転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第66話 新しい相棒

艦長専用の執務室。その重厚な扉の前に、クラウスとイオリの足音が止まる。艦内の騒音とは一線を画す静けさの中で、イオリが一歩前に出て、静かに扉をノックした。コン、コンと響く音。すぐに、中から低く落ち着いた声が返ってくる。

 

「――はいれ」

 

その声に従って、クラウスとイオリは揃って一礼しながら中へ入る。

 

「失礼します」

 

室内には、木目調の家具が整然と並び、窓越しに基地内の滑走路から飛び立つ機体やモビルスーツ達が見えていた。

その中央、デスクの奥に立つ男――ゲルハルト大佐が、静かな微笑みを湛えて彼らを迎える。

 

「来たか、待っていたぞ」

 

ゲルハルトは僅かに笑みを浮かべて二人を迎える。クラウスがすぐに口を開いた。

クラウスが一歩進み、軽く肩を竦めて言った。

 

「お待たせしたようで、申し訳ありません。それで? 私とイオリを呼んだ理由をお聞きしても?」

 

ゲルハルトは頷き、手を差し出す。

 

「うむ。まぁ、まずは座れ」

 

部屋の一角に据えられた応接用のソファ。クラウスとイオリが腰を下ろすと、ゲルハルトも向かいの席に深く腰掛け、両手を組んで前に置いた。

 

「二人を呼んだのはな……先ほども言ったが、少佐と少尉の“新機体”についてだよ」

 

その言葉に、イオリの背筋が僅かに伸びる。思わず息を呑み、胸の奥にくすぶる疑問が顔を覗かせる。

 

(申請したとは言っていたが……まさか、もう届くのか?)

 

クラウスはそれを察したように、肩を揺らして笑った。

 

「やけに早いですな」

 

ゲルハルトも、それに釣られるようにして目尻を下げた。

 

「なーに。君たちが基地に帰還したその足で、すぐにケラーネ少将に申請しておいたまでだよ」

 

その言葉に宿っていたのは、ただの希望ではない。ゲルハルトの声には、イオリが死なないと確信していたという、確固たる信頼が込められていた。

 

「……は、ありがとうございます」

 

ゲルハルトは一瞬だけ戸惑うように笑みを見せると、表情を少し引き締めた。

 

「しかしな、少佐には申請した新型が支給されるそうだが……イオリ少尉。貴官には少し“異質な”機体が支給されるらしい。どうやら、ケラーネ少将が何らかの手回しをしたようだ」

 

その言葉に、イオリの眉がわずかに寄る。

 

「異質な……?」

 

ゲルハルトは頷きながら、語気を少し落とす。

 

「敵指揮官に大打撃を与え、部隊を無事に脱出させた。それに対する“褒賞”だそうだよ。機体はオデッサ基地からすぐに届く。しばらくは、その機体の慣熟訓練を行いたまえ」

 

その内容に、クラウスとイオリは背筋を正して同時に返答した。

 

「――は、了解しました」

 

執務室を出た二人は、しばらく無言のまま基地内の通路を歩く。地面を踏みしめる靴音だけが、静かに響く。

 

やがてイオリが、ぽつりと疑問を口にした。

 

「艦長をして“異質”って……どんな機体なんでしょうか」

 

クラウスは肩をすくめると、笑いながら答える。

 

「さぁな。恐らく、どの枠にも収まりきらんような機体なんだろうよ。だが、連邦の凄腕指揮官を手玉に取ったお前には、案外うってつけかもしれんぞ?」

 

「……やめてくださいよ。俺なんて、まだまだです」

 

イオリが苦笑するように首を振る。

そんな彼の態度を柔らかい笑みを携えながらクラウスは見る。

 

「ま、とりあえず。その機体が来るまでは大人しくしておけよ」

 

「分かってますよ」

 

2人は他愛の無い会話をしながら通路の奥へと消えていく。

 

