転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
《ヘルヴォル》艦内・喫煙所
時間はゆっくりと流れていた。
誰も訪れないこの一角に、ただ小さな灯りと、ふたり分の気配だけがあった。
イオリの胸に顔を伏せたまま、シーマはしばらく微動だにしなかった。
その肩はもう震えてはいなかったが、代わりに、静かに沈みきったような温度を帯びていた。
イオリは、その沈黙を壊さぬように、呼吸すら控えめにしていた。
ただ、そっと肩に手を置き続けることしか、彼にはできなかった。
やがて、シーマが小さく息を吸い、ゆっくりと身を引いた。
「……すまないね」
その声は、先ほどとは違っていた。
泣き腫らした瞳ではあったが、そこにはもう、芯のようなものが戻ってきていた。
「もっ……いいよ。落ち着いたから」
「……あ、ああ!」
イオリは慌てて手を離し、肩を引き、ややぎこちなく姿勢を正した。
自分でも気づかぬうちに、かなり近い距離で、シーマを見つめていたのだ。
「す、すみません!いつまでも……その、肩に、手を……」
シーマは、ぽつりと笑った。
「……いや、いいんだよ。別に……アタシが頼んだからさ」
そう言いながらも、彼女は少しだけ顔を逸らした。
耳元がわずかに赤らんでいるのを、イオリは見逃さなかった。
一瞬、沈黙。
イオリは、どうしようか迷った末、ぽつりと本音を漏らしてしまう。
「俺の方こそ……その、むしろ……嬉しかったというか……」
——言ってしまった、とすぐに気づく。
しまった、余計なことを。
イオリは自分の言葉に焦り、額に汗がにじむような心地になった。
「え?……それって、どういう意味だい?」
シーマが静かに問い返してくる。
その声は柔らかいが、真っ直ぐに、イオリの目を射抜くような響きがあった。
「え、えーと……その……」
言葉が続かない。喉の奥が張り詰めて、舌が回らない。
シーマの表情が、少しだけ期待と疑念の入り混じったものに変わっていく。
「……なんだい?」
詰問ではない。ただ、答えを待つ視線。
イオリの心臓は、ありえないほど速く打っていた。
その時——。
「——シーウルフ隊、各小隊長、ブリーフィングルームに集合せよ」
艦内に響いたのは、クラウスの落ち着いた、しかし緊張感を孕んだ声だった。
その瞬間、イオリの顔がパッと明るくなった。助かった、とばかりに。
「しゅ、集合ですって!さ、さぁ、行きましょう!」
とにかくこの場から逃げるように、イオリはそそくさと身を翻し、喫煙所の扉へと向かう。
足早にその場を離れる彼の背中は、何かに追い立てられているかのようだった。
「あ、ちょっと待ちなってば……」
シーマは軽く呆れたように声をかけるが、すぐにその頬が緩んだ。
「……はぁ。まったく、意気地なしだねぇ……」
そう呟く彼女の顔には、さっきまでの弱さも、涙の跡もなかった。
代わりに浮かんでいたのは、どこか少女のような笑みだった。
シーマ・ガラハウ。
シーウルフの冷徹なる副隊長、恐れられた女。
その彼女が、今はひとりの青年の後ろ姿を見て、笑っていた。
その足取りは軽く、心に差していた暗雲が、ほんの少しだけ晴れたように感じられた。
ブリーフィングルームへ向かう道の途中、ふたりの距離は物理的には離れていたが、
心の距離は——たしかに、近づいていた。
ーーーーーー
《機動巡洋艦ヘルヴォル》艦内・ブリーフィングルーム
重い扉が滑るように開く。
イオリは一瞬戸惑った表情を浮かべながら、中へ足を踏み入れた。
すでに室内には、小隊長たちの姿が揃っていた。
クラウス・シュレンケ大尉が正面の席に立ち、その隣には、ザンジバル級「ヘルヴォル」の艦長、ゲルハルト・アイゼンベルク少佐が腕を組んで佇んでいる。
室内は静かだった。
誰一人として口を開く者はいない。重く、沈んだ空気が支配していた。
「し、失礼します!」
小声で頭を下げながら、イオリは指定された席へ向かって足早に歩いた。
視線を感じる。だが、それは責めるものではなく、むしろ共に何かを背負った者たちからの、理解と痛みを分かち合うまなざしだった。
