転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第53話 告白

――翌朝。

冷たい鉄と油の匂いが充満する、基地内の格納庫に――雷鳴のような怒声が轟いた。

 

「なんじゃこりゃぁあああああああああああッ!!?」

 

低く太い、腹の底から響くその声。

クルト・ヘルツァー――シーウルフ隊の整備長であり、彼の鋭い声が鋼鉄の壁に反響して、整備士たちの作業音が一瞬で止んだ。

 

母艦ヘルヴォルは、前日の戦闘でシーウルフ隊が制圧したこの敵基地に、滑走路の瓦礫を撤去した後に堂々と着陸したばかりだった。

本来は降下支援のための暫定基地に過ぎなかったが、今やそこは新たな拠点となり、整備部隊もヘルヴォルから続々と地上へ降り、運び込まれた資材と共に整備作業に着手し始めていた。

 

そんな中――クルトの眼前に並んだ3機のザクは、まさに戦場を駆け抜けたその傷跡を生々しく残していた。

 

イオリの機体は全身に被弾痕が広がり、装甲の何箇所かは完全に剥がれ落ち、内部フレームが剥き出しになっている。

エリックのザクは左肩部が損壊し、動力パイプは千切れていた。

そして、最も深刻なのは――カール機。

右側面に大破を喰らい、ランドセルごと吹き飛ばされたその姿は、機体というより、ただの金属の残骸に近かった。

 

「おいおいおいおい……」

 

クルトは額に手を当てて天を仰いだ。

その背後では、整備士たちが次々と集まり、悲鳴にも似た溜め息や、言葉にならない呻きが飛び交う。

 

「これ…全部、今回戦闘でやったのか…?」

「損傷率、七割超えてんぞ……」

「フレームが生きてるのが奇跡だ…」

 

整備士たちの顔には、驚愕と、そして安堵が浮かんでいた。

そう――乗っていた者たちが無事である、それが何よりの奇跡だったのだ。

 

イオリは一歩前に出て、ぴしりと直立し、頭を深々と下げた。

 

「整備長……申し訳ありません。機体を、酷使しすぎました」

 

その背後には、エリックとカール。2人とも同様に頭を垂れる。

だが、その瞬間――

 

こつん、と軽く、それでいて温かみを持った拳がイオリの頭に落ちた。

 

「ふん……何を謝ってんだ、お前らが無事だったんなら、こいつらは本望よ」

 

クルトはそう言って、乱暴な口調とは裏腹に、どこか優しい目をしていた。

 

「こいつらもな、お前らを戦場から帰してくれたんだ。胸張っとけ。……まあ、こっから先は俺らの仕事だ。ピッカピカにして返してやる。だから、そん時ゃちゃんと迎えてやれよ」

 

「……ただし」

クルトはぐっと目を細め、にやりと口を歪める。

 

「次はもっと上手くやれ、坊主ども」

 

イオリは、苦笑しながら「はい、ありがとうございます」と応えた。

エリックも無言で一礼する。

 

だが――

 

「……しかしだ。カール!!てめぇは別だ!!前に出ろッ!!」

 

「ぴえっ!?」

 

叫ばれたカールが慌てて前に出るなり――

 

ごつん!!!

 

本気の拳骨が、カールの頭に炸裂した。

 

「このポンコツ野郎がァ!!お前のザクはな、操縦が雑すぎんだよ!モーションセンサーのズレに、動力伝達の異常、モーターの焼き付き、全部お前の雑な操作のせいだ!」

 

「うぅぅ……申し訳ないっすぅ……!」

頭を押さえ、涙ぐむカール。

まるで、いたずらを叱られた子供のようなその姿に、クルトの怒鳴り声もどこか父親じみていた。

 

イオリはそのやり取りを見て、ふっと笑い、大きく息を吐いた。

 

――やっと、戦闘が終わった。

胸の奥に、じわりとその実感が湧いてくる。

生きて帰ってこられた。整備士たちがいて、自分たちの帰る場所が、ここにある。

 

イオリは格納庫内を見渡した。

 

各所で整備士たちが動き出していた。溶接音、クレーンの稼働音、パイロットたちの点検の声が飛び交い、戦場の静寂とは対照的に、この格納庫には熱と活気が溢れていた。

 

