転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
霧が晴れつつある戦場に、ついに変化が訪れた。
西の空に一本の閃光が天を裂いた。それは赤く、鮮烈な信号――希望を告げる狼煙。
「……来たか」
クラウス・シュレンケ少佐の目が、それを正確に捉えた。重圧と疲労に沈みかけた視線に、わずかながら光が差す。
「全機聞けぇええ!!」
クラウスの怒号が、戦場の静寂と喧騒を割って隊内通信に響き渡る。
「これより、西側に向けて撤退する!! まずはカレリア派遣隊! 次にミッドナイターズ! 最後に俺たちシーウルフ隊だ!! 順次後退しつつ、敵に向け牽制射撃を忘れるな!!」
その声は、揺るがぬ信念と、部下への信頼を帯びていた。逃げるのではない。今こそ、生き延びて勝利を掴むための退却だった。
瞬間――通信の向こうから、豪快な笑い声が響く。
「やっとか!! 遅いぞ!イオリ!!」
グスタフ曹長が、煙の中でザクを回頭させながら吠えた。その声には怒りではなく、どこか痛快そうな笑みが混じっている。
「……死ぬところだったぞ。帰ったら、あいつに酒の一杯も奢ってもらわないとな」
静かに、だが確かな温度をもって語るのは、エーリッヒ軍曹。被弾した肩部をそのままに、それでも唇の端に笑みを浮かべている。
「よーし! さっさとずらかろうぜ!」
ハンス軍曹は、部隊の後方を振り向きながら、仲間の健在を確かめつつそう叫んだ。その声には焦燥ではなく、ようやく訪れた撤退の瞬間に対する安堵と、戦場を生き抜いた誇りが滲んでいた。
その頃、まだ敵と撃ち合いながら、イオリの部下であるエリックとカールも、通信の報に目を見開いていた。
「少尉がやったのか……! さすがだ……!」
エリック伍長の低い声が震えていた。それは感情に揺れる者の声。戦場の中で得た僅かな希望に、小隊長への信頼と誇りが入り混じっていた。
「少尉ぃ〜〜! 遅いっすよ〜〜!」
震える声を出したのは、カール二等兵。まだ幼さの残る顔に、涙か汗かわからぬものを浮かべながらも、それでも笑っていた。
シーウルフの面々は、今や全員が理解していた――イオリとシーマが、絶望的な包囲網に風穴を開けたのだと。その誇りは、無数のマズルフラッシュと爆炎の中に、確かな灯火として存在していた。
──そして、カレリア派遣隊のザク部隊が動いた。
「こちらカレリア派遣隊! 後退を開始する!」
彼らの機体が後方に下がりながらも、敵の進行を阻むように銃口を向け続ける。弾薬の残量は心許なくとも、退き際に背中を見せることなど、彼らの辞書にはなかった。
次いで、ミッドナイターズのグフ部隊も、フィンガーバルカンの掃射で周囲を牽制しつつ撤退を始める。ロフト中尉の冷静な指示の下、部隊は統率を保ちながら後方へと下がっていった。
クラウスは即座に次の命令を発した。
「まずは第2、第3小隊から下がれ!! 早いこと小隊長と合流しろ! その次に第4、第5小隊だ!!」
「ジャミングのせいで距離が離れると通信ができなくなる! 後退後は、速やかに敵包囲網の外に出ることを考えろ!! イオリとシーマが、開けた包囲網の穴に、待機してる筈だ!!」
「了解「っす!」!」と、カールとエリックが同時に応える。彼らのザクが木々を割って後方に跳躍し、森を抜けて戦場を離れようとする。
続いて、クラウスが叫んだ。
「エーリッヒ! ハンス! 次はお前たちだ!!」
「早く引いてこいよ!!」
「待ってるぞ!!」
両者は笑いながら応え、小隊を率いて後退のために森を抜けていった。その背を、敵がビームライフルで狙い撃とうとするが、グスタフがマシンガンで正確に迎撃し、彼らの退路を守る。
「グスタフ! まだやれるか?! 俺たちは殿(しんがり)だ!」