イオリが席に腰を下ろした直後、もう一つの足音が響いた。
「大尉、遅れてすまないね」
入り口から現れたのはシーマ・ガラハウ中尉だった。
落ち着いた表情に戻ってはいたが、どこか瞳の奥に微かな疲れが残っているようにも見えた。
彼女が席についたのを確認すると、艦長が前に進み出る。
その動作は、静かだが威厳に満ちていた。
「……アサクラ大佐の件について、本国と連絡を取った」
その第一声に、全員の背筋が伸びる。
「彼の背後には、この計画を命じた上の存在があるかどうかも、未だ不明瞭だ。だが少なくとも、彼の命令で非武装の民間人を危険に晒すような作戦が強行されようとしていたことは、我々によって明らかとなった」
艦長は手元の端末に指を走らせ、部屋の壁面に映し出される数枚の映像。
格納庫内に設置されたカメラの記録、アサクラが口にした命令内容、証拠として収められた毒ガスのコンテナ。
「映像はすでに本国に送付済みだ。これを受け、本国からは正式に命令が下った」
その声に、隊員たちは固唾をのんで耳を傾ける。
「我々ジオン公国軍・特殊海兵隊は、アサクラ大佐の身柄を直ちに本国へ送還し、軍事裁判にかけるよう命ぜられた。よって、これよりサイド3へ帰還する」
その言葉が、場の空気を決定的に変えた。
クラウスが立ち上がる。背筋を伸ばし、皆を見渡すその視線は、静かで、しかし確固たるものを宿していた。
「おそらく各々、今の出来事に対して思うことはあるだろう。悔しさ、怒り、無念……そして、虚しさも。だが——今はまず、アサクラを裁く。それが俺たちに課せられた最初の責務だ」
「コロニーが地球に向かっている、その結末を見届けたい者もいるだろう、だが、命令は命令だ」
「以後のコロニーの監視及び護衛任務は友軍が引き受けることになる」
「……本作戦はこれをもって終了する」
短く、力強い宣言。
彼の言葉に、部屋の中の者たちが、ゆっくりと頷いていく。
ハンスは、握った拳を静かに膝の上に置いたまま、うつむいたまま微動だにしなかった。
隣のエーリッヒは、そんなハンスの肩をぽんと軽く叩くように見せて、それ以上は何も言わなかった。
グスタフは目を閉じ、何かを呑み込むように深く息をついた。
その顔に浮かぶのは怒りではなく、むしろ諦観と、それでもなお続けねばならぬという覚悟だった。
イオリは、隣のシーマをちらりと見た。
シーマは、ただ前を見ていた。整った横顔の輪郭には、戦い続ける者の意志が宿っていた。もう、涙は無かった。
「……了解しました」
誰ともなく、その声が発せられた。
それに続くように、各小隊長たちの声が重なる。
「了解」「了解だ、大尉」「命令に従う」「了解しました」
その声たちは、決して大きくなかったが、そこには揺るぎない軍人の魂があった。
艦長はそれを静かに受け止めたあと、一言だけ付け加えた。
「……この戦いに正義など無いかもしれん。だが、せめて……己が行ったことに対し、恥じぬようあれ。それだけが、軍人としての矜持だ」
その言葉に、誰も反論しなかった。
クラウスが最後に言葉を締めくくる。
「ブリーフィングは以上だ。各小隊、機体と装備の点検をしておけ。あとはサイド3へ向けた航行中に通達する」
そう言って、クラウスは一礼し、部屋を後にする。
隊員たちも次々と立ち上がり、無言のまま出て行った。
喧騒も怒号もない、静かなブリーフィングだった。
だが、それぞれの胸の中には、言葉にならぬ決意と、割り切れぬ思いが渦巻いていた。
シーマとイオリは、最後に並んで席を立つ。
「……中尉」
イオリがぽつりと呼ぶと、シーマは少しだけイオリを見る、
「……あとで、喫煙所に戻ったら少し話があるのですが」
「……ふん、いいよ。先に行って待ってるよ」
ブリーフィング後、シーウルフ隊の面々がそれぞれの任務や整備へと戻る中、イオリはひとり艦内の廊下を歩いていた。目的地は決まっていた。ある程度の覚悟を持って、彼は向かっていた。
