転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第40話 灰狼

幾千の星が瞬く漆黒の宇宙。その静謐を、突然切り裂くようにして、白銀の残光を描く二条の光が交差した。

 

1機は黄土色に紫をあしらった独特な塗装のザク。しなやかで獰猛なその動きは、まるで獲物を翻弄する野生の豹のようだ。

もう1機は機体全体を灰色で包んだザク。色味こそ地味だが、動きは一切の無駄を排した正確さと、狼のような鋭さを併せ持っている。

 

2機のザクは、空間の上下左右すべてを自由に使い、互いの間合いを測りながら鬼火のような高機動戦を繰り広げていた。

 

通信回線が開かれ、軽妙なやり取りが交わされる。

 

「へぇ……」

シーマの声が、軽く笑みを含みながら流れてきた。

「イオリ、ついてこれるようになったじゃないか!」

 

その声には嘲りの色はない。自分の背中を追い、食らいついてくる者を楽しむ者の声だ。だが、それを受けたイオリも、今の彼女にはもう臆さない。

 

「シーマ中尉、忘れたんですか? あなたは俺に一回、負けてるんですよ?」

 

ほんのわずかに張った声。それは、冗談めかしながらも自信をにじませたものだった。

 

「ふん……言うようになったね!」

通信の向こうでシーマが鼻を鳴らす。

「じゃあ、しっかり付いてきな!」

 

次の瞬間、シーマのザクが閃光のように加速した。スラスターの噴射が黄紫の残光を尾のように引き、宙を斜めに切り裂く。イオリもすぐさま灰色のザクを踊らせ、ぴたりとその背中に張り付いた。

 

まるで二匹の猛獣が戯れるように、いや、互いの存在を確かめ合うように、彼らは重力のない空間を縦横無尽に駆け抜けていく。

 

ーーーーーー

 

ヘルヴォル艦内 ― ブリッジ

 

その様子を、艦橋の大型モニターが映し出していた。

 

白銀の線が交錯し、舞い、離れ、また絡み合う様に、ブリッジクルーの誰もが息を飲む。

 

「すげぇな……」

誰かが、ぽつりと呟いた。

「あそこまでの高機動を、あの速度で維持できるのは――あの2人だけだな」

 

モニターの前、艦長席に座るゲルハルト・アイゼンベルクもまた、黙ってその映像を見つめていた。普段の厳格な表情をわずかに緩め、誇らしげな眼差しを向けている。

 

「ふ……俺でもあそこまで続けるのはキツイな」

クラウス・シュレンケが肩をすくめ、珍しく苦笑いを浮かべた。

その瞳は、確かな実力者にしか見せない、信頼と期待を帯びた光を宿している。

 

ーーーーーー

 

訓練終了後 ― 格納庫

 

蒼く光るランウェイに、重い足音が二つ響いた。

新型機ザクⅡM(マリーン)が、ゆっくりとリフトに降り立つ。

機体には、それぞれのパーソナルカラーがはっきりと刻まれていた。

 

黄土と紫のコントラストが鋭いシーマ機。

灰色一色の静かな威圧感を放つイオリ機。

 

コックピットから降りた二人の姿に、格納庫の整備員たちは思わず拍手を送りそうになった。

 

その中で、古ぼけた整備服の男――整備長クルト・ヘルツァーが、煙草をくわえながらゆっくりと二人に歩み寄る。

 

「よう……どうだ? 新しいザクの乗り心地はよ」

 

シーマは、額の汗を拭いながら笑う。

 

「悪くないね。前のザクよりずっと速いし……なにより、継戦能力が高くなったのがいいね。息切れせずに動き続けられるのは、ありがたいさ」

 

イオリも、小さく頷きながら口を開いた。

 

「そうですね……前のザクと操縦感もそうかわりません、手に馴染む感じがします。全体的に、満足できる機体です」

 

その視線は、静かに自らの機体――灰色の狼へと向けられていた。

全身を覆う灰の色彩は、決して派手ではないが、確かな存在感と気迫を放っていた。

――灰狼、それは彼自身の象徴でもある。

 

その時、艦内放送が鳴り響く。

 

『――シーウルフ隊、隊員は全員ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す――』

 

クラウス・シュレンケの低く、落ち着いた声が流れる。

 

イオリとシーマは顔を見合わせ、互いに微笑んだ。

次の任務が、始まろうとしていた。

 

ーーーーーー

 

艦内ブリーフィングルーム。

厚い防音扉が閉じられると、そこには張り詰めた沈黙が支配していた。室内の照明は少し落とされ、中央のホロモニターが静かに輝いている。重ねた戦闘服の袖が擦れる音、唾を飲み込む音、それすらもはっきりと聞こえるほどの緊張感だった。

 

隊員たちが整然と並ぶ中、その最前には新たに大佐へ昇進し、シーウルフ隊の直属の司令官となったゲルハルト・アイゼンベルクが立っていた。その背筋はいつも以上に鋭く、軍人としての威厳と責任の重さが、彼の影を深く刻んでいる。

