転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第55話 ハンター

格納庫の巨大な扉が、鈍い音を立てて開いた。

 

イオリは、エリック、カールを従え、その暗く広大な空間へと歩みを進めた。

夜間点検用の白い作業灯がいくつも吊られ、金属の匂いと機械油の香りが微かに鼻をつく。

 

そこには、戦場の修羅場をくぐり抜けてきたモビルスーツたちが、静かに佇んでいた。

 

イオリは歩みを緩めず、整備用の簡易デスクで書類を広げている一人の男に声をかけた。

 

「整備長、ザクが直ったと聞きました」

 

クルト・ヘルツァー。

酒の匂いを漂わせながらも、その目だけは鋭く、無骨な整備服の上からでも漂う職人気質は隠しようがない。

 

彼は手にしていたグラスを机に置くと、くるりと振り返った。

 

「おうとも!こっちだ、ついてきな!」

 

低く太い声が格納庫に響き、クルトは豪快に肩を揺らして歩き出す。

 

その背を追いながら、カールがぽつりと疑問を漏らした。

 

「それにしても早かったっすね……俺のザクなんて、ほぼ廃棄寸前だったのに」

 

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、クルトがピタリと足を止め、振り向きざまに怒鳴った。

 

「馬鹿野郎!そもそも廃棄寸前にするのが間違いなんだ!」

 

カールは、ピクリと肩を震わせ、慌てて敬礼じみた仕草を取りながら叫んだ。

 

「も、申し訳ないっす!」

 

そのやり取りに、エリックは苦笑しながらも言葉を継いだ。

 

「でも、カールの言ってることも分かります。普通、ザクの修理ってこんなに早くできませんよ」

 

クルトは鼻を鳴らすと、煙草でも吸うかのように大きく息を吐いた。

 

「……その理由はな」

そう言って、歩を進めながら続ける。

 

「ケラーネ少将が視察に来た時に、ご丁寧にザクⅡM型の部品をたんまり持ってきやがった。だから大部分は取り替えるだけで済んだってわけだ」

 

イオリはその言葉に、小さく眉をひそめた。

(そこまでやってくれるのか……逆に怖くなってきたぞ)

 

ケラーネ少将――上層部の意図を思うと、背筋に冷たいものが走ったが、今は目の前の機体に集中すべきだった。

 

やがて、一際広い駐機エリアへとたどり着く。

 

そこには、無数の修理中の機体に混じって、見覚えのあるフォルムが立っていた。

埃と塗料の匂いが充満する中、カールとエリックは我先にと駆け寄っていく。

 

カールは自らのザクを見上げるなり、両手を広げて叫んだ。

 

「やっと戻ってきたー!!俺のザクーー!!」

 

まるで親友と再会した少年のような無邪気な叫び。

イオリはそれを微笑ましく眺めながら、ゆっくりと歩み寄った。

 

そして、目の前に立った。

 

彼の相棒――

全身をグレーに塗装され、まるで戦場の亡霊のように沈黙を保つ機体。

 

イオリは一歩、近づき、

無骨な機体の脚部に、そっと手を置いた。

 

「……久しぶりだな、相棒」

 

その声は誰に向けたものでもない。

ただ、ここまで共に生き延びてきた、この機体に向けた、心からの言葉だった。

 

だが、じっと見れば、見慣れたシルエットに微かな違和感を覚える。

 

――各部に、明らかに装甲の増加が施されている。

 

その変化に気づいた瞬間、背後からクルトの声が飛んできた。

 

「お前さんのザクにはな、ちょっと手を加えたぜ!」

 

イオリが振り返ると、クルトは誇らしげに腕を組み、満足そうに鼻を鳴らしていた。

 

「各部装甲の増加だ。取り替えた部品の中から、特に頑丈なパーツを選んでな、要所要所に貼り付けてある。坊主は無理するからな、その保険だ」

 

一息置いて、クルトは真顔になる。

 

「だがな……当然、重量も増した。軽快な動きは、坊主の腕前でカバーしてもらうしかねぇ」

 

そして、ニヤリと笑って言った。

 

「名付けるなら――ザクⅡM重装型だな」

 