クラウスの問いに、グスタフは豪快に笑って応じた。
「おうよ! 任せときな!!」
彼ら第1小隊は、煙と弾幕を張りながら後退する全隊を守るべく、最後尾に踏みとどまった。敵モビルスーツが躍起になって追撃を仕掛けてくるが、クラウスとグスタフ達の正確無比な射撃が前進を許さない。
その刹那――
「よし! 残りの煙幕弾を張って、全速力で後退するぞ!!」
クラウスがそう言い、操作パネルに手を伸ばしたその瞬間だった。
――斜めの霧の切れ目から、異様なスピードで飛び出してくる一機のモビルスーツ。
それは赤くツインアイを光らせ、ビームサーベルを携えて、狼の喉元を切り裂かんと跳躍してきた。
「ッ!!」
クラウスは咄嗟にヒートホークを抜き、横薙ぎの斬撃を受け止める。スパークが飛び散り、二機のモビルスーツが火花の雨の中で拮抗する。
その機体から――通信が、直接飛んできた。
『このまま逃げられると思うのか?! 狼部隊!!』
クラウスの目が鋭く光る。
「……はっ!」
喉の奥から笑みすら滲ませながら、クラウスが吐き捨てる。
「お粗末な待伏せに失敗した無能野郎が、よく吠えるな!!」
ザクの脚部が地面を蹴り、ヒートホークの柄を回して敵機を強引に押し返す。
火花が舞い、霧が巻き、戦場に新たな一騎討ちの気配が満ちていく。
ーーーーーー
押し返され、両機の間に一瞬の静寂が生まれる。
砲火と土煙に包まれていた戦場に、わずかな間、乾いた風が吹き抜ける。
クラウスは息を整え、モニター越しに敵機を凝視する。
そして、その動作を見逃さなかった。敵がライフルを構えるのを確認した瞬間、クラウスは反射的にスラスターを吹かして機体を左へ跳ねさせた。
次の瞬間、まばゆい閃光が視界を焼き、直後に爆音と共に背後の木々が爆発四散する。
「くっ!……これが連邦の最新鋭機の性能か……!」
唇を噛むクラウス。戦場の空気が明確に変わっていた。
手応えからしても、この敵は並みのパイロットではない。
「だが、舐めるなよ……!」
クラウスはヒートホークを構え、一気に加速してガ敵機に斬りかかる。ヒートホークの赤熱した刃が振り下ろされるが、敵も即座に反応する。閃光を放つビームサーベルがその軌道を受け止め、激しく火花を散らす。
鍔迫り合い。機体が軋み、空気が震える。金属と粒子の圧倒的な質量がぶつかり合い、互いの意地と技術が交差する一瞬。
敵機から、接触回線が開かれる。
『お前らは終わりだよ、狼部隊!』
その声は若々しくも冷徹な響きを持っていた。
「抜かせッ!!」
クラウスが咆哮を返す。だが内心は、既に戦況を冷静に分析していた。
(こいつ……恐らく指揮官機。それに、かなりの手練れだ。こっちは弾薬も推進剤も少ない……長期戦は不利だ。ここは、引くしか……)
判断を下そうとしたその刹那、敵機が機体を捻り、クラウス機を押し返す。
クラウスの機体がよろめく様に後退する一方で、遠くから怒声が飛ぶ。
「この野郎ッ!!」
グスタフのザクがマシンガンを連射しながら敵機に接近する。だが、クラウスは咄嗟に叫ぶ。
「グスタフ、よせ!!」
その声が届く前に、敵機はマシンガンの弾幕を巧みに回避し、スコープがグスタフ機を捕らえる。そして次の瞬間、一閃。
「——ッ!!」
グスタフのザクの右肩から先が、熱と衝撃に包まれて霧散する。
「ぐおぉおおッ!?!」
悲鳴と共に機体がよろめく。
クラウスは思わず声を上げる。
「グスタフッ!!」
怒りと焦りが混じった叫びと共に、再び敵機に斬りかかるクラウス。
ヒートホークとビームサーベルの斬撃が幾度も交差するが、どれも決定打にはならない。
やがて、モニターの隅に、じりじりと前進してくる複数の敵影が映る。
(——まずい、挟まれる……!)
