転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
コロニーの天蓋に描かれた空が、まるで本物の夕焼けのように赤く染まっていた。高い天井の「空」は、ゆるやかに茜から紫へと色を変え、まるでこの世界全体が静かに呼吸をしているかのようだった。
その下で、訓練場の地面には倒れ込むように横たわる者たちの姿があった。かつては希望に満ち、威勢よく前を向いていた若者たち——今はその顔に汗と埃、そして疲労の色が濃くこびりついていた。
まるで戦場から帰還したばかりの兵士のように、訓練生たちは肩で息をし、痙攣する手足を押さえながらも、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。それは、ただ単に「終わった」からではない。この一日が、彼らの中で何かを確かに変えたことを、彼ら自身が感じ取っていたからだ。
そんな彼らの前に、クラウス・シュレンケ少佐が立った。戦場で幾度となく仲間を引き連れ、生還してきた男。その目は厳しく、それでいて、今はどこか労わりの色もあった。
「……今日はここまでだ」
低く、しかし遠くまで通る声で、彼は言った。誰一人として言葉を返すことはできない。ただ、無言でうなずく者が数人、深く頭を垂れる者が一人。
「明日から、また同じような訓練が始まる。……それまで、しっかり休んでおけ」
その言葉を最後に、シーウルフ隊の面々はゆっくりと背を向け、訓練生たちを後にして歩き出した。夕焼けの光に背中を染めながら、教官用の隊舎へと向かっていく。
しばらく無言のまま歩いていたが、ふと沈黙を破るようにハンス・グリューネル軍曹が言った。
「……それにしても随分とキツそうな訓練だったな、隊長」
その無表情な顔に、珍しく少しだけ口元が緩んでいた。
「確かに」エーリッヒ・ヴォルツ軍曹がくくっと笑う。「機体に乗る前にもう、ボロボロだったな、隊長の班は」
クラウスはふっと鼻で笑うと、後ろ手に組んだ手を軽く揺らして言った。
「バカ言え。あれでもまだ甘いくらいだ。あんなの、戦場じゃ数分と保たねぇ」
彼の声はどこか誇らしげで、しかし確かな現実を突きつけるような鋭さがあった。
「だけどよ、シーマの班はやけに元気だったな。体はボロボロでも、顔はやたらキラキラしてやがった。まさか……女王シーマの手腕か?」
と、グスタフ・ヴァール曹長が茶化すように言う。
シーマは肩をすくめると、気だるげに笑って答えた。
「ふん、あたしは何も言っちゃいないよ。ただ……アイツらが勝手に元気なだけさ。可愛いもんだね」
その言葉に、イオリが思わず口を挟んだ。
「でも、シーマ中尉。オレに教えてくれた時より、言い方とか、表情とか……優しかったですよ」
何気ない一言だった。しかしその場にいた誰もが、絶妙なタイミングで動きを止め、イオリを見やった。
「……イオリが拗ねてらー」
「やれやれ、嫉妬かよ」
と、ベテラン勢が揶揄い始める。声はどこかあたたかく、家族のような雰囲気すら感じさせた。
しかし
「何言ってんだい、あたしとあんたは上司と部下だろ」
と、シーマはいつもはしない冷たい言葉で答える。
イオリは焦りつつ「あ、す、すみません」と軽く頭を下げる。
その言葉に、場の空気が一瞬にして凍りつく。
隊員達は頭に疑問を浮かべるが、すぐに別の話題で談笑を始める。
クラウスはふっと煙草に火をつけるような仕草をしながら、イオリに視線を送った。
「イオリ。お前、下の扱いが上手くなってんじゃねぇか」
「え?」
「最初はあの訓練生、反発してたみてぇだが……最後は従順そのものだったな。お前の言葉で、隊が一つになってた。……見たぞ、自分の群れみてぇに従えてたのをよ」
イオリは一瞬、言葉を失った。そして、ぽつりと、照れくさそうに言う。
「……見てましたか。オレ、少佐の真似をしただけですよ。俺の理想の隊長像は、クラウス少佐ですから」