イオリは目を細め、改めて目の前の機体を見上げた。

これまで以上に逞しく、無骨で、そして頼もしい影。

 

まるで、戦場を生き延びるための牙を一層研ぎ澄ませた獣のようだった。

 

「……ザクⅡマリーン、重装型……」

 

その名を、呟くように口にする。

 

イオリはクルトを振り返った。

そして、心からの笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます、クルト整備長。使いこなしてみせますよ」

 

クルトは、照れくさそうに頭をかきながらも、すぐに真剣な顔に戻った。

 

「おう……だが油断するなよ。重装甲とは言え、何発も食らったら、こいつだって根を上げる」

 

イオリは深く、力強く頷いた。

 

「はい」

 

その一言に、すべての覚悟を込めて。

 

格納庫の片隅、静かに、しかし確かに、新たな戦いへの誓いが交わされた。

 

ーーーーーー

 

イオリたち第3小隊のザクが、クルト整備長率いる整備班の執念によって、奇跡的に修復を遂げた。

溶接痕の残る装甲。新たに打ち直されたパーツ。血の滲むような作業の末に、再び戦場へ舞い戻る力を得たのだ。

 

そして、ザンジバル級機動巡洋艦《ヘルヴォル》の艦橋に、出撃の鐘が鳴り響く。

 

シーウルフ隊の活動は、再び幕を開けた。

 

彼らの任務は、単なる増援ではない。

特殊海兵隊として、急速に悪化する各地の戦況に対応し、戦局そのものをひっくり返すこと。

それは、ある意味、最も過酷な任務だった。

 

だが、誰一人、怯まなかった。

 

クラウス・シュレンケ少佐を中心にまとまった精鋭たちは、戦場を縦横無尽に駆け、必要とされる戦線へ、次々に投入されていく。

 

ある時は、劣勢にある最前線へ。

またある時は、連邦軍支配地への強行降下作戦に。

さらにまたある時は、味方部隊が壊滅しつつある防衛ラインを支えるため、地獄のような戦場へ。

 

いずれの地でも、シーウルフ隊はただの援軍ではなかった。

彼らは、「戦場の流れ」を変える存在だった。

 

ーーーーーー

 

北アフリカ戦線。

果てしない砂漠、燃えるような陽光の下、連邦軍の機甲部隊が怒涛の勢いで進撃してくる。

 

視界を覆う砂塵の中を、狼の意匠を施されたザクたちが進む。

その先頭を行く、重装甲を纏った灰色のザクⅡM型。

 

砂嵐に紛れ、砲撃が殺到する。

爆風が吹き荒れ、熱砂を巻き上げる中でも、そのザクは一歩も引かず前進する。

 

重装甲のザクは機体に弾丸が当たり、装甲が削れてもなお進む。

ただ一つの目が、静かに、獲物を見据えていた。

 

そして、敵指揮車両に肉薄した瞬間――

閃光のように振るわれたヒートホークが、鋼鉄を断ち割った。

 

爆音とともに指揮車両が沈黙する。

指揮系統を失った連邦軍機甲部隊は、秩序を失い、たちまち潰走していった。

 

撃破される直前、敵兵士たちが最後に見るもの。

それは、弾丸に穿たれてもなお進撃を続ける、機体に刻んだ狼のマークと、ひとつの赤い眼光だった。

 

その凄絶な姿に、連邦兵たちは震え上がり、いつしか恐怖に彩られた異名で呼ぶようになった。

 

「狼の悪魔(ヘルウルフ)」――と。

 

ーーーーーー

 

中央アジア高地。

険しい山岳地帯に築かれた前線基地が、連邦軍の猛攻に晒されていた。

 

無数の砲弾が雨のように降り注ぎ、夜空には爆発の閃光が走る。

しかし、そんな死地にあって、ひときわ異彩を放つ機影があった。

 

それは、黄土色に紫色を纏った、異様なザク。

そして、その機体は常軌を逸した機動を見せた。

 

ブースターを吹かし、流星のように山肌を滑る。

弾丸を掠め、ミサイルをかわし、まるで蜻蛉が水面を飛び跳ねるように、敵弾の間隙をすり抜ける。

 