クラウスは即座に判断を下す。
「グスタフ!!こいつは俺が抑える!お前達は引けッ!!」
だが、返ってきたのは激しい命令への反発だった。
「ふざけんじゃねぇ!!お前を放っていけるかよ、クラウスッ!!」
階級も規律も、今この場では関係なかった。ただ、戦場を共に駆けた仲間としての想いだけがあった。
グスタフと3番機が敵機群に向けて射撃を開始する。
その火線が、クラウスを守る楯となる。
「クラウス!早くそいつを仕留めろ!それで、さっさと帰るぞ!!」
クラウスは呆れたように、だが誇らしげに呟く。
「……馬鹿野郎が……」
再び敵との死闘が再開される。
だが、明らかに形勢は不利だった。
ヒートホークの軌道は読まれ始め、敵の動きは研ぎ澄まされていく。
クラウス機が徐々に押され、そして——。
機体の頭部が閃光に包まれ、吹き飛んだ。
次いで、左腕までもが切断され、ヒートホークが宙を舞う。
「——ぐっ!!」
視界が途端に狭まり、警告音が機内に鳴り響く。
「隊長ッ!?」「クラウスッ!!」
焦る声が通信に混線し、クラウスの耳に届く。
残されたモニターに映るのは、ビームサーベルを振り下ろそうとする敵機の姿。
(……これまで、か……)
「……みんな……すまん……」
目を閉じかけたその時——。
「——ッ?!」
爆音と共に炸裂した煙幕弾が、クラウス機と敵の間に割って入るように炸裂した。煙が勢いよく吹き出し、瞬く間に視界を塗り潰してゆく。高空から漏れ落ちる光をも遮断し、まるで地獄の入口のような不透明な空間が戦場に現れた。
敵機、ライリー中佐機は唐突な視界の喪失に一瞬動きを止めた。
「なんだ……?煙幕だと?」
操縦桿を握る彼の瞳が鋭く周囲を見渡す。だが、何も見えない。ただ、濃霧のように立ちこめる煙が、すべての輪郭を曖昧にするだけだった。
その刹那。
煙を切り裂き、まるで幻影のように、灰色の機影が浮かび上がった。
まるで煙と一体化したかのような、鈍く沈んだ色合いのザク。
その機体は低く、地を滑るように敵機へと迫る。
「隊長達が世話になったみたいだな!」
パイロット──イオリの怒気を孕んだ声が無線に響く。
「お返しだ!!」
ヒートホークを高く振り上げ、イオリのザクは一直線に切りかかる。ライリー中佐も即座に反応し、ビームサーベルが光を放ち、互いの刃が激しくぶつかり合う。鋼と光がぶつかる火花が煙幕の中に閃光を灯し、鈍く激しい金属音がこだまする。
鍔迫り合いの中、ライリー中佐が接触通信を開いた。
『ゴーストの次は、ヘルウルフか?!豪華じゃないか!!』
その声は挑発というよりも、驚愕と嗤いが混ざった感情に包まれていた。
『あと少しでお前らのところのボスを仕留めれそうだったんだがな!』
イオリは、ザクのモノアイを敵機へ向けたまま、吐き捨てるように言う。
「こっちはお前のことなんざ知らん!!」
互いに圧をかけつつ、ゆっくりと距離を取った。濃霧の中で、二機の機体が静かに睨み合う。まるで獣同士が次の一撃の機会を探っているかのように。
ーーーーーー
外から聞こえる連続的な射撃音が、緊張を更に煽る。
(グスタフたちが敵の増援を相手にしてる……時間はない)
だが、イオリの思考はすぐさま敵機へと向かった。
(こいつ……色は違うが、ガンダムだ……。ガンダムは一機だけじゃなかったのか?!なぜここに──)
突如、オープン回線が開かれる。ライリー中佐の声が、虚空から響いた。
『敢えて光栄だよ、ヘルウルフ。こちらはシルバーバレット隊、ライリー・トレド中佐。──そして、お前達を、"狩る"者だ』
イオリは少し鼻で笑い、皮肉を返す。
「はん!俺たちも有名になったもんだな。お前らみたいな”無名”にまで知られてるんだからよ」
『その無名も、今日までだ!』
ライリーの言葉と共に、ガンダムが猛然とブーストを吹かし突進する。
イオリも応じるように、ザクのバーニアを全開にし、ヒートホークを構えて地を滑る。
二機は閃光と金属音を撒き散らしながら再び切り結ぶ。
ガンダムが力強くビームサーベルを振り下ろすと、イオリは一瞬のバーニア出力でバックステップし、その軌道を躱す。
同時に逆手に構えたヒートホークで切り上げるが、それをもう一本のビームサーベルで受け止められる。
煙幕の中、稲妻のように動く機体。イオリの額から汗が流れる。
「チッ、化け物め……!」
ライリーも心中で呟く。
(このザク、できる。部下共では到底太刀打ちできん……!)
