転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
作戦は、実に単純だった。
無謀な賭けも、複雑な手順もない。ただ、冷静に、着実に、目標を罠へと導く。
「狼部隊」――ジオンの中でも特異な存在。名を上げ、次々と戦線に姿を現し、そして消える。
その動きはまるで幽霊部隊のように不確定で、正規の部隊では決して予測できない。
だが、俺たちは知っていた。
奴らは”動く”。必要とされる場所へ、必ず姿を現す。
ならば、その“必要”をこちらが作ってやればいい。ただそれだけの話だった。
俺たち――シルバーバレット隊は、そのために編成された。
火力、索敵、電子戦、撹乱、狙撃、防御――
各分野に特化したモビルスーツが、選ばれたパイロットと共に、静かに森へと溶け込んでいる。
それぞれが、獣を狩るために研ぎ澄まされた銀の弾丸。
一撃で殺す。確実に、冷徹に。
最初に動いたのは、ヨーロッパ戦線の片隅だった。
狼部隊が初めて姿を現したあの地に、我々は似た条件を再現した。
地形、気象、通信環境、そしてジオンの補給経路。
そこに現れる小規模な敵部隊を、ひとつ、またひとつと――
ジャミングで孤立させ、狙撃で沈めた。
戦いはあっけなかった。
敵は誰がやったかもわからぬまま、死んでいった。
リアルツリー迷彩を施された我々の機体は、森の影そのものだった。
枝葉の陰、湿った苔の上、切り株の窪みに。
光の反射すら殺す塗装が、視覚を欺き、電子ノイズが探知を狂わせる。
我々は姿を消し、死を残す。
同じ手口で、何度も繰り返した。
わかりやすく、わざとらしく。
狼どもにとって「放っておけない」状況を作るために。
やがて、数週間が経過した頃――
潜伏中の俺たちの通信網に、短く鋭い報せが入った。
「――敵モビルスーツ大部隊、こちらに接近中。ジオン部隊の識別コード複数確認。狼部隊で間違いない」
報せを受けた瞬間、周囲の空気がわずかに震えた。
静寂の中で、誰も声を上げない。
だが全員が確信していた。
ついに、獲物が罠に足を踏み入れたのだ。
接近してくるのは、小隊単位で動く精鋭集団――
3機1組の小隊を5個、全15機。
目立たぬよう分散し、連携しながら進んでくるその様子は、まさしく実戦経験を積んだ狼たちのものだった。
しかし――
それでも、奴らは今、森の中に入ってきた。
我々の縄張りへ。
死が支配する霧の檻へ。
俺は目を細め、ツインアイ越しに霧の先を見据えた。
視界は悪い。音も立たない。
けれど、わかる。奴らが、こちらへ歩を進めている。
距離は、もうすぐそこまで迫っていた。
ジャミング特化の機体のジャミングが起動する。
通信は遮断され、電子ノイズが霧の中に拡がる。
獣の視覚も聴覚も奪う、精密な檻が完成する。
この森には、もう“目”も“耳”もない。
あるのはただ、死の気配だけ。
獲物が姿を現せば、次は俺たちの番だ。
まもなく、狩りが始まる。
ーーーーーー
俺たちは、最後に撃破したザク共の残骸が見渡せる高台に陣を敷いていた。
森の中にぽっかりと空いた空間――天然の広場のようなその場所は、狙撃にはもってこいの死角と遮蔽物を備えていた。霧が次第に濃くなってきていたが、目視による確認はまだ可能だ。リアルツリー迷彩を施した俺たちの機体は、まるで森そのものに溶け込むように、静かに息を潜めていた。
『ライリー中佐、狙撃位置に付きました』
無線の静寂を破ったのは、狙撃仕様のジムに搭乗する部下からの報告だった。
「よし、わかった」
ライリーは落ち着いた口調で答える。
「敵部隊が完全に姿を現すまで、絶対に撃つんじゃない。標的が出揃ったら俺が合図を出す。ジャミング機も狙撃と同時に電波遮断を開始しろ。やつらに応援を呼ばせるな」
