転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第61話 霧の中の死闘 後編

 

霧が晴れつつある戦場に、ついに変化が訪れた。

 

西の空に一本の閃光が天を裂いた。それは赤く、鮮烈な信号――希望を告げる狼煙。

 

「……来たか」

 

クラウス・シュレンケ少佐の目が、それを正確に捉えた。重圧と疲労に沈みかけた視線に、わずかながら光が差す。

 

「全機聞けぇええ!!」

 

クラウスの怒号が、戦場の静寂と喧騒を割って隊内通信に響き渡る。

 

「これより、西側に向けて撤退する!! まずはカレリア派遣隊! 次にミッドナイターズ! 最後に俺たちシーウルフ隊だ!! 順次後退しつつ、敵に向け牽制射撃を忘れるな!!」

 

その声は、揺るがぬ信念と、部下への信頼を帯びていた。逃げるのではない。今こそ、生き延びて勝利を掴むための退却だった。

 

瞬間――通信の向こうから、豪快な笑い声が響く。

 

「やっとか!! 遅いぞ!イオリ!!」

 

グスタフ曹長が、煙の中でザクを回頭させながら吠えた。その声には怒りではなく、どこか痛快そうな笑みが混じっている。

 

「……死ぬところだったぞ。帰ったら、あいつに酒の一杯も奢ってもらわないとな」

 

静かに、だが確かな温度をもって語るのは、エーリッヒ軍曹。被弾した肩部をそのままに、それでも唇の端に笑みを浮かべている。

 

「よーし! さっさとずらかろうぜ!」

 

ハンス軍曹は、部隊の後方を振り向きながら、仲間の健在を確かめつつそう叫んだ。その声には焦燥ではなく、ようやく訪れた撤退の瞬間に対する安堵と、戦場を生き抜いた誇りが滲んでいた。

 

その頃、まだ敵と撃ち合いながら、イオリの部下であるエリックとカールも、通信の報に目を見開いていた。

 

「少尉がやったのか……! さすがだ……!」

 

エリック伍長の低い声が震えていた。それは感情に揺れる者の声。戦場の中で得た僅かな希望に、小隊長への信頼と誇りが入り混じっていた。

 

「少尉ぃ〜〜! 遅いっすよ〜〜!」

 

震える声を出したのは、カール二等兵。まだ幼さの残る顔に、涙か汗かわからぬものを浮かべながらも、それでも笑っていた。

 

シーウルフの面々は、今や全員が理解していた――イオリとシーマが、絶望的な包囲網に風穴を開けたのだと。その誇りは、無数のマズルフラッシュと爆炎の中に、確かな灯火として存在していた。

 

──そして、カレリア派遣隊のザク部隊が動いた。

 

「こちらカレリア派遣隊! 後退を開始する!」

 

彼らの機体が後方に下がりながらも、敵の進行を阻むように銃口を向け続ける。弾薬の残量は心許なくとも、退き際に背中を見せることなど、彼らの辞書にはなかった。

 

次いで、ミッドナイターズのグフ部隊も、フィンガーバルカンの掃射で周囲を牽制しつつ撤退を始める。ロフト中尉の冷静な指示の下、部隊は統率を保ちながら後方へと下がっていった。

 

クラウスは即座に次の命令を発した。

 

「まずは第2、第3小隊から下がれ!! 早いこと小隊長と合流しろ! その次に第4、第5小隊だ!!」

 

「ジャミングのせいで距離が離れると通信ができなくなる! 後退後は、速やかに敵包囲網の外に出ることを考えろ!! イオリとシーマが、開けた包囲網の穴に、待機してる筈だ!!」

 

「了解「っす!」!」と、カールとエリックが同時に応える。彼らのザクが木々を割って後方に跳躍し、森を抜けて戦場を離れようとする。

 

続いて、クラウスが叫んだ。

 

「エーリッヒ! ハンス! 次はお前たちだ!!」

 

「早く引いてこいよ!!」

 

「待ってるぞ!!」

 

両者は笑いながら応え、小隊を率いて後退のために森を抜けていった。その背を、敵がビームライフルで狙い撃とうとするが、グスタフがマシンガンで正確に迎撃し、彼らの退路を守る。

 

「グスタフ! まだやれるか?! 俺たちは殿(しんがり)だ!」

 