その時、グスタフの声が通信に響いた。
「イオリ!早く退却するぞ!もうあまり時間は稼げん!!」
イオリは叫び返す。
「だめです!こいつはここで仕留めないと、この高軌道でまた追ってきます!最低でも行動不能にしないと!!」
グスタフの怒声が返る。
「えぇーい!クソが!!」
彼の怒声と共にマシンガンが撃つ音が煙幕の外から鳴り響く。
次に通信が変わる。クラウスの声──荒い息と共に届く。
「イオリ、死ぬなよ。そいつは手練だ。油断するな。早くその煙の中から出てこい、待ってるぞ」
イオリは短く、力強く返す。
「……了解!」
そして、ライリーのガンダムが動く。
二本のビームサーベルを構え、突撃してくる。
イオリもヒートホークを振りかざし、地面を滑るように突撃する。
ビームが振り下ろされる。
ザクの肩のシールドがそれを受け止めるが、切断されかけた金属片が火花を散らす。それでもイオリは怯まない。
ヒートホークで応戦し、攻撃を返す。
斬り合い、押し合い、攻防が続く。
ガンダムのバルカン砲が発射され、ザクの頭部に命中する。
しかし、重装仕様の装甲がその攻撃を耐え抜き、イオリのザクは踏み込んだ。
「──ここだ!!」
イオリの機体が肩をぶつけるようにガンダムにショルダータックルを叩き込む。
同時に、脚部ミサイルポッドから煙幕弾を追加で発射。更に煙幕を深く濃くする。
「ぐぅ?!──」
ライリー中佐が呻き、体勢を崩す。
バーニアで体勢を戻そうとしたその時──ライリーは一瞬、周囲を見失う。
「クソッ、どこに行きやがった……!」
だが次の瞬間、ガンダムの背後に、再び現れた。
濃霧に溶け込んでいた灰色のザク。モノアイが不気味に紅く煌めく。
「なに──!?」
ライリーが振り返る間もなく、ヒートホークが振り下ろされ、ガンダムのランドセルを真っ二つに断ち切った。爆発と共に動力系に火花が走り、ガンダムの挙動がぎこちなくなる。
「止めだ!」
イオリがとどめを刺そうと構える。しかし、次の瞬間、煙幕の外から多数の銃撃が雨のように降り注いできた。
「……チィ!」
イオリは即座に回避行動を取り、被弾を避ける。
クラウスの通信が割り込む。
「イオリ!もう十分だ!後退するぞ!!」
イオリは悔しさを滲ませながらも返答する。
「……了解……!!」
追加の煙幕を展開し、灰色のザクは戦場から姿を消す。
やがて、煙の中から彼の部下のモビルスーツが現れ、ライリー中佐の元へと駆け寄る。
「中佐!ご無事ですか?!すぐさま追撃します!」
しかし、ライリーは首を横に振った。
「やめておけ。機動系統をやられた。逃げに徹せられたら追いつけん。それに追いついたとしても、また煙で姿を隠す。侮れん奴らだよ。あの灰色のザク。ヘルウルフは只者じゃない……」
彼は不敵に笑みを浮かべた。
「……まぁ、“一矢は報いれた”と思うぞ」
その言葉に、部下たちは困惑を浮かべるばかりだった。
──激戦は、霧の中に消えていった。
ーーーーーー
包囲網にぽっかりと空いた穴。その先には、変わらぬ森林地帯に沿うように河が広がっていた。戦場を突き抜け、クラウス率いる第1小隊とイオリのザクが、傷だらけの機体を引きずるようにしてそこへ辿り着いた。
深く抉れた装甲、煤と焼け焦げに覆われた外殻、歩くだけでギシギシと悲鳴をあげる関節部――どの機体も、もはや動いていること自体が奇跡のようだった。