ーーーーーー

 

アルプス基地の格納庫は、夜にもかかわらずわずかな照明が灯され、静けさに包まれていた。

整備員たちの手を離れたその空間には、金属とオイルの匂いがかすかに漂い、どこか無機質で冷えた空気が流れている。

しかしその片隅に佇む一機のモビルスーツが、その場にだけ、時間の流れを止めているかのような重みを宿していた。

 

イオリはゆっくりと歩を進め、その機体の前に立つ。

――かつて自らの命を預けた、愛機のザク。

戦場で幾度も共に死線を越えた相棒は、今やボロボロの姿を晒していた。装甲のあちこちが焼け焦げ、衝撃に耐えた金属はねじれ、特にコックピット付近には決定的な損傷があった。

ビームによる貫通痕が、まるで巨大な爪で引き裂かれたかのように装甲を抉り、周囲を融解させていた。

 

イオリは無言のまま、その足元に近づき、静かに手を伸ばした。

ひび割れた金属の肌に触れた指先に、ひんやりとした冷たさと、そしてそこに刻まれた戦いの痕が伝わってくる。

 

「……よく、戦ってくれたな。相棒……感謝するよ。もっと……もっとお前には乗っていたかった」

 

声はかすかに震えた。

誰にも聞こえないように、しかし確かに心からの言葉として、その一言が格納庫の静寂の中に吸い込まれていく。

ふと、イオリの視線が足元に落ちる。

そこには灰色の金属片が転がっていた。

手に取ると、それは装甲の一部――幾度もの被弾や整備で脆くなり、とうとう剥がれ落ちた欠片だった。

 

イオリはそれをそっと見つめ、小さく笑う。

そして、まるで形見のように、それを軍服の胸ポケットへとしまった。

その行動には言葉にならない思いが込められていた。

共に生き延びた記憶、分かち合った恐怖、そして信頼。それらすべてが、今やこの一片に凝縮されているようだった。

 

その時、不意に背後から優しい声が聞こえた。

 

「イオリ? なにしてんだい? 食堂に早く行くよ。部隊のみんなは先に行ったよ」

 

その声に、イオリは振り返る。

振り向いた先には、格納庫の入り口から微笑みかけてくるシーマの姿があった。

戦場では冷酷に見える彼女も、今はどこか柔らかく、そして温かい表情を浮かべていた。

 

イオリは頷き、寂しげな笑顔を浮かべて言った。

 

「今行きますよ……シーマさん」

 

その呼び方に、シーマは小さく肩をすくめて苦笑する。

 

「アンタね、基地の中じゃちゃんと“階級”で呼びな」

 

そう言って、彼女もまた笑った。ふたりはゆっくりと歩き出す。

その歩幅は自然と揃い、寄り添うように、格納庫の扉へと向かっていく。

 

照明の下、イオリの背中は少しだけ軽くなったように見えた。

あの日の激戦を越えた今、彼の歩みには確かな覚悟が滲み出ていた。

 

その光景を、傷つき、立ち尽くすザクが黙って見送っていた。

まるで、役目を果たした老兵が静かに舞台を降りるように。

もはや動かぬその鉄の躯は、何も語らず、ただ静かに、誇らしげに、イオリたちの姿を見つめていた。

 

そして、格納庫の扉が閉まるその瞬間、ほんの一瞬だけ――ザクの装甲がわずかに軋み、別れの言葉を口にするかのような音を立てた。

 

夜の静寂に包まれて、ザクは再び、永い眠りへと落ちていった。

 

ーーーーーー

 

アルプス基地に吹き込む風は、柔らかく、だが山嶺を抜けてくる冷気がまだ肌を刺すような、そんな季節の狭間だった。

 