クラウスの問いに、グスタフは豪快に笑って応じた。

 

「おうよ! 任せときな!!」

 

彼ら第1小隊は、煙と弾幕を張りながら後退する全隊を守るべく、最後尾に踏みとどまった。敵モビルスーツが躍起になって追撃を仕掛けてくるが、クラウスとグスタフ達の正確無比な射撃が前進を許さない。

 

その刹那――

 

「よし! 残りの煙幕弾を張って、全速力で後退するぞ!!」

 

クラウスがそう言い、操作パネルに手を伸ばしたその瞬間だった。

 

――斜めの霧の切れ目から、異様なスピードで飛び出してくる一機のモビルスーツ。

 

それは赤くツインアイを光らせ、ビームサーベルを携えて、狼の喉元を切り裂かんと跳躍してきた。

 

「ッ!!」

 

クラウスは咄嗟にヒートホークを抜き、横薙ぎの斬撃を受け止める。スパークが飛び散り、二機のモビルスーツが火花の雨の中で拮抗する。

 

その機体から――通信が、直接飛んできた。

 

『このまま逃げられると思うのか?! 狼部隊!!』

 

クラウスの目が鋭く光る。

 

「……はっ!」

 

喉の奥から笑みすら滲ませながら、クラウスが吐き捨てる。

 

「お粗末な待伏せに失敗した無能野郎が、よく吠えるな!!」

 

ザクの脚部が地面を蹴り、ヒートホークの柄を回して敵機を強引に押し返す。

 

火花が舞い、霧が巻き、戦場に新たな一騎討ちの気配が満ちていく。

 

ーーーーーー

 

押し返され、両機の間に一瞬の静寂が生まれる。

砲火と土煙に包まれていた戦場に、わずかな間、乾いた風が吹き抜ける。

 

クラウスは息を整え、モニター越しに敵機を凝視する。

そして、その動作を見逃さなかった。敵がライフルを構えるのを確認した瞬間、クラウスは反射的にスラスターを吹かして機体を左へ跳ねさせた。

 

次の瞬間、まばゆい閃光が視界を焼き、直後に爆音と共に背後の木々が爆発四散する。

 

「くっ!……これが連邦の最新鋭機の性能か……!」

 

唇を噛むクラウス。戦場の空気が明確に変わっていた。

手応えからしても、この敵は並みのパイロットではない。

 

「だが、舐めるなよ……!」

 

クラウスはヒートホークを構え、一気に加速してガ敵機に斬りかかる。ヒートホークの赤熱した刃が振り下ろされるが、敵も即座に反応する。閃光を放つビームサーベルがその軌道を受け止め、激しく火花を散らす。

鍔迫り合い。機体が軋み、空気が震える。金属と粒子の圧倒的な質量がぶつかり合い、互いの意地と技術が交差する一瞬。

 

敵機から、接触回線が開かれる。

『お前らは終わりだよ、狼部隊!』

 

その声は若々しくも冷徹な響きを持っていた。

 

「抜かせッ!!」

 

クラウスが咆哮を返す。だが内心は、既に戦況を冷静に分析していた。

 

(こいつ……恐らく指揮官機。それに、かなりの手練れだ。こっちは弾薬も推進剤も少ない……長期戦は不利だ。ここは、引くしか……)

 

判断を下そうとしたその刹那、敵機が機体を捻り、クラウス機を押し返す。

クラウスの機体がよろめく様に後退する一方で、遠くから怒声が飛ぶ。

 

「この野郎ッ!!」

 

グスタフのザクがマシンガンを連射しながら敵機に接近する。だが、クラウスは咄嗟に叫ぶ。

 

「グスタフ、よせ!!」

 

その声が届く前に、敵機はマシンガンの弾幕を巧みに回避し、スコープがグスタフ機を捕らえる。そして次の瞬間、一閃。

 

「——ッ!!」

 

グスタフのザクの右肩から先が、熱と衝撃に包まれて霧散する。

 

「ぐおぉおおッ!?!」

 

悲鳴と共に機体がよろめく。

クラウスは思わず声を上げる。

 

「グスタフッ!!」

 

怒りと焦りが混じった叫びと共に、再び敵機に斬りかかるクラウス。

ヒートホークとビームサーベルの斬撃が幾度も交差するが、どれも決定打にはならない。

 

やがて、モニターの隅に、じりじりと前進してくる複数の敵影が映る。

 

(——まずい、挟まれる……!)

