転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

54 / 94
第50話 降下準備

ザンジバル級機動巡洋艦《ヘルヴォル》は、鈍色の宇宙を滑るように航行していた。数日後に迫る地球降下作戦――その静けさは、まるで嵐の前の海面のように張り詰めていた。

 

艦内、ブリーフィングルーム。整然と並んだ椅子にシーウルフ隊の面々が着席していた。戦闘服のジッパーを喉元まで閉め、皆一様に真剣な表情で前方の演台に視線を向けている。

 

前方には、ヘルヴォル艦長・ゲルハルト・アイゼンベルク大佐が直立不動で立っていた。厳格なその表情には、重力下の戦場に立つ者としての覚悟がにじむ。やがて、照明が落とされ、背後のスクリーンに白黒の航空写真が映し出される。

 

「――諸君らには事前に概要を説明したが、改めて伝える」

 

アイゼンベルクの低く、よく通る声が室内を満たす。

 

「重力戦線、東ヨーロッパ戦域。味方部隊が苦戦している。これが、強行偵察により得られた航空写真だ」

 

スクリーンに映されたその映像に、隊員たちが息を飲む。アルプス山脈の麓に構築された、幾重もの砲撃陣地――迷彩を施したコンクリートの砲台が谷を囲み、尾根を這うように散在している。視線を上へ移すと、切り立った尾根の向こうには広大な滑走路と、無数の格納庫を備えた連邦軍の大型基地が見えた。

 

「これは……」と、グスタフが小さく呻くように呟いた。 

「こりゃ、厄介だな」

 

アイゼンベルクは頷きもせず、言葉を続けた。

 

「味方はこの山脈の攻略をすでに数度試みている。理由は明白だ。この高地の基地から、各方面の味方基地へと長距離ミサイルでの砲撃と空襲が継続的に行われている。この攻撃が止まらぬ限り、地球における戦局は我々に不利となる」

 

次のスライド。焼け焦げたMSの残骸、谷底にひしゃげたマゼラアタック、そして白い布に包まれた兵士たちの姿。

 

「……だが、全ての攻撃は失敗に終わった」

 

アイゼンベルクは視線を鋭くした。

 

「砲撃陣地は、谷間を進撃する我が軍のモビルスーツや車両に対して、上から撃ち下ろす構造となっている。地形を最大限に活かした防衛陣地だ。結果、既に多くの犠牲が出ている」

 

室内に重い沈黙が落ちる。誰もが、次の任務が尋常でないことを悟った。

 

「……友軍の戦闘機隊は何をしているんだ?」

 

不意に口を開いたのはハンス・グリューネルだった。彼の視線には苛立ちと焦燥が見える。

 

アイゼンベルクはわずかに顎を引いた。

 

「ドップでは、連邦軍のセイバーフィッシュやティンコッドには敵わない。特に航続距離の問題は深刻だ。味方の空の支援は、期待できん」

 

「技術屋はなにしてるんだよ……」と、エーリッヒが呻いた。彼の指は、無意識に足元を叩いていた。

 

だが、アイゼンベルクの声音は変わらない。

 

「だからこそ、我々の役目だ」

 

スクリーンが切り替わり、作戦図が表示される。HLVの着地点、敵基地の位置、そして砲撃陣地の座標。

 

「シーウルフ隊は、HLVを用いて敵基地の後方に降下。二手に分かれ、一つは敵砲撃陣地の制圧。もう一つは、敵基地そのものを叩く」

 

「君らの突入を合図に、正面から攻めあぐねていた味方部隊が進撃を開始。これにより、敵を挟撃する」

 

アイゼンベルクは一拍置いて、クラウスに視線を送った。

 

「作戦概要は以上だ。あとは任せる、クラウス少佐」

 

クラウス・シュレンケ少佐が一歩前に出た。無駄のない動き。堂々たる姿。シーウルフ隊の象徴たるその男が、隊員たちに静かに語りかける。

 

「……聞いた通りだ。俺たちにとっても初の重力下での戦闘になる。気を抜くな。銃弾は重力で落ちる、身体は思った以上に重い。空間戦とは感覚がまるで違う。意識して動け」

 

スクリーンが再度切り替わり、砲撃陣地の配置図と部隊の配分が映し出される。

 

