転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
ア・バオア・クーの宇宙港に、ザンジバル級機動巡洋艦《ヘルヴォル》がゆっくりと滑り込む。その艦影が重々しい機動を終えると、格納されたランチと接舷ブリッジが徐々に動き出し、要塞との接続が始まる。
ブリッジに立つシーマが、正面の大型モニター越しに宇宙要塞の巨影を見据え、静かに呟いた。
「ここに来るのも……久しぶりだね」
その声音には懐かしさと共に、少しの緊張が滲んでいた。
イオリはシーマの背後からその言葉を聞きながら、モニターの映像に目を移した。ア・バオア・クーを取り巻く宇宙空間には、数えきれない数のジオン艦艇が集結しており、それぞれが慌ただしく出入りしている。
「……こんなにジオンのパイロットが集まるのは、壮観だな……」
艦内にざわつきが広がる。すでに幾つかの部隊が入港し、戦闘配備に向けた最終準備を進めていた。重苦しい空気と、静かな闘志が入り混じる緊張の中、艦長――今や大佐の肩章をつけたゲルハルト・アイゼンベルクが口を開く。
「これより、作戦コード《バビロンの門》についての最終ブリーフィングが行われる。各部隊の隊長、および小隊長級は出席を求められている。準備が整い次第、指定会場に向かうように」
「……小隊長級もか?」
イオリが思わず疑問を漏らす。その問いに答えたのはクラウス少佐だった。背筋を伸ばし、厳しい眼差しで彼を見る。
「連邦艦隊が先の作戦で打撃を受けたとはいえ、奴らの数はまだ多い。今度の作戦は細かい連携が鍵だ。だからこそ、小隊長にも全体の流れを叩き込んでおきたいんだろう」
「了解。じゃあ、準備できたら向かいますか」
「そうだな。各小隊長に伝えておけ。集合だ」
しばし後、イオリの私室のドアがノックされる。
「――どうぞ」
応じると、扉が音もなく開き、そこに現れたのはシーマだった。
普段の戦闘用スーツとは異なり、彼女は珍しく、赤みがかった正装用の軍服を纏っていた。ラインの入ったタイトなジャケットに、腰まで流れる髪が艶やかに揺れる。その姿はどこか凛として、けれどどこか柔らかさも宿していた。
イオリは無言のまま、一瞬、目を奪われる。
「……」
気の利いた言葉も出ず、ただじっと見つめるその視線に、シーマはふと眉を上げた。
「なんだい?」
声は少しぶっきらぼうだったが、わずかに耳元が紅潮しているのが見て取れる。
「そんなに見られても、なにも出やしないよ……」
言いながら、照れ隠しに肩をすくめる。だが、その動きにはどこかいつもより柔らかさがあった。普段は見せない、戦士ではない“彼女”の一面が、わずかに覗く。
イオリは少しだけ目を伏せ、苦笑した。
「……いや、似合ってたんで。思わず、ってやつです」
その言葉に、シーマはふいに視線を逸らしながら、鼻を鳴らす。
「ふん、口がうまくなったね、新人」
けれどその口調は、どこか優しかった。
「ほら、行くよ。みんなもう動いてる。あんたが遅れたら、クラウスにまた嫌味言われるよ」
「了解」
イオリは立ち上がり、並んで歩き出す。並ぶ肩は、まだ少しぎこちないが、距離は前よりもほんの少し、近かった。
二人は並んで艦を降り、要塞内へと足を踏み入れる。ア・バオア・クー――かつての激戦と、数多の陰謀の舞台となったこの場所は、まさに“最後の砦”の名にふさわしく、重厚な鉄の回廊と鋼鉄の天井が延々と続いていた。
クラウス少佐、エーリッヒ、ハンスもそれぞれに整列し、彼らと合流する。仲間たちは緊張とともに冗談めかした言葉を交わしながらも、歩調は自然と揃っていた。
そのときだった。
背後から、よく通る、しかしどこか懐かしい声が響いた。
「――久しぶりだな」
イオリの足がふと止まる。その声に込められた自信、確かな威厳――振り向かなくてもわかった。
