転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
ーアバオアクー要塞・ブリーフィング前ー
「イオリ、待ちなって、話を聞きなよ……!」
廊下に響くその声は、ほんのわずかに焦りを含んでいた。
彼女の口調が、いつもの皮肉めいた調子ではなかったことに、きっとイオリも気づいていたはずだ。
だが——イオリは一瞥もくれず、そのまま歩き続ける。
シーマはその背を追いながら、息を呑む。
(……違う。今までと、全然……違う)
普段ならば、シーマがキツく何かを言ったとしても、イオリはどこかでシーマの言葉に耳を傾けていた。
それが今日は……完全に、背を向けていた。
心の中に生まれたざらついた違和感。
それは“怒り”ではなく、“戸惑い”だった。
自分が他人の感情にここまで揺さぶられるとは思っていなかった。
そして何よりも、今のイオリの表情を見て、心が痛んだ。
(あいつはいったい何者なんだい……?)
シーマは、仮面の男とイオリが再会した時から、ずっと胸の奥に引っかかるものを感じていた。
アイツを初めて見た瞬間——その目の奥にあった、底知れぬ深淵のような光。
それは明らかに、自分たちのような兵士のそれとは違っていた。
“直感”だった。
シーマ・ガラハウがこれまで生き延びてこられたのは、この直感が鋭かったからだ。
そしてその直感が告げている——あの男には、何かある。
危険な、何かが。
だが、イオリは聞く耳を持たなかった。
(あたしの言葉じゃ、聞いてくれないのかい……?)
足が止まった。
視界の先で、イオリがブリーフィングルームの扉を開けて入っていくのを見届けた時、シーマは初めて自分が“置いていかれた”と感じた。
それは、兵士としてではなく——一人の女としての、孤独だった。
ーーーーーー
ーブリーフィングルームー
室内に入ると、クラウスたちベテラン勢がすでに着席していた。
「おう、こっちだ」
クラウスが手を挙げて合図を送る。
イオリはそのまま無言で、エーリッヒの横、いつもなら誰かがその横に座るために二つ分の空きがある椅子に座るが、今回は空席が一つだけの席に腰を下ろす。
その表情は、静かにだが確実に、僅かに怒気を滲ませていた。
シーマは、イオリを横目で見ながら、ハンスの横へと腰を下ろした。
小さくため息をついたその声が、場の空気をわずかに重くする。
「……なんかあったのか?」
エーリッヒが声をひそめて聞く。
「別に。何もありませんよ」
イオリの声は、刺すような冷たさを含んでいた。
一方、ハンスも不満げな顔で隣を見る。
「おい、なんだってんだよ、姉さん。今日の雰囲気、ちょっとアレだぜ」
だが、シーマは顔を伏せたまま、
「なんでもないよ」
とだけ返す。
クラウスたちベテラン三人は、
「……なんだこりゃ」
といった表情で視線を交わす。
最近ではイオリとシーマは必ず隣に座ることが多かったのだ。
あからさまな距離感に、三人は口には出さずとも
『こりゃ、一悶着あるな』
と確信した。
その時——イオリがふと視線を上げる。
宇宙攻撃軍の制服を着た一団の中に、見知った姿があった。
金色の髪。素顔を隠す仮面。
あの男——シャア・アズナブルが、こちらを見て微笑み、軽く手を挙げる。
イオリもわずかに口元を緩め、手を挙げて返す。
その光景を、シーマは横目でじっと見ていた。
目を細め、その笑みに込められた“意味”を探ろうとしていた。
(あの男の中には、何かがある。イオリ、アンタ、気づいてないのかい……?)
