転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
ザンジバル級機動巡洋艦「ヘルヴォル」――
艦内に張り詰める空気は、まるでこれから落ちる雷鳴のように重く、静かだった。
ブリーフィングルームに集まったシーウルフ隊の面々の前で、クラウス・シュレンケ少佐が一歩前へ出る。
卓上の投影機に映し出された艦隊編成図と地球の軌道図を背に、低く、しかし確かに響く声が艦内にこだました。
「いいか? 俺たちの仕事は地球へ降下する友軍の――命綱だ」
その第一声に、誰もが背筋を正す。
「敵は我々の意図を読んでいる。連邦軍は艦隊を差し向け、少しでも降下部隊の数を減らすつもりでくる。狙いは、HLVの撃墜だ。いいか、一機でも撃ち落とされれば、それだけ地上の戦局が傾く」
クラウスは一瞬、全員を見渡す。その視線には、覚悟を問う光が宿っていた。
「……ブリーフィング終了後、順次ヘルヴォルから発進しろ。発進後、会敵するまでは第3小隊がHLVを搭載した艦隊の正面に展開し、他の小隊は第3小隊を中心に扇陣を形成する」
「ヘルヴォルは後方地点で待機し、こちらの援護を担当する。だが、砲撃支援は限定的だ。すでにミノフスキー粒子を散布している。敵を倒せるのは、俺たちのモビルスーツだけだ」
誰もが無言で頷く。
「会敵すれば、即時――敵艦隊への逆攻撃を仕掛ける。敵の戦線を突破し、HLVを通す道を開け」
その声が、ますます力を帯びていく。
「……いいか。一つでも多くのHLVを降下させろ。俺らが盾になるぞ。いいな!」
「了解!!」
怒号のような返答が一斉に飛び交い、分厚いブリーフィングルームの壁が振動するようだった。
椅子が引かれ、ブーツが床を打つ音が重なる。
次々と部隊員たちが席を立ち、出撃の準備へと向かう――その中で、ふと、シーマ・ガラハウが立ち止まった。
後ろを歩いていたイオリの肩を、さりげなく小突く。
「……イオリ。第3小隊は真っ先に会敵するよ。くれぐれも気をつけな」
その声音には、かすかに柔らかさが混じっていた。訓練とは違う、戦場を前にした本気の忠告だ。
イオリは少し笑って、首を傾げた。
「大丈夫ですよ。俺は落ちません。……それに、中尉こそ気をつけて。何かあれば――すぐに行きますから」
その言葉に、シーマは一瞬目を細めて――そして、意地悪く口角を上げた。
「……言うようになったじゃないか、“新人”」
少しムスッとした表情で、イオリは言い返す。
「……その呼び方は、もう無しですよ」
「ふふ、悪かったね。じゃあ――またヘルヴォルで会おう」
「了解です」
ふたりは軽く頷き合うと、そのまま格納庫へと歩み出す。
その様子を、部屋の片隅で立ち止まって見ていた男たちがいた。クラウス、そしてグスタフ、エーリッヒ、ハンス――シーウルフの古参たちだ。
グスタフが目を細めて言った。
「……今の見たか? シーマがあんな顔、滅多にしないぞ」
エーリッヒがニヤリと笑う。
「またイオリを飲みに誘って、色々聞き出してみるか?」
「今度はこっそり録音でもしてやるかねぇ」と、ハンスが冗談めかして笑う。
「行くぞ。俺らも出撃の準備だ」とクラウスが一声かけると、皆は無言で頷いて、その背中を追った。
ーーーーーー
格納庫では、既に出撃準備が整えられていた。
シーウルフの機体――歴戦の汚れが染み込んだザクたちが、静かにカタパルトに並ぶ。
「第3小隊出るぞ!カール、エリック遅れるなよ!」
「了解、イオリ少尉!」
ザクが一機、蒼い尾を引いて発進していく。
その後ろに続いて、第2、第4、第5の小隊も次々と宇宙へと放たれていった。
味方艦隊の周囲では、他の護衛部隊も展開を終えていた。一機の指揮官機が通信を開く。
『こちら、ブラウ隊。シーウルフ隊と共に戦えることを光栄に思う。我々は味方艦隊の直掩に専念する。……敵艦隊への攻撃は、任せてもいいのか?』
クラウスが即座に返す。
「こちらこそ光栄だ。敵艦隊への攻撃は我々が実施する。貴官らの隊は、出撃してくるであろう戦闘機の排除を頼む」
『了解した。幸運を祈る』
各機が散っていく中、味方のムサイ級巡洋艦のブリッジでは――
「狼のマーク……あれが、“シーウルフ”か」
艦長が唸るように言った。
その隣で、若いオペレーターが口を開いた。
「まさか本当にこの宙域で会えるとは。……コロニー落としと、ルウムでの戦果で名を挙げた部隊ですか」