「……シャア」
ゆっくりと振り返ると、そこには真紅の軍服を纏い、仮面をつけた男が立っていた。その仮面が覆う下の瞳は、相変わらず鋭く、そしてどこか人懐こい笑みを湛えていた。
「いつも、お前は背後から声をかけるな」
イオリは笑いながら、シャアに歩み寄る。そして力強く、彼と握手を交わす。
それは、戦友として、かつての仲間として――そして、同じ戦場に立つ男たちとしての再会の証。
シャアもまた口元を緩めて言った。
「戦場で会えて嬉しいよ、イオリ。君なら、必ずここに来ると思っていた」
「そっちこそ。あいかわらず派手に生きてるな」
クラウス、シーマ、他の隊員たちも、少しだけ驚いたようにその再会を見守っていた。
ーーーーーー
ア・バオア・クー要塞内、静謐かつ張り詰めた空気が漂う廊下。クラウスが訝しげに声をかける。
「イオリ、知り合いか?」
振り向いたイオリは、懐かしさと驚きの入り混じった笑みを浮かべながら答える。
「はい。士官学校時代の同期で……同室でした」
クラウスは頷き、納得したように息をつく。
「そうか、じゃあ積もる話もあるだろう。俺たちは先に行っておく」
「すみません、後で合流します」
イオリの言葉にクラウスは軽く手を挙げて歩き出す。が、そこで足を止め、隣に立つシーマを振り返る。
「シーマ、どうした。行くぞ」
けれどシーマは、その場で動けずにいた。シャアを一目見た瞬間から、何か…説明のつかない違和感が胸の内にあった。決して警報が鳴っているわけではない。ただ、何かが引っかかる。
(どうしてだろうね……)
そんな彼女にイオリが声をかける。
「シーマ中尉、後から追いつきますので」
「あ、あぁ……そうだね。じゃあ先に行ってるよ」
シーマは無理に笑って返し、クラウスたちと歩き出す。が、背後からハンスの冷やかしが飛ぶ。
「おいおい、ダーリン取られそうになって拗ねたか?」
「うっさいよ」
ぶっきらぼうに言い返すシーマだったが、その背中にはどこか拗ねたような雰囲気が滲んでいた。イオリは小さく苦笑しつつ、彼女の後ろ姿を見送る。
そんな様子を見ていたシャアが、皮肉めいた口調で呟く。
「隅に置けないな、イオリ」
「なに言ってんだよ、そんなんじゃない」
イオリが肩をすくめて否定すると、シャアは仮面の奥から笑いを含んだ声を漏らす。
「ブリティッシュ作戦のことは聞いた。君の部隊──シーウルフだったか。なかなかの戦果だったそうじゃないか」
イオリは苦笑し、少しだけ視線を落とす。
「まぁな。だが実際は、そう綺麗な話じゃない。あれは……地獄だった。言えることは一つ、あの時の司令官は……最低だったよ」
シャアは静かに反応する。
「だった?」
「更迭されたよ。俺たちが実情を報告してな。その後、新しい司令官の下に付いた──ちゃんと部下を人として見てくれる、信頼できる上官だ」
「そうか。深くは聞くまいよ」
シャアは一拍置いて、イオリの顔を覗き込むように語る。
「それにしても、君が小隊を率いているとはな。あの時、モビルスーツすらまともに操縦できなかったイオリが」
イオリは苦笑して頷く。
「ああ、そうだったな。でも、今じゃパーソナルカラーだって貰えたんだぞ?」
「ほう?そうなのな、なら、後で機体を見に行かせてもらおうか」
「お前こそ、なんで仮面なんか着けてるんだよ。そんな趣味なかったろ?」
するとシャアは、芝居がかった口調で答える。
「実は……顔に火傷をしてしまってね。それを隠すためさ」
「えっ、本当にか?」
イオリが少し焦った表情になると、シャアは小さく笑って手を振る。
「嘘さ。大したことはない。だが、この姿なら名を売りやすい。戦果を挙げれば『仮面の男』として覚えられる。出世にも繋がるかもしれない、そうだろう?」
イオリは一瞬ぽかんとし、次の瞬間には声を上げて笑っていた。
「なんだよそれ! でも……たしかにそうかもな」