だが、その想いを告げることは、今の彼女にはできなかった。
ーーーーーー
ーブリーフィング後・整備区画ー
ザンジバル級機動巡洋艦「ヘルヴォル」の格納庫には、出撃前の準備に追われる兵士たちの気配が満ちていた。
整備兵たちがモビルスーツに最終チェックを施し、各小隊はブリーフィングで得た情報をもとに装備や弾薬の再確認を行っていた。
その一角――第3小隊のエリア。
イオリは整備パネルに向かい、カールとエリックに指示を出していた。
「推進剤の圧力は通常より少し高めにしておけ。後半に追い込みが必要になるかもしれない」
「了解っす、少尉!」
とカールが応える。
「この距離での射撃、弾道はズレやすい、オート補正は最小限に」
とイオリが続けると、エリックがうなずく。
「目視での補正ですね、わかりました。任せてください」
声に張りはあるが、イオリの顔はどこか曇っていた。
視線の端――すぐ近く、第2小隊のエリア。
そこに、シーマの姿があった。
彼女は整備兵と短く言葉を交わしながら、愛機のザクに背を預けるように立っていた。
その姿はいつも通りに見えたが、どこかピリピリとした気配を放っている。
ほんの数メートルの距離にいる。
それなのに――イオリも、シーマも、互いの存在を完全に無視していた。
いや、シーマだけは、イオリの事をところどころ目で追っているようだった。
見ようとしない。
声もかけない。
それどころか、目が合わないよう、無意識に視線をずらしている。
その様子を、離れた位置から見ていたエーリッヒが、苦笑混じりに呟いた。
「……うわ、これはやばいな」
「え、何が?」
と、隣にいたハンスが小声で訊き返す。
「お前見ろよ、あの二人。姉御とイオリ、あれ完全に喧嘩中の気配だぞ」
ハンスが目を向けると、確かに、いつもなら冗談交じりでも言葉を交わしていた2人が、完全に氷の壁を作っているようだった。
「……怖ぇっす……」
小声でそう呟いたのは、まだ若いカールだった。
モニターのチェックをしながらも、彼はちらちらとシーマの方を気にしていた。
「な、なんか……空気が凍ってるっつーか」
「おい、余計なことを言うな。聞こえたら殺されるぞ」
とエリックが小声でたしなめる。
だがそのエリックですら、肩を少し竦めていた。
普段はキツくとも情熱を隠さないシーマが、ここまで感情を凍らせているのは異常だった。
イオリにしても、普段は彼女に軽口の一つでも飛ばすのに、それすらない。
格納庫の一角だけ、まるで戦闘前夜のような静けさが支配していた。
整備長のクルトがそれに気づき、煙草を咥えながら
「ああ~……なんだか面倒くさい空気だなぁ」
とつぶやきながら、近くの整備兵に肩をすくめる。
「あのー、あれって……シーマ中尉とイオリ少尉の間に、なんかあったんすかね?」
若い整備兵が聞くと、クルトは煙を吐いてから、ふっと笑った。
「何かあったんじゃねえ。あいつらには“何かが始まりかけてた”んだよ。それが今、急に冷戦状態って奴だ。お互いになにを言えばいいのかわかんねぇんだろ。まったく……厄介だねぇ、若ぇ奴らの感情ってやつは」
「でも、そろそろやばくないすか?あのまま出撃したら……」
「ああ、そうだな」
クルトは煙を吐きながら、
「誰かが、ちゃんと火消ししねえと――下手すりゃ、本当に燃えちまうぜ」
ーーーーーー
整備用リフトの上で、クルトが酒瓶を片手に現れる。
「ザクの調整はもう終わってるぞ。あとは作戦開始まで、待機だな」
イオリは小さく頷く。
「そうですか。ありがとうございます、整備長。……じゃあ、俺は少し、友人に会ってきます」
「ん、気をつけな」
カールがこちらを向いて元気よく答える。
「了解っす!じゃあ俺たちは艦内で待機してますので、何かあれば呼んでくださいっす!」
イオリは軽く手を挙げ、整備区画を後にした。
ーーーーーー
ーアバオアクー要塞・共有スペースー
要塞内の静かな共有スペース。
そこには既に、赤い制服を着た男がいた。
「君のザクを見に来たよ」
シャアが、いつものように不敵な微笑を浮かべながら立っていた。
イオリは肩をすくめて、苦笑を返す。
「見に来るほどのもんじゃないさ。こっちだ」
二人は並んで歩き、ヘルヴォルのMSデッキへと戻る。
イオリは自分の灰色のザクを指さして言った。
「これが俺のザクだ」
シャアは目を細めて見つめた。
