転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第47話 教導機動大隊

第一次地球降下作戦を終え、ザンジバル級機動巡洋艦「ヘルヴォル」は再びサイド3へと針路を取っていた。

 

戦闘の喧騒を抜けた艦内には、どこか張り詰めた空気が緩んだような、束の間の静けさが流れていた。

だが、その沈黙の中に潜むものは決して安らぎだけではない――兵たちの胸には、次に訪れる何かへの戸惑いと、未だ終わらぬ戦争の気配が渦巻いていた。

 

艦長室の扉が静かに開き、クラウス・シュレンケ少佐が足を踏み入れる。

 

小さな丸テーブル。

その上には、琥珀色の液体が注がれた二つのグラス。

もう一つの椅子には、「ヘルヴォル」艦長、ゲルハルト・アイゼンベルク大佐が先に腰かけていた。

 

「――失礼します、大佐」

 

「来たか、クラウス。まぁ、座れ」

 

クラウスが黙って椅子に腰を落とし、グラスを手に取る。

氷がグラスの内側をコツリと叩き、静かに鳴った。

二人は目を合わせるでもなく、乾杯の仕草もなく、それぞれのタイミングでグラスを口に運ぶ。

 

しばしの沈黙のあと、クラウスがぽつりと呟いた。

 

「……この時期に教導機動大隊ですか。ジオン軍はそこまで追い込まれているのでしょうか」

 

「ふむ」

 

「戦場を生き残ってきた部隊をわざわざ教官役に回す。……つまり、戦えるベテランが減っている。だからこそ、早く“使える”兵を育てなければならない。違いますか?」

 

ゲルハルトは、短く鼻を鳴らした。

 

「ジオン本国はそんなことは一言も言ってない。だが、そういうことなのだろうな。俺も、そう思っている」

 

クラウスは一度、目を閉じた。そして静かに言葉をこぼす。

 

「……ジオンは、勝てるでしょうか」

 

それは問いかけではなかった。

独り言に近い、ただの疑念の吐露。

だがその一言に、艦長は眉根を寄せ、低く、確信に満ちたように答えた。

 

「……わからん。だが、地球攻略が長引けば……ジオンの未来は厳しいだろうな」

 

その言葉のあと、沈黙が再び二人の間に横たわる。

部屋に響くのは、氷がグラスの中で溶ける、かすかな音だけだった。

 

ーーーーーー

 

イオリは、食堂の一角でカールとエリックと共に夕食を取っていた。

 

トレイの上には簡素な軍食。

しかしそれでも、いつもより少し温かく感じるのは、命が繋がっていることへの実感だろう。

 

カールが、口いっぱいに食べ物を詰めながら言った。

 

「教官って、何をするんすかね? オレたち、実際にモビルスーツに乗って指導するとかですか?」

 

「さぁ……どうだろうな」

 

イオリはスプーンを止め、カールを見ずに答えた。

 

「命令は来てるけど、詳細はまだ降りてない。ただ、“教導任務”なんて聞いたこともなかったし……俺も、何をさせられるのか、正直わからない」

 

エリックが苦笑を浮かべて口を開く。

 

「俺たち、戦場じゃない場所に部隊で行くの初めてっすね」

 

三人は互いに顔を見合わせ、小さく笑った。

だが、その笑みの奥には、不安と疑念が隠されていることを、誰もが察していた。

 

ーーーーーー

 

艦内の一角、通気システムの隅にある喫煙所。

イオリは一人、静かに煙草をくゆらせていた。

 

その小さな空間に、柔らかな足音が近づいてくる。

 

「おう、先にいたか」

 

低く、くぐもった声――クラウスだった。

 

「お疲れ様です、隊長」

 

イオリが立ち上がろうとするが、クラウスが手を挙げて止める。

 

「いいさ、座ってな」

 

自らも壁際にもたれかかりながら、ポケットから煙草を取り出し、火をつける。

そして、少し笑みを浮かべて言った。

 

「なんだ、今日はシーマと一緒じゃないのか?」

 