その時、ふと、視線を感じて顔を上げる。

 

高所の整備デッキ。

そこに――シーマが立っていた。

 

鋭く、鋼のように冷えた視線。

だがどこか、憂いを帯びたその目が、まっすぐイオリを見ていた。

 

その一瞬の交差――だが、彼女は何も言わず、すっと目を逸らし、そのまま背を向けて去っていった。

 

――まるで配属間もないあの頃。

格納庫の上から、自分を見下ろしていた、あの時の光景と重なって見えた。

 

なぜか、イオリの足は自然と動き出していた。

 

追わなければならない。

言葉にはならない何かが、彼の背を、静かに押していた。

 

ーーーーーー

 

格納庫の床を、ブーツの音が打ち鳴らす。

無骨な金属の匂いと、焦げたオイルの残り香が、戦闘の余韻を物語っていた。

 

その中を、イオリは速足で歩いていた。

誰かに呼び止められることも厭わず、ただひたすらに――シーマの背を追って。

 

彼女の姿を捉えたわけではない。ただ、彼女がこの道を通ったと、そう確信していた。

心が、そう言っていた。理由なんて必要ない。今はただ、追いかけるしかなかった。

 

歩くたびに、胸の奥に熱がこみあげてきた。

焦燥ではない。怒りでも、恐怖でもない。

それは、抑えきれない想い――自分でもうすうす気づいていた、けれどずっと認めずにいたものだった。

 

(……なんで、俺は、あんなにも……あの人に……)

 

心の中で言葉が零れた。

息が切れているのか、それとも心がざわめいているのか、自分でもわからない。

 

最初は、ただの上司だった。

訓練で叩き上げられた、厳しくて、冷たくて、容赦のない――シーマ中尉。

 

でも、いつの間にか、その認識は少しずつ、確かに、変わっていた。

 

喫煙所。

2人でだけの訓練の後、彼女をデブリ衝突から救った日。

あの時、彼女が無言で差し出したタバコを、俺は断れずに受け取った。

吸った瞬間に、むせ返って、咳き込んで――

そのとき、珍しくシーマ中尉が笑った。

力の抜けた、優しい笑みだった。

その笑顔を見て、胸が痛くなった。理由なんて、考えなかった。

 

そして、コロニー落としの時――

俺には、市民全員を助けることはできないと忠告していたのに、最後まで避難誘導していた彼女。

地球に向け落下していくコロニーを見ながら、誰にも見せまいとするように歯を食いしばり、声も出せずに立ち尽くしていた彼女の背中を、俺の胸の中で静かに泣いていた姿を俺は黙って見ていた。

 

シーマ中尉は、強い人だ。気丈で、誰にも心を見せない。

けれど――俺は知っている。

その強さの裏には、深い痛みと、優しさがあるということを。

誰よりも、人の命に対して繊細で、誰よりも、自分に厳しい人だということを。

 

酒場で、彼女の過去を、聞いた。

その晩の彼女の瞳が、どこか空虚で、何かにすがるようで――

「自分自身を傷つける人間の目だ」と、何故か直感でわかった。

 

気づいた時には、放っておけないと思っていた。

それが、何故なのかも、わからないままに。

ただ、自分の中に何かが芽生えていたのは確かだった。

 

それ以来、どんなときも、俺の視線は彼女を追っていた。

無意識に、気づけば視界の中に彼女を探している。

その理由を、当時はただ「憧れ」だと、そう思っていた。

 

2度目の酒場。

あの夜は酔いがまわって、記憶は曖昧だ。

でも、たしかに、楽しかったという感情だけは残っている。

気がついたら、彼女の寝顔を見つめていた。

整った横顔、静かな寝息、戦場では決して見せない無防備な顔。

 

「この顔を、俺だけが見ていたい」と思った。

そんな自分に驚いた。

それは、ただの憧れでは説明できなかった。

 

決定的だったのは、教導機動大隊での訓練指導のとき。

若い男の訓練生に囲まれ、困ったように笑っていたシーマ中尉。

その顔を見て、胸がざわついた。

無性に腹が立った。

「あいつらは、シーマ中尉を何も知らないくせに」――

そう、思っていた。

 