「ほぉ……海兵隊仕様のザクか。いい機体だな。灰色なのは、狼だからか?」
「やっぱり、すぐにわかるか?……ちょっと安直だったかもしれないな」
イオリは笑うが、シャアは穏やかに首を振る。
「いや、いいんじゃないか。君らしいよ」
二人の間には、信頼と友情が流れていた。
イオリはふと思いついたように言う。
「これからどうする?アバオアクーの食堂でも行ってみるか?」
シャアは一瞬だけ目を伏せた後、静かに頷く。
「ああ、行こう。まだ、話すこともあるしな」
——そして、二人の影はアバオアクーの奥へと消えていった。
それを、遠くから見ていたシーマは、ただ黙って、その背を見つめるしかなかった。
その胸の奥に芽生えた、小さな感情。
しかし、今はそれを邪魔するものが胸の内にある。
それは警戒か、嫉妬か、それとも失望だったのか。
彼女にも、それが何かは、まだわからなかった。
ーーーーーー
食堂の片隅、陽光のような白色灯に照らされたテーブルには、二人の青年士官が向かい合って座っていた。
他愛も無い話をしながら食事を終え、今はそれぞれがカップを片手にしている。
スチールマグの底に残る黒いコーヒーが、ゆっくりと揺れていた。
「君は――戦争が終わったら、どう生きるか想像しているか?」
シャア・アズナブルは、カップの縁を見つめながら言った。
声は静かで、まるで独り言のようでもあった。
イオリは少しだけ眉を寄せ、シャアを見た。
「なんだよ、それ。まだその話をするには早いんじゃないか?俺は今はただ……生き残るために必死なだけさ」
そう言ってイオリは肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。
コーヒーを一口飲みながら、その苦味が、今の会話の味にも似ていると思った。
「……だが、戦争は終わる。終われば、世界は必ず変わる」
シャアの声には、確信と、どこか諦めの混じった静けさがあった。
「それが良い方向なのか、悪い方向なのかは、その時にならなければ分からないがね」
イオリは、しばらく何も言わなかった。
沈黙の中に、軍靴の音や、遠くの喧騒が微かに聞こえる。
シャアはふと視線をあげ、イオリを見据えた。
「もし――もし戦争が終わったあと、私が何かを成そうとした時……君は、それを手伝ってくれるか?」
イオリは不意を突かれたように目を見開き、すぐに吹き出した。
「……なんだよ、“何かを成す”って。ずいぶん回りくどいな、お前は」
「そうかもしれないな」
シャアもわずかに口元を緩めた。
「でも、そうだな」
イオリは椅子にもたれかかり、天井を見上げるようにして言った。
「その時が来て、お前が……誤った方向に行ってなきゃ。俺は手伝ってやるよ。どんなことだってな」
「……そうか」
シャアの声はどこか、遠くから聞こえるようだった。表情は読めない。
だがその目の奥に、一瞬だけ揺らぎが見えた。
イオリは立ち上がり、拳を突き出した。
「よし、そろそろ艦に戻るよ、シャア。次に会う時は……モビルスーツに乗ってる時だな」
その拳は、士官学校の時彼らが、大事な訓練前などに出る前に交わした儀式のようなものだった。
シャアは少し目を細め、くすりと笑い、イオリの拳に自分の拳を軽く当てた。
「どちらが多く敵を沈めるか、競争だ」
「お前は一人分な。俺は部隊全体だ、じゃなきゃ、お前が勝つに決まってるだろ」
そう言ってイオリは笑い、背を向けた。
シャアはその背中を、しばらく見つめていた。
静かな微笑を浮かべたまま。
ーーーーーー
ーヘルヴォル 喫煙所ー
シーマは、いつもの場所で煙草をくゆらせていた。
けれど今日は隣に、あの生意気な青年――イオリの姿はない。
吸っても、味がしない。喉に引っかかるだけの煙を吐き出しながら、シーマは心の奥に渦巻くものを静めようとしていた。
「……なにがあった?」
低くしわがれた声が喫煙所に響いた。
クラウス・シュレンケ。
シーウルフの隊長にして、誰よりも古株のパイロットだ。
その鋭い視線が、シーマの背を突き刺す。
「……なんのことだい?私はいつも通りさ」
シーマは視線を合わせず、言葉だけを吐いた。
声は平静を装っていたが、指先がわずかに震えている。
クラウスは煙草に火をつけ、ため息と共に煙を吐いた。
「隠しても無駄だ。あれだけいつも一緒にいたくせに、急によそよそしくなりやがって。お前らを気遣って、他の隊員共が“どうにかしてくれ”って泣きついてきたぞ」