その言葉に、クラウスの口元がふっと緩む。
「……てめぇ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
目を細めて、満足げにうなずくと、背中をぽんと叩いてこう言った。
「あとで飲みにいくぞ。つきあえよ」
その声に、すぐさま他のベテラン勢も反応する。
「じゃあ俺たちも付き合うよ」
「たまには全員でいいんじゃねぇか?」
そこに割り込むように、カールが元気よく声を張り上げる。
「今度ばかりは、オレたちも行くっすよ!!」
「おう、若いのも来い。今日は前回の作戦成功の乾杯もまだだったからな。ついでにやるぞ」
クラウスがそう言うと、一同は笑いながら歩き出した。
その背中に、まだ夕焼けがかすかに残るコロニーの光が、やさしく降り注いでいた。
それは、過酷な訓練の一日を締めくくるにふさわしい、静かで温かな光だった。
ーーーーーー
次の日も、その次の日も、容赦のない訓練は続いていた。だが、不思議なことに訓練生たちの目には、次第にあの初日の疲弊や絶望ではなく、熱のこもった光が灯り始めていた。息が切れ、筋肉が悲鳴を上げる中でも、彼らは歯を食いしばり、真っ直ぐに立ち上がる。
その光は、教官として立つシーウルフ隊の存在に他ならなかった。
現役の実戦部隊が直接手ほどきをするこの訓練は、訓練生にとってただの教練ではなく、生きた戦場の空気そのものだった。鬼のように厳しい命令も、容赦ない叱責も、その裏にある信念と責任を、訓練生たちは肌で感じていた。
いつしかその絆は、どこか野良犬が懐くような不器用な形で、確かに芽生えていた。
――ある昼下がり、食堂にて。
喧騒が木霊する広い食堂。列をなして配膳を待つ訓練生たちの間を、活気に満ちた声が飛び交っていた。
「シュレンケ教官!モビルスーツの部隊行動について教えてください!」
「教官!今日は何をしますか!?」
「ヴォルツ教官!今日は精密射撃の訓練ですか!?」
「グリューネル教官!モビルスーツでの格闘について教えてください!」
列を乱しながら、我先にとシーウルフの面々へ駆け寄る訓練生たち。言葉の洪水に食堂が一時騒然とする。
「わかったわかった!待てお前ら!!」
クラウスが眉をしかめ、どんとトレーを配膳台に置いて声を張り上げた。
「まずは飯だ!それを食ったらちょっとは休憩しろ!訓練はそれからだ!!」
「えー……」
訓練生たちは一斉に肩を落とし、不満そうに散っていく。その背中を見送りながら、ハンスがどこか呆れたように呟いた。
「ったく、初日の跳ねっ返りはどこ行ったんだ?今じゃどこにいくにも“教官、教官!”ってくっついてくるぞ。」
エーリッヒも思わず苦笑いを浮かべる。
「俺たち、かなり厳しくやってるつもりなんだけどなぁ。まるで子犬に懐かれた気分だよ。」
「聞いたか?」とグスタフが横から笑いながら囁く。
「他の隊員のところにも、隙あらば押しかけては“次はあれ教えてください”ってよ。おかげで他の奴ら、食事もこそこそとってるらしい。」
その様子を想像して、思わず皆、苦笑と共に頷き合う。
だが、クラウスは一転して真顔になり、手元のトレーを見つめながら静かに語る。
「……違うんだろうな、今までの訓練とは。俺たちは戦場を生き延びて、その体験を踏まえて訓練を教えている。それが伝わってるからこそ、あいつら――あんな目をして俺たちに食らいついてくるんだ。」
その言葉に、一同の表情が引き締まる。重みのある言葉だった。命を賭けた者の声だった。
しかし次の瞬間、グスタフがふっと笑い、別の方向を顎でしゃくった。
「でもよ、それとはちょっと違う“懐き方”されてる奴もいるぜ?」
視線の先には、食堂の片隅――
女性訓練生に囲まれるイオリの姿と、
男性訓練生に取り囲まれたシーマの姿があった。
「教官!訓練終了後、個別でご教示頂けませんか!?」