後になって、それが“嫉妬”だったと気づいた。

愕然とした。

俺は、彼女のことを――そんなふうに思っていたのかと。

 

焦りと苛立ちに駆られ、彼女にぶつけてしまった言葉。

「男の訓練生に囲まれて、うれしかったんでしょ」

 

最低だった。

シーマ中尉の顔が、いまでも脳裏に焼きついて離れない。

悲しみと、失望と、裏切られたような、痛々しい顔。

 

それ以来、彼女は俺から距離を取った。

無理もない。

それでも、俺はどうしたらいいのかわからなかった。

ただ、悔いて、立ち止まっていた。

 

だからこそ――

 

戦闘の前、あの人が俺に声をかけてくれた時、

胸が熱くなった。

やっと、話せた。

やっと、また少しだけ、彼女と向き合えた。

 

だけど、それでも……俺の心はまだ満たされていない。

 

「……この関係じゃ、ダメなんだ」

 

戦争だ。明日、命を落とすかもしれない。

伝えなければ、永遠に届かない。

言わなければ、すべてが終わる。

 

『後悔するんじゃねぇぞ』

 

クラウス少佐から言われた言葉が胸の中で響く。

 

「俺は、後悔したくないんだ――」

 

失う前に、想いを伝えたい。

この気持ちを、言葉にしたい。

 

たとえ、拒まれてもいい。

嫌われてもいい。

だけど、黙ったままで、何も残さずに死ぬのだけは、御免だ。

 

だから――

 

イオリは、強く地を蹴る。

胸の内の想いを燃やしながら、

彼女の背を、まっすぐに追い続けていた。

 

ーーーーーー

 

格納庫の上階。その片隅にある古びた一室には、かつて書類や備品を保管していたであろう棚の跡だけが残っていた。

今はもう、その目的を果たす必要はなくなったのだろう。中にはベンチが数台と、灰皿がぽつんと置かれているだけ。

壁にはわずかに剥がれかけた塗装、床には長年の埃と油染みの痕跡。そして、窓から差し込む斜陽がそのすべてを静かに照らしていた。

 

その光の中に、シーマはひとり座っていた。

軍服の袖をまくり、煙草を指に挟んだまま、静かに紫煙を吐き出す。

細く立ち上る煙が、誰もいない空間に溶けていく。

表情には影があったが、どこか諦めにも似た安堵も宿している。

 

そして、それを破るように、部屋の扉が軋む音を立てて開いた。

 

「……シーマ中尉、ここにいたんですね。この場所はなんですか?」

 

声の主はイオリだった。彼は何故が少し息があがっているように見えた。

その姿を見た瞬間、シーマは心の奥で小さく息を呑んだが、表には出さず、一瞥するだけに留めた。

 

「誰かが勝手に喫煙所に仕立て上げたらしいよ」

乾いた声でそう答える。

 

イオリは微かに笑った。「なんだか、落ち着きますね。静かで」

 

言葉は穏やかだったが、その瞳にはどこか切実さが滲んでいた。

シーマはその横顔に視線をやり、光に照らされるその輪郭に、一瞬だけ心を奪われる。

だがすぐに目を逸らし、煙草に視線を戻した。

 

「……そうかい。私はこの静けさ、どうにも落ち着かないけどね」

 

イオリは黙ってシーマの正面に立ち、懐から煙草を取り出す。

火をつけ、一息。煙をくゆらせながら、しばしの沈黙が2人を包む。

いつ以来の2人だけの空間だろうか、シーマは1人考え落ち着かない。

その沈黙の中で、彼の瞳は迷いのないまっすぐな色に変わっていった。

 

「シーマ中尉。出撃前に言ってたことですけど――」

 

その言葉を遮るように、シーマは早口で言った。

 

「わかってるよ。あの、教導機動大隊での話だろ?」

 

煙を吐き出すフリをして、視線を逸らす。

 

「もう、なんとも思ってない。あたしも、あんなふうにアンタを避けて……いい歳して恥ずかしいね。……謝るよ」

 

