転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第65話 部隊再始動

薄明かりの差し込む医務室の天井。その白い光の粒が、ぼんやりと揺れる視界に滲む中、シーマ・ガラハウはゆっくりと瞼を開けた。しばしぼんやりと天井を見つめたあと、隣から聞こえた声に、彼女は思わず息を呑んだ。

 

「おはようございます、シーマさん」

 

その声は優しく、穏やかで、けれどどこか照れくささを含んでいた。シーマが目を向けると、そこにはベッドにもたれかかるように座ったイオリがいた。包帯を巻かれた左肩が痛々しくも、彼の笑顔には、昨日の激戦も、流された血も、今は忘れさせるような温もりがあった。

 

その笑顔を見た瞬間、シーマの脳裏に昨夜の記憶が鮮烈に蘇る。

 

——交わした言葉、触れ合った体温、交差する呼吸と、互いの名を呼び合ったあの夜。

 

「……あ、あぁ。おはよう」

と、シーマは言葉を返すが、その頬は見る間に赤く染まっていった。視線を逸らすのが精一杯だった。

 

がさり、と外の廊下から足音と微かな話し声が聞こえ、彼女の全身が反射的に跳ね起きた。

 

「ちょ、ちょっと! アンタ、今何時なんだい!? なんで起こしてくれなかったのさ!?」

 

動揺を隠せない声で叫ぶと、彼女は慌てて乱れた衣服をかき集めた。シャツを羽織るその一瞬、イオリの視界には彼女の白い背に、かすかに残された紅の跡が映り込んだ。

 

それは昨夜、互いの存在を深く刻み合った証。イオリはその光景に、満ち足りたような微笑みをこぼすと、ゆっくりと目を細めた。

 

一方のシーマはというと、軍服の襟元を整えると、すでにあの夜の柔らかな表情は跡形もなく、鋭い眼差しと凛とした立ち姿の“シーマ中尉”がそこにいた。

 

「イオリ、アタシはこれから部屋に戻るけど、アンタはここで安静にしとくんだよ。わかったね?」

 

そう言って彼を見据えるその声には、愛情と不器用な気遣いが滲んでいた。しかしイオリは、そんな彼女の言葉に茶目っ気を交えて返す。

 

「安静なんかいりませんよ、昨日あんなに激しい運動もできましたし」

 

シーマの顔が一瞬で赤く染まり、怒りとも羞恥ともつかぬ表情が浮かぶ。

 

「ア、アンタね……!」

 

言葉の代わりに飛んできたのは、枕でも拳でもなく、深いため息だった。シーマは一拍置いて目を伏せ、真剣な声で続けた。

 

「いいかい? 部隊内の色恋は御法度なんだ。あたしたちは軍人だよ。命令ひとつで死地に赴く立場なんだ。だからこそ……周りにはバレないようにしなきゃいけない。わかってるだろ?」

 

その瞳には、恋に生きる女の柔らかさと、軍人としての厳しさが同居していた。

 

イオリはふっと笑って肩をすくめた。

 

「わかっています。でも……クラウス少佐らにはすぐバレると思いますよ?」

 

その苦笑に、シーマもまた口元を緩めた。

 

「それでもだよ。建前と本音ってもんがあるんだよ、世の中にはね」

 

まるでいたずらを共有した仲間のように、二人は小さく笑い合った——その直後、医務室のドアが開き、背の高い影が差し込んできた。

 

「イオリ、起きてるか……って、なんだもう来ていたのか、シーマ。やけに早いな」

 

クラウス・シュレンケ少佐。長身に堂々たる姿勢、威圧的ではないが圧倒的な存在感を放つ男が、目を細めて言った。その声音には、ただの偶然ではないものを察した微かな笑みがにじんでいる。

 

シーマは一瞬で背筋を伸ばし、まるで罪を隠す子供のように声を張った。

 

「あ、あぁ。たまたまだよ。ほら、イオリの様子が気になってね。ところで、クラウスこそ、こんな早くにどうしたんだい?」

 

クラウスは、わざとらしいほどにニヤリと笑ってみせた。

 