別の兵士が声を弾ませる。
「狼部隊が護衛なら……楽勝だな!」
緊張の中に浮かぶ、かすかな安堵の色。それが、“シーウルフ”という名の力だった。
ーーーーーー
「こちらシーウルフ隊第3小隊、先頭を航行するムサイ艦“アルトゥロ”の前方に展開する」
イオリが通信を入れる。
『了解した! 敵が出てきた際は、頼んだぞ!』
「了解した。……HLVが降下するまで、全力を尽くします」
通信を終えると、イオリのザクは所定の座標に静止し、モニター越しに広がる地球を見つめた。
「第3小隊展開完了」
「第2も完了したよ」
「第4、第5も配置についた」
各小隊長からの通信が相次いで届く。
クラウスが静かに指示を出した。
「了解だ。各自、警戒体制を維持しろ。……いいか、敵がいつくるかはわからん。ミノフスキー粒子は既に散布済みだ。砲撃なんてもんは、当てずっぽうになるぞ。……目と、勘で戦え」
誰もが黙って頷いた。
前方に、青白く輝く地球――
まるでそこに吸い込まれるような錯覚すら覚える。
「……地球か。見た目は綺麗だな」
ハンスがぼそりと呟く。
「俺たちも降下するか?」
エーリッヒが冗談めかして言うと、
「バカ。降りる前に燃えるわ」
ハンスが笑い返す。
イオリは、コクピットの中で一人、黙って地球を見ていた。
確かに自分は“地球出身”だったはずだ。だが、胸の奥には、懐かしさも、郷愁も、何も湧いてこなかった。
……なぜか。
「どうだい? 地球は」
不意に、通信が入った。シーマだった。
「……なんというか、正直にいうと――怖いですね。まるで、星に喧嘩売ってるみたいで」
イオリは少し笑って言った。
シーマもまた、くすりと笑った。
「ふ……正直だね、あんたらしくていいよ」
誰もが肩の力を抜いていた――
嵐の前の静けさ。全員が、自然体だった。
その瞬間だった。
宇宙を引き裂くような光――
メガ粒子砲の閃光が、視界を横切る。
「敵だ!!」
誰かの叫びと共に、戦場が――牙を剥く。
ーーーーーー
コロニーの外縁部、漆黒の宇宙に響き渡るように、誰かの声が炸裂する。
「――敵だ!!」
緊張を裂くような叫びが、シーウルフ隊の通信網に響いた瞬間、全機がまるで訓練された猛獣のように、躊躇なく散開する。光の尾を引き、宇宙を滑るように各機が所定の持ち場へと疾駆した。
「敵艦隊確認!」
ハンス・グリューネル軍曹が、ヘルヴォルのブリッジと各小隊に報告を飛ばす。「数は……マゼラン級五隻、サラミス級六隻!……まだ、増えてくるぞ!」
瞬間、通信回線に鋭く落ち着いた声が割って入る。
「第3小隊、敵の出鼻を挫け!第1、第2小隊は左右から包囲!第4、第5小隊は上下に展開して敵艦隊を囲い込む!敵戦闘機は向かってくる奴だけ相手しろ!まずは艦艇を沈める!」
それは、クラウス・シュレンケ大尉の号令だった。判断は一瞬、だが的確。全方位から敵を制圧する、シーウルフ隊ならではの包囲戦術が展開される。
「カール!エリック!いくぞ!!」
イオリ少尉のザクが、電磁加速されたように前へと飛び出す。彼の声には迷いがなかった。
「了解っす、少尉!」
「ついていきます!」
若き二人の部下――カール・シュナイダーとエリック・ホフマンがそれに続く。三機のザクが宙を裂き、光と金属の雷鳴へと飛び込んでいく。
イオリは、前方の艦影を見据えながら呟いた。
「やはり……出てきたか」
マゼランの艦影の後方、無数の点が高速で浮上してくる。連邦の戦闘機部隊だ。だが、それに一歩も怯まず、イオリは叫ぶ。
「カール!戦闘機は任せる!」
「了解っす!」
カールのザクが加速する。彼のマシンガンが火を噴くたび、敵の戦闘機が破片となって宇宙に散った。速度も精度も申し分ない。若き兵士がその実力を見せつけるように、次々と敵機を撃ち落としていく。
「よくやった!」
イオリが唸る。「エリック、行くぞ!」
二機のザクが、猛然と前進する。目標は――サラミス級巡洋艦。その艦首が僅かに旋回し、機関砲が動いた。だが、その射角が整う前に、エリックが一撃を放つ。
「エンジンを狙います!」
対艦ライフルが火を吹く。エンジン部に直撃した弾が炸裂し、サラミスの推進力が霧散する。それでも尚、敵艦はジオン艦艇に向けて、主砲を指向させる。しかし、その直後、イオリのザクが急接近、膝を折ってバズーカを構える。