久しぶりの会話は、士官学校時代を思い出すほどに自然だった。互いに背負うものは変わったが、笑い合う空気だけは変わらない。
シャアは腕時計を見てから言う。
「さて、そろそろ部隊に戻らねば。部下にも指示を出さないといけないからね」
「分かった。後でな、シャア! 飯でも食おう!」
「ああ、楽しみにしてるよ、イオリ」
そう別れて、イオリはクラウスたちが向かったブリーフィングルームの方角へ急いで歩き出す。だが、角を曲がった瞬間──
「うわっ!」
「──っ!」
ぶつかりそうになったのは、他でもないシーマだった。彼女は廊下の壁に手をついて、イオリをじっと見ていた。
「シーマ中尉? どうしたんですか?」
シーマは口を開くと、真剣な表情で言葉を紡いだ。
「イオリ。アイツのこと……あまり信用しない方がいいよ」
その言葉に、イオリの顔から笑みが消える。
「……どういうことです?」
「女の勘ってやつさ。アイツ、何かを隠してる。あの目は……あの雰囲気は、まともじゃない」
イオリはわずかに目を細め、低く、しかし明確な口調で言う。
「いくら中尉でも……俺の友達を、侮辱するようなことは言わないでください」
「……イオリ?」
「失礼します」
短くそれだけ言い残し、イオリは背を向けて歩き出す。彼の背中に、確かな怒りがにじんでいた。
シーマは呆然と立ち尽くし、その様子に一瞬で心がざわつく。
(イオリが、怒った……? 私に……?)
「──あっ、イオリ! 待ちなって!」
我に返ったシーマは、慌てて彼の後を追うのだった。
金属製の冷たい床に、イオリの軍靴の音が淡々と響いていた。無言のまま歩くその背を、シーマが追いかけていた。
「……イオリ、待ちなって。話を聞きなよ……!」
シーマの声にイオリは足を止めることなく、そのままブリーフィングルームの扉へと向かう。後ろを振り返ることもなかった。シーマの声には、焦りと苛立ち、そして、どこかに滲む後悔の色が混じっていた。
ーーーーーー
自動ドアが開くと、既に数名の隊員が席に着いていた。部屋には沈黙と緊張が漂っている。
「おう、こっちだ」と軽く手を挙げたのはクラウスだった。クラウスを挟むようにエーリッヒ、ハンスが座っている。
イオリは一瞥したのち、あえて二つ席が空いている方ではなく、エーリッヒの横――一つだけ空いている端の席に静かに腰を下ろした。
その顔には、僅かにだが、明確な不機嫌さが滲み出ていた。瞳は鋭く、だがどこか翳りを帯びていた。
「……なんだ?」とエーリッヒがイオリの表情に気づき、小声で問いかける。
「別に……何もありませんよ」
イオリはそのまま視線を前に向け、冷たく返す。
その様子を見ていたクラウスが眉をひそめる。「……?」と小さく呟いた。
遅れて入ってきたシーマは、イオリを一瞬見たが、無言でそのままハンスの隣に腰を下ろした。椅子の背に体を預けながら、大きく、そして重いため息をつく。
「なんだよ、姉さん。どうしたんだよ?」とハンスが眉をひそめて尋ねるが、
「なんでもないよ」とシーマは吐き捨てるように答え、目を閉じた。
クラウス、エーリッヒ、ハンスの3人は顔を見合わせ、言葉は交わさずともそれぞれの表情が「こりゃ一悶着あったな……」と物語っていた。
ふと、イオリが視線を周囲に向ける。隣の部隊席、宇宙攻撃軍の一団の中に――赤いスーツを纏ったシャア・アズナブルの姿があった。
シャアはイオリに気づくと、ほんの僅かに微笑み、右手を軽く上げる。イオリも無言で小さく手を返す。
その様子を、隣席からじっと観察していたのはシーマだった。彼女の瞳には、どこか警戒の色があった。まるで、シャアの内にあるものを感じ取ろうとしているようだった。
ーーーーーー
ブリーフィングルームのドアが開き、一人の参謀士官が姿を現す。階級章は中佐、無機質な声で開口する。