「第4、第5小隊は砲撃陣地を叩く。残りは敵基地への直接攻撃に回る。相手の意表を突くために、迅速に、的確に動け。……弾薬は多めに持っていけ。補給は期待できない。敵支配圏のど真ん中に降下することを忘れるな」

 

そして、厳しい視線で全員を見渡す。

 

「なにか、質問は?」

 

誰も声を上げなかった。

 

「……ないなら、各小隊で準備に取り掛かれ」

 

「了解!」

 

声が揃い、椅子が引かれ、金属の床にブーツの音が鳴り響く。緊張と決意が混じる、出撃前のあの独特の雰囲気がブリーフィングルームを満たしていく。

 

クラウスは退室しようとするイオリを呼び止める。

 

「イオリ。お前は残れ、話がある」

 

「……? 分かりました」

 

イオリは少し驚いたように応じ、仲間たちに軽く視線を送る。

 

「エリック、カール。先に行って準備してくれ。今回はマシンガンとバズーカで統一しよう。弾薬の共有もしやすい」

 

「了解っス」「はい、少尉」

 

伍長と二等兵がそれぞれ敬礼し、足早に部屋を出ていく。その横を、無言で通り過ぎる影――シーマ・ガラハウ中尉だ。

 

イオリを横目に見るが、言葉はない。その目はどこか翳りを帯びていた。すれ違いのまま、彼女は背を向け、静かに退室していった。

 

イオリはその背を、わずかに目で追うが、声はかけなかった。

 

ブリーフィングルームには、クラウスとイオリ、二人の影が残された。

 

戦場は目前に迫っていた。

 

ーーーーーー

 

クラウスは椅子に手をかけながら、振り返りもせずに呟いた。

 

「なぜ残したか、わかるか?」

 

イオリは少し眉をひそめる。

「……いえ。今回の作戦について、でしょうか」

 

クラウスは小さく首を振った。

 

「違う。シーマのことだ」

 

その言葉に、イオリの背筋がわずかに強張る。

 

「シーマ中尉が……何か?」

 

「何か、じゃないだろう。あいつは、ここのところ様子がおかしい。いや――お前もだ。何があった?」

 

イオリは一瞬だけ視線を逸らした。

だが言葉にはしなかった。

 

「別に……何も。ただ、上官として、部下として……それだけです」

 

自分でも、そう言い切っていいのか分からなかった。

クラウスは息を吐き、椅子に腰を落とした。

 

「……本当に、お前たちは手がかかる」

 

その言葉には、呆れと、どこかに優しさが混じっていた。

 

「いいか。戦場に出れば、何が起こるか分からん。もし言わなきゃならんことがあるなら、出撃前に済ませとけ。話そうと思っても、相手がもういないかもしれんからな」

 

イオリはゆっくりと頷いた。

 

「……わかりました」

 

「後悔するなよ」

 

それだけを残し、クラウスは立ち上がって部屋を出ていく。

去り際、彼は廊下でふと足を止め、思い返すように小さく呟いた。

 

「似たようなこと、あいつにも言ったな……」

 

そして、その背中は静かに艦内の通路へと消えていった。

 

取り残されたイオリは、部屋の中央に立ち尽くしていた。

何も言わず、何も決められないまま。

ただ、自分の中にある小さな渦を見つめていた。

 

「……俺は、どうしたいんだ……」

 

その問いの答えは出ない。

ただ、重力圏が近づく艦の鼓動だけが、微かに響いていた。

 

ーーーーーー

 

やがて、イオリは格納庫へと足を運ぶ。

広いハンガーの中には、慌ただしく動く隊員たちと、整備に追われるザクたちの姿があった。

 

「いいか!重力下だぞ!吸気口は細かいフィルターに交換しとけ!砂塵にやられて止まったら洒落にならんぞ!」

 

クルト整備長の怒鳴り声が、格納庫内に響く。

その背中はどこか頼もしく、どこか苛立っていた。

 

イオリの姿に気づいたカールが手を挙げた。

 

「あっ、少尉! 遅かったっすね!ちょうど整備終わったところっすよ!」

 

エリックも整備データの端末を片手に振り向く。

 