『了解です、中佐』
低く、だが確実な返答が返ってくる。全機、緊張と集中の中にいる。
「いいか……いつも通りやれ。標的が現れたからって浮き足立つなよ。ここは俺たちの狩場だ。森の王は誰か、たっぷり教えてやる」
その声は、冷ややかな中に一分の狂気をはらんでいた。
「――狼狩りの始まりだ」
無線越しに、くぐもった笑い声と共に「了解!」の声が次々と続いた。隊員たちは戦士として、長きに渡る潜伏作戦を経て、今まさに牙を剥こうとしていた。
それから数分後。
濃霧の向こう、森の奥から、重く湿った足音が地を揺らした。最初に現れたのは、単機のザク――どうやら残骸の確認に訪れた斥候機らしい。機体が残骸の傍らに膝をついたその瞬間、視界の中に新たな影が幾つも現れた。
『ひゅー……こりゃ大所帯だな。狼部隊だけじゃねぇぞ』
狙撃仕様ジムの隊員が、驚きを隠せない口調で呟いた。
「まだ撃つな。全員が姿を見せるまで、指一本動かすな」
ライリーは静かに、しかし鋭く言い放つ。
その言葉の間にも、霧の帳を割るように、次々と姿を現すザクたち。量産機だけではない。明らかに新型と思しき、鋭角的なフォルムを持つ機体も混じっている。
『中佐……こりゃマズい。俺たちの倍以上はいる。今撃ったら、確実に位置が割れて、反撃されますぜ』
火力支援型の隊員が、不安をにじませながら進言する。
だが、ライリーは冷たく笑った。
「ふん……ビビるな。奴らには俺たちの数も配置も読めん。こちらが視界を制している。優位は崩れてない」
「最後尾のザクが現れたら撃て。この霧の中だ――どれが狼部隊かなんて関係ない。全員、まとめて消すだけだ」
まるで死神が鎌を研ぐような、淡々とした声。
その瞬間が迫っていた。
「……合図を待て…………今だ。――攻撃開始」
雷鳴のように響く指令。
その瞬間、静寂を貫いてビームの閃光が走った。
狙撃仕様のジムから放たれた高出力のビームが、前方のザクの肩部を撃ち抜き、機体は半回転しながら地面に倒れ込む。爆風が地を揺らし、木々が爆ぜた。
続けざまに、火力支援型の砲撃が森を引き裂き、複数のザクが爆煙に包まれる。
ライリーの機体も、ブレを抑えた射撃姿勢から、正確無比な一撃を放った。
無音の森に、いま、確かに咆哮が響いた。
それは宣戦布告ではない。
――これは、処刑だった。
シルバーバレット隊の名のもとに始まった、冷徹な“狼狩り”の一撃。
戦場が、血の幕を上げた。
ーーーーーー
閃光。炸裂音。木々の隙間から放たれたビームが一瞬にして地表を焼き、爆風が舞い上がる。ザクのシルエットが土煙の中で身を翻す。
『―身を隠せ!!』
クラウスの怒声が響いた。咄嗟に、全小隊の機体が木立の影へと飛び込む。
『シーマ! ヘルヴォルへの連絡はどうなってる?!』
鋭く問いかけた声に、しばし間をおいて返る応答は荒く、そして苛立っていた。
『もう何度も試してるよ!でもダメだね! 広域通信が完全に塞がれてる。ジャミングされてるよ!』
『くそっ……!』
クラウスの目が細まる。霧に紛れ、見えない敵。明確な音も気配もなく、それでいて正確にこちらを捉えて撃ってくる。
完全な待ち伏せ――こちらの動きを予測した、周到な伏兵。
イオリがすかさず叫ぶ。
「カール! エリック! 慎重に位置を変えながら牽制射撃! 姿を晒すなよ!」
指示と同時に、マシンガンの発射音が森にこだました。第3小隊のザクが霧を切り裂くように散開し、発光した敵の射線方向へ弾を浴びせる。
「少佐! 敵、我々を囲むように動いてます!」
イオリの警告に、クラウスは反射的に叫んだ。
『全体、後方に下がれ! 包囲を抜けるぞ! 第3小隊は援護だ!!』
各機がすぐさま後退機動に移る――だが。
『隊長! ダメです! 後ろにも敵影が!!』
