転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
午後の日差しが穏やかに差し込む静かな一室。
窓越しの光が二人の姿をやわらかく照らしていた。
イオリとシーマは、しばらくのあいだ、互いに何も言葉を発さずにいた。
息づかいさえも抑え込むように――ただただ、見つめ合っていた。
やがて、シーマがそっと目線を逸らす。
それはどこか、自分の感情が読まれることを避けるような動きだった。
そして、小さく笑う。
「……そろそろ、戻った方がいいんじゃないかい? 遅くなったら、グスタフたちにまた、勘繰られるよ」
その笑みに、からかいの色はなかった。むしろ優しさがにじんでいた。
イオリはその言葉に、ようやく現実に引き戻されるようにハッと目を見開く。
先ほど、己の口から飛び出した「告白」の言葉が脳裏をよぎる。
あの瞬間、自分がどれだけ真剣だったか。どれだけ彼女のことを思っていたか――今さらのように恥ずかしさがこみ上げてくる。
顔が赤くなるのを自覚しながら、それでもイオリはまっすぐにシーマの目を見据えた。
「そ、そうですよね。……俺は戻ります。
中尉も……早く戻ってきてくださいね。……待ってます」
その声には、もう“遠慮”という感情はなかった。
伝えてしまったからには、もう隠す必要はない。そう思ったのだろう。
堂々としたその眼差しに、シーマはかすかに目を細める。
イオリは一礼し、静かに扉へ向かった。
その背中を――シーマは何も言わず、最後の瞬間まで目で追い続けていた。
扉が閉まる。
室内に静寂が戻る。
彼女は大きく、深いため息をついた。
ベンチに身を沈めるように腰を下ろし、天井を見上げる。
「……私は、どうしたらいいんだろうね……」
その呟きは、誰にも届かない。
兵士として、女として、シーマ・ガラハウという一人の人間の中で、答えのない問いが静かに渦巻いていた。
ーーーーーー
イオリは格納庫へ戻る途中、足音を響かせながら階段を降りていた。
その中腹に、佇む影があった。
クラウス・シュレンケ
壁にもたれたまま、彼はイオリの姿を見るや否や、ニヤリと笑う。
「……ふ、後悔はねぇか?」
まるで、何があったのかすべてを見通していたかのような声音だった。
イオリは一瞬驚いたように立ち止まり、しかしすぐに顔を引き締めた。
「……はい」
強い意志を込めた一言だけを、静かに返す。
クラウスは満足げに頷くと、何も言わずに階段を降り、下へと姿を消していった。
背中越しに言葉をかける必要など、もはやなかった。
ーーーーーー
翌朝――制圧されたばかりの基地の滑走路に、一機の輸送機が降り立った。
整列した兵士たちの視線が集まる中、機体のハッチが開く。
陽光を背に、一人の男がゆっくりと姿を現した。
黒色の短髪を無造作にし、軍服を着崩したその男は、口元に不敵な笑みを浮かべながら地上へと降り立った。
そのまま基地の司令室へと向かう。
そこには、ゲルハルト大佐とシーウルフ隊の面々が整列して待っていた。
重く閉ざされた扉が開くと、男が悠然と入室する。
「敬礼!」
ゲルハルトの鋭い号令に、一糸乱れぬ敬礼が部屋を包む。
男はしばし彼らを見渡すと、ゆっくりと答礼し、笑みを浮かべた。
「諸君、出迎え感謝する」
そして、ソファの前に腰を下ろす。
その雰囲気は、階級章に縛られぬ余裕と、戦場をくぐってきた者だけが持つ威圧感を併せ持っていた。
欧州方面制圧軍指揮官――ユーリ・ケラーネ少将。
ゲルハルトは一歩進み出て、頭を下げた。
「ケラーネ少将、わざわざ出向いていただき、感謝いたします」
「構わんよ。難攻不落とまで言われたこの基地を落とした“狼”たちに、興味があったのでね。
直接この目で見てみたかったのさ」
豪放な口ぶりながら、目は鋭く、周囲を見渡していた。
「で? そこにいるのが、例のシーウルフ隊か?」
クラウスが一歩前へ。
「は。我々、特殊海兵隊シーウルフ隊。自分は隊長を務めるクラウス・シュレンケ少佐。後方に控えるのが各小隊の小隊長であります」
「ほう……聞いていたよりも若い顔ぶれだな。だが……」
視線を巡らせたケラーネの目が、イオリに留まる。
「この中に、囮役を買って出て攻撃の成功を導いた者がいると聞いた。……それは誰だ?」
クラウスは口元にかすかな笑みを浮かべた。
「……は。その者は、第3小隊長・イオリ・クローネ少尉です。自ら囮役を志願し、敵の目を引きつけることで、我が隊の突入を成功させました」
「なるほどな――」
ケラーネは立ち上がると、ゆっくりとイオリの前へと歩み寄った。