 

その傍らには、少佐となったクラウス・シュレンケ。彼の眼差しは鋭く、しかしどこか哀しみの色を帯びていた。

 

やがて、艦長の静かな声がブリーフィングルームに響いた。

 

「……たった今、正式な報告が入った。コロニー《アイランド・イフィッシュ》が……地球に落下したそうだ」

 

その言葉は重く、まるで室内の空気すべてを凍らせたかのようだった。

隊員たちが一斉に息を呑み、誰かの喉がわずかに鳴る音が、やけに響いた。

 

「ついに……落ちたのか……」

「…………」

「本当に……やってしまったのか……」

 

言葉には出さずとも、皆の胸に浮かぶのは、数多の命が一瞬で消えたという現実。その重み。その罪。その必然。

 

アイゼンベルク大佐は、そんな沈黙を貫いて続ける。

 

「しかし、当初の落下目標であったジャブロー……連邦政府の中枢には、命中していない。連邦軍が衛星軌道上で迎撃を行い、コロニーは空中で崩壊。落下地点は大きく逸れてしまった」

 

どこか落胆するような、それでも救われたような微妙な空気が流れるが、アイゼンベルクはその隙を与えない。

 

「この結果を受け、ジオン本国は新たな戦略を即座に打ち立てた」

 

ホロモニターに、コロニーと連邦艦隊の戦略配置図が映し出される。

その光景を前に、彼は厳しく、しかし確信に満ちた口調で続けた。

 

「新たな作戦の骨子は、“欺瞞”だ。

——連邦に対して、我々が第二のコロニー落下作戦を準備していると偽情報を流す。

連邦はそれを阻止すべく、宇宙にある全ての艦隊を動かすだろう。

我らの狙いはその動員だ。奴らの主力が宇宙に集まった瞬間を狙い、罠にかける。

そして、徹底的に叩き、宇宙の制圧権を奪う。それが、この作戦の核心だ」

 

張り詰めた空気がさらに一段引き締まる。誰もがその意味を理解していた。

勝てば宇宙の覇権を握る。負ければ、総力戦の終焉が見える。

 

アイゼンベルクの言葉を受け、クラウス少佐が前に出る。

 

「……我々、シーウルフ隊が任される任務は、その中でも極めて重要だ。

表で敵を誘き出す“囮部隊”が奴らを引きつけている間に、

我々はアバオアクーから出撃、月を迂回、連邦艦隊その背後から接近し、艦隊を“食い散らかす”。

一撃離脱ではない。“狩り”だ。徹底して、敵の中核を引き裂く」

 

クラウスの目が、隊員一人一人を射抜いていく。その視線は、かつての戦友としてのまなざしではなく、少佐として、指揮官としてのまなざしだった。

 

「お前たちならやれる。

俺たちは、常に数的不利の中で戦ってきた。

だが、一度として後れを取ったことはない。

だから任されたんだ。本作戦は突撃機動軍だけでなく、宇宙攻撃軍との共同作戦でもある」

 

隊内には、静かな熱が広がっていく。誰もがこの作戦の意味を理解し、そして己の責任の重さを受け止めていた。

 

その時、エーリッヒ・ヴォルツ軍曹がぽつりと呟いた。

 

「……そこまで来たんだな、俺たちも」

 

それに応えるように、グスタフ・ヴァール曹長が腕を組み、静かに言った。

 

「無茶を通してきた罰か、それとも……選ばれた栄光か、どっちだろうな」

 

クラウスが微笑を浮かべながら言った。

 

「両方さ。……だが、それがいい」

 

アイゼンベルク大佐が締めの言葉を告げる。

 

「作戦行動は三日後。それまでに機体を完全に調整し、各小隊は想定される宙域戦の演習を繰り返せ。アバオアクーには二日後に向かう予定だ。

作戦コードは——《バビロンの門》。

諸君の健闘を祈る。軍人として、恥じぬ戦いを——」

 

その言葉に、全員が敬礼で応じた。

 

作戦の名は、《バビロンの門》。

それは、連邦の門を破り、ジオンの未来を開く鍵となる——最大の総力戦の始まりであった。

 

ーーーーーー

 

宇宙空間―訓練宙域。

散在する模擬標的群と、時折投入される自動機動目標。それらを舞台に、シーウルフ隊の各小隊が、精密に、そして熾烈に訓練を繰り広げていた。

 

訓練コードは、《フェイズR-2:複数小隊連携・宙域掃討演習》。

作戦開始まで3日。クラウス少佐の命令のもと、各小隊は決められた宙域に散開し、それぞれの役割に基づく連携と制圧を徹底的に叩き込まれていた。

 

ーーーーーー

 