「そうか、たまたまか。……まぁ、いいさ。イオリ、傷の具合はどうだ?」

 

イオリは短く頷いて答える。

 

「はい、まだ少し痛みますが、動く分には問題ありません」

 

クラウスの目が、わずかに鋭さを増す。その瞬間、場の空気が変わった。

 

「よし。なら今からブリーフィングを行うぞ。……本国から新たな情報が入った。それと——俺たちを待ち伏せし、イオリを瀕死に追いやった、あのクソ部隊についてもな」

 

室内の温度が、一瞬にして数度下がったような気がした。空気が、静かに、しかし確実に引き締まっていく。

 

『シルバーバレット隊』——シーウルフ隊の仇敵。名を聞かずとも、その存在を感じただけで、イオリとシーマの内に沸き上がるものがあった。

 

愛し合った夜は終わり、また戦いが始まる。

 

その朝は、静かで、しかし確かに嵐の予兆を孕んでいた。

 

ーーーーーー

 

アルプス基地内のブリーフィングルーム。

無骨な鉄と冷たい蛍光灯に囲まれたその空間に、シーウルフ隊の隊員たちが次々と姿を見せる。ベテランも若手も、階級や年齢を超えた絆で結ばれた精鋭たちの顔ぶれが揃い始める中、今日の空気は、どこか張りつめながらも静かな熱を孕んでいた。

 

中央の最前列には、包帯姿ながらも真っ直ぐ座るイオリ。彼の隣には、凛然とした表情で腰かけるシーマ・ガラハウ中尉が寄り添うように座っていた。イオリを守るような、あるいは誇らしげに見つめる眼差しがある。

 

やがて、背後のドアが開く音が室内に響く。重く、そして威厳を持った足音が壇上へと向かってくる。現れたのは、シーウルフ隊の司令官、ゲルハルト大佐。背筋は伸び、銀髪交じりの髪と鋭い眼差しが、ただそこに立つだけで場の空気を掌握する。

 

大佐が演壇に立ち、マイクに手をかける。ごくりと誰かが唾を飲む音が響いた次の瞬間、ゲルハルトの低く重い声が、ルーム内に静かに、しかしはっきりと響いた。

 

「諸君。まずは、ブリーフィングを始める前に言わなければならんことがある」

 

一瞬の間を置き、大佐は視線を中央の席に向ける。そこに座る青年——傷を抱えながらも、決して折れぬ瞳で前を見据えるイオリへ。

 

「イオリ少尉。無事に戻ってきてくれたことを、心から嬉しく思う。よく、生きて戻ってきてくれた」

 

その言葉に、静まり返っていたブリーフィングルームがふわりと動いた。隊員たちの中に、安堵と喜びの波が広がっていくのがわかる。

 

イオリは、やや照れたように口元をゆるめながら立ち上がる。

 

「……隊の皆さんには、ご迷惑をおかけしました」

 

それは、素直な謝罪であり、そして仲間への深い感謝の言葉でもあった。

 

その瞬間、空気が弾けるように、部屋中から歓声と笑いが巻き起こった。

 

「待ってたぞ!! この野郎!! がははは!!」

 

豪快に笑いながら立ち上がったのは、グスタフ曹長。

頬を紅潮させ、心から帰還を喜ぶように。

 

「これで全員揃ったな」

「あとちょっとで除籍だったな!」

 

続けざまに声を上げたのは、エーリッヒ軍曹とハンス軍曹。

それぞれの声に、安堵と仲間への愛情がにじむ。

 

彼らの声に応えるように、イオリの隣で座るシーマが、そっと目を細めた。

その表情には、誇らしさと喜びが混ざり合い、普段見せる鋭さとは違う、柔らかな温かさが宿っていた。

 

ゲルハルトは一度咳払いをして、軽く手を挙げると、再び場を静めた。

 

「よろしい。イオリ少尉、貴官はまだ完治しておらんだろう。焦るな。しばらくは、ゆっくりすることだ」

 

その言葉に、イオリはすぐさま口を開く。

 