シーマは煙を吐き出し、短く笑った。
「それは悪かったね。でも、あんたらには関係ないことだよ」
「関係なくねえよ」
クラウスの声は低く、だが確かだった。
「変わったな、お前は」
その言葉に、シーマは初めてクラウスを見た。怒りと動揺の混じった目で。
「なんだって?」
「お前はこの隊に来てから、一度も他人に乱されたことなんかなかった。戦場でも、艦でも、誰にも心を預けなかった」
クラウスは煙草を吸い殻入れに入れる。
「……それなのに今は、たった一人の機嫌に振り回されてるじゃねーか」
「うるさいね!私は……!」
シーマは思わず声を荒げたが、言葉が続かない。
「ずっと一人でやってきた奴が、初めて心を許せる存在に出会ったんだろ?だったら、ちゃんと話しておけ」
クラウスの声は、冷たく、そして優しかった。
「俺たちは軍人だ。次に帰還したとき、そいつが生きてる保証はないぞ」
シーマは、目を吊り上げこらえきれずに叫ぶ。
「アイツは……イオリは、ひとりで落っこちたりはしないよ!」
クラウスはふっと鼻で笑った。
「……ふん。誰も“イオリ”なんて一言も言ってねぇがな」
シーマの唇がわずかに開き、目を伏せた。
クラウスは背を向け、通路へと歩き出す。
「どうしたらいいか……分からないんだよ」
その呟きは、微かに震えていた。
クラウスは立ち止まり、振り返らずに言った。
「素直に話せばいいんだ。お前は、いつもキツく言うから勘違いされる」
「ゆっくり話してみろ。時間は……そんなに残ってねぇ」
その背中は、戦場を何度も潜り抜けてきた男の、それでも仲間を信じる者の背だった。
シーマはその背中を、ただじっと見つめることしかできなかった。
喫煙所に、煙と静寂だけが残った――まるで、感情の行き場を見失った魂のように。
ーーーーーー
夜。
ヘルヴォル艦内の明かりは昼間の喧噪を忘れたように落ち着き、重力ブロックにある士官区画の廊下にも人の気配はほとんどなかった。
時折、遠くから機関部のうなりが低く響く以外は、静寂が支配していた。
イオリは自室にいた。
薄暗い照明の下、簡素なベッドに腰を下ろし、制服の上着を脱いで壁にかけていた。
窓の外に広がる星々は、まるで無数の目がこちらを見下ろしているようだった。
「……明日、か」
彼の目が虚空を見つめる。
明日はドズル中将率いる艦隊がサイド5に向けて出撃する。
シーウルフ隊は他のモビルスーツ隊と共にア・バオア・クーで待機し、連邦軍が囮に食いつき次第出撃し、背後を獲る。
(……この世界で、本当に戦争のど真ん中にいるんだな、俺は)
日本にいた“前世の自分”――穏やかな日常、スマートフォン、通勤電車、平和すぎる日々。
それが、もう遠い夢のように感じる。
(銃弾も、爆風も、熱線も、全部、現実になった……)
イオリはゆっくりと息を吐く。
(でも、俺はもう、帰れないんだ。だから――生きるために、戦うしかない)
その決意の裏で、もう一つ、心を苛む影があった。
シーマ・ガラハウ。
今日、整備区画で顔を合わせた時、あれほど近くにいたのに、何一つ言葉を交わせなかった。
彼女のあの、辛そうな顔――自分に何かを伝えようとしていたのに、拒絶するような態度を取ってしまったこと。
あの表情が、ずっと脳裏から離れなかった。
「……俺、最低だな……」
小さく呟いた、その時だった。
――コツ。
部屋の扉が、小さくノックされた。
本当に、小さく、控えめに。
叩いた本人すらためらっているような音だった。
イオリは立ち上がり、眉をひそめる。
「……どうぞ?」
返事はない。
しばらく待ったが、扉の向こうからは何も聞こえなかった。
訝しげに扉へ近づき、スライドパネルを操作して開くと――そこに立っていたのは、思いもよらぬ人物だった。
「……シーマ中尉?」
彼女は、制服姿のまま、いつもの鋭さを隠すように、わずかに俯いていた。
普段なら感じさせないほどの、かすかな躊躇と、弱さが滲んでいた。
「……こんな時間にすまないね……」
シーマは、ほんの少し唇を噛み、それから目を上げた。
「……ちょっと、話がしたくてね。中に入れてくれないかい?」
イオリは驚いた顔でしばらく立ち尽くしていたが、やがて静かに頷いた。
「……どうぞ」
部屋に入ったシーマは、辺りを見回して少し意外そうに言った。
「へぇ……案外、綺麗にしてるんだね。初めて見たよ……あんたの部屋」
