転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第35話 死にゆく者たちへ

ザンジバル級機動巡洋艦《ヘルヴォル》・ブリーフィングルーム前通路

 

コロニー脱出から数時間後。

《ヘルヴォル》のブリッジ前方モニターには、地球圏に向かって加速する巨大コロニーの姿があった。

燃え尽きぬよう設計された核パルスエンジンが、鈍く不気味な光を何度も何度も点滅させ、静かに、そして確実に推進力を積み上げていた。

 

それは、もはや止めようのない暴力だった。

人の意思など、とうに置き去りにしていた。

 

《シーウルフ隊》の面々が、その姿を黙って見つめていた。言葉が、出ない。

誰もが、そのコロニーの中に今も残っているかもしれない命を思い、沈黙の中で拳を握っていた。

 

「……ちくしょうがッ!!」

 

沈黙を破ったのは、グスタフ・ヴァール曹長だった。

彼の怒声が金属の壁に響き、付近にいた隊員たちが振り向く。

グスタフは、側にあったダストボックスを思い切り蹴り上げた。

ガンッ!という甲高い音と共に、それが壁にぶつかり転がる。

 

「元はと言えば……アサクラの野郎が、最初から避難誘導に全力を当ててりゃ……! 市民はもっと助かったんだ……!ふざけやがって……!」

 

その怒りは、もはや誰にも止められないほどの正当なものだった。

エーリッヒが項垂れながら呟く。

 

「……そうだぜ。なぁ……。これが……“作戦”かよ。人の命を、なんだと思ってんだ……」

 

隊員たちはそれぞれに顔を歪め、口元を押さえて涙を堪える者もいれば、壁に拳を打ちつける者もいた。

誰もが、自分がもっと早く動けていれば……と、悔いを噛み締めていた。

 

「野郎……ぶん殴ってやるよ。ぶっ殺してやる……」

 

ハンス・グリューネル軍曹が、立ち上がって通路の奥へと進もうとする。

その目は血走り、全身が怒りで震えていた。

 

だがその腕を、クラウス・シュレンケ大尉が掴む。

 

「やめろ、ハンス」

 

静かだが、力強い声だった。

 

「……アイツになにかしたところで、どうにもならん。死んだ人間が戻るわけじゃない」

 

ハンスはその手を振り払おうとするが、クラウスの目を見て、力が抜けた。

 

「落とし前は、必ず付けさせる。俺たちに出来る事は……俺たちが“軍人”として、ジオンが始めた戦争の中で、何を選び、何を為すかを通して示すものだ」

 

クラウスの目は怒りを押し殺し、深く、哀しみに滲んでいた。

 

「後でブリーフィングを行う。それまで解散だ」

 

彼がそう言うと、隊員たちはそれぞれの想いを胸に、静かにその場を離れていった。

 

 

《ヘルヴォル》艦内・喫煙所

 

数十分後。

薄暗い喫煙所。換気装置の静かな唸りの中、赤く光る小さな火が、ひとつ揺れていた。

 

シーマ・ガラハウ中尉が、1人でタバコを吸っていた。

その視線の先には、依然として地球へと進むコロニーの姿があった。

 

不自然なほど静かなその背中は、普段の彼女からは想像もできないほど弱々しかった。

揺れる肩、細く震える指先。

その中にあるのは、自分が置いてきた命たち――その影。

 

「やっぱり、ここにいましたか。……探しましたよ」

 

低く、けれど優しい声が背後から聞こえた。

 

シーマはほんの一瞬だけ振り返る。

だが何も言わず、視線をコロニーへと戻す。

 

そこへ、イオリ・クローネ少尉がゆっくりと近づいてくる。

彼も黙ってポケットからタバコを取り出し、スッと口にくわえ、ライターの火をつけた。

 

その仕草は、かつて不慣れだった彼からは想像できないほど、落ち着き払っていた。

今の彼が背負っているものを物語っているかのようだった。

 

「……中尉、先ほどは……すみませんでした。呼び捨てにしてまで、止めてしまって」

 

イオリの声には、真摯な謝意が込められていた。

だが、シーマは返さない。沈黙のまま、タバコをふかし続ける。

 

それでも、イオリは続けた。

 

「でも、黙って見過ごすことはできませんでした。……あのまま時間が過ぎれば、中尉が脱出できなくなるかもしれなかった。……そんなこと、絶対に嫌だったんです」

 

それを聞いたシーマは、煙をゆっくりと吐き出してから、ようやく口を開いた。

 

「……わかってるさ。あたしを思って、連れ出してくれたってのは」

 

彼女の声は低く、かすかに震えていた。

 

「ふっ……情けないねぇ。あたしがさ……“全員は助けられない”って、あんたに言ったのにね。なのに、いざって時に……足が止まったのは、あたしの方だったよ」

 

シーマのタバコを挟む指が、わずかに震えていた。

彼女はそれを隠すように、目をそらす。

 

イオリはそっと彼女の隣に立ち、ただ同じコロニーを見つめた。

何も言わず、ただ静かに寄り添うように。

 

「……俺は、中尉のこと……守りたいと思ったんです」

 

その言葉に、シーマの目が少しだけ大きく開いた。

だが、イオリはそれ以上は言わず、視線を逸らしたまま、タバコの灰を落とした。

 

沈黙が、再び流れる。

だがそれは、気まずさではなく、どこか穏やかで、温かい静けさだった。

 

