転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第49話 別れ

――訓練場、夕刻。

 

灰色の空の下、訓練用モビルスーツの動作が停止していく。

一日の訓練が終わり、整備兵たちの掛け声が飛び交う中、教官としてのシーウルフ隊の姿は変わらずそこにあった。

イオリはカールとエリックを引き連れて新人訓練兵たちの操縦を見直し、シーマは無駄のない指示と実演で訓練生たちの視線を惹きつけていた。

 

――だが、2人のその心は、日を追うごとに距離を増していた。

 

イオリは時折、視線を感じる。だが向けることができなかった。

シーマもまた、イオリの姿が視界に入るたび、無意識に背筋が伸びた。だが、声をかける理由を、もう見つけられなかった。

 

それでも任務は続く。訓練生は育ち、シーウルフ隊の指導は確実に成果を上げていた。

 

「……あの二人、なんか最近、よそよそしくないか?」

 

ベテランのエーリッヒ・ヴォルツ軍曹が呟く。

「ま、何かが、あったのは確実だな」

と、ハンス・グリューネル軍曹が返すが、どこか疑問を残す言い方だった。

その空気を察してか、グスタフ・ヴァール曹長は何も言わず、煙草に火をつけた。

 

クラウスは、そんな小隊長たちのやりとりを聞いていた。だが口には出さない。

気づいていないはずがない。それでも、口を挟むようなことではないと、判断していた。

 

ーーーーーー

 

――その日の夜、シーウルフ隊は大隊長室へと招集された。

 

「失礼します。クラウス以下、シーウルフ隊、集まりました」

 

クラウスの声が凛と響くと同時に、ドアが静かに閉まる。

その部屋にいたのは、教導機動大隊長・クラウン大佐、そして彼らの艦長であるゲルハルト・アイゼンベルク大佐だった。

 

クラウスが少し眉を寄せながら問いかける。

 

「……で、小隊長クラスまで集めるとは。何かあったのですか?」

 

ゲルハルトは苦笑混じりに頷きながら言った。

 

「クラウス、すまないな。教導の後に呼び出して」

 

「いえ、お気になさらず。……で?」

 

「実は本国より命令が入った。明後日、シーウルフ隊はこの基地を出発し、準備が整い次第、地球へ降下することになった」

 

その一言に、室内の空気が張り詰める。

 

驚きは隠しきれなかった。

教導任務はまだ一週間ほど残っていたはずだ。クラウスは静かに疑問を口にする。

 

「……なにか、あったので? 我々は教官役の任務を受けていたはずです。あと一週間程は——」

 

そこで、クラウン大佐が一歩進み出る。

初老の穏やかな顔が微笑む。

 

「教導のことは、もう充分だ。訓練生たちも、戦争とはどういうものかを、君たちを通じて身をもって学んだ。

正直なところ、君たちにはずっと教官をしてほしいくらいだがね?」

 

クラウスは小さく笑った。

だが、その言葉の裏にある“惜しみながらの別れ”を敏感に感じ取っていた。

 

ゲルハルトが言葉を引き継ぐ。

 

「急遽命令が変更になることは異例だが……内容が内容だ。

地球上の戦闘は“重力戦線”と名付けられたのは知っているな?」

 

全員が無言で頷く。

 

「その重力戦線の、ヨーロッパ方面。現地の友軍が、苦戦している。

連邦はアルプス山脈の険しい地形を要塞化し、各所に基地を増設し防備を固めている。

現地のモビルスーツ部隊では、歯が立たんらしい」

 

そして、静かに重く。

 

「そこでーーシーウルフ隊に、白羽の矢が立った」

 

ホログラムに浮かぶのは、欧州地図の戦線と、H.L.V.の降下ポイント。

ゲルハルトの声が、さらに低くなった。

 

「諸君らは衛星軌道上からH.L.V.を用い、敵戦線後方に降下。敵基地の背後から奇襲をかける。

友軍は、諸君らが攻撃開始と同時に正面から突撃。挟撃して制圧する作戦だ。

……敵基地の後方、つまり、連邦の支配地域への降下だ。一般の部隊では、到底無理だという判断だろうな」

 

その言葉を聞いて、クラウスは静かに頷き、不敵に笑う。

 