「イオリ・クローネ少尉、ここへ」
「は!」
イオリが前に出ると、ケラーネはその目をじっと見つめた。
そして、何かに納得したように小さく頷く。
「いい目をしている。……なるほど、“狼達”の牙がいかに鋭いのかを理解したかもしれんな」
そして振り返り、クラウスに告げる。
「シュレンケ少佐。今後、必要な装備や物資があれば、私に直接連絡を入れろ。
シーウルフ隊には相応の補給と整備を約束しよう」
その言葉に、ゲルハルトとクラウスが声を揃えて答える。
「は!」
ケラーネは一歩引き、シーウルフ隊全体を見渡して言う。
「これから貴様らは、この基地を拠点とする。だが任務は、場所を選ばない。海でも山でも、都市でも荒野でも――必要とされる地に“牙”を突き立ててもらう」
その声は、命令であると同時に、信頼の証でもあった。
「まずは休息と修復だ。それが終われば、忙しくなるぞ。……心しておけ」
そう言い残し、ユーリ・ケラーネ少将は背を向けて部屋を去っていった。
ーーーーーー
扉が閉まり、静けさが戻る。
ゲルハルトは腕を組み、ぽつりと呟いた。
「……評判とはずいぶん違う御仁のようだな。
もっとこう、冷徹な机上の将と思っていたが」
クラウスが微笑を浮かべて応じる。
「現場の人間には甘いらしいですよ。……それに、我々の力を“使える”と見込んだんでしょう。
特に、イオリ少尉のことは気に入ったようでしたな」
「ふ……そうかもしれんな」
ゲルハルトは頷くと、部隊へ視線を向ける。
「まずは、機体の修理と補給を最優先だ。整備班と連携しろ」
「了解です」
短くも力強い返答が、司令室に響いた。
その声の底には、確かな誇りと、新たな覚悟が宿っていた。
――シーウルフ隊は、もう“ただの部隊”ではなかった。
ーーーーーー
制圧した基地の食堂は、夜になってもなお活気に満ちていた。
折り重なる兵士たちの歓声と、皿を叩く音、グラスの触れ合う音。
それらが、ただただ「勝利」の余韻を、ひたすらに盛り上げていた。
奥の一角――そこでも、ひときわ賑やかな輪ができていた。
「おいおい!将軍様直々に誉められてるじゃねーかよ、イオリ!」
と、グスタフ・ヴァールが豪快に笑いながら、イオリの背中をバシンと叩いた。
「いや、囮を成功させるまでは良かったんだがなー」
隣でエーリッヒ・ヴォルツが、何かを含むような悪戯っぽい笑みを浮かべ、グラスを傾ける。
その横から、さらにハンス・グリューネルが口を挟んだ。
「そうだぜ? あの後、みんなに『たすけぇー』って情けねぇ声で泣きついてたんだよなー?」
と、思い出し笑いを堪えきれないといった様子で言った。
イオリは苦笑しながら、手を軽く上げて応じた。
「……あの時は助かりましたよ。ほんと、何度お礼を言えばいいのか……」
心からの言葉だったが、グスタフたちは容赦ない。
「俺が助けてやったの、忘れるなよなー?」とハンスが胸を張れば、
「バカ言え、俺もいたろうが!」とエーリッヒが即座に突っ込む。
そのやり取りに、また輪がどっと笑いに包まれる。
イオリも、肩をすくめて笑った。
戦場で命を預け合ったこの部隊の男たちと笑い合える――そんな何気ない時間が、妙に胸に沁みた。
そんな中、グスタフが飯をかき込みながらふと呟いた。
「それにしてもよ、あのケラーネ少将、随分と俺たちのことを買ってるような態度だったよな? 特にお前のこと、イオリ」
その言葉に、エーリッヒとハンスも頷いた。
確かに、ケラーネ少将のあの人懐っこいような笑みと目の鋭さ――そして、イオリに向けた言葉には、只ならぬ興味と期待が滲んでいた。
「最愛の弟子が将軍様に気に入られたんだ、お師匠様も嬉しいだろうなぁ、なぁシーマ中尉?」
と、ハンスが、わざとらしい口調でシーマに話を振る。
シーマはスプーンを持つ手を一瞬止め、ぱちくりと瞬きした。
「え? あ、あぁ、そうだね……」
と、ぎこちなく答え、わずかに頬を紅潮させた。
その微妙な反応に、イオリもどぎまぎしてしまい、
「あ、ありがとうございます……」
と、なんとも気まずい空気をまといながら頭を下げた。
グスタフ、エーリッヒ、ハンス――
ベテラン三人は、まるで獲物を見つけたかのように顔を見合わせ、ニヤリと笑みを交わした。
「イオリクゥーン? なにがあったのかなぁ?」
「おじさん達に言ってないことがあるんじゃないのかなぁ~?」
と、意地悪くにじり寄る。
その包囲網に気づいたのか、シーマは急に立ち上がり、
「ごちそうさま。私は、もう行くよ」
と、そそくさと席を立った。
イオリは慌ててその背中を追おうとしたが――