「これより、作戦コード『バビロンの門』についての説明を始める」
静寂が支配する中、参謀士官は立ったまま一気に話し始めた。
「我々ジオン参謀本部は、連邦軍に対し、サイド5・11バンチコロニー“ワトホート”を質量弾頭として使用するという欺瞞情報を流した」
ざわり、と小さな動揺が広がる。
「連邦はこれを信じ、宇宙に残された艦隊のほぼ全てをサイド5へと向けてくるだろう」
「だが、それこそが我らの狙いだ」
「ジオン艦隊はサイド5に布陣し、連邦艦隊と真正面から対峙する……だが、その艦隊は囮である」
「真の狙いは、諸君ら――モビルスーツ部隊だ。ア・バオア・クーより発進し、月を大きく迂回し、連邦艦隊の背後に回り込み、これを急襲・撃滅する」
ざわつきが、明確に会場を包んだ。
「これが成功すれば、連邦は宇宙の戦力をほぼ喪失することとなり、我がジオンは再び戦局の主導権を握ることになる――」
参謀士官が一息ついたところで、ひとりの若き男が手を挙げた。真紅のスーツに身を包んだ男
「質問がある。……彼我の戦力比は?」
「うむ……」参謀士官は少し逡巡してから答えた。
「軽く見積もって、こちら1に対して、連邦は3だろう」
一斉にざわめきが広がった。「三倍だと……?」「まさか」「無茶じゃないのか」という声があちこちから聞こえる。
次に手を挙げたのは、黒い制服を纏い、堂々たる体躯を持つ男、その両脇にはこれまた体躯のいい男2人がが控えている。
「囮は? 戦術の肝だ。半端な指揮官じゃ通用しないぞ」と鋭い声で問いかける。
場の緊張が高まる中、参謀士官が口を開こうとしたその瞬間――
「俺が、その囮だ」
低く、だが凄まじい響きのある声が、ブリーフィングルームの奥から放たれた。
全員の視線が一斉に扉へ向けられる。そこに立っていたのは――
全身が鎧のような軍服に包まれ、威圧的な体格を持った男。ドズル・ザビ中将、その人であった。
「全員、気をつけーッ!!」と参謀士官が叫ぶと、部屋中のパイロットが直立不動の姿勢を取った。
ドズルは重厚な足取りで中央まで進み、まるで父親が息子に語りかけるような口調で言った。
「俺がこの作戦の総指揮、そして囮役を務める。諸君らは背後から一気に連邦を突き、勝利を奪い取る。だが――安心しろ。お前たちが現れる頃には、俺がすでに連邦艦隊を壊滅させているかもしれんな!」
その言葉に、場の空気が一変する。先ほどまでの不安や疑念が消え、代わりに目に宿るのは決意と覚悟。
「諸君らの勇姿、しかと見せてもらうぞ。……戦場で、また会おう」
そう言ってドズルは踵を返し、堂々とその場を去っていった。残された者たちは、彼の背中を見つめたまま、ただ黙していた。
ーーーーーー
「以上で作戦説明は終了だ」参謀士官が最後に口を開く。
「各部隊は速やかに機体の整備と補給を済ませ、待機せよ。決戦は近い」
次々と立ち上がるパイロットたち。その表情には、重責と、それでもなお揺るがぬ決意が刻まれていた。
だがその中にあって――
イオリとシーマは、それぞれの席から立ち上がるも、互いを見ようとはしなかった。
言葉もなく、ただ静かに、そしてどこかすれ違ったまま、戦場へと向かう時を待っていた。
久方ぶりの再会ですね!
シーマ様さっそく赤いやつを怪しんでます、シーマ様の直感はたぶん百発百中だよな
主人公とシーマ様の甘々な雰囲気はどうですか?
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ほしい!もっと!!シーマ様をデレさせろ!
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こんな感じでいい
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減らしてくれてもいいかなー