「ようやく、特殊海兵隊らしい任務が来ましたね。……心残りは、ここにいる連中には、まだ教えてやりたいことが多々あるということですな」

 

後方に控えていたイオリやシーマ、小隊長たちが、くすりと笑う。

だがその笑いは、覚悟の裏返しでもあった。

 

ゲルハルトは、そんな彼らの顔を順に見渡し、うなずいた。

 

「出発が明後日なのは都合がいい。

明日は訓練生たちに、このことを説明してやれ。……教官としての、最後の仕事だ」

 

「了解」

 

クラウスの声が響き、彼らは一斉に敬礼した。

そのまま、静かに踵を返し、大隊長室を後にする。

 

ーーーーーー

 

――廊下、夜。

 

イオリは歩きながら、目の前のクラウスの背を見ていた。

その笑いの裏にある「責任」と「覚悟」が、まっすぐに伝わってくる。

足元が重くなったような錯覚に襲われる。

 

(地球……重力のある場所で、また戦うのか)

 

重力戦線――重力に引かれるのは、身体だけじゃない。

もっと、心の奥底にあるものまで、引きずり出される。

 

その隣を、シーマが歩いていた。互いに言葉は交わさなかった。

けれど、彼女の横顔はわずかに強ばっていて、それを見ないふりをすることが、今は精一杯だった。

 

(どうして、今。距離を開けたままで……)

 

(どうして、今。何も言えなくなってるんだ……)

 

互いの心の中で、まったく同じ疑問が渦を巻いていた。

 

そして、シーウルフ隊は明日、教官としての最後の一日を迎える。

 

それは、“教える者”としての終わりであり、“戦う者”としての再出発だった。

 

ーーーーーー

 

翌朝

 

空はまだ朝靄に包まれていたが、訓練場の空気は張り詰めていた。整列する訓練生たちの視線が、一斉にその姿を捉える。

 

普段は訓練着に身を包んでいたシーウルフ隊が、この日は全員が整然とした制服姿で現れたのだ。クラウス少佐が先頭に立ち、シーマ中尉、イオリ少尉をはじめとした各小隊長たちが後に続く。整列したその様は、戦場で鍛えられた精鋭の誇りそのものだった。

 

ざわざわと訓練生たちの間に広がる不穏な空気。誰もが何かを察していた。だが、それを口に出せる者はほとんどいない。

 

やがて、クラウス少佐が一歩前に出て、深く息を吸い、静かに言葉を発した。

 

「本日をもって、我々シーウルフ隊は貴様らの教官の任を解かれることとなった」

 

その言葉は、まるで訓練場の空気を凍らせたように響いた。

 

「ま、待ってください!!あと1週間は指導してくださると……!」

 

「そうです!もっと教えてほしいことが……!」

 

「新しい任務が終わったら、戻ってきてくれるんですよね……?」

 

次々と声があがる。叫び、懇願し、縋るような目を向ける訓練生たち。だが、その言葉を浴びても、シーウルフの隊員たちは冷静に前を見据えたまま、一言も発しなかった。その姿はまるで、戦場へと向かう覚悟の塊のようだった。

 

しばらくの沈黙のあと、クラウスの声が鋭く響いた。

 

「――甘ったれるなぁ!!」

 

その一言で、場の空気が再び一変する。

 

「貴様らは、いつまで教官に甘えて生きていくつもりだ?!いいか、貴様らは軍人だ。ここを出れば、否が応でも戦場に放り出される。そこでは命のやりとりが待っている!それが現実だ!」

 

訓練生たちは押し黙り、緊張に喉を鳴らす。

 

「この中には、初の実戦で命を落とす者もいるだろう。だが、それが俺たち軍人の宿命だ!」

 

声を張り上げたクラウスは、一拍置いて、その声を静かに落とした。

 

「だがな……それでも、俺は願っている。お前たちがその地獄の中でも生き延びてほしいと。貴様らは、命を賭ける理由を抱えてここにいるはずだ。國を守ると誓った者もいるだろう。家族を、仲間を守ると誓った者もいるだろう。それを、絶対に忘れるな。その誓いがお前達を守る盾となる」

 

その声は、訓練生たちの胸を深く突き刺した。数人の者が、拳を握りしめ、目に涙を滲ませていた。

 