第三小隊――イオリ少尉の隊は、右方宙域から高速侵攻ルートを担当していた。

模擬敵部隊を高速突破で撃破し、他小隊と連携して最終殲滅ラインに合流する役割。

 

「カール!俺の後ろにつけ!突っ込むぞ!」

イオリの声が通信回線を通じて響く。眼前に展開する標的群の中枢目標に向けて、推進器を最大出力にして加速。機体の振動が脊髄を揺らす。

 

「了解っす!」

その背後を、軽快な操縦で追随するのはカール・シュナイダー。彼のザクは、未熟ながらも確実にイオリ機の影をトレースしていた。まるで“信頼”そのものを体現するように。

 

「エリック!援護できるな!」

「いつでもどうぞ、少尉」

やや離れた高所軌道を取っていたエリック・ホフマンのザクが、既に狙いを定めている。標的の防御ドローンが起動するよりも速く、牽制射撃を連続で浴びせた。炸裂する火花。その隙にイオリとカールが突入。

 

「撃てッ!!」

ザクマシンガンとバズーカの連射。イオリ機が中心目標に模擬弾を叩き込み、直後、カールが側面目標を精密射撃で仕留めた。

ホロ表示された“撃墜判定”が、連続して点灯していく。

 

「やるな、カール!」

「へへ、当然っすよ!」

呼吸すら乱れぬ連携。成長した若い翼と、それを導く指揮官――イオリの目には、もはやかつての焦りも未熟もなかった。

 

ヘルヴォルの外部モニターからその様子を眺めていたクラウス少佐は、ふと目を細める。

かつては単独行動の癖が抜けず、作戦全体を乱しかけたあの男が、いまや部下を導き、機体すら意のままに操っている。

 

(……よくここまで成長したな、イオリ。……シーマのおかげか)

そう心の中で呟きながらも、口には出さない。ただ、静かに微笑んだ。

 

ーーーーーー

 

一方、第二小隊――シーマ中尉の隊は、左方宙域で敵の擬似迎撃線を突破中。

 

「よし、こっちは片付いたね。……他に回るよ、ついてきな!」

宙域の残響すら突き抜けるような、シーマの凛とした声。彼女のザクが模擬敵機を間近で翻弄し、取り回しを活かしたヒートホークで斬り伏せる。

 

「――あいよ!姉さん!」

若い声が返る。副官格の隊員が、躊躇なく敵の死角を突いて二体目の標的に斬りかかった。躊躇のない動き。それは“恐れ”ではなく“信頼”が生んだ機動。

 

「アンタたち、ちゃんとついてきてるじゃないか」

そう笑いながら、シーマはすでに次の標的へと移動していた。

彼女の機体は、まるで舞うように滑り、斬り、指示を飛ばす。その全てに無駄がない。

 

ーーーーーー

 

第四・第五小隊――エーリッヒ・ヴォルツ軍曹とハンス・グリューネル軍曹の連携部隊が、中枢宙域で模擬敵艦隊の殲滅戦を展開していた。

 

「行くぞ!ハンスの小隊と合わせろ!」

エーリッヒの叫びに、彼の部下たちが隊列を再編。一斉掃射で敵戦艦型標的のエンジン部を破壊。

 

「おっ、エーリッヒが来たな。よし、おめぇら!このまま蹴散らすぞ!」

ハンスも呼応し、側面から挟撃。まるで合図を仕組まれていたかのような、完璧な合流。隊員たちはその指揮に応じ、模擬敵機を瞬時に制圧していった。

 

「四番機、斜め上!下がれ、下がってから射線取れ!」

「了解、軍曹!」

細かな指示が瞬時に実行される。その一つひとつが、積み重ねられた経験と信頼の証だった。

 

ーーーーーー

 

戦闘終了判定が響く。すべての小隊が目標制圧。隊列を再編し、宙域からの撤退航路につく。

 

クラウス少佐は、訓練フィールドの全体マップを見下ろし、ふっと息を吐いた。

 

「……ふ、まとまってきたな」

その声は小さく、しかし確かな誇りに満ちていた。

 

ーーーーーー

 

そして、その様子をブリッジのサブモニターで静かに見守っていた、ゲルハルト・アイゼンベルク大佐。

 

彼は無言のまま、指先でパイプを転がし、誰にも見えぬところでゆっくりと頷いた。

その厳しい眼差しの奥にあったのは――確かな“信頼”だった。

 

宇宙を翔ける狼たちの群れ。彼らは今まさに、“勝つための牙”を整えつつあった。

《バビロンの門》――その名の下に集う、シーウルフ隊。

 

運命の日は、もう目の前に迫っていた。

 

 




なんだよ、バビロンの門って笑
ルウム戦役もめっちゃ、改変します笑

主人公とシーマ様の甘々な雰囲気はどうですか?

  • ほしい!もっと!!シーマ様をデレさせろ!
  • こんな感じでいい
  • 減らしてくれてもいいかなー
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