「で、何のようですか」
その言葉は、思った以上に冷たく響いた。
シーマは一瞬、足を止めた。
目を伏せ、感情を隠すように口元だけで微笑んだ。
「……イオリの友人を悪く言ったことを、謝りたくてね」
彼女はゆっくりと壁に寄りかかり、視線をイオリに向けた。
その目には、いつもの強さはなかった。
「以前、私の身の上話をしたの、覚えてるかい?」
イオリは黙って頷いた。
「私はね……今まで誰も信用せずに生きてきた。そりゃ、クラウスや隊の連中は信頼してるよ。仲間としてはね。でも――心の奥から、誰かを“信じる”ってことは、してこなかったんだ」
彼女は、苦笑しながら続けた。
「でも、イオリ……あんただけは違った。私は、あんたのことを、本気で信用してたつもりだった」
「……」
「だから、あんたの戦友を信じるなって言ったのも、嘘じゃない。私の直感は――当たるんだ。……だから、忠告したかった。ただ、それだけだった……」
彼女の声が、かすかに震えた。
「まさか、それがあんたの信頼を失わせるなんて、思ってなかったんだよ……。あんたは、私からは離れない。勝手に、そう思ってたのさ……。
……すこし、図々しかったかね?」
イオリは、胸が締め付けられるような思いで彼女を見ていた。
「私が言いたいのはね……私は、あんたの隣に立ちたい。そして、私の隣に立って欲しい奴も――あんただけなんだよ。それも……もう、無理かもしれないけどね」
シーマは、弱々しく笑った。
その顔には諦めの色が浮かび、彼女らしくない、悲しげな柔らかさが滲んでいた。
イオリの胸の奥で、何かが静かに崩れていく。
(なんでだ……なんで、こんな顔をさせてしまったんだ、俺は……)
「……こんな時間にすまないね。そろそろ帰るよ」
彼女が背を向け、扉に向かおうとしたその瞬間――
「待ってください!」
イオリは、咄嗟に彼女の腕を掴んでいた。
「え……?」
シーマが驚きと戸惑いの表情で振り向く。
その目には、微かに潤みがあった。
イオリは、まっすぐにその瞳を見つめて言った。
「シーマ中尉、俺の方こそ……変な意地を張って、すみませんでした」
「俺は、いつも中尉に引っ張ってもらっていた。あの忠告も、俺を想ってくれたんだって、わかってました。だけど――友を侮辱されたように感じてしまって……意固地になってたんです」
「……」
「でも、俺だって、中尉の隣に立ちたい。ずっと、だからガムシャラになって頑張ったんです。そして――中尉にも、俺の隣に立っていて欲しいんです。これは……本当です」
沈黙が流れる。
2人の距離は、ほんの数十センチ。
見つめ合う瞳。触れ合う熱。
(あれ? これ……めちゃくちゃ恥ずかしくないか?)
イオリは顔が熱くなるのを感じた。
(ていうか、腕掴んだままじゃないか俺!? 離せ! でも、離したら誤解される! うわー!)
シーマも内心、大混乱だった。
(ちょ、ちょっと!? な、何だいこの状況!? 顔、近!?てか、 腕掴まれてるし! そんなに強く掴まなくても、あたしゃ逃げないっていうのに!)
――その時だった。
パシュン!!
勢いよく扉が開く
「おーい! イオリ! 今からシミュレーター……で……訓練……でも」
ピタ。
そこに立っていたのは、グスタフ・ヴァール曹長。
彼の目に映ったのは、イオリに腕を掴まれ、至近距離で見つめ合うシーマ中尉――
……沈黙。
「…………すまねぇ、邪魔した。せめて鍵は閉めろよ」
グスタフが扉を閉める。
その直後――
「おーーーい!!みんな!!イオリの部屋でイオリとシーマが……」
と徐々に遠ざかっていく声が響く。
「ま、待ってください! グスタフ曹長! 違うんです! 誤解です! 説明します!」
ハッとなったイオリは顔を真っ赤にしながら、慌てて部屋を飛び出す。
「あ、ちょっと、イオリ!」
シーマは止めようと手を伸ばすが、間に合わない。
残された部屋の中、彼女はふぅと息を吐き、そっと壁に背を預けてその場に座り込んだ。
「はぁー……緊張したよ……」
ぽつりと漏らし、両頬をそっと手で押さえる。
先程まで掴まれていた腕は熱く。
その指先が、ほんのり熱を帯びていた。
後半は若干ラブコメっぽくしました。
硬い話ばかりじゃあねぇ?笑
主人公とシーマ様の甘々な雰囲気はどうですか?
-
ほしい!もっと!!シーマ様をデレさせろ!
-
こんな感じでいい
-
減らしてくれてもいいかなー