やがて、シーマが小さく呟く。

 

「……変わったね、あんた。本当に」

 

その声には、どこか安堵のような、寂しさのような感情が混じっていた。

そして、彼女は初めて、イオリの方を正面から見た。

 

その目には、涙の跡が微かに光っていた。

 

イオリは、そんな彼女にそっと微笑みを返す。

言葉はなくとも、想いはしっかりと通じていた。

 

遠く、加速するコロニーの光が、静かに、二人の横顔を照らしていた。

 

ーーーーーー

 

タバコの火が細く燃え尽き、空気の中に微かな香りを残して消えた。

 

それでも、シーマは立ち尽くしていた。

視線は地球へ向かうコロニーに釘付けのまま、眉間には深い皺が寄っている。

イオリの言葉が、胸の奥に染み込んで離れない。

 

その時だった。

 

「……」

 

ふいにシーマが、イオリの胸に顔を伏せるようにして、そっと身を寄せた。

細い肩が、彼の胸元に押し当てられる。

思わず、イオリは目を見開いた。

息を飲み、身体が一瞬こわばる。まさか、彼女がこんな姿を見せるとは——。

 

その身体は微かに震えていた。

押し当てられた額のあたりから、しっとりとした感触が伝わってくる。

涙だった。

 

「……ちょっとだけ、こうしていて……いいかい……?」

 

シーマの声はかすれていた。

強く気丈な彼女からは想像もできない、震え混じりの懇願だった。

そこに宿るのは、罪悪感、自責、虚無、そして——救われたいという想い。

 

イオリはゆっくりと、ぎこちなく腕を動かし、彼女の肩にそっと手を置いた。

 

「……いつまででも、どうぞ」

 

そう答える声は、優しくも、どこか戸惑いを含んでいた。

だがその言葉には、確かな覚悟とあたたかさが宿っていた。

 

シーマはその言葉に応えるように、さらに少しだけ、イオリの胸に身を預けた。

小さなすすり泣きが、彼の制服を濡らしていく。

 

喫煙所の換気装置の音が、まるで遠い風のように響いていた。

誰もいないその空間で、ただ2人の影だけが、寄り添い、震えていた。

 

 

《ヘルヴォル》艦長室

 

重厚な扉が静かに閉じられ、室内には静寂が満ちていた。

その中央には、艦長の机と、その前に立つクラウスの姿があった。

 

ゲルハルト・アイゼンベルク少佐は、背筋を伸ばして椅子に座り、机に並べられた書類の束を指でなぞっていた。

彼の表情はいつものように硬く、だがその目にはどこか疲れの色が浮かんでいた。

 

クラウスは、敬礼の後、深く頭を下げる。

 

「……先ほどは、ありがとうございました。艦長の迅速な対応がなければ、我々は……」

 

「礼など要らん。軍人として当然のことをしたまでだ」

 

アイゼンベルクは手を軽く振り、クラウスの言葉を遮った。

しかし、その声音は決して冷たいものではなかった。

 

クラウスは少し口元を緩めながら、静かに問いを続けた。

 

「しかし、私たちにアドバイスをくださった割には……艦長自ら、先回りして動いていたようですね」

 

「……」

 

「……あんな作戦計画書、一体どこで入手なさったのですか?」

 

クラウスの問いに、アイゼンベルクはふっと鼻を鳴らした。

 

「そんなものは無いよ。単なる——出まかせだ」

 

「……えっ……」

 

クラウスの表情が凍る。思わず、言葉を失った。

 

「毒ガスの件は、私なりに本国の友人たちに聞き回ったよ。だが証拠など、どこにも存在しなかった」

 

アイゼンベルクは椅子から立ち上がり、部屋の片隅に置かれたロッカーから煙草を取り出す。一本咥え、火をつけながら続けた。

 

「だからこそ、動いたのだ。少しでも真実を掴める可能性があるなら、見過ごすわけにはいかなかった」

 

クラウスは、言葉を失ったままその背を見つめていた。

 

「私は、格納庫内を全て記録していた。ビデオにね。アサクラが計画の核心に触れる瞬間を——全て撮った」

 

「……!」

 

「奴は、焦るとバカになる。自分で全部、口にした。“作戦の意図”、“避難指示の偽装”まで……な」

 

アイゼンベルクはゆっくりと椅子に戻り、再び机に向き合う。

 

「この映像を本国に送り、正式に軍法会議にかける」

 

「……」

 

「……そうすれば、少なくとも“真実”は、誰の手からも逃れられはしない」

 

しばらくの沈黙のあと、クラウスは肩の力を抜き、小さく笑った。

 

「……流石です、艦長。まさに“老練”の仕事だ」

 

アイゼンベルクは、ふっと目を細め、初めて表情を緩めた。

 

「……さすがに、疲れたな、大尉」

 

その声には、どこか人間らしい疲労と、わずかな安堵が混じっていた。

 

外ではまだ、地球へ向かうコロニーが、空を切り裂くように進み続けていた。

その運命に抗おうとした者たちの影が、艦内の至る場所で、静かに揺れていた——。

 

好きなキャラ

  • 主人公
  • シーマ様
  • クラウス大尉
  • カール二等兵
  • エリック伍長
  • ハンス軍曹
  • エーリッヒ軍曹
  • グスタフ曹長
  • クルト整備長
  • ゲルハルト艦長
  • アサクラ笑
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