誰も、その機体に触れることができなかった。

鮮やかな色彩、しなやかな動き。

そのザクを目撃した連邦兵たちは、震える声で呟くようになった。

 

「蜻蛉(かげろう)……あれは、蜻蛉だ……」

 

戦場でそのコールサインを耳にした時、連邦兵の心には凍り付くような絶望が広がった。

 

ーーーーーー

 

南米ジャングル地帯。

昼夜の区別もつかぬ、濃密な樹海の中。

 

満月が辛うじて地上を照らす中、闇の中を進む、異様な影があった。

 

それは、漆黒よりもなお黒い塗装を施されたザク。

黒ずんだフレームが、樹海を縫うように進み、敵地へと忍び寄る。

 

月光の反射さえ拒むような黒。

その存在感は、もはや生物ではなく、影そのものだった。

 

やがて、通信基地に閃光が走る。

一撃。たった一撃で、連邦軍の連絡網が寸断される。

 

爆発の中で混乱する敵兵たちが、その正体を見極めようとする間もなく――

黒い影たちは、すでに森の奥へと溶け込んでいた。

 

捕まえることも、追跡することもできない、死の影。

そうして、連邦兵たちの間に、また新たな恐怖の名前が生まれた。

 

「亡霊(ゴースト)」と。

 

**

 

それらの異名――「地獄の狼"ヘルウルフ"」「蜻蛉"カゲロウ"」「亡霊"ゴースト"」――

 

それは単なるあだ名ではなかった。

それは、シーウルフ隊がもたらす絶望の象徴だった。

 

戦場でそれらの名を耳にした時。

連邦兵たちは、心のどこかで悟った。

 

――ああ、ここも地獄になる。

 

と。 

 

地球連邦軍司令部は、もはや彼らを無視できなかった。

 

シーウルフ隊。

あまりに突出した存在。

あまりに苛烈な存在。

 

ついには、専用の迎撃部隊が編成される。

 

公式文書に刻まれる、新たなる命令。

 

「討伐対象:シーウルフ隊」

 

それは、連邦軍にとって、彼らが”正面から打倒すべき敵”に格上げされた証だった。

 

ーーーーーー

 

深く生い茂る南米の原生林。その奥深く、誰も寄せ付けぬ密林に、巨大な地下要塞が口を開けていた。

厚い岩盤を掘削し、幾重にも張り巡らされたトンネルと無数のハンガー。

その上層には重火器を搭載した防御陣地、地上部は巧妙に自然に溶け込み、人工物の存在を隠している。

ーージャブロー。

連邦軍が誇る絶対防衛圏にして、地球圏最大の軍事拠点。

ここは、地球連邦政府の心臓であり、あらゆる指令と計画が生み出される知性の巣であった。

 

その要塞内部、冷たい鋼鉄に囲まれた広大な兵器庫の一室。

厳重なセキュリティを潜り抜け、選び抜かれた士官たちが集められていた。

 

照明は落とされ、壁面には微かなモニターの光だけが揺れている。

ざわつく空気を切り裂くように、一人の男が前に進み出た。

 

「――よく集まってくれた。これだけの紳士が一堂に会するのは、壮観だな」

 

口角をわずかに上げ、そう告げる男。

20代後半と見える若い指揮官。短く刈り上げた金髪を後ろに撫でつけ、鋭い碧眼に光を宿している。

どこか無邪気で、だが同時に、鋼の意志を感じさせる目だった。

 

「俺の名はライリー・トレド。階級は中佐。……まぁ、言わなくても知ってると思うがな」

 

彼がそう続けると、集まった士官たちが、まるで古い悪友たちのように笑い声を上げる。

 

「知ってるよ、そりゃな!」

「有名人様だもんな!」

 

互いに肩を叩き合い、砕けた様子で笑い合う。

この場にいるのは、ただの士官ではない。

――すべて、連邦軍技術試験隊のエースパイロットたちだ。

モビルスーツという新兵器のため、選ばれ、鍛えられた戦う技術者たち。

誰もが一騎当千の実力者だった。

 

