転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

41 / 94
第38話 優しい嘘

翌朝――ヘルヴォル・乗員用居住区、イオリの私室

 

差し込む朝の光はやけにまぶしく、寝台に突っ伏したイオリの顔を容赦なく照らしていた。うめき声と共に、彼は頭を抱えて呻いた。

 

「う……うぅ……頭が割れそうだ……」

 

酔いの残滓は濃く、身体は重い。昨夜の喧騒と熱気、そして仲間たちの豪放な笑い声が、遠い記憶のように耳の奥で反響していた。

 

ノックの音と共に、扉がスライドして開く。そこからひょっこりと現れたのは、元気そうなカール・シュナイダーだった。手には水の入ったカップ。

 

「少尉ー? 飲み過ぎっすよ? はい、水っす。ちゃんと飲んでください」

 

「……すまん、カール。昨夜はちょっと……いや、だいぶ飲みすぎたようだ……」

 

イオリはぎこちなく身を起こし、水を受け取ると一息に飲み干した。冷たい水が喉を通り、ようやく意識が少しだけ戻ってくる。

 

「せっかくの休みなのに、もったいないっすよ? ほら、食堂でも行きません?」

 

カールの屈託のない笑顔に、イオリは小さく苦笑してうなずいた。

 

「そうだな。朝飯くらいは……食わなきゃな」

 

 

艦内・食堂

 

朝の光が差し込む食堂には、まだまばらにしか乗員の姿はない。そんな中、既に席を取って待っていたエリック・ホフマンがイオリの姿を見つけ、眉をひそめた。

 

「少尉、飲み過ぎはダメだって言ったでしょう? まったく……」

 

「……悪かったって。だけどな、大尉たちが離してくれなかったんだよ」

 

苦笑しながら肩をすくめるイオリに、カールとエリックは顔を見合わせた。

 

「え? 飲みに行ったの、大尉たちとですか?」

 

「ずるいですよ、俺も行きたかったっす! 連れてってくれたら良かったのに!」

 

「いや、まあ……そうだな」

 

どこか目を逸らしながら答えるイオリ。もちろん、シーマとの“先行行動”については触れない。

 

そこに、やけに賑やかな足音と共に現れたのは、昨夜の“主犯”たちだった。

 

「おう、イオリ! ダウンしてんじゃねーよ、今日も行くぞ!」

 

クラウス・シュレンケ大尉が陽気な声で笑いながら肩を叩く。ハンスとエーリッヒ、グスタフも既に酒が入っているかのようなテンションでイオリを囲む。

 

「勘弁してくださいよ、大尉……」

 

イオリがげんなりとした表情で応じるその瞬間、凛とした足音が響き、場の空気が一変する。

 

「イオリ。だから飲みすぎるなって言ったんだよ」

 

現れたのは、シーマ・ガラハウ中尉。腕を組み、呆れたようにイオリを見つめていた。

 

「おぉ? 早速、ダーリンのご心配ですかな? シーマ“さん”?」

 

クラウスがからかうように言い放つと、シーマは鼻で笑った。

 

「うるさいよ、あんた達。朝から騒がしいったらないね」

 

その軽口に、カールとエリックは困惑した様子で視線を交わす。

 

「……シーマ“さん”?」「え? なに? どういうこと?」

 

イオリは目を伏せ、何か言いかけてはやめる。けれど、その表情はどこか誇らしげでもあった。

 

 

そこへ――艦内に緊張が走る

 

「おはよう、諸君」

 

食堂の扉が静かに開き、威厳ある声と共に艦長、ゲルハルト・アイゼンベルク少佐が現れた。すぐに全員が背筋を伸ばしかけたが、艦長は手を軽く上げた。

 

「ただの報告だから、畏まる必要はない。――たった今、連絡が入った。コロニー“アイランド・イフィッシュ”が地球圏突入コースに入ったそうだ」

 

一瞬で場の空気が凍る。先ほどまでの賑やかさは、一気に消え去った。

 

「……そうですか。報告、ありがとうございます」

 

クラウスが静かに応じる。

 

「連邦の動きは?」

 

艦長は頷き、冷静に報告を続けた。

 