「クローネ教官!この後お暇ですか?!」
「教官は独身なんですか?!」
矢継ぎ早に放たれる、訓練とは関係ない問いかけの数々。イオリは苦笑いを浮かべ、トレーを持ちながら困ったように答えた。
「は、はは……まぁ、個別の訓練はやめておこうか。皆と同じ訓練の方が、効果的だからね」
その声は笑っていたが、視線はふと、別の方向――シーマの方へ向かっていた。
彼女もまた、囲まれた訓練生に困惑しながらも毅然としていた。
「ガラハウ教官はこの後ご予定は?」
「教官、今日のモビルスーツの高機動方法について質問があります、後で部屋に行ってもいいですか?」
「ガラハウ教官はどんな男性が好みですか、彼氏はいますか?!」
男たちの熱を帯びた視線が集中する中、シーマは不機嫌そうに目を細めて言い放った。
「……あんた達、暑苦しいんだよ。訓練に関しての質問なら、訓練中に聞きな」
「あと……訓練と関係ない質問した奴、午後の訓練で覚えときな」
それでも完全には怒っていなかった。どこか遠慮がちな声音だった。彼女の大人びた雰囲気や、涼やかな瞳は、確かにこの若き訓練生たちにはまぶしすぎたのだろう。その人気は、一目瞭然だった。
そんな彼女の姿を見つめるイオリ。なぜか胸の内で、鈍く、しかし確かな熱が渦巻いていた。
――なんだこの気持ちは。
嫉妬? そんなわけが……と、戸惑いながらも目を逸らせない。
不意に――シーマもこちらを見ていた。
目が合った。
イオリは思わず、ぎこちない笑みを浮かべる。
だがシーマはすぐに目を逸らし、食事を終えるとトレーを片手に、足早にその場を後にした。
「……」
イオリはしばらく目でその背を追った後、自分に群がる訓練生たちに軽く詫びて、立ち上がる。
そのまま、彼女の後を追った。
――その様子を遠巻きに見ていたのは、ベテラン組である。
ハンスがニヤけ顔で肘を突きながら言った。
「やーっぱり、あの二人は……なんか起こるな」
「間違いねぇな」とエーリッヒ。
「今後が楽しみだな。ま、すこし、まどろっこしぃのも悪くねぇけどよ」とグスタフも笑った。
その直後――
「教官!!」
振り返ると、背後には別の訓練生たちが、教官陣を見つけて笑顔で走り寄ってくる。
「おいおい、またかよ……!」
「休憩はどこいった……!」
そんな賑やかさの中、静かに進む兆し――
戦場の片隅に芽吹いた小さな感情は、まだ誰にも気づかれていなかった。
ーーーーーー
喧噪の残響がまだ耳に残る食堂から、イオリは一人歩き出していた。
足早に去っていくシーマの背中を、何故だか目が離せなかった。言葉にできない感情が、胸の内を渦巻いている。ざわめきの中、彼女の背中だけが浮き立って見えた。
歩きながら、自然と足は建物の外へと向かっていた。シーマがどこにいるのかなど、確証はなかった。ただ、感じていた——彼女はそこにいる、と。
建物の脇にある階段を抜けると、小さな喫煙所があった。手すりにもたれ、背を向けたその姿。
肩を少し落とし、左手に煙草、右肘を手すりにつけながら、じっと外の景色を見つめている。
イオリは、一瞬足を止めた。
声をかけようかどうか、迷いが胸をかすめる。だが、その迷いは一呼吸で振り払われた。
「中尉、さっきは……大変でしたね」
背中に向けてそう声をかけると、シーマの肩がわずかに揺れた。
だが彼女は振り向かず、まるでため息を煙に変えるように答えた。
「……あんたも、大変だったね。見てたよ、あの囲まれっぷり」
その声音は、どこか乾いていた。どこか遠いようで、近いようで、つかみどころのない温度だった。
イオリは彼女の隣に立ち、煙草を取り出す。口に咥え、カチリとライターに火をつける。火が小さく揺れて、煙草の先端を赤く染めた。
煙が二人の間にただよう。沈黙が空気を支配した。だが、それは気まずいものではなく、互いの呼吸だけが静かに混じる、妙に落ち着いた静けさだった。
その時、不意にシーマが口を開いた。
