転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第51話 基地攻略 上

HLVが大気圏の上層に差しかかった時、それは明確な音を持って迫ってきた。空気の摩擦が生み出す轟音と振動が、内部にいるシーウルフの隊員たちの神経を容赦なく刺激する。

 

内部の警報灯が脈打つように明滅を繰り返していた。船体を揺らす振動は激しさを増し、まるでこのまま四肢が引きちぎられそうな錯覚さえ抱かせる。

 

ザクに搭乗するイオリは、口を結び、瞼を閉じる。耳鳴りにも似た機械音の中、深く呼吸を整え、意識を戦場へと集中させる。

 

その時、艦内通信が割れるように響いた。

 

『ーーこちらクラウス。聞け、もうすぐ降下ポイントだ!』

 

クラウス少佐の声は重く、だがはっきりと全員の胸に届いた。

 

『降下後は速やかに周囲の安全を確保。その後、指示通りに行動しろ。分かったな!』

 

『了解!!』

複数の声が同時に重なり、HLV内に轟く。覚悟を決めた兵たちの声は、嵐のような揺れをも吹き飛ばす強さを持っていた。

 

エーリッヒが冗談めかしながらも、苦笑交じりに吐き出す。

 

『くそっ……これが地球の重力か!骨まで押し潰されそうだな……!』

 

イオリは奥歯を噛み締め、両手で操縦桿を握り締める。

(これが……地球の重力……っ!)

 

懐かしさにも似た感覚が胸を締めつけるが、感傷に浸る暇はない。高度計の針が刻一刻と下がっていく。

 

クラウスの声が再び響く。

 

『あと500――!』

 

その瞬間、HLVの逆噴射装置が起動。体が一瞬、空中に浮いたかと思えば、すぐに強烈な重力が押し潰すようにのしかかる。

 

続いて――パラシュートが展開。鋼鉄の巨体が空を裂きながら減速していく。

 

緑色の非常灯が赤へと変わり、緊張の一瞬が訪れる。

 

『ゲート、オープン!』

 

鋼鉄の扉がゆっくりと開かれ、闇に包まれた大地と、微かに霞む星明かりが視界に広がる。

 

その暗闇の中に、一つ目の巨人たち――モビルスーツ部隊が、まるで猛禽のごとく飛び出した。

 

『散会!付近の安全を確保しろ!』

 

クラウスの怒号と共に、三基のHLVからザクが一斉に跳び出していく。その姿は、まるで鋼鉄の流星のようだった。

 

イオリのザクが地を蹴る。着地の衝撃と共に地面に深く沈む感覚に、地球という星の重みを実感する。

 

「カール、エリック、周囲を確認しろ!」

 

『了解っす!』『了解!』

 

周囲を警戒しつつも、敵の姿はない。重苦しい静寂が支配する夜の森の中、微かに虫の音と風の唸りが響く。

 

『敵影なし……か。拍子抜けだな』

 

クラウスが短く息を吐くと、すぐさま指示を飛ばす。

 

『よし、敵は付近にはいないようだ。二班に分かれるぞ!』

 

『ハンス、エーリッヒ。砲撃陣地への攻撃を任せた。破壊は最低限でいい。友軍の上陸を援護してやれ』

 

『了解!』『そっちは任せたぜ、隊長!砲台はつぶしてやる』

 

夜の闇に、肩部に黒の識別帯を塗装したザク2機が跳び出していく。彼らの小隊もすぐに後に続いた。

 

『第2、第3小隊は続け。敵基地後方へ移動する。夜明け前には接触するはずだ』

 

「了解!」

『あいよ』

 

イオリの声に続き、シーマの低く抑えた声が返る。

 

2機のザクが闇の中を滑るように動き出す。誰もが、静かな狂気の中に身を投じていた。

闇の帳に包まれながらも、確かにそこに命の火は灯っていた。

 

(落ち着け……俺たちは、生きて帰るんだ)

 

イオリは静かに息を吸い込んだ。背後に感じる仲間たちの存在が、彼を支えていた。

 

ーーーーーー

 

夜明け前の地表。漆黒の闇に沈む大地を、9機のモノアイが静かに進んでいた。

 

地球――。その重力は、宇宙空間での戦いに慣れた彼らの感覚を、否応なく揺さぶっていた。

 