「我々は、これより戦場に戻る。そこは甘えも情けも通じぬ場所だ。だが……貴様らヒヨッコが、いつか俺たちの隣に立つ日を――楽しみにしている」

 

そう言い終えたクラウスは、バシッと右手を上げ、正確な軍人の敬礼を取った。すると、その後ろに並ぶシーウルフの隊員たちが、一糸乱れぬ動きでそれに続く。

 

その整然とした光景は、訓練生たちの心に焼きついた。

 

訓練生たちも、涙をこらえながら敬礼で応じた。軍人としての矜持とはなにかを、言葉ではなく“背中”で見せつけられたのだった。

 

ーーーーーー

 

車両のエンジン音が低く唸る中、シーウルフの隊員たちが身支度を整え、乗り込みを始めていた。

 

「教官!!」

 

その叫び声とともに、訓練生たちが駆け寄ってきた。

 

慌てて止めようとする教官もいたが、その隣にいたクラウン大佐が、肩に手を置き、静かに首を振った。

 

「教官、短い間でしたが……本当にありがとうございました!」

 

訓練生たちは、それぞれ世話になったシーウルフ隊の隊員のもとへ走り寄った。

 

「ヴォルツ軍曹、あの背面機動、俺、やっと理解できたんです!」

 

「ハンス教官、また模擬戦、やってくださいね!次は負けませんから!」

 

イオリのもとにも、数人の訓練生が駆け寄ってくる。

 

「イオリ教官……あの、教えてくださったこと、一つも忘れません!」

 

イオリは一瞬言葉に詰まりながらも、小さく頷いた。

 

「……お前らなら、きっとやれる。死ぬんじゃないぞ」

 

その声は、どこか寂しげでありながらも、未来を託す者の覚悟に満ちていた。

 

シーマにも数人の訓練生が駆け寄った。

 

「シーマ教官!いつか、俺たちも“あの機動”を……!」

 

「ご、ご苦労だね……まったく、手のかかる連中だったよ……」

 

シーマはそう言いながらも、顔を少し背けている。頬にはうっすらと紅が差していた。

 

「いつか、必ずシーウルフ隊にいきます!!」

 

訓練生の一人が、力強く叫ぶ。その言葉に、隊員たちは驚いたように笑い、クラウスが後ろからぼそりと呟く。

 

「……はやく、隊舎に戻れ」

 

だが、その声音には、どこか優しさが滲んでいた。

 

その時、一人の訓練生が前に出て、クラウスに一枚の写真を差し出した。

 

「これ……俺たち全員で撮ったものです。教官たちと過ごした時間を、忘れたくありませんから……」

 

クラウスはしばし無言でそれを見つめた後、黙って受け取る。写真には、笑顔のシーウルフ隊と、まだ未熟だが目を輝かせた訓練生たちの姿が並んでいた。

 

訓練生達は一列に並び

「教官にー!敬礼!!ありがとうございましたぁ!!」

 

訓練生全員が、声を揃えて最後の敬礼を贈る。その姿は、もうただの訓練生ではなかった。彼らなりの矜持を胸に刻んだ、未来の戦士たちだった。

 

シーウルフ隊もまた、微笑みながら、それに答えるように敬礼を返した。

 

ーーーーーー

 

静かな車内に、エンジン音だけが響いていた。写真を見つめながら、クラウスが呟く。

 

「……柄にもないことを言ったのは、自分でもわかってるさ」

 

すると、グスタフがにやりと笑って言った。

 

「ははっ、隊長よ。やけに熱い言葉だったじゃねぇか。教官向いてんじゃねぇの?」

 

「そうそう。クラウス教官殿、次の世代を育てるのも悪くねぇんじゃない?」と、ハンスが茶化す。

 

クラウスは鼻で笑いながら、写真を丁寧に折りたたんで胸ポケットにしまい込んだ。

 

「……バカ言え。俺は前線で吠える方が性に合ってる。だがーー」

 

そう言って、窓の外に目をやる。

 

「ーーアイツらには、生き抜いてほしい。それだけだ」

 

誰も何も言わなかった。ただ、車窓の外、遠ざかる訓練場を見ながら、シーウルフの“狼”たちは、再び血と火薬の匂い漂う戦場へと、その身を投じていくのだった。

 

狼たちは、再び戦場へ。背負うのは誇り、そして未来。

 

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