「ザクの調整も完了です。補給も万全。……あとは、降りるだけですね」

 

「……ああ。ありがとう」

 

イオリの返答は少しだけ、いつもより遅れた。

言葉に重さが滲んでいた。

 

カールが眉をひそめる。

 

「なんかあったんすか?」

 

「いや……なんでもない」

 

そう言いながらも、視線は自然と隣の第2小隊へ向かっていた。

 

シーマの姿がそこにあった。

モビルスーツの脇で、ヘルメット越しに整備士と言葉を交わしている。

こちらに気づいているのかいないのか。

イオリはただ、遠くからその背中を見つめていた。

 

「おいおい、イオリくん?」

 

グスタフの声が背後からかかる。

 

「そんな顔で“中尉さん”を見つめて、どーしたんだい」

 

「……なんでもないです」

 

イオリが即答すると、ハンスが割って入った。

 

「冗談はさておき、言っとくがな……。何かあるなら、今のうちに言っておけよ。俺たちが降りるのは戦場だ。そこに“後回し”なんて選択肢はない」

 

イオリは一瞬だけ沈黙した。

だが、すぐに口を開いた。

 

「……分かっています」

 

その瞳はどこか定まらず、それでも静かに、まっすぐに前を見ていた。

 

このまま戦争に突入する。

何も解決しないまま、それでも戦わなければならない。

 

沈黙と視線が交錯する格納庫の中、イオリの胸中にも、シーマの胸中にも、言葉にならない何かが渦巻いていた。

 

ーーだが、それを言葉にするには、あまりにも時間が足りなかった。

 

ーーーーーー

 

格納庫に低く響く足音と共に、クラウス少佐が現れた。金属の床を踏み鳴らすその音は、まるでこれから始まる地上戦の号砲のようだった。ヘルヴォルの照明が微かに揺れ、オレンジ色の警戒灯がゆっくりと回転する。

 

クラウスは一瞥で全体を見渡すと、短く鋭い声を放った。

 

「よし、準備はできたか?もうすぐ地球の衛星軌道に入る。時間はないぞ」

 

パイロットたちの間に、自然と緊張が走る。

 

「すでに軌道上には、友軍のムサイ艦が到着している。HLVの投下準備も始まっているようだ。到着次第、各小隊は指定されたHLVにモビルスーツを搭載しろ。準備が整っている者は、ザクに搭乗し待機しておけ!」

 

「了解!」という声があちこちから上がり、隊員たちは一斉に動き出した。

 

空気が変わる。整備員たちが最後の確認を終え、パイロットたちは無言でパイロットスーツを身に纏う。ヘルメットを被るその一瞬、皆が自分の顔から”日常”を脱ぎ捨て、“兵士”へと変わる。

 

イオリも静かにザクの前に立ち、スーツのジッパーを引き上げる。手元が僅かに震えていた。その瞬間だった。

 

「……シーマ中尉。」

 

背後からの気配に振り返ると、そこに立っていたのは、既にスーツを着たシーマだった。いつもと変わらぬ表情──いや、ほんの少しだけ、柔らかさがあった。

 

目が合う。だが、言葉が出てこない。何をどう話せばいいのか。どこから始めればいいのかすらわからなかった。

 

シーマはそんなイオリを見て、小さく、しかし確かに笑った。

 

「……死ぬんじゃないよ」

 

それだけを残し、彼女は背を向けてザクへと向かった。

 

イオリは咄嗟に、その背中に叫ぶ。

 

「シーマ中尉こそ!」

 

その声に彼女は振り返らなかったが、肩がほんの僅かに揺れたように見えた。

 

ーーーーーー

 

やがてヘルヴォルは、地球軌道上に到達した。星の重力が艦を引く感覚が微かに伝わり、緊迫感がさらに高まる。

 

ブリッジではゲルハルト・アイゼンベルク大佐が、厳しい眼差しのまま通信機のスイッチを入れる。

 

「こちらはヘルヴォル。支援に感謝する」

 

すぐに応答が返る。

 

『こちら戦闘支援艦ウィンド。投下準備は完了している。モビルスーツの搭載が済み次第、即時投下可能だ、諸君らシーウルフ隊を手伝えて光栄だ』

 