第4小隊のエーリッヒの報告。その声のすぐ後、後方の木立を裂いて新たな弾丸が飛来する。
視界のない霧の中で、ザクが横転する。が、爆発は起きなかった――まだ致命打ではない。
それでも、敵は前後両面からシーウルフを抑え込んできていた。
「……完全に、狙われてるな」
クラウスは唇を噛んだ。まるでこちらの布陣も、移動経路も、全てを見透かしていたかのような動き。だが――敵の正体は、まだ見えない。連邦軍の特殊部隊か、それとも。
『こちらアルファ小隊! 3番機が被弾! 被弾箇所は――うわあああッ!!』
爆発の音と共に、通信が潰れる。次いで、応答するザクの声も届く。
『隊長! これ、敵……数が多すぎますよ! 把握しきれない!』
『アネッサ! 敵の位置は!?』
『分からない! 霧の向こう全部にいる気がする!!』
味方が、混乱している。シーウルフのベテランたちすら、冷静さを欠き始めていた。
この霧の中、敵は目に見えず、数も読めず、誰も相手の正体を知らない。ただ、確かなのは――ここが「罠」だったという事実。
そしてその時、イオリの静かな声が通信に割り込んだ。
「隊長。提案があります」
『……言ってみろ』
クラウスの声が、先ほどよりも一段静かになる。
「俺とシーマ中尉で、敵の包囲網の一点突破を試みます。狙いは西側です」
一拍の間の後、グスタフが即座に噛みついた。
『馬鹿言え! たった2人で動けるかよ!』
だが、イオリは揺るがない。
「敵の射撃、精度が高いように見えて、実はそうでもありません。おそらく、霧のせいでこちらを完全には視認できていない。狙いが散ってます。ならばこちらも、煙幕を追加で展開してさらに視界を遮ります。その上で、俺とシーマ中尉で横に展開します。横側の包囲網は、後方に数を回している分、手薄になっているはずです」
『だがたった2機で大丈夫か?』
「少ない方が敵に悟られにくい、それに、俺とシーマ中尉の連携ならそこらの敵には負けません…!」
そのイオリの気迫と決意がこもった眼差し。
緊迫した一瞬。クラウスは思考を巡らせ――即断した。
『シーマ! 今の聞いたか?!』
『聞いたよ!デートに誘われたんなら付き合わないとね?』
『よし……!』
クラウスは全隊に指示を飛ばす。
『全部隊は正面に煙幕を展開! 同時に後方へ向けて最大火力で射撃開始! 我々の突破意図を悟らせるな! ミッドナイターズとカレリア部隊にも伝達!』
「了解!カールとエリックはここに残ってくれ!」
イオリの声が返り、彼の部下達から『了解「しました!」っす!!』と返事がくる。
イオリの表情は、誰にも見えない。だが、ヘルメットの奥で燃える瞳はきっと、何より鋭かった。
ザクの脚が沈み、膝をつく。胸部の発射機構が作動する音と共に、濃密な白煙が前方に広がっていく。
霧と煙の境界が溶ける。それは、まるで死の帳のような景色だった。
そしてその中を――狼たちは突き進もうとしていた。
『イオリ、エスコートは頼んだよ』
シーマが緊張が張り詰める空気の中であえてふざける様に呟く。
イオリはその呟きに
「もちろん、喜んで」
と静かに答えた。
ーーーーーー
「ちっ……霧が濃くなったな」
グレーに染まりゆく森の中で、ライリー・トレド中佐の低い舌打ちが戦術回線に滲む。機体の視界を占めるのは、湿った空気に溶け込むような、厚く白濁した霧――まるで、何かを飲み込むために森そのものが呼吸をしているかのようだった。
連邦軍、シルバーバレット隊。影に潜み、罠を張り、獲物を狩る。いわば“狩人”としての役割を与えられた彼らにとって、敵が視認できないというのは致命的な不利だった。
それでも、ライリーは動じなかった。
“霧が濃くなっている? ならば、獣の息遣いを感じ取ればいい”