「……あんたはさ、可愛い女の子がタイプなのかい?」
言葉の意味を飲み込めず、イオリは思わず目を見開いた。
「え? 何ですか、急に」
シーマは視線を外したまま、ゆっくり煙を吐いた。その顔は見えなかったが、声には妙な冷たさが滲んでいた。
「あんたを囲んでた女の訓練生たちのことだよ。みんなちっちゃくて、可愛らしい子たちだったね。……あんた、ヘラヘラしてたよ」
その言い方は、棘のようだった。軽蔑するような、見下すような、それでいてどこか寂しげでもあった。
イオリは煙を吐き出しながら、内心に苛立ちが湧き上がるのを感じていた。
「ありえませんよ。彼女たちは訓練生です。そんな対象として見てません。それに……俺は、年上のほうが好きですから」
自嘲気味に、冗談めかして言ったつもりだった。だがシーマはわずかに眉を動かしただけで、「そうかい」とだけ返し、また煙を吸った。
その間、一度もこちらを見ようとしない。
その無関心とも取れる態度に、イオリは我慢ならなかった。
「……シーマ中尉こそ。男の訓練生に囲まれてましたよね。ちょっと嬉しかったんじゃないですか?」
その言葉は、投げやりだった。意地を張った、感情のぶつけ合いだった。
口にした瞬間、イオリは自分の浅はかさに気づいたが、もう遅かった。
シーマが、ようやくこちらを見た。
その瞳は氷のように冷たく、感情の波を閉ざす深い海のようだった。
怒りでも、悲しみでもなく——それは、失望だった。
「……は。そう思うなら、あんたの目は節穴だね」
淡々と、だが鋭く突き刺さる言葉だった。
イオリは言葉を失った。目の前の女性が、こんなにも遠く感じたのは初めてだった。
「……シーマ中尉?」
絞り出すように呼びかけた声に、シーマは応えない。煙草を灰皿に押し付けると、そのまま背を向けて歩き出した。
「……あたしはもう行くよ」
その後ろ姿は、苛立ちと悲しみが入り混じったようで、イオリの胸を締めつけた。
けれど、呼び止めることはできなかった。足が、口が、心が、彼女を追いかける術を失っていた。
残された喫煙所には、吸い殻と、冷たくなった風だけが漂っていた。
イオリはただそこに立ち尽くし、自分の心の揺れと、シーマの残した沈黙に、静かに向き合うしかなかった。
——あの目は、何を言おうとしていたのか。
——あの背中は、何を隠していたのか。
答えは、煙の向こうに揺れていた。
ーーーーーー
食堂のざわめきはまだ遠く耳に残っていた。
足音も人の気配もまばらになった廊下を、シーマは一人、早足で歩いていた。
その背筋はいつも通りに伸びていたが、拳はかすかに握られていた。
(……バカみたいだったね、あたし)
あの光景が、頭から離れなかった。
陽気な笑い声の中、イオリは女性訓練生たちに囲まれていた。
誰もがまだ制服の袖も固い年頃。
笑って、照れて、無邪気な声を上げて、イオリに話しかけていた。
そして——イオリも、笑っていた。あの、子どもみたいな顔で。
(あたしの知らない顔、してた)
その事実が、何より胸をざらつかせた。
あんな笑い方、部隊の中じゃ見たことがない。
作戦中にも、艦内でも、訓練でも。
いつも真っ直ぐで、懸命で、泥臭いくらいに前を向いているイオリ。
けれど今、あの場では、ただの若い男だった。
(……あんた、そんな顔もするんだ)
驚きと、苛立ちと、戸惑い。
そして——抑えきれないほどの、ささやかな嫉妬。
彼女たちは、イオリの“部下”じゃない。
戦場で背中を預け合った仲間でもない。
あの子たちは、イオリを「上官」としてではなく、「異性」として見ていた。
……そして、イオリもまた、それを受け入れているように見えた。
(……何が「年上のほうが好きです」だ)
先に口にしたのはイオリだった。
シーマの投げかけに、自嘲気味に返したその一言。
けれど、それが事実なら——どうしてあの子たちに囲まれて、あんなふうに笑っていられた?