「……オレは、ずっとシーマ中尉と一緒にいるわけじゃありませんよ」

 

苦笑いしながらイオリが返すと、クラウスはくくっと喉を鳴らして笑った。

 

「ふ、そうか。だがまぁ、あいつの表情が少し柔らかくなったのは、お前のせいだと思ってるぞ」

 

「……やめてくださいよ」

 

「そう言うと思った」

 

二人の間に煙が流れる。

少しして、イオリが真顔で尋ねた。

 

「……今回も見事な指揮でした。正直、なぜそこまで戦場の状況が見えているのか、不思議です」

 

クラウスは少し驚いたように目を見開き、すぐに煙を吐き出した。

 

「なんてことぁないさ。部隊を率いる立場になると……自然に全体が見えてくるもんだ。生き残るためにな」

 

「それでも、すごいです。オレには……無理だな」

 

イオリの言葉に、クラウスはじっと彼を見つめたあと、ぽつりと漏らした。

 

「お前には、素質があると思うぞ。……シーマなんかより、よっぽどな」

 

「そんなこと……ないです。シーマ中尉の方が、よっぽど隊長らしいです」

 

クラウスは煙草を灰皿に押し付けながら、いたずらっぽく笑った。

 

「ふん……だがな、イオリ。お前なら、あいつの“手綱”を握れる気がする。あいつ自身も、きっとそう思ってるさ」

 

「……中尉の、手綱を?」

 

「そうだ。あいつは、お前の言葉なら聞く気がする……まぁ、隊長になれば、わかる話だよ」

 

そう言い残し、クラウスは背を向けて立ち去った。

イオリはその背中を、煙草の煙越しにただ見送るしかなかった。

 

ーーーーーー

 

数日後――サイド3の宇宙港に、「ヘルヴォル」がゆっくりと接舷した。

 

サイド3、ザハト宙域。

かつて軍事拠点として築かれたコロニーだったが、現在では人口数十万を擁する中規模都市へと姿を変えていた。

高層のビル群と無機質な軍施設が交錯する街並み。

その中にジオン軍教導機動大隊の駐屯地は存在していた。

 

ヘルヴォルのタラップを降りたシーウルフ隊の一行は、整然と並ぶ兵士たちに迎えられた。

彼らは敬礼の姿勢を崩さず、鋭い視線をイオリたちに向けている。

 

「シーウルフ隊の皆さまですね。お待ちしておりました」

 

やや柔和な表情の少佐が前に出て、一同に丁重な一礼を送る。

 

「こちらへどうぞ。車をご用意しております」

 

街の喧騒を背に、彼らは用意された軍用車に乗り込んだ。

車は静かに発進し、舗装された広い道路を滑るように進んでいく。

移動のあいだ、誰も多くを語らなかった。

遠征から帰還したばかりの部隊には、まだ戦場の匂いが染み付いていた。

 

やがて彼らは、コロニー中央部に設けられた広大な駐屯地に到着する。

赤褐色の外壁が無骨に連なる施設群。

中央には「教導機動大隊司令部」と記された建物が堂々とそびえ立っていた。

 

部屋割りの案内が終わると、ゲルハルト・アイゼンベルク大佐とクラウス・シュレンケ少佐、さらに各小隊長たちは、司令部内の上層階へと案内された。扉の前に立つ衛兵が姿勢を正し、無言でドアを開ける。

 

そこにいたのは、ジオン軍には珍しい、白髪の口髭をたくわえた好々爺然とした男だった。

柔らかな物腰に反して、彼の纏う軍服は真新しくも威厳に満ちていた。

その胸には、数々の戦歴を示す勲章が輝いている。

 

「これは遠路はるばるご苦労だったな、シーウルフの諸君。君たちの活躍は耳にしておるよ」

 

その声は穏やかでありながら、確かな重みがあった。

年齢は六十を越えているはずだが、目は鋭く、まるで老いた鷹のような風格がある。

 

ゲルハルトが一歩前へ出て、微笑んだ。

 