「迅速な準備に感謝する。以後、こちらで処理する」

ゲルハルトは通信を切り、艦内放送へ切り替えた。

 

「艦長より、シーウルフ隊に通達する。HLVの準備は整っている。各小隊は順次、HLVへのモビルスーツの搭載を行い、完了次第投下体勢に移行せよ。本艦は投下後、衛星軌道から離脱し、以後の通信は困難となる。現地では各自が独立して行動するよう留意せよ。作戦の成功を祈る」

 

その言葉を合図に、パイロットたちはザクを操縦して、ゆっくりとHLV内へと乗り込んでいった。

 

『優雅な空中遊泳といこうぜ!』とハンスが声を上げれば、

 

『バカ、集中しろ。はぐれても知らんぞ』とエーリッヒが返す。

 

『降下中に撃たれるんじゃねぇぞ、お前ら』とグスタフが笑う。

 

だが、全員がその軽口の奥に張り詰めた緊張を隠しているのを、互いに理解していた。

 

格納口でクラウスが、真剣な面持ちで声を張る。

 

『いいか、HLVは3基。第1・第2小隊はHLVワン。第3・第4はツー。第5はスリーだ。降下中は友軍が地上で陽動を行う。それが敵の唯一の隙だ』

 

『降下後は即座に指示された班に分かれ、作戦行動に移る。夜間とはいえ、敵の目があることを忘れるな。迅速、かつ沈着冷静に動け。質問は?』

 

ハンスが声を上げる。

 

『はぐれちまったら?』

 

クラウスは苦笑いを浮かべた。

 

『その時はな、隅でうずくまって震えてろ。パパが迎えに行ってやるよ』

 

その一言に、通信越しに小さな笑いが走る。だがそれも、数秒後には静かに収まった。

 

クラウスは最後に、もう一度言い放つ。

 

『重力下での戦闘は初めてだ。動きは鈍る、弾道も落ちる。地面の硬さに足を取られるな。下ばかり見てると、頭を撃ち抜かれるぞ。――全員、気を引き締めろ!』

 

『了解!』という声が、割れんばかりに響いた。

 

ーーーーーー

 

HLV内でザクを固定しながら、イオリは仲間に声をかける。

 

「エリック、カール。集中しろ。もし混乱したら、俺の背中を追えばいい。……いいな?」

 

エリックが、『了解です』と答える。

 

カールも負けじと『任せてくださいっす、少尉!』と胸を張った。

 

イオリは深く息を吸った。

 

(落ち着け……地球に降りるだけだ。俺は、あの星にいた。前世の記憶でもいい、思い出せ)

 

その時、個別回線がピリッと鳴る。イオリが応答すると、耳元に聞き慣れた声が届いた。

 

『緊張するんじゃないよ。あんたが緊張したら、部下まで動揺する。今は、目の前のことに集中しな』

 

シーマの声だった。

 

その一言に、イオリの胸がどこか温かくなる。口が自然に動いた。

 

「シーマ中尉……その……あの日のこと、すみませんでした。俺……中尉に失礼なことを……」

 

一瞬、回線の向こうが静かになった。だが、すぐに微笑むような声が返ってくる。

 

『……その話は、作戦が終わってから聞くよ』

 

イオリの胸が軽くなった。自然と笑みがこぼれる。

 

「……了解です」

 

ーーHLV内の非常灯が緑から赤へと切り替わる。

 

緊張の糸が、一瞬にして張り詰める。

 

『よし、降下の合図だ!行くぞ!おめぇらぁ!!』クラウスの怒声が響き渡る。

 

次の瞬間、HLVが切り離され、シーウルフ隊を乗せたHLVが、地球の重力に引かれ落ちていった。

 

夜の地球が、彼らを迎える。

 

運命の地上戦が、ついに始まる――。

 




(;゚д゚)(つд⊂)ゴシゴシ(;゚Д゚)…?!
フォーーーーー!!?
お気に入りが1000件超えてますやん!!
ありがとうございます!!
めちゃくちゃ励みになります!

HLVの設定はめちゃんこご都合主義です。たぶん一基にモビルスーツ載っても6機くらいだろーと思いますので、三基にしました笑
まさしくモビルスーツ版ヘルダイバーですね笑
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。