口ではそう言いながらも、胸の奥では別の言葉が渦巻いていた。

(違う……本当は、あの言葉、まだ……引きずってる)

「嬉しかったんでしょ」と言われたその一言が、なぜあれほど胸を抉ったのか。

自分でも分からなかった。

信用していた男に言われたからだろうか、それとも、もっと別の何かなのか

ただ、妙に苦しくて、どうしようもなかった。

 

イオリは首を横に振った。

 

「……シーマ中尉は悪くありませんよ。でも俺は、俺のことを見ようとしない中尉に、腹が立ったんです」

 

その言葉に、シーマは目を見開く。「……え?」

 

イオリの声は、もう止まらなかった。

 

「あの時……中尉は、俺のことなんて見ていなかった。俺はただ、話したかっただけなんです。あの時の中尉と。男の訓練生に囲まれて、ちょっと困ってるような顔……見たことない顔をしていて、どうしても、あの中尉に話しかけたかった」

 

シーマは息を呑んだ。心臓の音がやけにうるさく響く。

イオリの言葉の一つ一つが、心に直接ぶつかってくる。

 

「……正直に言います。俺、あいつらに嫉妬してたんです。中尉に近づいてるのが、なんか、許せなかった。あの時は気づかなかったけど……今なら分かります。俺は、中尉を誰かに取られそうで、焦ってたんです」

 

「避けられてた時間……俺にとっては、地獄でした」

 

その笑みは、どこか痛みを隠すような微笑みだった。

シーマはもう、言葉を失っていた。ただ口を開けたまま、呆然とイオリを見つめていた。

 

「昨日、部下を失いかけて思いました。俺たちは、いつ命を落とすか分からない。だから……後悔しないように生きなきゃって」

 

その言葉に、シーマの鼓動がさらに加速する。

(だめだ、これ以上聞いちゃいけない。聞けば……後戻りができなくなる)

 

心のどこかが、警告を発していた。だが、体が動かない。

声も出ない。

 

「シーマ中尉、俺はあなたと――」イオリが続けようとしたその瞬間。

 

「待ちなって!」

 

シーマが叫んだ。

そして、立ち上がり彼の胸板を顔を伏せながら両手で強く押した。

頼むからそれ以上言わないでくれと懇願するように。

 

「……それ以上言ったら、ほんとに、もう……戻れなくなるんだよ……!」

 

だがその手を、イオリは静かに、しかし力強く掴んだ。

シーマが顔を上げると、そこには真っ直ぐに彼女を見つめるイオリの瞳があった。

シーマは息を呑み、小さく「あ……」と漏らした。

 

「……中尉。すぐに答えをもらおうとは思ってません。でも、考えて欲しいんです」

 

「俺と、上司と部下の関係以上の存在になってくれませんか?」

 

長い沈黙が流れた。

まるで世界が静止したような時間。窓から差し込む光が、ゆっくりと二人の間に影を落とす。

 

シーマは俯き、口を開いた。

その声は、今にも掠れそうなほどか細かった。

 

「いきなり言われても、困るんだよ……」

 

「私は、今までずっと……兵士として生きてきた。誰かの女になるなんて、考えたこともなかったんだ。まして、部下となんて……簡単に、答えなんて出せないよ……」

 

イオリは何か言おうとしたが、シーマが手を上げて制した。

 

「今は……黙って聞いておくれよ。少し、時間をくれるかい?私だって、気持ちの整理が必要なんだ。……それくらいの余裕はあるだろ?」

 

その顔には、複雑な感情が交差していた。

困惑と、怒りと、そして微かな喜び。

シーマは、静かに笑った。それは滅多に見せない、優しい笑みだった。

 

「必ず、答えを出すから」

 

イオリはゆっくりと頷いた。「……いつまでも、待ってます」

 

部屋には、静寂が戻った。

ただ二人の吐き出した煙だけが、夕陽の光に照らされてゆっくりと舞い、やがて、消えていった。




うぇい!
とうとう告白しちゃったよ!おい!
さぁどうする?笑

もし主人公が次に乗るなら

  • グフカスタム
  • ドム
  • イフリート
  • ザクのまま
  • 旧ザク笑
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