「は、しかし……すぐにでも復帰したいと思います。隊に穴を開けるわけにはいきません」

 

彼の言葉は真摯で、どこまでも真っ直ぐだった。

けれどその横顔を見つめるシーマの表情には、一瞬だけ、誰にも見せぬような不安が浮かんでいた。

まだ完治していない彼を心配するような憂いるような眼差しだった。

 

ゲルハルトはその返答に静かに笑みを浮かべた。

 

「その意気は素晴らしいがな、少尉。……だが、貴官はモビルスーツも無く、どうやって戦線に復帰するつもりだね?」

 

鋭い指摘に、イオリは言葉を失う。先の戦闘で乗機は完全に大破。帰還すら奇跡と呼べる状況だった。言い返せずに黙り込むイオリを見て、ゲルハルトはふっと柔らかく笑う。

 

「なに、そんなに考え込まんでもよい。現在、少尉の新しい機体を手配している。クラウス少佐の機体も修理には手間がかかりそうなのでな、そのついでだよ」

 

安堵と驚きが混ざった表情で、イオリは深く頭を下げた。

 

「……はっ、ありがとうございます」

 

その答えには、感謝と同時に、再び戦うことへの決意が込められていた。

 

「それでは、新たな命令と今後の方針についてはクラウス少佐に説明してもらう」

 

と話すと、演壇から降りる。

すると、演壇の隣で腕を組んでいたクラウス少佐が一歩前に出る。

 

「よし。とりあえず、これで部隊全員揃ったな。……シーウルフ隊、再始動だ」

 

その一声に、隊員たちの眼光が鋭くなる。誰もが、不敵な笑みを浮かべていた。血を分けたわけでもない、家族でもない。だが、戦場で背中を預けるという意味では、何よりも深い絆で結ばれている彼ら。

 

「了解!」

 

その返答が、まるで一つの鼓動のようにルームを震わせた。

 

それは再起の狼煙。

決して折れぬ意志と、確かな仲間の誓い。

シーウルフ隊は今、再び牙を研ぎ澄まし、嵐の中へと進む準備を整えた。

 

ーーーーーー

 

ブリーフィングルームからゲルハルトが退室した後、

艦内ブリーフィングルームの照明が落とされ、薄暗い室内にはモニターの淡い光だけが浮かび上がっていた。そこに映し出されるのは、深い森に同化するようなリアルツリー迷彩を纏った複数のモビルスーツ。無機質な映像であるはずなのに、そこには静かな狂気と殺意が滲んでいた。

 

その前に立つクラウス少佐は、軍服の襟元を指で整えながら、忌々しげに映像を指差した。

 

「コイツが、俺たちを待ち伏せた連邦のモビルスーツ隊だ。ご丁寧に、自分たちの部隊名まで名乗ってくれた。銀の弾丸……“シルバーバレット隊”だとさ」

 

彼の声音には憤りだけでなく、どこか冷たい皮肉が混じっていた。その場にいる誰もが、一度はその名を心の奥で反芻する。“シルバーバレット”──イオリを瀕死に追いやった、謎の敵部隊。

 

モニターには、静止画から切り替わり、戦闘中の映像が流れる。閃光のように走るビーム、木々をなぎ倒す推進炎、そして──イオリの機体が被弾し、倒れ込む瞬間。音はないのに、まるで爆音が耳に響いてくるかのようだった。

 

「こいつらはビーム兵器を常用している。その破壊力は……ここにいる全員が、嫌というほど知っているだろう」

 

クラウスの言葉に、室内の空気が重くなる。冗談すら口にできないほどの沈黙が、部隊員たちの表情を引き締めていた。

 

「加えて、これは単なる試作じゃない。既にある程度の量産体制が整っていると見て間違いない。つまり、連邦は本気で俺たちを排除しに来ている。なぜか? 答えは単純だ──」

 

クラウスは一拍置いて、部屋中を見渡す。

 

「重力下での戦闘において、我々は連邦にとって“脅威”になった。それだけの話だ。……だが、黙ってやられっぱなしでいいのか?」

 