ライリー中佐はニヤリと笑い、無造作にモニターのスイッチを叩く。

スクリーンに現れたのは、戦場の断片を切り取った粗い写真群だった。

 

そこに映るは――

漆黒の機体。

紫と黄土色に彩られた奇抜な機体。

鈍色の砂にまみれた重厚な機体。

そして、左肩を黒く塗りつぶしたザク。

 

すべて、凄まじいスピードで捉えた一瞬。

爆炎にまみれ、銃撃に貫かれながらもなお、猛々しく、獲物に襲いかかる。

ある写真には、撮影者自身が破壊される寸前のものすらあった。

――死の瞬間を記録した、生々しい戦場の真実。

 

笑い声は止み、士官たちは無言でその映像に見入った。

沈黙が重く場を支配する。

 

ライリー中佐はゆっくりと語り出す。

 

「――ジオン軍特殊部隊。通称、狼部隊(シーウルフ隊)。

 こいつらは、戦域を問わず、出没しては我が連邦軍に壊滅的な被害をもたらしている」

 

彼は指を動かし、次々と映像を切り替えた。

連邦の拠点が燃え上がり、装甲車両が粉砕され、撃破される様子が映し出される。

 

「特にパーソナルカラーを施された3機……」

ライリーはモニターを指差した。

 

「――漆黒のザク。”亡霊(ゴースト)”

 ――色鮮やかなザク。”蜻蛉(カゲロウ)”

 ――灰色に染まったザク。”地獄の狼(ヘルウルフ)”

 こいつらが、連邦軍兵士の間に、恐怖と絶望を植え付けている」

 

ライリーは、唇の端を軽く吊り上げた。

 

「狼だとか亡霊だとか、随分と大層な名を頂いてるが――

 殺せない奴なんざいない」

 

その言葉に、士官たちの顔に戦闘者特有の冷たい笑みが広がる。

殺気とも呼べる熱が、兵器庫の空気を震わせた。

 

「上層部もようやく腰を上げた。俺たち技術試験隊にも、正式にモビルスーツが支給される。

 しかも、使い慣れた……俺たちが鍛え上げた機体だ」

 

そう。

それはすなわち、連邦軍がモビルスーツ開発に成功したことの、動かぬ証だった。

 

「さて――技術試験隊のままじゃ締まらねぇってことで、新しい部隊名を決めろってさ」

 

ライリーが肩を竦めると、仲間たちが思い思いに声を上げる。

 

「アルファ隊は?」

「いや、セイレーン隊だろ」

「男ばっかでセイレーンはねぇだろ!」

 

軽口が飛び交い、久々に笑い声が戻る。

だがその中に、これから待ち受ける死闘を予感する緊張が、確かに滲んでいた。

 

「なんか考えてないのか、隊長?」

 

一人の男が問いかけると、ライリーはわざとらしく腕を組み、考え込む素振りを見せた。

やがて――不敵な笑みを浮かべ、答える。

 

「――狼退治には、昔から決まってるだろ。"銀の弾丸(シルバーバレット)"ってな」

 

その言葉に、部屋中の士官たちが同時にニヤリと笑った。

ぞくりとするほど、殺気に満ちた笑顔だった。

 

「いいな、それ」

「シルバーバレット隊……気に入ったぜ」

「奴らを地獄に送り返すには、ちょうどいい名前だ」

 

ライリー中佐は、静かに手を掲げた。

 

「――よし、シルバーバレット隊、活動開始だ」

 

その瞬間、兵器庫の空気が震えた。

これまでただ噂に過ぎなかった、あの”狼たち”を狩るために。

新たなハンターたちが、ついに動き出したのだ。

 

狼を狩る銀の弾丸――シルバーバレット隊、暗闇に向かって、その名が静かに轟いた。

 




アンケート競りますねー!
いろいろ考察を考えて、メッセージしてくださる方々、ありがとうございます!参考になります!!
自分、あんまりガンダム詳しく無いので、調べながら作成しているので、とても、助かります!!
どしどし、参考とかあれば送ってください!!

もし主人公が次に乗るなら

  • グフカスタム
  • ドム
  • イフリート
  • ザクのまま
  • 旧ザク笑
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