「連邦は衛星軌道上でコロニーに対し、総力を結集して攻撃を実施。だが、コロニーへの攻撃に集中した連邦艦隊は、友軍モビルスーツ部隊の襲撃に遭い、大損害を被ったそうだ」

 

「……やはり、コロニーを狙ったか……」

 

クラウスは苦々しげに呟いた。脳裏に浮かぶのは、あのコロニーに残された市民たちの姿。彼らの中に、救えた者はどれほどいただろうか。

 

「だが、安心してほしい。コロニー内の市民の多数は、避難に成功しているとの報告も上がっている。……喜べ。犠牲は最小限に済んだ。――これは、諸君らの働きの成果でもあるのだ」

 

艦長は静かに、しかし力強く微笑んだ。

 

その言葉に、隊員たちは深い息を吐いた。ほんの僅かでも、自分たちが誰かを救ったのだという実感が、心の重荷をわずかに和らげた。

 

「……ありがとうございます、艦長」

 

「さあ、明日はキシリア閣下と謁見だ。全員、身なりはきれいにしておけよ」

 

その言葉を最後に、艦長は食堂を後にした。隊員たちはそれぞれ、自室へ戻って制服の手入れや身支度の準備を始めていった。

 

 

艦長室

 

艦長室は静寂に包まれていた。ゲルハルト・アイゼンベルクは椅子に深く座り、手元の一枚の報告書を見つめていた。そこには、「アイランド・イフィッシュ」コロニー市民避難状況の詳細が記されている。

 

彼の視線は、無表情のまま数字を追った。そして、静かに、重く、嘆息した。

 

――避難成功率:47%

 

「……多数は避難した、か。我ながら、なんと酷い嘘をついたものだな……」

 

自嘲気味に笑うその横顔には、疲労と悲哀が滲んでいた。部下たちの士気を守るためについた嘘。だがその重さは、彼の胸を確実に蝕んでいた。

 

彼は受話器を取り上げ、番号を回す。通信の向こうは、ジオン公国軍総帥府、そしてかつての旧友。

 

「……ああ、久しぶりだな。今日は少し頼みがあってね。士官学校での借りを返してもらおうかと思ってな」

 

静かに、しかし一切の躊躇もなく言い放つ。

 

「――一つ、作戦結果報告書の数字を変えてほしいのだ。そう、コロニー市民の避難率。半分以上……そうだな、7割程度に」

 

相手の返答を待たず、彼は続けた。

 

「何人が避難できたかなんて、もう誰にも分からんよ。……ただ、うちの連中に真実が知られないようにしてやりたいだけだ」

 

通信を切り、ソファに体を預ける。

 

「……すまんな」

 

その声は、まるで神に許しを乞うようだった。

 

アイゼンベルクの瞳は、虚空を見つめていた。

 

それは、戦場に生きる者としての覚悟と、人としての呵責が交錯する、孤独な上官の姿であった。

 

ーーーーーー

 

夜。機動巡洋艦ヘルヴォル・格納庫

 

天井の高い格納庫には、通常の作業音も機械の駆動音もない。静まり返った空間に、唯一鳴り響くのは人々の足音と、わずかな呼吸の音だけだった。

 

モビルスーツたちが整然と並ぶなか――その中央。格納庫の中央台に、一人の男が立っていた。

 

クラウス・シュレンケ大尉。その姿を、艦内の全将兵が見上げていた。

 

皆が手に持つのは、無骨なスチール製のカップか、透明なグラス。中身はささやかな酒だ。笑い声はない。ただ、張り詰めた空気だけが流れていた。

 

照明がわずかに落とされ、格納庫は深夜の礼拝堂のような静謐に包まれていた。

 

クラウスは一度、深く息を吐いた。そして静かに口を開く。

 

 

「……全員、よく集まってくれた」

 

その声は低く、静かだった。だが、不思議と全員の胸に響いた。

 

「まず、先の作戦――よくやってくれた。コロニーは、計画通り地球圏への突入軌道に入った。……だが、それが意味することも、俺たちはよくわかってるはずだ」

 

一瞬、誰かがグラスを握る手に力を込める音がした。

 

「そこには、民間人がいた。罪なき人々が、数えきれないほどいた。……俺たちが、守れなかった命があった」

 

クラウスの拳が、小さく震えていた。

 