その時、前方から姿を現した数機の味方が、うっすらと開けた霧の中に佇んでいた。
シーマ機。エーリッヒ機。ハンス機。そして、カールとエリック――イオリの部下たち。
「来た……!」
誰かがそう呟いた。
シーマのザクが一歩踏み出すと、他の機体もじわりと動きを止める。
そして、再会した仲間たちは、クラウスとイオリたちの姿を見た瞬間、言葉を失った。
全身が黒焦げに近いザク、破損した装甲から火花を散らすグスタフの機体、頭部と左腕が無く、もはや武装も満足に残っていないクラウス機……その惨状は、まさしく死地から帰還した者の姿だった。
通信が繋がると、エーリッヒがまず言葉を発した。
「隊長……待ってたぞ……!」
声は震えていた。あれほどの戦闘をくぐり抜けて、なお彼らが帰ってきた事実が、信じがたかったのだ。
「なかなか来ないからよ……迎えに行くところだったんだぜ?」
ハンスが笑うように言ったが、その声の裏にあったのは安堵だった。
薄皮一枚の帰還。
それが、今目の前にある現実だった。
クラウスは、機体の通信を通して乾いた笑いを漏らした。
「すまんな。敵の手練にしてやられたよ……。イオリが来てくれなけりゃ、俺たち全滅だった」
彼の言葉に、グスタフもどこか豪快な調子で続けた。
「まったく……今回はイオリに感謝だな。ほんと、命の恩人様だぜ!」
イオリは苦笑しながら返す。
「“今回ばかり”って……なんですかそれ? ちゃんと毎回感謝してもらいたいもんですね」
場が和らぎ、戦場の緊張が少しずつ解けていく――そんな空気の中、カールの声が思いがけず涙交じりに響いた。
「少尉ー!! こっち来たら居ないし、シーマ中尉に聞いたら“戦場に戻った”って言われるし……もう、不安だったんすよー!!」
エリックも、やや拗ねたような声で言葉を投げかけた。
「……少尉、次にこういった作戦のときは、俺たちも連れて行ってください。」
その言葉に、イオリは一瞬目を伏せ、そして柔らかく笑った。
「……すまない。心配させた」
ふと、その様子を見つめていたシーマの機体が、静かに小さく肩を落とした。
彼女は気づいていた。自分が、どれほど無意識に緊張していたかを。
イオリが戻ってくると信じながらも、心の奥底では――今まで何度も、無事に帰ってくるはずだった仲間が、そうならなかったことを知っていたからだ。
深く、長く息を吐く。ヘルメットの内側で、それが白く曇った。
そんな彼女の方へ、イオリのザクがゆっくりと首を傾けた。
「……シーマ中尉。待っててくれて、ありがとうございました。……さあ、帰りましょう。――“話”があるんですよね?」
穏やかな口調に、シーマは明らかに動揺した。
「な、そ……そうだよ……! さ、さっさと帰るよ!」
ヘルメットの奥で顔を赤らめながら言い返す彼女を見て、クラウスやグスタフたちベテラン勢が、思わず微笑ましげに笑った。
「……若いってのはいいもんだな」
と、グスタフが小さく呟く。
その和やかな空気の中、クラウスが改めて通信を開いた。
「よし、全員聞け。……ここはもう用はない。敵も追撃を諦めたようだ。いったん味方基地に向かい、『ヘルヴォル』と合流する。そこで結果報告をするぞ。」
「了解!!」と、全機から返答が返る。
全ての機体が、静かに向きを変え、傷だらけの身体で戦場を後にしようとした――そのときだった。
イオリが、ふとその動きを止めた。