 

クラウスは即座に判断を下す。

 

「グスタフ!!こいつは俺が抑える!お前達は引けッ!!」

 

だが、返ってきたのは激しい命令への反発だった。

 

「ふざけんじゃねぇ!!お前を放っていけるかよ、クラウスッ!!」

 

階級も規律も、今この場では関係なかった。ただ、戦場を共に駆けた仲間としての想いだけがあった。

 

グスタフと3番機が敵機群に向けて射撃を開始する。

その火線が、クラウスを守る楯となる。

 

「クラウス!早くそいつを仕留めろ!それで、さっさと帰るぞ!!」

 

クラウスは呆れたように、だが誇らしげに呟く。

 

「……馬鹿野郎が……」

 

再び敵との死闘が再開される。

だが、明らかに形勢は不利だった。

 

ヒートホークの軌道は読まれ始め、敵の動きは研ぎ澄まされていく。

クラウス機が徐々に押され、そして——。

 

機体の頭部が閃光に包まれ、吹き飛んだ。

次いで、左腕までもが切断され、ヒートホークが宙を舞う。

 

「——ぐっ!!」

 

視界が途端に狭まり、警告音が機内に鳴り響く。

 

「隊長ッ!?」「クラウスッ!!」

 

焦る声が通信に混線し、クラウスの耳に届く。

残されたモニターに映るのは、ビームサーベルを振り下ろそうとする敵機の姿。

 

(……これまで、か……)

 

「……みんな……すまん……」

 

目を閉じかけたその時——。

 

「——ッ?!」

 

爆音と共に炸裂した煙幕弾が、クラウス機と敵の間に割って入るように炸裂した。煙が勢いよく吹き出し、瞬く間に視界を塗り潰してゆく。高空から漏れ落ちる光をも遮断し、まるで地獄の入口のような不透明な空間が戦場に現れた。

 

敵機、ライリー中佐機は唐突な視界の喪失に一瞬動きを止めた。

 

「なんだ……?煙幕だと?」

 

操縦桿を握る彼の瞳が鋭く周囲を見渡す。だが、何も見えない。ただ、濃霧のように立ちこめる煙が、すべての輪郭を曖昧にするだけだった。

 

その刹那。

 

煙を切り裂き、まるで幻影のように、灰色の機影が浮かび上がった。

まるで煙と一体化したかのような、鈍く沈んだ色合いのザク。

その機体は低く、地を滑るように敵機へと迫る。

 

「隊長達が世話になったみたいだな!」

 

パイロット──イオリの怒気を孕んだ声が無線に響く。

 

「お返しだ!!」

 

ヒートホークを高く振り上げ、イオリのザクは一直線に切りかかる。ライリー中佐も即座に反応し、ビームサーベルが光を放ち、互いの刃が激しくぶつかり合う。鋼と光がぶつかる火花が煙幕の中に閃光を灯し、鈍く激しい金属音がこだまする。

 

鍔迫り合いの中、ライリー中佐が接触通信を開いた。

 

『ゴーストの次は、ヘルウルフか?!豪華じゃないか!!』

 

その声は挑発というよりも、驚愕と嗤いが混ざった感情に包まれていた。

 

『あと少しでお前らのところのボスを仕留めれそうだったんだがな!』

 

イオリは、ザクのモノアイを敵機へ向けたまま、吐き捨てるように言う。

 

「こっちはお前のことなんざ知らん!!」

 

互いに圧をかけつつ、ゆっくりと距離を取った。濃霧の中で、二機の機体が静かに睨み合う。まるで獣同士が次の一撃の機会を探っているかのように。

 

ーーーーーー

 

外から聞こえる連続的な射撃音が、緊張を更に煽る。

 

(グスタフたちが敵の増援を相手にしてる……時間はない)

 

だが、イオリの思考はすぐさま敵機へと向かった。

 

(こいつ……色は違うが、ガンダムだ……。ガンダムは一機だけじゃなかったのか?!なぜここに──)

 

突如、オープン回線が開かれる。ライリー中佐の声が、虚空から響いた。

 