(ヘラヘラと、あたしの知らない顔して)
視線を逸らすことができなかった。
見たくなかったはずなのに、目が勝手に追ってしまっていた。
きっと、顔にも出ていた。
ベテランの部下なら、「ああ、また中尉の機嫌が悪くなったな」と笑って済ませただろう。
けれどあの時のあたしは——笑えなかった。
(……情けないね。なに、嫉妬?)
認めたくない。
こんな感情、とうに捨てたはずだ。
“女”であるより、“軍人”として生きてきた。
過去に何を失い、何を手にしたのか、誰よりもわかっているつもりだった。
なのに——
(あんな目で、あんな顔で、誰かに笑いかけてるのを見て、腹が立つなんて……)
心の奥に刺さった棘が、じくじくと疼いていた。
言葉では説明できない感情。
それは憤りにも似ていたが、もっと脆く、もっと個人的なものだった。
その正体に気づくことさえ、シーマは拒んでいた。
喫煙所へ足を運んだのも、逃げ場所を求めてのことだった。
タバコの煙が、感情をごまかしてくれる気がした。
けれど、そこへ——あいつが来た。
(……あんたが来るとは、ね)
何もなかったように、「中尉も人気ですね」なんて笑いながら。
——その一言で済んでいたら、まだよかったのに。
「……シーマ中尉こそ。男の訓練生に囲まれてましたよね。ちょっと嬉しかったんじゃないですか?」
——あの言葉が、刺さった。
思ってもいなかったところに、不意にナイフを差し込まれたようだった。
冗談交じりの軽口。
だけど、それが冗談で済まなかったのは、自分の心がすでに傾いている証拠だった。
(……嬉しいわけ、ないだろうが)
あたしが誰に微笑んだ?
誰と目を合わせた?
あたしは、ただ——あんたの視線が気になって、気まずさを隠すように笑っただけだ。
本心なんかじゃない。
なのに——
(そんなふうにしか、見えなかったんだ)
その一言が、あたしのどこか深いところを乱暴に抉った。
言葉では返した。
「……は。そう思うなら、あんたの目は節穴だね」
突き放すように、冷たく。
上官らしく、平然を装って。
けれどその裏では、自分でもどうしようもない痛みが、静かに胸を引き裂いていた。
悔しかった。
情けなかった。
自分でも理由はわからなかった。ただ——
(本当は……)
——ちょっとだけ、あたしは、あんたに見てほしかったのかもしれない。
他の誰でもなく、あたしを。
そんな気持ちを、冗談のつもりで投げつけた言葉で踏みにじられて。
知られたくなかったくせに、傷ついた自分が情けなくて。
そんな自分を、ますます許せなかった。
喫煙所を去る時、足音は自然と硬くなる。
後ろからの呼びかけが、どこか空々しく響いた。
——シーマ中尉?
そう呼ばれても、もう振り返らない。
振り返ったら、きっと……情けない顔を見せてしまう。
あたしはもう、あんたの“上司”じゃいられなくなる。
それだけは、できない。
(あたしが“特別”を持ったら、部隊は壊れる)
そのために、最近はイオリとも距離をとっていた。
それが正しさかどうかなんて、わからない。
けれど、自分の中でそう線引きしなければ、心の均衡が崩れてしまいそうだった。
だから、歩き続けた。
訓練場の片隅で煙草をくゆらせた数分を、感情と距離を取るための儀式に変えて。
あの一瞬のざらつきを、心の底に沈めて。
——たった一人の部下に、こんなにも心を乱されるなんて。
そんなこと、誰にも、何よりも、自分自身にすら知られたくなかった。
うーん、このすれ違い笑
うちのシーマ様はだいぶこじれてます笑
あと、年齢変更します!笑
26歳〜28歳で!!
ちなみに僕は年上が好きです!!爆