戦場は視覚情報だけで構成されているわけではない。敵が隠れた方向、動いた音、爆風の巻き起こし方、地面に残る踏破痕。それらが手掛かりになるのは、彼にとってもはや常識だった。
『さすがは精鋭部隊ですな、判断が迅速だ』
機体後方、僚機からの通信が入る。冷静沈着な副官――ジョゼフ・モーガン大尉。ライリーの指揮に絶対的な信頼を置きつつも、観察眼と冷笑を忘れない、いわば彼の「影」のような存在だ。
「……まあな」
ライリーの声は落ち着いていた。だが、その口元には皮肉めいた笑みが浮かんでいた。
目の前に現れた敵――ジオン軍の狼部隊。濃霧の中、彼らは即座に後退し、林の影に潜んだ。無理に反撃せず、機体の位置を絞らせないよう徹底している。
“用心深く、だが臆病ではない”
間違いなく、優秀な指揮官がいる。そう直感した。霧の中での狙撃にいち早く気付き、冷静に陣形を崩さず回避した。通常の新兵部隊ならば、既に混乱して潰走しているだろう。
――けれど、今回は違う。罠は既に張られている。
『ライリー中佐!!敵部隊、後方に下がりつつあります!』
左方の高地に布陣していた部下の報告が入る。狼たちは包囲されていると気付いたのか、後方へと抜け出そうとしていた。
「奴らめ、後方突破を狙ってきたか……よし」
ライリーは即座に指示を飛ばす。
「左右に布陣してる奴らに、その場に数機残し、後方への布陣に切り替えろと伝えろ。奴らを逃すな。こちらも前進、敵を霧の中で押し潰すぞ」
『了解! 各小隊に指示を伝達します』
副官の応答と共に、部下たちの機体が動き始める。霧の中、見えぬ網が音もなく絞られていく。狩りの準備は整っていた。
『流石の精鋭部隊も、完全な罠に嵌まってしまうと……呆気ないものですな』
ジョゼフが冷淡な声で続ける。狼たちは間違いなく優秀だった。だがそれでも、相手の罠に気付かぬまま霧の中に誘い込まれ、視界を奪われ、包囲される――それが事実なら、どれほどの腕も意味を成さない。
ライリーはふっと笑った。
「……そんなもんか? 狼部隊。もっと楽しませてくれよ」
その笑みは獰猛なものだった。まるで肉を裂く前の猛禽のように、鋭く、飢えていた。
だが、次の瞬間だった。
「……!」
彼の視界の先、ジオン軍の方向から、より濃い煙が立ち始める。
最初は単なる霧の濃淡かと思われたが、瞬く間に視界を覆い、機体のモニターが警告を示す。
『? 中佐……さらに濃い霧が……いえ、これは』
「煙幕だよ」
ライリーは即座に断言した。あの密度、あの展開速度。自然の霧ではありえない。これは、意図的に張られたもの――敵が、自らのために作った幕。
「やるな。霧の中でさらに視界を遮るとは……さて、次はどう出る?」
その答えは、すぐに返ってきた。
『や、奴ら!こちらに向かって攻撃してきました!!すごい勢いです!』
狼部隊の後方にいた小隊からの悲鳴混じりの通信。
ライリーの笑みがさらに深くなる。
「……なるほど。後方への一点突破に切り替えたか。いい策だ」
だが、そのまま言葉を続けた。
「だが、悪手でもあるぞ、狼部隊」
なぜなら、突破しようとするその背後に――狩人がいるのだから。
「お前たちの背後には、俺たちがいる。忘れるなよ」
狩人が牙を剥く。煙と霧が交わる最前線、見えない戦場の最奥で、ライリーの機体が唸りを上げる。
「全機、前進。奴らの突破を潰せ」
『了解です』
副官の冷静な声が返ってくる。
そして彼らはまだ知らなかった。狼部隊――いや、"狼たち"が、その突破に何を賭け、どこを目指しているのかを。
この霧の奥にあるのは、逃走か、逆襲か。
それを知るのは、まだ、これからだった。
お気に入りめっちゃ増えてますやん!!
感謝感激です(T . T)
どしどし、評価とメッセージ待ってます!!