医務室の一角。窓から差し込む自然光が、白く整えられた室内に淡く溶けていた。

イオリは椅子に座り、軍医の手によって包帯を丁寧に巻き替えられていた。

傷口は、幾重もの死線をくぐり抜けてきた兵士の証。 

だがその痛々しさにも、ようやく癒えの兆しが見え始めていた。

 

「うん、ある程度、傷は塞がってきているね。火傷の方も、だいぶマシになってきた」

 

軍医がそう告げると、イオリのすぐ横に立っていたシーマがほっと息を吐く。

彼女の表情には、部下や仲間を見る上官の顔ではなく、一人の人間として、大切な誰かを案じる優しさが浮かんでいた。

 

「よかったじゃないか、イオリ」

 

柔らかく微笑む彼女に、イオリもわずかに笑みを返す。

 

「ええ……今は、だいぶ動けるようになってきました。……ところで先生、いつから作戦に参加できそうですか?」

 

その言葉に、軍医は小さく眉をひそめながらも答える。

 

「そうだね……もうあとしばらくだ。ほとんど治ってはきている。軽い訓練くらいなら問題ないだろう。でも完治までは……あともう少し、我慢してくれ」

 

それを聞いたシーマがすぐさま口を挟んだ。

 

「そうだよ、イオリ。ちゃんと完治させなきゃ……復帰も、余計に遅くなるよ」

 

その声には、彼女にしては珍しい、やや切羽詰まったような調子が混じっていた。

イオリが無理をすることを、彼女は何よりも恐れている。  

それを察したイオリは、苦笑しながら言葉を続ける。

 

「分かってはいるんですけど……自分がいない間に、部隊がシーマ中尉が作戦に出動するのは……嫌なんです」

 

その言葉に、シーマは言葉を失ったように、ただぽつりと――

 

「……イオリ」

 

と、その名を呼ぶに留めた。

 

そのとき――

 

突如、遠くから重厚なエンジン音が基地全体に響きわたる。

イオリとシーマが窓の外に目を向けると、滑走路に一機の大型輸送機が降下していた。

機体の後部がゆっくりと開き、シートに包まれた巨大な物体が二つ、慎重に格納庫方面へと運ばれていく。

 

同時に、基地内に緊張感のあるアナウンスが響き渡った。

 

『シーウルフ隊は、格納庫に集合せよ』

 

その声を聞いたイオリとシーマは、静かに目を合わせ、軽く頷き合うと、医務室を後にした。

 

ーーーーーー

 

格納庫へ到着したときには、すでにシーウルフ隊の面々が整列していた。クラウス少佐が一歩前に出て、いつもの軽妙な調子で迎える。

 

「おう、やっと来たな。大佐が申請していた機体が到着したようだ」

 

その言葉に、ハンスとエーリッヒがからかうように声を上げた。

 

「またまた仲良く登場かー?」

 

「まったくアツいねー。火傷しちまいそうだよ、こっちが」

 

シーマは鋭い目線を2人に向けると、容赦なく言い放つ。

 

「うるさいね。蹴っ飛ばすよ?」

 

すかさず沈黙する2人に、小さな笑いが起きた。そこへ、シートに包まれた2機のモビルスーツが、格納庫の中心へと運ばれてくる。

 

「おぉ、やっと来たな新型とやらが」

 

整備長のクルトが目を細め、ニヤリと笑う。グスタフが腕を組みながら言う。

 

「どんな機体なんだろうな……ザクの改良型か?」

 

そこへ、場の空気を一変させるように、一人の女性士官が進み出た。

秘書の制服を凛と着こなしたその姿は、背筋が伸び、どこか厳格で、そして美しかった。

 

「私は、ケラーネ少将の秘書を務めております。シンシア、階級は大尉です。今回の新型機支給に伴い、その説明に参りました」

 

その毅然とした声と態度に、ざわりと感嘆の空気が流れ、どこからか口笛さえ飛んだ。

 

イオリが無言でその姿に見入っていると、突然、足元に電撃のような痛みが走った。

 

「……イッ!?」

 