『敢えて光栄だよ、ヘルウルフ。こちらはシルバーバレット隊、ライリー・トレド中佐。──そして、お前達を、"狩る"者だ』

 

イオリは少し鼻で笑い、皮肉を返す。

 

「はん!俺たちも有名になったもんだな。お前らみたいな”無名”にまで知られてるんだからよ」

 

『その無名も、今日までだ!』

 

ライリーの言葉と共に、ガンダムが猛然とブーストを吹かし突進する。

イオリも応じるように、ザクのバーニアを全開にし、ヒートホークを構えて地を滑る。

 

二機は閃光と金属音を撒き散らしながら再び切り結ぶ。

ガンダムが力強くビームサーベルを振り下ろすと、イオリは一瞬のバーニア出力でバックステップし、その軌道を躱す。

同時に逆手に構えたヒートホークで切り上げるが、それをもう一本のビームサーベルで受け止められる。

 

煙幕の中、稲妻のように動く機体。イオリの額から汗が流れる。

 

「チッ、化け物め……!」

 

ライリーも心中で呟く。

 

(このザク、できる。部下共では到底太刀打ちできん……!)

 

その時、グスタフの声が通信に響いた。

 

「イオリ!早く退却するぞ!もうあまり時間は稼げん!!」

 

イオリは叫び返す。

 

「だめです!こいつはここで仕留めないと、この高軌道でまた追ってきます!最低でも行動不能にしないと!!」

 

グスタフの怒声が返る。

 

「えぇーい!クソが!!」

 

彼の怒声と共にマシンガンが撃つ音が煙幕の外から鳴り響く。

 

次に通信が変わる。クラウスの声──荒い息と共に届く。

 

「イオリ、死ぬなよ。そいつは手練だ。油断するな。早くその煙の中から出てこい、待ってるぞ」

 

イオリは短く、力強く返す。

「……了解!」

 

そして、ライリーのガンダムが動く。

二本のビームサーベルを構え、突撃してくる。

イオリもヒートホークを振りかざし、地面を滑るように突撃する。

 

ビームが振り下ろされる。

ザクの肩のシールドがそれを受け止めるが、切断されかけた金属片が火花を散らす。それでもイオリは怯まない。

ヒートホークで応戦し、攻撃を返す。

 

斬り合い、押し合い、攻防が続く。

 

ガンダムのバルカン砲が発射され、ザクの頭部に命中する。

しかし、重装仕様の装甲がその攻撃を耐え抜き、イオリのザクは踏み込んだ。

 

「──ここだ!!」

 

イオリの機体が肩をぶつけるようにガンダムにショルダータックルを叩き込む。

同時に、脚部ミサイルポッドから煙幕弾を追加で発射。更に煙幕を深く濃くする。

 

「ぐぅ?!──」

ライリー中佐が呻き、体勢を崩す。

 

バーニアで体勢を戻そうとしたその時──ライリーは一瞬、周囲を見失う。

 

「クソッ、どこに行きやがった……!」

 

だが次の瞬間、ガンダムの背後に、再び現れた。

濃霧に溶け込んでいた灰色のザク。モノアイが不気味に紅く煌めく。

 

「なに──!?」

 

ライリーが振り返る間もなく、ヒートホークが振り下ろされ、ガンダムのランドセルを真っ二つに断ち切った。爆発と共に動力系に火花が走り、ガンダムの挙動がぎこちなくなる。

 

「止めだ!」

 

イオリがとどめを刺そうと構える。しかし、次の瞬間、煙幕の外から多数の銃撃が雨のように降り注いできた。

 

「……チィ!」

 

イオリは即座に回避行動を取り、被弾を避ける。

 

クラウスの通信が割り込む。

「イオリ!もう十分だ!後退するぞ!!」

 

イオリは悔しさを滲ませながらも返答する。

「……了解……!!」

 

追加の煙幕を展開し、灰色のザクは戦場から姿を消す。

 

やがて、煙の中から彼の部下のモビルスーツが現れ、ライリー中佐の元へと駆け寄る。

 

「中佐!ご無事ですか?!すぐさま追撃します!」

 

しかし、ライリーは首を横に振った。

 

「やめておけ。機動系統をやられた。逃げに徹せられたら追いつけん。それに追いついたとしても、また煙で姿を隠す。侮れん奴らだよ。あの灰色のザク。ヘルウルフは只者じゃない……」