彼の視線が、背後――先ほどまで戦っていた森林地帯へと向けられていた。
何かが引っかかったのだ。明確な理由はなかった。ただ、心のどこかが警鐘を鳴らしていた。あの戦いで相対した“ガンダム”のパイロット。あれほどの男が、そう簡単に俺たちを逃すはずがない――。
「……?」
シーマが、その異変に気づき、イオリの機体の横に並んだ。
「イオリ? どうしたんだい? さっさと帰るよ。」
イオリは答えた。しかし、視線は動かない。
「……いえ、ちょっと……。」
その刹那だった。
彼の視線の先、森の影――リアルツリー塗装のモビルスーツが、木々に紛れて銃口をこちらに向けていた。
――狙っている。
次の瞬間、イオリはシーマ機に体当たりするように突き飛ばした。
「っ……!?」
シーマが目を見開くと、直後――
イオリ機を、眩い閃光が襲う。
直撃。
ビームの光が装甲を貫き、ザクの巨体が硬直し――
「イオリ……?」
一言、シーマが呟く。
それはまるで、音が遠ざかるようだった。
クラウスが、怒号のように叫ぶ。
「射撃位置を特定! 奴を撃てぇ!!」
全機が一斉にビームの飛んできた方向に向けて射撃を開始する。
咆哮と衝撃音が、戦場に再び轟いた。
だが、シーマにはそれらが、まるで遠い世界の出来事のように感じられた。
彼女の視界にあるのは、ただ――沈黙したイオリのザクだけだった。
「……イオリ? なんの冗談だい……? 早く……起きなよ……」
声が震え、次第に叫びに変わる。
「イオリ!!」
その絶叫が木霊しながら、彼女は倒れかけたイオリ機に駆け寄っていく。
ベテランたちは沈黙の中、イオリとシーマの機体を引きずるようにして撤退するしかなかった。
戦場は、再び静寂に包まれていく。
――その少し離れた丘の上。
通信が入る。
「ライリー中佐、報告します。“ヘルウルフ”の撃破、確認しました」
しばしの沈黙ののち、ライリー中佐が応える。
「……そうか。よくやった」
静かに頷くと、彼は振り返り、部下たちに告げる。
「全機撤退するぞ」
その言葉に、ひとりの部下が疑問を口にした。
「中佐、どういうことです?」
ライリーは、冷徹な微笑を浮かべて答えた。
「簡単なことだ。赤い信号弾が上がった時点で、狼部隊がそこに向かうのは明白だった。だからジョゼフ大尉に命じて、狙撃仕様ジムでその撤退路に待ち伏せさせた。隊長格を仕留めろ、とな」
「……だから“『一矢は報いた』”ですか」
「――ああ、その通りだ」
撤退する連邦軍。その背には、淡い夕日が射し込んでいた。
そして森の向こう――狼たちの咆哮は、今は静かに、深い悲しみの中にあった。
イオリ、散る。次回からはシーマが主人公です……
嘘です、ごめんなさい笑
主人公、原作知らなくてガンダムは1機だけだと思ってました笑
イオリはシーウルフ隊の中ではトップクラスに操縦が上手いです。
また強さランキングみたいなの作れたら作るかな。
ちなみにシルバーバレット隊のモビルスーツ構成は敢えて曖昧にしています。(ちらっと考えているのはライリー中佐が搭乗しているのは試作先行量産型ガンダム、その他は試作型陸戦ジムの狙撃、砲撃、重装装備です。……え?史実の量産数に矛盾する?知らん!!笑)
統一しているのはリアルツリー迷彩でバイザーやツインアイは赤色です。
リアルツリー迷彩は気になる方は検索してみてください、マッジで山の中だと、見えないです笑