喫煙所に着くと、そこには先ほどと変わらぬように腰をかけ、外の景色を眺めているシーマの姿があった。姿勢は崩しておらず、どこか背中に哀愁を漂わせている。その眼差しの先に、何が映っているのかは彼にはわからなかったが、それでも——話さなくては、と思っていた。
イオリは小さく息を吸ってから、口を開く。
「中尉。お待たせしました」
シーマは振り向きもせず、「……ああ、さっきの続きかい?」と静かに答えた。イオリは頷き、シーマの隣に腰を下ろす。しばらく沈黙が流れたのち、シーマはゆるりと首を傾けて彼を見た。
「それで? 話ってなんだい?」
イオリは静かに目を合わせる。そして真っ直ぐに語り出す。
「俺は、初めてこの隊に配属されてから……たくさんのことを学びました。何も知らなかった自分を、叱って、鍛えて、育ててくれたのは——シーマ中尉、あなたです。今、こうして戦えているのは、中尉のおかげです。本当に、ありがとうございました」
言い終えると同時に、深々と頭を下げるイオリ。その言葉に、シーマの目はぱちくりと見開かれた。
「……話って、まさかそれだけじゃないだろうね?」と、眉をぴくりと跳ねさせながら問う。
イオリは戸惑いの色を浮かべつつも、「は、はい? いえ……ちゃんとお礼を言えていなかったので、改めて……」と、ぎこちなく言葉を返す。
その瞬間だった。
「はぁーーーー……」
シーマが大きくため息をつくと、肩をすくめて立ち上がる。
「期待したアタシがバカだったよ。ほんとさ……」
「ちょ、中尉?! な、なぜ怒ってるんですか?!」と慌てて立ち上がるイオリ。しかし、シーマはイオリを一瞥もしない。
「うるさいね! はやく自室に戻りな!」
その声はどこか、泣き出したいのを堪えるような震えを帯びていた。イオリはその勢いに押されて、敬礼のような姿勢で「は、はい……」と答えてしまう。
「ふんっ!」と鼻を鳴らして去っていくシーマ。その背中を、喫煙所の入り口から覗いていたクラウスが苦笑まじりに現れる。
「イオリ、今のはないぞ……」
彼の表情には、哀れみと少しの同情が滲んでいた。イオリは何がいけなかったのか分からず、「?」と眉をひそめたまま、喫煙所の壁に寄りかかる。
一方その頃、シーマは艦内の廊下を足早に歩いていた。だが途中でふと、立ち止まる。
「……なんだい。こっちのドキドキを返せってのさ……」
ぽつりと呟いたその声は、どこか寂しげだった。
けれど次の瞬間、彼女の顔には少しだけ笑みが浮かんでいた。
「……まったく、何を怒ってるんだろうね、アタシは」
自嘲気味に苦笑しながら天井を見上げる。どこかスッキリしたような空気が、彼女の中に広がっていた。
「イオリは、仲間だ。信頼できる部下で……真面目で、真っ直ぐで……いい男さ。でも……それ以上を、求めようとするのは……お門違いかねぇ」
タバコに火をつけようとして、結局やめた。シーマは少しだけ肩を落とし、しかし、歩き出す足取りは先ほどよりも軽やかだった。
廊下の奥、曲がり角の先。イオリの姿が見えたとき、シーマは少しだけ立ち止まり、ぽそりと呟いた。
「……でもまぁ、悪くないさ。あんな言葉も、たまにはね」
彼女の顔には、艦内の誰もまだ見たことがない、ほんのりとした微笑が浮かんでいた。
色々とアレだったので、箸休め的な?笑
色々考えがあると思います。コロニーが未だ落ちているのにシーウルフ隊がその先を見届けずに帰還することなどなど
しかし、そこは軍人、正当な命令には従うしかありません。そして、そのことに不平不満を言うことが無駄だと言うことを知っているのです。
主人公とシーマ様の甘々な雰囲気はどうですか?
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ほしい!もっと!!シーマ様をデレさせろ!
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こんな感じでいい
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減らしてくれてもいいかなー