砂利を踏みしめる脚部の関節が軋みをあげる。わずかに地鳴りのような音が響き、周囲にまでその存在を知らせてしまいそうなほどだ。暗視モードのモニターには、起伏に富んだ山間の地形がうっすらと浮かび上がっている。

 

『やっぱり、地球の重力は一味違うっすね……』

 

通信に乗ってカールの声が響いた。まだ若く、経験の浅い彼の言葉には、ほんの少しの興奮が混じっていた。

 

『コロニー内とはまた違うな。あいつら、こんな地面の上で戦ってたのか……』

 

エリックも静かに続ける。彼はどちらかといえば冷静だが、それでも普段よりも緊張しているのが伝わってくる。

 

「……無駄話はそこまでだ。集中しろ」

 

イオリの声が鋭く二人の会話を断ち切った。音量は抑えていたが、その声には確かな緊張が込められていた。

 

ザク9機――それぞれの思いを胸に、闇夜の中を歩を進める。現在、先行しているのは第1小隊のグスタフともう1機。前方の安全確認を行いながらの慎重な進軍だった。

 

『グスタフから連絡だ。進行方向、敵影なし。引き続きこのまま進むぞ』

 

クラウス少佐の冷静な声が各機に届く。彼の指揮は常に的確であり、そこに疑念を抱く者はいなかった。

 

『作戦の確認だ。攻撃開始時、我々第1小隊が中央を突く。第2が左翼、第3が右翼を担当する。連邦は戦車や戦闘機など、数にものを言わせた守備隊を配置しているはずだ。モビルスーツといえど、関節部を狙われれば脆い。射線に気をつけろ、背後の警戒も怠るな』

 

重々しい口調でクラウスが言い切ると、各機のパイロットたちはそれぞれに戦闘の緊張を高めていった。

 

『それと――連邦は地上戦では歩兵も多用し、遅滞戦術を仕掛けてくる。奴らは小さく、見つけにくい。だが……見つけたなら、ためらうな。こちらが躊躇すれば、それだけで死ぬぞ』

 

『……あいよ。分かってるさ』

 

シーマの低く落ち着いた声が返る。その声には、命令を受け入れる軍人としての覚悟が滲んでいた。

 

イオリの心がざわついていた。

(今までは敵といっても、艦や戦闘機だった……でも今回は違う。俺が撃つのは、生身の人間だ)

 

ヘルメットの内側で、彼は無意識に唇を噛んでいた。

 

『少尉? 聞いてます? 少尉?』

 

カールの声が鼓膜を打つ。イオリははっとして顔を上げた。

 

「あ、あぁ……すまない。なんだって?」

 

『もう、聞いててくださいよ。……俺たちの戦い方は、どうするっすか?』

 

「そうだな……いつも通りだ。俺とカールで前に出る。エリックは後方からの援護、頼む」

 

『了解っす』『任せてください』

 

二人の返事は簡潔だったが、そこにはイオリへの信頼がにじんでいた。

(俺が……小隊長として、ちゃんと導かなきゃいけない)

イオリは胸の内で、改めて己に誓う。

 

ーーーーーー

 

やがて、夜が明けかける。黒い空の端が白く染まり始め、地平線がわずかに浮かび上がる。

 

その時、最前列を進んでいたクラウス少佐のザクが左手を上げた。停止の合図だ。部隊は即座に動きを止め、静寂が訪れる。

 

『グスタフから再度連絡だ。敵基地、目視確認。こちらにはまだ気付いていないとのことだ、しかし、問題もあるらしい』

 

静かに告げられる言葉に、緊張が一気に高まった。戦いの時が、いよいよ近づいている。

 

喉の渇きに気づいたイオリは、無意識に唾を飲み込んだ。その小さな音さえ、やけに大きく感じられる。

 

しばらくして、グスタフ、第1小隊3番機と合流。彼らは高い草木の中に身を潜めていた。

 

『よう、隊長。早かったな』

 

『よくやった。状況は?』

 

クラウスの問いに、グスタフの顔が少し渋くなる。

 

『……ちと、まずいな』

 

『なんだ?』

 

『見てみな。基地の後方……本来なら背の高い草木が生い茂ってるはずだが、今はどうだ?』

 

クラウスが視線を送ると、確かにそこには一面の開けた地面が広がっていた。基地まで、障害物もなく一直線。隠れる場所など一つもない。

 

『……連邦め。後方も抜かりなく警戒していたか』

 

クラウスの言葉は低く、怒気を含んでいた。

 