「させるかよ……!」
ブリッジめがけて放たれた弾頭が、命中と共に火花を咲かせた。艦橋が爆炎に包まれ、サラミスが軋むように傾き、爆発を起こしながら沈黙した。
その瞬間、再びクラウスの声が響く。
「よくやった、第3小隊!――これより第1、第2、第3小隊で敵艦隊に齧り付くぞ!内側から、グチャグチャにしてやれ!」
「グスタフ!」クラウスが呼ぶ。「敵の戦艦だ!撃ち込め!」
「アイヨ、隊長!」
グスタフ・ヴァール曹長のザクが、ヒートホークを持ちながら猛突進。ヒートホークが敵艦の砲塔を切り裂き、爆発と火花が船体に咲く。クラウスのザクはその横をすり抜け、補助推進器にバズーカ弾を打ち込み、一気に止めを刺す。
その頃、シーマの第2小隊は別の戦線で鮮やかな戦果を挙げていた。
「ふん、戦闘機ばっかり積んでるからノロマで狙われるんだよ!」
シーマ中尉のザクが、補給艦の脆弱な部分を正確に狙い撃つ。誘爆が連鎖し、艦内から光が漏れ出る。補給艦は火の玉となり、宇宙に爆散した。
イオリの小隊もまた、次のサラミスを狙っていた。エリックの狙撃が誘導ミサイルの発射口を破壊、イオリが加速して接近し、マシンガンを乱射。艦の砲塔を削ぎ落とし、接触する寸前にバズーカを撃ち込む。爆発が船体を裂き、宇宙に破片が舞う。
一方、クラウス達から狙われずに済んだ敵艦数隻はそのまま進行し味方艦隊に向かうが、ハンスとエーリッヒの部隊が迎撃に回っていた。
「来いよ、虫ケラども……」
ハンスのザクが回頭し、マシンガンを放ち、穴だらけになった戦艦は沈黙する。
「エーリッヒ、左の戦艦だ、狙え!」
「任された!」
エーリッヒの狙撃が、ブリッジを貫き、指揮を乱す。混乱した敵艦は各個に潰され、シーウルフ隊の空間支配が完成していく。
――そのとき。
降下作戦本隊が到着した。ジオンの艦艇群が次々にHLVを展開。重力圏突入のための体制を整え始める。直掩のMS部隊が敵残存機の牽制に回り、HLVが一基、また一基と青白い火を吹いて地球へと向かう。
とあるムサイ級のブリッジ。
「艦長、ここまでは大きな損害はありません。順調です」
副官が報告する。老練の艦長は頷き、静かに答えた。
「……シーウルフ隊のおかげだ。本来なら敵艦隊の砲火の中での降下だった。多くの艦が、今頃宇宙の藻屑になっていたはずだ……」
クラウスが通信に割って入る。
「敵艦隊、退却を始めた。……よし、攻撃中止。一度母艦に戻り補給をする。まずは第4、第5小隊からだ!」
混戦の末、整然と戦列を再編するシーウルフ隊。宇宙の静けさが戻るなか、彼らの後方で、無数のHLVが閃光を残しながら、地球へ――
第一次地球降下作戦は、シーウルフ隊の奮戦により成功裏に幕を開けた。
そして、この宇宙戦の勝利が、後に続く地球侵攻の扉を、大きく開くこととなる。
ーーーーーー
格納庫の扉がゆっくりと開き、真空の宇宙から戻ったザクたちが次々と収容されてゆく。金属の軋みと油の匂い、点検用の整備機械が軋む音。空間には、まだ戦いの熱気がわずかに残っていた。
イオリのザクがゆっくりとハンガーへと格納される。その装甲には複数の焼け跡と擦過傷があり、膝部には砲弾のかすった痕が深く刻まれていた。だが、それでも――任務は果たしたのだ。
コックピットが開くと、イオリは静かにヘルメットを外し、深く息を吐いた。
「……ふぅ……」
戦闘の余韻が体内を巡っている。鼓動はまだ速いが、内心には一つの確かな達成感があった。カールもエリックも無事だ。そして、自分たちは敵艦隊を押し返し、多くのHLVを無事に地球へと送り出した。
梯子を降り、整備兵の敬礼に軽く応じたその時だった。彼の視界の先、格納庫の奥から、長い黒髪を翻しながら歩いてくる姿があった。
シーマ・ガラハウ。
その目には疲れが見えるはずだったが、むしろそこにあったのは、戦いを駆け抜けた者にしか持ちえない鋭さと、冷静な達成感だった。彼女もまた、自らの戦いを終えたのだ。
イオリは歩み寄り、自然と口を開いた。
「……お疲れ様です、シーマ中尉」
その声にはどこか柔らかな響きがあった。張りつめていた神経が少し緩んだように、イオリはわずかに微笑みながら言葉を続けた。
シーマは歩みを緩め、イオリに視線を向けると、口元に小さな笑みを浮かべて答えた。
「お疲れ様だね、イオリ。今回も大した損害がなくてよかったよ」