足元を見ると、隣に立っていたシーマが、彼の足に踵を落としていた。

横目で鋭く睨む。

 

「ふんっ。何見惚れてんだい」

 

イオリは苦笑しながら答える。

 

「ただ見ていただけですよ」

 

「……どうだかね」

 

やり取りをよそに、クラウスがシンシアの前に進み出て礼を述べる。

 

「これはわざわざありがとうございます。閣下には、ぜひ感謝をお伝えください」

 

「いえ、閣下からは『シーウルフ隊の要望通りに機体を揃えた』との伝言を預かっております。それと――イオリ少尉は?」

 

イオリは背筋を伸ばし、一歩前に出る。背後から感じる熱い視線を意識しながら。

 

「は、私がイオリであります」

 

シンシアは彼を一瞥し、やや感心したように頷く。

 

「へぇ……あなたが。噂は聞いておりますよ。部隊を逃すために、獅子奮迅のご活躍だったとか」

 

イオリは謙遜するように首を振る。

 

「いえ、自分は、部隊を助けるために必死だっただけです。それに結局……自分は重傷を負い、機体もダメにしてしまいました」

 

「それでも活躍は活躍です。閣下も、あなたには大いに期待しているようですよ」

 

柔らかな微笑みに、イオリの心は一瞬だけ波立つ――が、すぐ背後に立つシーマの鋭い気配で、現実に引き戻された。

 

クラウスがそれを見て、苦笑しながら話題を転じる。

 

「では、大尉。支給される機体を見せていただいても?」

 

「もちろんです」

 

シンシアが合図を送ると、整備兵たちが素早くシートを外していく。

まず姿を現したのは、重厚なフォルムを持つ機体――その左腕に装備されたガトリング砲と盾が特徴的な、まさに新たな戦場の牙。

 

「この機体はMS-07B3《グフカスタム》です。既存のグフに多環境適応性を加え、戦闘継続能力を強化したものです。貴隊が現地で自由にカスタムできるよう、内部構造も改良されています」

 

それを見たハンスが、感嘆の声を上げた。

 

「ほぉ~グフカスタムね。黒く塗られてるし、隊長の機体で間違いねぇ。で、もう一機の……灰色の機体はイオリのか? でも、見たことねぇな、あれは」

 

そこに立っていたもう一機――その機体は、既存のどのMSとも似ていなかった。

重厚な装甲、膨大なスラスター、そしてどこか「獣」を思わせるような威圧感を持っていた。

 

「この機体は、MS-08TX《イフリート》です。ジオン公国軍地球侵攻部隊が独自に開発した特殊機で、大推力スラスターによる急速接近からの格闘戦を主眼としています。量産には至らなかったものの、閣下はイオリ少尉の近接戦闘能力に注目し、この機体の支給を決定しました。専用武装も付属しますが、現地で自由にカスタムしてよいとのことです」

 

イオリは、灰色の巨躯を見上げた。そのシルエットは、戦場の鬼神を彷彿とさせる。焼け落ちたザクの代わりに、新たな戦場を共に駆ける機体――

 

その存在に、イオリは静かに語りかけるように呟いた。

 

「イフリート……こいつが、俺の新しい相棒か」

 

その言葉には、戦場に戻る覚悟と、新たな戦いに向けた決意が込められていた。その傍らで、シーマが静かに彼を見つめていた――何かを言おうとして、言葉にならないままに。

 

彼らはまた、新たな戦火へと歩みを進める――それぞれの想いと、新たな機体と共に。

またまた好きなキャラ

  • 主人公
  • ジーク!シーマ!!
  • クラウス少佐
  • ハンス軍曹
  • エーリッヒ軍曹
  • グスタフ曹長
  • カール二等兵
  • エリック伍長
  • クルト整備長
  • ゲルハルト艦長
  • アサクラ泣
  • 名も泣き男(殺し屋)
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