『このまま進めば、ただの的だぞ。どうする?』とグスタフが問うたその時――

 

「スモークは持ってきているか? カール、エリック」

 

静かながらも芯のある声でイオリが言った。クラウスたちはその言葉に一瞬、疑問の表情を見せる。

 

『スモークなら装備してますよ』

 

『ええ、出撃前に指示された通りに』

 

「……よし」

 

イオリの返事に、クラウスが一歩前に出る。

 

『……何か考えがあるのか?』

 

「はい。俺たち第3小隊が、基地右側から山林と基地の間に向けてスモークを射出します。その煙の中から攻撃を仕掛ければ、連邦はこちらの戦力を見極めることができない」

 

「敵は煙に包まれた方に注意を向ける。その隙に……」

 

「少佐たちが左側から奇襲を仕掛けます」

 

一瞬、空気が張り詰めた。

 

『ちょっと待ちなってば!』

シーマが声を荒げた。『そんなの危険すぎるよ!』

 

だが、クラウスはそれを制するように言った。

 

『……よし、それでいくぞ』

 

『クラウス……っ?!』

 

シーマの声には驚きと怒り、そして不安が混じっていた。

 

『この作戦が今できる最適解だ。それ以外ではただ無為に損耗するだけだ。俺たちが敵火砲を叩けば、お前たちの被害も抑えられる。イオリたちの役目は……無駄じゃない』

 

『……クッ』

 

シーマは悔しそうに唇を噛む。だが、彼女もまた理解していた。この戦場で、「正しいこと」と「生き残ること」が同義ではないということを。

 

『そうと決まれば動け。イオリ、敵基地の中で待ってるぞ』

 

クラウスの言葉を背に、第1小隊がゆっくりと左へ向けて移動を開始する。去り際、

 

『……無茶するんじゃないよ。できるだけ早く、火砲を潰す』

 

そう言い残し、シーマの小隊もその場を後にする。

イオリは自分の小隊に謝罪する。

 

「……すまないな。貧乏くじを引かせてしまって」

 

イオリが小隊の仲間にそう告げると、カールとエリックは静かに、それでも力強く応じた。

 

『全然大丈夫っすよ』

 

『俺たちは、少尉の命令にいつでも従います』

 

イオリはふっと息を吐くと、口元にわずかな笑みを浮かべた。

 

「……ありがとう、二人とも。よし、敵基地右側に展開するぞ。ついて来い」

 

緊迫の中、イオリ小隊は煙と混乱の中から、勝利のための一手を放つべく、再びその脚を踏み出すのだった。

 

ーーーーーー

 

まだ夜の余韻を残す空の下、連邦軍の航空基地には湿った空気が淀み、霧とも煙ともつかぬ靄が地表を這っていた。日々の緊張感に慣れ切ったのか、あるいは慢心からか、警戒勤務中の連邦兵たちは気の抜けた会話を交わしていた。

 

「クァ……ったく、こんな基地、誰が攻めてくるってんだよ」

 

眠気混じりの欠伸を噛み殺しながら、ひとりが愚痴る。迷彩服の襟を緩め、手には小型のカップを握りしめていた。

 

「ジオンの連中、どうせまた砲撃陣地にやられてるんだろ?来るだけ無駄さ」

 

その相方も肩を竦め、口元に皮肉を浮かべた。

 

「そうだな……だが、やることやってないと、上官がギャーギャー煩いしな。無駄に働かされるこっちの身にもなれってんだ」

 

「ま、勤務が終わったら酒保の女の子達のとこに行こうぜ。あの子ら、なかなかだぞ。胸とかさ……」

 

その下品な笑い声が、基地の静寂を破るかのように響いた――まさにその瞬間。

 

「おい……あれなんだ?」

 

相棒が急に声を潜め、基地の後方を指差した。

 

「は?なんだよ、いきなり――」

 

不満げに視線を向けたその先、草木の向こうから淡く、そして確かに煙が立ち昇っていた。その煙はまるで生き物のように地を這い、基地の方へと這い寄ってくる。

 

その異常に気づいた時には遅かった。煙の奥、揺らめく中でひときわ強く輝く「一つ目」の光。

 

「ザクだぁーーーーッ!!」

 

連邦兵の絶叫が空を裂いた瞬間、轟音が響き、爆炎が土を噴き上げた。

 

ーーーーーー

 