 

彼は不敵に笑みを浮かべた。

 

「……まぁ、“一矢は報いれた”と思うぞ」

 

その言葉に、部下たちは困惑を浮かべるばかりだった。

 

──激戦は、霧の中に消えていった。

 

ーーーーーー

 

包囲網にぽっかりと空いた穴。その先には、変わらぬ森林地帯に沿うように河が広がっていた。戦場を突き抜け、クラウス率いる第1小隊とイオリのザクが、傷だらけの機体を引きずるようにしてそこへ辿り着いた。

 

深く抉れた装甲、煤と焼け焦げに覆われた外殻、歩くだけでギシギシと悲鳴をあげる関節部――どの機体も、もはや動いていること自体が奇跡のようだった。

 

その時、前方から姿を現した数機の味方が、うっすらと開けた霧の中に佇んでいた。

 

シーマ機。エーリッヒ機。ハンス機。そして、カールとエリック――イオリの部下たち。

 

「来た……!」

 

誰かがそう呟いた。

 

シーマのザクが一歩踏み出すと、他の機体もじわりと動きを止める。

そして、再会した仲間たちは、クラウスとイオリたちの姿を見た瞬間、言葉を失った。

 

全身が黒焦げに近いザク、破損した装甲から火花を散らすグスタフの機体、頭部と左腕が無く、もはや武装も満足に残っていないクラウス機……その惨状は、まさしく死地から帰還した者の姿だった。

 

通信が繋がると、エーリッヒがまず言葉を発した。

 

「隊長……待ってたぞ……!」

 

声は震えていた。あれほどの戦闘をくぐり抜けて、なお彼らが帰ってきた事実が、信じがたかったのだ。

 

「なかなか来ないからよ……迎えに行くところだったんだぜ?」

 

ハンスが笑うように言ったが、その声の裏にあったのは安堵だった。

薄皮一枚の帰還。

それが、今目の前にある現実だった。

 

クラウスは、機体の通信を通して乾いた笑いを漏らした。

 

「すまんな。敵の手練にしてやられたよ……。イオリが来てくれなけりゃ、俺たち全滅だった」

 

彼の言葉に、グスタフもどこか豪快な調子で続けた。

 

「まったく……今回はイオリに感謝だな。ほんと、命の恩人様だぜ!」

 

イオリは苦笑しながら返す。

 

「“今回ばかり”って……なんですかそれ? ちゃんと毎回感謝してもらいたいもんですね」

 

場が和らぎ、戦場の緊張が少しずつ解けていく――そんな空気の中、カールの声が思いがけず涙交じりに響いた。

 

「少尉ー!! こっち来たら居ないし、シーマ中尉に聞いたら“戦場に戻った”って言われるし……もう、不安だったんすよー!!」

 

エリックも、やや拗ねたような声で言葉を投げかけた。

 

「……少尉、次にこういった作戦のときは、俺たちも連れて行ってください。」

 

その言葉に、イオリは一瞬目を伏せ、そして柔らかく笑った。

 

「……すまない。心配させた」

 

ふと、その様子を見つめていたシーマの機体が、静かに小さく肩を落とした。

 

彼女は気づいていた。自分が、どれほど無意識に緊張していたかを。

イオリが戻ってくると信じながらも、心の奥底では――今まで何度も、無事に帰ってくるはずだった仲間が、そうならなかったことを知っていたからだ。

 

深く、長く息を吐く。ヘルメットの内側で、それが白く曇った。

 

そんな彼女の方へ、イオリのザクがゆっくりと首を傾けた。

 

「……シーマ中尉。待っててくれて、ありがとうございました。……さあ、帰りましょう。――“話”があるんですよね?」

 

穏やかな口調に、シーマは明らかに動揺した。

 

「な、そ……そうだよ……! さ、さっさと帰るよ!」

 

ヘルメットの奥で顔を赤らめながら言い返す彼女を見て、クラウスやグスタフたちベテラン勢が、思わず微笑ましげに笑った。

 

「……若いってのはいいもんだな」

と、グスタフが小さく呟く。

 

その和やかな空気の中、クラウスが改めて通信を開いた。

 