「悔しいと思う奴もいるだろう。許せないと思う奴も。……なにより、自分自身を責めている奴もいるかもしれない。だが――」

 

彼は鋭い眼差しで部隊を見回す。その瞳には、燃えるような決意が宿っていた。

 

「立ち止まるな。俺たちはもう後戻りできない。ジオンが掲げた独立の旗のもと、俺たちは軍人として歩いてきた。これまでの全てが、無意味だったとは絶対に言わせねぇ」

 

「戦争が終わったら、きっと俺たちは過去と向き合うことになる。何をしてきたのか、何を見過ごしたのか。……その時になって、苦しめばいい。泣けばいい。だが、今は違う。今の俺たちには、進むしかないんだ」

 

沈黙が広がる。隊員たちは皆、顔を俯けていた。

 

「……だがな、忘れるな。心が折れそうになったら、挫けそうになったら、俺に縋れ。泣け。喚け。怒りをぶつけろ。俺はお前たちを絶対に見捨てねぇ。どんな時でも、俺は隊長だ。お前たちの前を歩く覚悟はできてる」

 

その言葉に、一人、二人と目元を押さえる者がいた。

 

「俺たちは“シーウルフ”だ。名の通り――一つの群れだ。傷を舐め合うことも、吠えることも、戦うことも、一緒だ。……この戦争を、最後まで駆け抜ける。全員、ついてこい」

 

その言葉は、まるで心の奥底を貫くようだった。

 

誰かの嗚咽が、静かに聞こえた。

 

クラウスは一拍置き、グラスをゆっくりと持ち上げる。

 

「……まずは、先の作戦で犠牲となった、すべてのコロニー市民たちに――」

 

その声は深く、敬意と痛みを帯びていた。

 

「――献杯」

 

隊員たちが一斉に、無言でグラスを天に掲げる。

 

沈黙のなか、グラス同士が触れ合う小さな音が、格納庫に響いた。

 

それは祈りにも似た音だった。

 

誰かは目を閉じ、誰かは唇を噛みしめ、誰かはこらえきれず、涙をこぼしていた。

 

その涙が、コロニーに取り残された命への追悼なのか、自らの罪への贖罪なのか、あるいはその両方なのか――誰にもわからなかった。

 

ただ、彼らは今、一つの群れだった。

 

 

しばらくの静寂の後、クラウスが不意に笑った。

 

「……よし!」

 

パッと表情を変え、声を張り上げる。

 

「明日はキシリア様との謁見だ! 全員、身なりを整えて、しゃんとしていけよ! 今日は程々に飲め! 飯はたっぷり確保してある!」

 

ざわっと、空気が柔らかくなる。

 

隊員たちは徐々に笑顔を取り戻し、静かな語らいが始まった。グラスを交わし、互いの肩を叩き、時に声を潜めて語り合う。

 

その光景は、まるで戦士たちが戦場の合間に手に入れた、ささやかな平穏だった。

 

傷を癒すように、疲れを洗い流すように――彼らはその夜、語り合い、笑い合った。

 

明日にはまた、軍服を着て、銃を持って、命を懸ける日々が待っている。それでも――今だけは。

 

今夜だけは、誰もが、戦士である前に一人の人間として――涙し、語り、酌み交わした。

 

格納庫の片隅。イオリは、シーマと並んで立っていた。多くを語らずとも、共に杯を交わすその時間が、何よりも心に沁みた。

 

そして、その夜は静かに、しかし確かに、シーウルフという名の群れの絆を深めていったのだった。

 




クラウス大尉かっこよすぎんよーー!!爆泣
こんな上司が欲しい笑
あと、艦長の心の葛藤、とても辛いと思います。
部下を安心させるために部下に嘘をつく。優しい嘘。
優しい嘘は賛否ありますよね、許されるのかどうか。
でも半分弱が脱出できてるってすご無いっすか?たった一隻だけですよ
ところで、なんだろうかカール君のこの恭しさ、え?君男だよね?可愛過ぎん?笑
冗談です爆笑

主人公とシーマ様の甘々な雰囲気はどうですか?

  • ほしい!もっと!!シーマ様をデレさせろ!
  • こんな感じでいい
  • 減らしてくれてもいいかなー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。