「カール!エリック!まずはバズーカを撃ちまくれ!注意を引くぞ!」

 

イオリの怒声が、朝靄を裂くように響き渡った。

 

『了解っす!』『了解!』

 

二等兵カールと伍長エリックが即座に応じる。三機のザクが草陰から一斉に飛び出し、湿った空気を切り裂くようにバズーカを発射した。炸裂する火線が敵基地の金網や見張り塔を狙い、閃光と爆煙を巻き起こす。

 

「煙越しでいい!狙いは雑で構わない!一発でも当たれば御の字だ!」

 

イオリも構えたバズーカを持ち上げ、煙の向こうへと撃ち込んだ。連邦軍の基地がざわめき始める。

 

――しかし。

 

「来るぞ……構えろ!」

 

直後、基地側から反撃が始まった。

 

重砲、61式戦車の砲撃、固定機関砲……一斉に火を噴く。音を超えた轟音が連なり、大地を叩き割るような砲撃が押し寄せる。

 

「くそっ、これが……連邦基地の正面火力か……!」

 

イオリの目に映るのは、連邦軍の火力の「壁」だった。攻撃というより“嵐”だ。砲弾が雨あられと飛来し、空を斜めに裂きながら着弾していく。

狙いはスモーク越しのため、正確に撃ってくることはないが、それでも圧倒的な攻撃が降り注ぐ。

 

『うわっ! 左から来てます、少尉!』

 

「カール、下がれ!――ッ!」

 

イオリが叫ぶ間もなく、爆音が響いた。

 

轟音と共にカールのザクの腰部アーマーが砕け散った。火花と装甲片が飛び、彼の機体がよろめいた。

 

『ぐっ……! 損傷、軽微!……でも、下がった方が――』

 

「まだだ、踏みとどまれ!! ここで引いたら、全部が無駄になる!!」

 

その声に呼応するように、別方向からまた砲声が響く。

 

『少尉、右前方! もう一門、榴弾砲だ!』

 

次の瞬間、エリックの機体が砲撃に包まれた。衝撃とともに、右肩の装甲がもげ落ち、内部フレームが剥き出しになる。

 

『っく……肩が逝かれました!……まだ、いけます!』

 

「無理するな!スモークで時間を稼げ!!」

 

『了解……スモーク、展開!!』

 

エリックの脚部から白煙が吐き出され、再び周囲は煙に包まれた。しかし、風が吹き始めていた。

 

「風向きが……まずいな……」

 

視界を覆っていた白煙が、じわじわと引き剥がされていく。薄れゆく煙の隙間から、敵陣の火点が次々と浮かび上がる。

 

「来るぞ――!」

 

連邦軍の砲陣が、煙の向こうから咆哮を上げた。

 

連射。連続砲火。土砂と火柱がイオリたちの周囲を爆裂しながら覆い尽くす。直撃を避けるだけでも精一杯だった。

 

『少尉!もうスモーク弾、残ってません!』

 

「……くそっ!」

 

イオリは唇を噛んだ。空気が焦げた匂いで満たされ、熱風が機体を焼く。

 

「少佐たちはまだか!? ……!」

 

被弾しながらも踏みとどまるエリック。よろめきつつ再び構えを取るカール。3機のザクは、今や敵の砲火の「的」として晒されていた。

 

それでも彼らは動かない。

 

これは――仲間が基地に突入するための、命を懸けた囮。

 

そして今、まさにその“限界”が迫っていた。

 

ーーーーーー

 

スモークが徐々に晴れゆく中、連邦兵士の一人が双眼鏡を覗きながら不敵に笑った。

 

「へへっ!やっと姿が見えてきたぜ……あぁ?なんだよ、たった3機だけかよ?」

 

スモークの帳の向こうから現れたのは、損傷しつつもなお鋭い威圧感を放つ、3機のザク。だが、連邦兵たちはその異様な雰囲気に気づくことはなかった。ただ数の優位に酔いしれ、勝ち誇ったように笑いながら引き金を引き続けていた。

 

その間も、第3小隊のザクたちは絶え間なく動き続けていた。砲撃の的を絞らせぬよう、奔走しながら拡散するようにバズーカを放ち、基地の外縁をかすめるように猛進しては跳ねるように軌道を変える。

 

その挙動はもはや獲物を追う獣というより、獲物を誘う“囮”だった。

 