それは戦友への言葉だったが、どこかそれ以上の温度も含まれていた。
互いに笑みを交わした、その刹那――
「――よーし!お前ら!!お疲れさん!!」
格納庫全体に、朗々と響く声が投げられた。
クラウス・シュレンケ少佐の声だ。豪放磊落なその響きは、格納庫にいた全隊員の空気を一気に引き締める。
「これから作戦後のブリーフィングをするぞ!全員、集合しろ!」
その言葉に、整備兵やパイロットたちが慌ただしく動き始める。イオリもシーマも視線を交わし、小さく頷くと、その列に加わった。
ーーーーーー
作戦後ブリーフィングルーム ― ヘルヴォル艦内
空調の音すら聞こえないほど、静まり返った艦内のブリーフィングルーム。いつもなら活気に満ちたこの場も、今はまるで祈りの場のように、誰もが言葉を飲んでいた。
その中心に立つのは、シーウルフ隊を率いる男――クラウス・シュレンケ。
背筋を伸ばし、鋭い眼差しで隊員たちを見渡すと、彼は静かに言った。
「……よくやった」
その言葉だけで、空気がわずかに揺れた。皆の背中がほぐれ、緊張が一瞬解けたようだった。
「第一次地球降下作戦は終了だ。お前たちのおかげで、敵艦隊は撃退され、多くのHLVが無事に地球へと降下した。損害も最小限で済んだ。誇っていい戦果だ」
イオリは思わずカールとエリックの方を見やった。カールは小さくガッツポーズを作り、エリックも頷いた。部隊全体が、ようやく深く息をついたようだった。
しかし――
「だが……」とクラウスは言葉を繋いだ。「これで終わりじゃない。これから俺たちは、一度、サイド3のザハトに向かう」
その言葉に、隊員たちは一斉に顔を上げた。
「……ザハト?」
小さな呟きが漏れる。
その時、シーマが腕を組みながら声を上げた。
「なぜザハトなんだい?まだ降下作戦は続いてるんだろ?あたしたちはその護衛部隊のはずじゃなかったのかい?しかも、ザハトなんて軍事教練コロニーだろう」
彼女の言葉に、誰もが視線を交わし始めた。確かに、今このタイミングでザハトに戻る理由が思い当たらない。
イオリも心の中で――
『このタイミングで……なぜ軍事教練?』
――と疑念を抱いていた。
クラウスはため息まじりに言葉を続けた。
「……キシリア閣下からの直々の命令だ」
その名に、場の空気がピンと張りつめる。
「表向きは『機体のオーバーホール』という名目だが、実際は――現在、ジオン軍では再編が進められていて、戦力の再配置と、何より新たなパイロットの育成が急務とされている。……俺たちシーウルフ隊は、そのための教導機動大隊の演習に――教官役として、参加することになった」
沈黙。
まるで重力が増したかのような空気が部屋を支配する。
「……教官?」
イオリが思わず声に出す。周囲の隊員たちも同様だった。
ザクのマシンガンを構え、敵艦隊に飛び込んできた彼らが――今度は訓練生の指導役に?
自分たちが、生死の境を渡ってきたその経験を、次の世代に渡す……。
だが、何のために?
誰のために?
本当にそれが、戦いの中に身を置く自分たちの“任務”なのか?
シーマが眉をひそめる。カールは困惑し、エーリッヒが顎に手を当てて考え込み、グスタフは腕を組んで「ほぉ……」と低く唸る。
クラウスは皆の動揺を承知のうえで、はっきりと、力強く言い切った。
「命令だ。だが、俺は悪い話じゃないと思ってる。新人どもが生き残るために、俺たちの経験を叩き込む。……それもまた、戦いだ」
誰もが、次の言葉を探して黙り込んでいた。
だがイオリは、ふと隣に立つシーマを見やった。彼女は無言のまま遠くを見ていたが――その目の奥には、何か決意のような光が灯っていた。
(……教官か)
イオリは、自分の胸に芽生えた小さな火を確かめるように、ゆっくりと息を吐いた。
新たな任務が、静かに彼らを待っていた。
やっばい、まだ地球降下したばかりなんだけど笑
主人公とシーマ様の甘々な雰囲気はどうですか?
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ほしい!もっと!!シーマ様をデレさせろ!
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こんな感じでいい
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減らしてくれてもいいかなー