その言葉に、鋭く火が点いたように部隊員たちの目が光る。

 

「俺たちに与えられた新たな任務は、シルバーバレット隊を見つけ出し、撃破することだ」

 

数秒の沈黙の後、グスタフが拳を叩きながら叫んだ。

 

「よっしゃあ!やり返してやろうぜ!!」

 

続いて、エーリッヒの落ち着いた声が響く。

 

「イオリの敵討ちだな」

 

その瞬間、どこからともなく笑い声が混じる。だがそれは冷笑ではない。戦友への敬意と想いが入り混じった、心からの声だった。

 

イオリはすかさず言い返す。

 

「俺はまだ死んでませんよ」

 

室内が笑いに包まれ、一瞬だけ、戦争の重苦しさを忘れさせるような温かさが流れる。

シーマはその隣で微笑み、少しだけ目を細めた。誇らしげで、そして少し安心したように。

 

クラウスは笑いが静まるのを見計らい、再び口を開いた。

 

「補足だが、宇宙攻撃軍の特務部隊が、これとは別に連邦の新型艦とモビルスーツに関係する開発拠点──コロニーを襲撃したそうだ。だが、破壊には至らなかった。それどころか、甚大な損害を受けて撤退を余儀なくされた」

 

「今もその新型艦を追っているようだ。そしてその新型艦はこの地球に向けて進んでいるそうだ。恐らく、ジャブローに入るつもりなのだろう」

 

その言葉に、イオリは表情をわずかに引き締めた。

 

(原作は、もう動き始めている……。シャア、そっちは大丈夫か?)

 

遠くを見つめるような眼差しで思索に沈むイオリに、グスタフが現実に引き戻す。

 

「でもよ、隊長。どうやってそのシルバーバレット隊を見つけ出して、殲滅するんだ? 隠れんぼするにはうってつけの迷彩だぜ、あれは」

 

クラウスはわずかに笑いながら、しかし真剣なまなざしで答える。

 

「居場所は不明、行動パターンも不定。だから俺たちは……いつも通りだ。必要とされる戦地に出向き、戦果を上げる。そうして“餌”を撒く。奴らが喰いついてきたら……その時が決戦の時だ」

 

グスタフが苦笑する。

 

「先は長ぇな、こりゃ……」

 

「それでもやるしかない。今のところ、出動命令は来ていない。各員、訓練を怠るな。力を蓄えておけ。以上、解散」

 

クラウスの一声で、ブリーフィングは終了し、隊員たちは次々に席を立つ。空気は決して軽くはない。だが、確かに“戦う意思”は共有された。

 

退室しようとしたイオリとシーマを、クラウスが呼び止めた。

 

「イオリ、ちょっといいか?」

 

「なんです? 隊長」

 

「今からお前は俺と艦長のところへ行く」

 

「……? はい、了解です」

 

疑問を感じながらも素直に従うイオリ。そんな彼の肩を、シーマがぽんと叩く。

 

「じゃあ、アタシは先に戻ってるよ。……イオリ、後でね」

 

その柔らかな声音に、イオリは思わず微笑みを返す。

 

「ああ、また後で」

 

ふたりが交わした何気ないやりとりに、確かな感情が宿っていることをクラウスは見逃さなかった。シーマが部屋を出た後、クラウスは静かに口を開いた。

 

「……大事にしろよ。その気持ちが、お前を戦争から救ってくれる」

 

イオリは驚いたように目を見開き、そして静かに──しかし力強く、頷いた。

 

「はい。もちろんです」

 

その声には、シーマへの想いだけでなく、今背負っている仲間たちへの誓いが込められていた。

 

クラウスは黙ってその背中を見つめ、そして小さく笑うと、共に艦長室へと歩き出した。

 




アンケート結果ですが、みなさん長いものが結構お好きなようで笑
頑張ってある程度は書いてみますー!!

もしも、シーウルフ隊の隊長が、変わるなら?

  • グスタフ曹長
  • ハンス軍曹
  • エーリッヒ軍曹
  • イオリ
  • シーマ
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