「お久しぶりですな、クラウン大佐。お元気そうでなにより」

 

「おお、ゲルハルト少尉……いや、今は大佐だったな」

 

クラウン大佐は声を上げて笑った。

 

「見違えたよ、まさか君がこの階級まで来るとはな」

 

その言葉には揶揄も、誇張もなかった。

師として、弟子の成長を率直に喜ぶ声音だった。

 

クラウスが一歩前へ出て、敬礼する。

 

「お知り合いでしたか?」

 

ゲルハルトは懐かしむようにクラウンへと目を向けた。

 

「ああ。私はこの方の艦で軍務を学んだ。右も左も分からなかった頃の話だがな」

 

「フフ、ずいぶんと昔話になったな」

 

とクラウンが言い、再び目を細めた。

 

そして、場の空気が少し改まる。

ゲルハルトが、わずかに声を低めて尋ねた。

 

「して、クラウン大佐。今回、彼らシーウルフ隊を教官として招集されたのは、どのようなご判断で?」

 

「うむ、簡単な話だ」

 

クラウンは一呼吸置いてから、厳しい現実を静かに口にする。

 

「先のブリティッシュ作戦とルウムでの戦闘。あれで我が軍は多くのパイロットを失った。特に熟練の者たちがな。いま、我々が必要としているのは即戦力だ。だが、新兵をただ前線に放り込むだけでは、すぐに死ぬ。だから君たちに頼みたい。実戦を生き延びてきた者として、彼らに“戦場”というものを教えてやってくれ」

 

言葉は穏やかだったが、そこには確かな悲哀と責任感がにじんでいた。

 

ゲルハルトが小さく頷く。

 

「……期間は?」

 

「二週間だ」

 

クラウスが思わず眉をひそめた。

 

「二週間も、特殊部隊が“教官ごっこ”を……?」

 

鋭く出た言葉に、ゲルハルトが咳払いするように「少佐」と嗜めた。

 

だが、クラウンは手を振って止めた。

 

「よい、ゲルハルト大佐。クラウス少佐の懸念も尤もだ。我が軍には今、実戦慣れした特殊部隊を遊ばせておく余裕はない。しかしな、彼ら新兵に生き延びて欲しいと思うのは、君たちも同じだろう。ベテランが前線で死に、新兵がそれに続いて死ぬ。それを繰り返していては、我が軍に未来はない」

 

その言葉には、教官としての覚悟と、老将としての矜持が滲んでいた。

 

「……は。出過ぎたことを申しました」

 

クラウスは深く頭を下げた。

 

クラウンは笑みを浮かべたまま、立ち上がる。

 

「では明日から、モビルスーツを使った教導を開始してくれ。君たちのザクは、こちらで整備させておこう」

 

司令部を後にし、廊下を歩く中、ゲルハルトが歩きながら言葉を落とす。

 

「……明日から教導開始だ。戦争とは何か……ヒヨッコどもに叩き込んでやれ」

 

クラウスをはじめとした小隊長たちは、その言葉に深く頷いた。

 

「……了解しました」

 

その声は静かで、しかし確かな決意に満ちていた。

 

ーーーーーー

 

朝霧がまだコロニーの空をぼんやりと覆う中、教導機動大隊の演習場に緊張感が漂っていた。

整列した訓練生たちの表情は様々だった。

新しい任務に胸を高鳴らせる者、不安に押し潰されそうな者、あるいは場の空気を読まず軽口を叩く者までいた。

 

だが、彼らが相対することになるのは、実戦を生き抜いた歴戦の精鋭――シーウルフ隊。

そして彼らの訓練は、文字通り“命”を教えるものだった。

 

クラウスが整列している訓練生の前の演壇に、立ち告げる

 

「俺たちは特殊海兵隊シーウルフ隊だ。本日より2週間諸君らの訓練教官をすることになった、諸君らが戦場で無駄死にしないようにしてやる」

と告げると、訓練生達がザワザワとし始める

 

「特殊海兵隊ってあの?」

「うぉ、マジか。本当にシーウルフ隊なのか」

「初めて見た、本当にいるんだな」

 