「まぁまぁ、いいじゃねえか、ちょっと付き合えよ!」
「ほら、座れって、なぁ?」
と、グスタフとエーリッヒとハンスに、がっちりと捕まえられてしまう。
「ま、待ってください! 中尉、中尉ーー!!」
イオリの叫び声が、夜の食堂に虚しく響き、また一つ、笑い声の渦が広がるのだった――。
ーーーーーー
食堂の喧騒を背に、シーマは一人、暗く静まり返った廊下を歩いていた。
無機質な蛍光灯の光が、コツコツと鳴るブーツの音に合わせて影を伸ばす。
それはまるで、彼女の心の中に巣食う、答えの出ない思考の迷路そのもののようだった。
どこか落ち着かない――胸の奥でざわつく感情。
抑えようとしても、消そうとしても、ふと気を抜けば脳裏に浮かび上がる顔。
……イオリ。
あの時、休憩所の静かな空気の中で、彼が発した言葉。
あの真っ直ぐすぎる告白。
「……ばかだね……」
思わず唇から漏れた小さな声は、虚しく廊下に消えていった。
忘れようとするたび、却って鮮明に蘇る。
だからこそ、いまも気づけば、イオリを目で追ってしまう自分がいる。
その事実が、何よりも厄介だった。
無意識に手を握りしめる。
震えはない。だが、胸の中で渦巻くものは収まる気配がなかった。
ーーあの時、告白を受けた瞬間、最初に抱いた感情は「怒り」だった。
何をしているのかと。
今まで積み上げてきたもの――心地よい、上司と部下としての微妙な均衡が、あの言葉一つで脆くも崩れ去った。
もう戻れない。
たとえ何事もなかったように振る舞おうとしても、心のどこかで、それは無理だと知っていた。
次に湧き上がったのは、「困惑」。
彼女は兵士だった。
この身を戦場に捧げ、男たちと肩を並べ、戦い続けることで生きてきた。
成り行きで誰かと体を重ねたことがなかったわけではない。
だが、それはあくまでも「兵士」としての延長線にあった関係。
「女」として、誰かを意識することなど、長い間、忘れていた。
……なのに、今度は違った。
イオリの目。
言葉。
その全てが、彼女の中の「女」という部分に、否応なく火を灯してしまった。
――そして、最後に感じたのは、どうしようもない「喜び」。
あの時、止めようとした。
口を開きかけた。
「やめな」と、突き放そうとした。
けれど、イオリは止まらなかった。
むしろ、その眼差しは揺るぎなく、決意に満ちていた。
その強さに。
真っ直ぐさに。
……心が、女としての本能が、応えそうになった。
「……ほんとにバカ……」
シーマは、苦笑とも、嘆息ともつかない声を漏らした。
やがて、与えられた自室の前に辿り着く。
キーをかざして、ドアを開けると、薄暗い照明が静かに彼女を迎えた。
無意識のまま、ブーツを脱ぎ捨て、ベッドへと歩み寄る。
そして、そのまま、体を投げ出すように倒れ込んだ。
軋むマットレスの音。
鼻腔をくすぐる、無機質なリネンの匂い。
シーマは天井を仰ぎ見た。
そこに何の意味もないことは分かっていたが、それでも何か答えがあるかのように、じっと見つめた。
「……答えを出さないといけないのは、わかってるんだけどね……」
ぽつりと漏らした言葉は、誰にも届かず、静かに消えた。
答えを出さなければいけない。
イオリにも、自分自身にも。
けれど――
女として、兵士として、そして何よりも「シーマ」として――
どうすればいいのか。
その答えだけは、未だ見えずにいた。
ベッドの上、身じろぎもせずに、シーマはただ静かに目を閉じた。
胸の奥で疼く何かを、どうにもできずに。
夜は、静かに、無慈悲に、流れていった。
誤字報告ありがとうございますー!
モビルスーツのアンケートですがなかなかせってますねー
とゆかイフリートってめちゃくちゃ製造機数少なくないっすか?笑
その内の一機を特殊部隊の一小隊長にあてがうのって無理ありますかね?
グフカスの方が現実味ある感じがしますね笑
もし主人公が次に乗るなら
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グフカスタム
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ドム
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イフリート
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ザクのまま
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旧ザク笑