司令タワーの上階で双眼鏡を手にしていた基地司令官は、現在基地を攻撃しているザクを見ながら

 

「ふん、たった3機で何ができる」

と馬鹿にするように笑っていた。しかし、その異様なザクの動きを見て眉をひそめた。銃火の彼方、わずかに映った一機のザク。その肩には、鋭く描かれた“狼”の意匠があった。

 

「……“狼”……?」

 

司令官の脳裏を過る一つの記憶。寒気すら覚えるほど強烈な敗北の記憶――あれは、ルウム宙域での大敗の折。連邦の戦列艦が、群れをなして襲いかかるモビルスーツ部隊に包囲され、次々に沈められていった――あの悪夢のような数分間。そこにいたのが、まさに“狼”の意匠の部隊だった。

 

「……まさか……」

 

双眼鏡をゆっくりと下ろし、司令官は冷や汗を浮かべながら怒鳴った。

 

「すぐに基地周辺の監視を強化しろ!攻撃はあの3機だけじゃない!」

 

だがその命令に反応した若い士官は、どこか他人事のように笑った。

 

「どうしたんです?中佐。ザクはあの3機だけですよ。奇襲に失敗して足止めを食ってるだけでしょう。狼がどうとか……笑い話ですよ」

 

「バカ者が!!」

 

怒声が、司令室の空気を裂いた。

 

「奴らは“狼部隊”だ!ルウムで何があったか知らんとは言わせんぞ!――いいか、あの3機は囮だ!本命は他にいる!どこかに潜んでいる!」

 

その言葉が終わるより早く、司令タワーの背後――基地内部から、立て続けに爆発音が轟いた。

 

「な、なんだと……!?」

 

部屋に詰めていた通信兵やオペレーターたちが次々に報告を上げていく。

 

「報告!!基地内部で爆発発生!ザク6機が出現!格納庫と弾薬庫に接触、火災が発生しています!」

 

「報告!!砲撃陣地にザクが背後から襲来!砲門が次々と破壊され、反撃不能!」

 

「さらに、山麓からジオン軍マゼラとモビルスーツの混成部隊が前進開始!こちらの防衛ラインが崩れつつあります!」

 

報告が重なるごとに、司令室の空気は焦燥と混乱に染まっていく。次々に火花を散らし、爆発する基地内の監視カメラ映像がモニターに映る。

 

「そんな馬鹿な……どうして気づかなかった……!?一体、いつの間に……!」

 

グラントの目の色が変わる。今度こそ声を振り絞った。

 

「戦車部隊を!戦闘機隊もだ!基地の兵力、すべてを投入しろ!全軍前進!!連中をここで叩き潰せ!!」

 

だがその叫びも、既に遅きに失していた。

 

「司令官!前を!!」

 

部下の叫びに顔を上げると、視界の端に影が走る。そして、窓の向こう――司令タワーのすぐ外に、巨躯が姿を現した。

 

黄土色と紫に塗られたザク。その肩には、鋭い“狼”のエンブレムが輝いている。眼光のようなモノアイが、冷たく司令室を見据えバズーカを構える。

 

凛とした女の声が響く。

 

『うちの者が……少し、世話になったようだねぇ。――お返し、させてもらうよ』

 

それは、第2小隊長――シーマの声だった。

 

次の瞬間、バズーカが放たれ、司令タワーは爆発する。

 

タワーが揺れ、爆風が走る。その隣、影のように現れた漆黒のザクが叫ぶ。

 

『―待たせたな!第3小隊!!』

 

クラウスのザクだった。続けて、シーマのザクが素早く切り込む。正面に迫っていた戦車隊が、手も足も出ず次々と破壊されていく。

 

その瞬間、第3小隊のザクたちがスモークから飛び出すようにして突撃する。イオリの声が、マイク越しに響いた。

 

「遅かったじゃないですか、どこで道草を?」

 

クラウスが不敵に笑いながら返す。

 

『言うじゃねぇか。これでも急いだんだぞ?』

 

シーマの声音は、冷えた鋼のように鋭く、しかし確かに微かな温もりがあった。

 

『頑張ったね、イオリ』

 

彼女のザクのモノアイが、まっすぐイオリの機体に向けられる。

 

スモークの中から、獲物を追う狼たちが次々と姿を現す。もはや“奇襲”ではない。“狩り”が始まったのだ。

 

――地上での“シーウルフ”の牙が、今、連邦基地に突き刺さる。

 

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