等と口々に喋る。

そこへ、

 

「黙れぇ!!今は部隊長が喋ってんのが分からねぇのか!!」

 

とその場を裂くような声が響き渡る。

グスタフ曹長の声のあまりの迫力に訓練生達は黙り込む。

 

「すまんな、グスタフ」

 

クラウスが一言礼を告げると、更に続ける。

 

「今目の前には、各小隊長が並んでいる。全員均等になるように、各小隊長の前に整列しろ、その後は、各小隊長が独自で諸君らを訓練する。質問は?無いなら始めるぞ!」

 

その言葉を皮切りに、訓練生達が整列を行った。

 

ーーーーーー

 

クラウスのその声は演習場全体を震わせた。

 

「おらおら!!何してやがんだ!!もっと早く走れぇっ!!!」

 

その豪胆な怒号に、訓練生たちは思わず足を止めかける。

 

「止まるなッ!!貴様ら、俺の目の前で脱落した奴はな――モビルスーツには一生乗せねぇ!!」

 

クラウスはまず訓練生をヘロヘロになるまで走らせる。

その後、疲れた状態で機体に搭乗させる。

頭で覚えるより体に覚えさせるためだ。

 

戦闘服の袖をまくったクラウスは、コロニーの薄曇りの空を背にしながら、まるで鬼神のように立っていた。

目の前で転倒した訓練生の胸倉をつかみ起こし、その顔のすぐそばで怒鳴る。

 

「戦場じゃ一歩の遅れが命取りだ!!その鈍った足で、敵の射線から逃げ切れるとでも思ってんのかァッ!?」

 

訓練生たちは、ただひたすらに走った。

汗と涙と土埃にまみれながら。

 

ーーーーーー

 

その隣で、エーリッヒ・ヴォルツ軍曹は淡々とした声で言い放った。

 

「まずはお前らのポテンシャルを調べる。すぐに練習機体に乗れ。」

 

訓練生たちが歓声を上げる。

 

「やった、早速機体に乗れるのか!?」「この軍曹、優しそうだし、ラッキーだな!」

 

だが、その甘さは数分と持たなかった。

 

「貴様ぁ!!その操縦で生き残れると思ってんのかッ!?」

 

操縦ミスをした訓練生のコクピットに、外部スピーカー越しにエーリッヒの怒声が響き渡る。

 

「もっと周囲に目を配れ!!敵は前からだけ来ると思ってるのか!!戦場の空気も読めねえ奴は、味方を巻き込んで死ぬんだよ!!」

 

コックピットの警告音が鳴り響く中、訓練生たちは次第にその厳しさの意味を理解していった。

 

ーーーーーー

 

ハンス軍曹の指導

 

一方、ハンス・グリューネル軍曹は沈黙のまま訓練生たちの前に立った。その瞳はまるで獣のように鋭く、言葉など必要ないとでも言いたげだった。

 

「……」

 

訓練生たちは互いに視線を交わし、戸惑いながらも口を開く。

 

「も、モビルスーツの操縦を……学びたいのですが……」

 

「だったら乗ってこいよ」

 

低く、しかし確実に心臓を締め付けるような声。

 

「ただし――」

 

ハンスは一拍おいて、口元に微かに笑みを浮かべる。

 

「もし機体を少しでもバランス崩したり、傷をつけたりしたらな――腕立て300回、腹筋も300回だ」

 

沈黙が走った。地獄のような数字に、訓練生たちは背筋を凍らせた。

 

ーーーーーー

 

そして、シーマ・ガラハウ中尉。

その姿は、他の鬼教官たちとは一線を画していた。

 

艶やかな黒の髪を後ろに流し、瞳に鋭さと柔らかさを同居させながら、シーマは穏やかに言う。

 

「いいかい?まずは機体の特性を理解するところからだよ」

 

不適に笑いながら、訓練生たちに歩み寄る。

 

