に染み込んで離れない。
その時だった。
「……」
ふいにシーマが、イオリの胸に顔を伏せるようにして、そっと身を寄せた。
細い肩が、彼の胸元に押し当てられる。
思わず、イオリは目を見開いた。
息を飲み、身体が一瞬こわばる。まさか、彼女がこんな姿を見せるとは——。
その身体は微かに震えていた。
押し当てられた額のあたりから、しっとりとした感触が伝わってくる。
涙だった。
「……ちょっとだけ、こうしていて……いいかい……?」
シーマの声はかすれていた。
強く気丈な彼女からは想像もできない、震え混じりの懇願だった。
そこに宿るのは、罪悪感、自責、虚無、そして——救われたいという想い。
イオリはゆっくりと、ぎこちなく腕を動かし、彼女の肩にそっと手を置いた。
「……いつまででも、どうぞ」
そう答える声は、優しくも、どこか戸惑いを含んでいた。
だがその言葉には、確かな覚悟とあたたかさが宿っていた。
シーマはその言葉に応えるように、さらに少しだけ、イオリの胸に身を預けた。
小さなすすり泣きが、彼の制服を濡らしていく。
喫煙所の換気装置の音が、まるで遠い風のように響いていた。
誰もいないその空間で、ただ2人の影だけが、寄り添い、震えていた。
⸻
《ヘルヴォル》艦長室
重厚な扉が静かに閉じられ、室内には静寂が満ちていた。
その中央には、艦長の机と、その前に立つクラウスの姿があった。
ゲルハルト・アイゼンベルク少佐は、背筋を伸ばして椅子に座り、机に並べられた書類の束を指でなぞっていた。
彼の表情はいつものように硬く、だがその目にはどこか疲れの色が浮かんでいた。
クラウスは、敬礼の後、深く頭を下げる。
「……先ほどは、ありがとうございました。艦長の迅速な対応がなければ、我々は……」
「礼など要らん。軍人として当然のことをしたまでだ」
アイゼンベルクは手を軽く振り、クラウスの言葉を遮った。
しかし、その声音は決して冷たいものではなかった。
クラウスは少し口元を緩めながら、静かに問いを続けた。
「しかし、私たちにアドバイスをくださった割には……艦長自ら、先回りして動いていたようですね」
「……」
「……あんな作戦計画書、一体どこで入手なさったのですか?」
クラウスの問いに、アイゼンベルクはふっと鼻を鳴らした。
「そんなものは無いよ。単なる——出まかせだ」
「……えっ……」
クラウスの表情が凍る。思わず、言葉を失った。
「毒ガスの件は、私なりに本国の友人たちに聞き回ったよ。だが証拠など、どこにも存在しなかった」
アイゼンベルクは椅子から立ち上がり、部屋の片隅に置かれたロッカーから煙草を取り出す。一本咥え、火をつけながら続けた。
「だからこそ、動いたのだ。少しでも真実を掴める可能性があるなら、見過ごすわけにはいかなかった」
クラウスは、言葉を失ったままその背を見つめていた。
「私は、格納庫内を全て記録していた。ビデオにね。アサクラが計画の核心に触れる瞬間を——全て撮った」
「……!」
「奴は、焦るとバカになる。自分で全部、口にした。“作戦の意図”、“避難指示の偽装”まで……な」
アイゼンベルクはゆっくりと椅子に戻り、再び机に向き合う。
「この映像を本国に送り、正式に軍法会議にかける」
「……」
「……そうすれば、少なくとも“真実”は、誰の手からも逃れられはしない」
しばらくの沈黙のあと、クラウスは肩の力を抜き、小さく笑った。
「……流石です、艦長。まさに“老練”の仕事だ」
アイゼンベルクは、ふっと目を細め、初めて表情を緩めた。
「……さすがに、疲れたな、大尉」
その声には、どこか人間らしい疲労と、わずかな安堵が混じっていた。
外ではまだ、地球へ向かうコロニーが、空を切り裂くように進み続けていた。
その運命に抗おうとした者たちの影が、艦内の至る場所で、静かに揺れていた——。
好きなキャラ
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主人公
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シーマ様
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クラウス大尉
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カール二等兵
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エリック伍長
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ハンス軍曹
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エーリッヒ軍曹
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グスタフ曹長
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クルト整備長
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ゲルハルト艦長
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アサクラ笑