「よし、全員聞け。……ここはもう用はない。敵も追撃を諦めたようだ。いったん味方基地に向かい、『ヘルヴォル』と合流する。そこで結果報告をするぞ。」

 

「了解!!」と、全機から返答が返る。

 

全ての機体が、静かに向きを変え、傷だらけの身体で戦場を後にしようとした――そのときだった。

 

イオリが、ふとその動きを止めた。

 

彼の視線が、背後――先ほどまで戦っていた森林地帯へと向けられていた。

 

何かが引っかかったのだ。明確な理由はなかった。ただ、心のどこかが警鐘を鳴らしていた。あの戦いで相対した“ガンダム”のパイロット。あれほどの男が、そう簡単に俺たちを逃すはずがない――。

 

「……?」

 

シーマが、その異変に気づき、イオリの機体の横に並んだ。

 

「イオリ? どうしたんだい? さっさと帰るよ。」

 

イオリは答えた。しかし、視線は動かない。

 

「……いえ、ちょっと……。」

 

その刹那だった。

 

彼の視線の先、森の影――リアルツリー塗装のモビルスーツが、木々に紛れて銃口をこちらに向けていた。

 

――狙っている。

 

次の瞬間、イオリはシーマ機に体当たりするように突き飛ばした。

 

「っ……!?」

 

シーマが目を見開くと、直後――

 

イオリ機を、眩い閃光が襲う。

 

直撃。

ビームの光が装甲を貫き、ザクの巨体が硬直し――

 

「イオリ……?」

 

一言、シーマが呟く。

 

それはまるで、音が遠ざかるようだった。

 

クラウスが、怒号のように叫ぶ。

 

「射撃位置を特定! 奴を撃てぇ!!」

 

全機が一斉にビームの飛んできた方向に向けて射撃を開始する。

咆哮と衝撃音が、戦場に再び轟いた。

 

だが、シーマにはそれらが、まるで遠い世界の出来事のように感じられた。

 

彼女の視界にあるのは、ただ――沈黙したイオリのザクだけだった。

 

「……イオリ? なんの冗談だい……? 早く……起きなよ……」

 

声が震え、次第に叫びに変わる。

 

「イオリ!!」

 

その絶叫が木霊しながら、彼女は倒れかけたイオリ機に駆け寄っていく。

 

ベテランたちは沈黙の中、イオリとシーマの機体を引きずるようにして撤退するしかなかった。

 

戦場は、再び静寂に包まれていく。

 

――その少し離れた丘の上。

通信が入る。

 

「ライリー中佐、報告します。“ヘルウルフ”の撃破、確認しました」

 

しばしの沈黙ののち、ライリー中佐が応える。

 

「……そうか。よくやった」

 

静かに頷くと、彼は振り返り、部下たちに告げる。

 

「全機撤退するぞ」

 

その言葉に、ひとりの部下が疑問を口にした。

 

「中佐、どういうことです?」

 

ライリーは、冷徹な微笑を浮かべて答えた。

 

「簡単なことだ。赤い信号弾が上がった時点で、狼部隊がそこに向かうのは明白だった。だからジョゼフ大尉に命じて、狙撃仕様ジムでその撤退路に待ち伏せさせた。隊長格を仕留めろ、とな」

 

「……だから“『一矢は報いた』”ですか」

 

「――ああ、その通りだ」

 

撤退する連邦軍。その背には、淡い夕日が射し込んでいた。

そして森の向こう――狼たちの咆哮は、今は静かに、深い悲しみの中にあった。

 




イオリ、散る。次回からはシーマが主人公です……
嘘です、ごめんなさい笑
主人公、原作知らなくてガンダムは1機だけだと思ってました笑
イオリはシーウルフ隊の中ではトップクラスに操縦が上手いです。
また強さランキングみたいなの作れたら作るかな。
ちなみにシルバーバレット隊のモビルスーツ構成は敢えて曖昧にしています。(ちらっと考えているのはライリー中佐が搭乗しているのは試作先行量産型ガンダム、その他は試作型陸戦ジムの狙撃、砲撃、重装装備です。……え?史実の量産数に矛盾する?知らん!!笑)
統一しているのはリアルツリー迷彩でバイザーやツインアイは赤色です。
リアルツリー迷彩は気になる方は検索してみてください、マッジで山の中だと、見えないです笑
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