「推進力や癖を完全に把握していないうちは、機体はあんたらの敵だと思いな。でも――それが“身体の一部”になれば、生き延びる術にもなるんだ」

 

「は、はいっ!!」

 

と訓練生たちは一斉に返事をする。

その中には、顔を赤らめて彼女を見つめる者もいた。

 

「よろしぃ。じゃあ早速、乗りな。ビシビシいくよ」

 

訓練は過酷そのものだった。

精密動作、無重力下での姿勢制御、戦術移動――だが、シーマの的確な指導と時折見せる笑顔に、訓練生たちは一様に「頑張ろう」と思わせられる。

不思議な統率力がそこにはあった。

 

ーーーーーー

 

イオリは、訓練生たちの前で淡々と訓練の説明を始めていた。

 

「では、まずは基本動作から入る。初動に必要なのは――」

 

その時、一人の訓練生が手を挙げ、鼻で笑いながら言った。

 

「すみません〜、それって必要ですか?いますぐ機体に乗った方が早くないですか?」

 

若い顔に浮かぶのは、明らかに“年下に教えられる”ことへの反発。

 

「お前…!少尉に失礼っすよ!!」

 

即座に吠えたのはカールだった。

その目は鋭く、肩は震え、まるで犬が仲間を守ろうと威嚇するような必死さだった。

 

その隣で、エリック・ホフマンが訓練生を射るような視線を送る。

 

「カール、大丈夫だ」

 

イオリは苦笑しながら、彼を制すと、訓練生に尋ねた。

 

「君は?」

 

「名前なんてどうでもいいでしょう?どうせあなた達、二週間しかいないんでしょ?だったら、効率よく行きませんか?オレとあなたで模擬戦して、オレが勝ったら自分たちで訓練やります」

 

その顔は自信に満ちており、その取り巻きもニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

「言わせておけば…!」

 

とカールが再び怒声を上げるが、イオリがその肩を掴み止める。

 

「わかった。それでいいよ。だが――模擬戦をやるのはカール二等兵だ」

 

訓練生の顔が歪んだ。

 

「は?ふざけてるんですか!?そんな新兵に負けるわけ――」

 

「いや、ふざけてないさ」

 

イオリの言葉は静かだったが、訓練生の耳に妙に響いた。

 

ーーーーーー

 

訓練生の顔には、なおも余裕の笑みが浮かんでいた。

 

「ま、ちゃっちゃと終わらせてやりますよ。」

 

だが、模擬戦が始まった瞬間、その笑みは凍りついた。

 

カールの動きは――異様だった。

 

機体の挙動が、異様なまでに滑らかで、静かだった。

だが、そこには一切の“遊び”がない。

 

訓練生のザクが振りかぶったタイミングで、カールのザクは身を翻して死角へと移動し、瞬時に背後を取る。

そして、訓練生が動揺してバランスを崩した瞬間――

 

ドスッ!!

 

軽く膝を押し当てるようにして、訓練生のザクが地面に倒れた。

 

その上から、カールのザクがゆっくりと見下ろす。

 

「少尉はオレなんかより、ずっと強いっすよ。少しは敬意を払ったらどうっすか?」

 

声に怒気はなかった。

ただ、静かな――事実の提示だった。

 

ーーーーーー

 

模擬戦後、イオリは整列した訓練生たちの前に立った。

 

「これが現実だ。さっきの訓練生は、操縦に少しは覚えがあったようだが、あんなものじゃ戦場では通用しない。すぐに――死ぬ。」

 

一瞬、息を呑む音が並ぶ。

 

「だが、そうならないために俺たちシーウルフが来た。

お前たちが死なないように。生き残れるように。

そのために、死ぬ気で食らいついてこい!!」

 

「――了解!!!」

 

その声は、さっきまでの彼らのものとはまるで違っていた。

 

遠く、教官棟の上階からその様子を見ていたクラウス少佐が、ふっと口元を緩める。

 

「下の扱いが……うまいじゃねぇか。」

 

彼の目には、確かに“部隊を導く者”としてのイオリの姿が映っていた。

 

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