転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
アルプス基地・訓練区域――
アルプス山脈のふもとに築かれたジオン軍の山岳基地。
冷え込むその空気を、モビルスーツの咆哮が破っていた。
訓練区域。
人工的に整備された岩場に、模擬標的が点在する。
そこで一機のザクIIが、砂煙を巻き上げながら軽快な動きを見せていた。
コックピット内では、若き新兵が笑みを浮かべていた。
「……ふん、こんな訓練、退屈すぎるな。戦車でも戦闘機でも、俺の敵じゃなかった。こんなザクじゃ、俺の腕に釣り合わねえよ。はやく新型が支給されねーかな」
彼は、つい先日配属されたばかりだった。
しかし、初陣では敵の戦車部隊を一掃、空中戦では戦闘機を二機撃墜。
その戦果から、周囲も彼を“逸材”と噂し始めていた。
そして彼自身も、それを疑っていなかった。
「いずれはエース部隊の隊長だ。この程度の奴らと一緒にされちゃ、困るんだよな……」
だがその自信に満ちた独白を、鋭い通信が打ち砕く。
『聞こえてんだぞ、ガキが。ほざくのは結果出してからにしろ。お前みたいな奴、腐るほど見てきた』
小隊長の声だった。声の向こうにある憤りは、厳しさというより、現実の重みを知る者の警告だった。
「ちっ……だから古株は嫌なんだ。過去の栄光にすがるだけの奴が、俺を理解できるわけが……」
言いかけた彼の視線が、ふと基地ゲートへと向かう。
――そこに、異質な影が現れた。
最初に見えたのは黒。一面を漆黒に染めた機体が、ゆっくりとゲートから進入する。両肩のスパイク、腰に装備されたヒートサーベルからして明らかに新型の機体であった。
「……なんだ、あれ…グフってやつか…?」
だが、それはほんの序章だった。
黒いグフカスタムの背後から、次々と現れる機影。
紫に黄土色のザク、灰色の異形そして、肩に黒のマーキングを施された2機のザク。
彼らに率いられるように次々に現れるザクの集団。
次の瞬間だった。黒い機体が腰のヒートサーベルを掲げた――その動きは、まるで指揮官が剣を掲げるような威厳を宿していた。
そして、ゆっくりと振り下ろし前方をサーベルで指す。
その刹那。
全機のスラスターが同時に咆哮を上げた。
大地が震えた。
爆音とともに、彼らは訓練場の空気を切り裂き、一気に前線へと躍り出る。
まるで編隊飛行のような統制と速度。
無駄のない動き。
数秒前までの静寂は、爆発の連続と衝撃音にかき消された。
「ッ……!?」
驚愕が、新兵の全身を貫いた。
中でも――灰色の異形。
機体サイズはザクと同程度、しかしそのブースト出力と運動性能は、常識を逸脱していた。
一瞬の加速で標的に肉薄し、右手に構えたヒートソードで一刀両断。
その軌道は流麗にして正確、まるで舞を舞うかのような美しさがあった。標的が破裂するより早く、機体は旋回。
左腕から放たれたショットガンが別の標的を粉砕した。
「……化け物……か……?」
恐怖と、尊敬と、嫉妬がないまぜになった言葉が、漏れる。
続く機体もまた異様だった。
紫と黄土色のザクが灰色の機体に食らいつき、取りこぼした標的をまるで“掃除する”ように刈り取っていく。
加速、攻撃、停止、旋回……どれも無駄がなく、一瞬で次の標的へと接近するその様は、戦場の“獣”としか言いようがなかった。
グフカスタムは、ヒートワイヤーで標的を絡め取り、強引に接近。
左腕のガトリングシールドが火を噴き、標的が塵と消える。
轟音と爆光の中、その機体はブレることなく次の標的へと向かっていた。
そして肩に黒の印を刻む2機のザク。彼らはまるで心を通わせるように互いをカバーし、小隊ごとに前進する。
一つの小隊が撃ち、もう一つの小隊がそれを支え、進路を開きながら正確無比な射撃を加える。
その一挙手一投足に、新兵の目は釘付けだった。
「な、なんだよ、あいつら……ただの訓練だろ……?」
だが、彼らの動きには“本物の死線”の気配があった。
模擬戦とは思えぬ殺意と緊張。
己の命と仲間の命を守るという覚悟が、全ての動作に宿っていた。
小隊長が呟くように言った。
「……あれが、“シーウルフ”。ジオンが誇る特殊海兵隊だ。この重力戦線で初めて敵モビルスーツ部隊とやり合った連中だ。しかも、犠牲を出さずに、敵モビルスーツを複数機撃破した上で、見事生還した」
「シー……ウルフ……?」
「お前がいくら戦車を壊そうが、空を飛ぶ鉄屑を落とそうが、あいつらの中じゃ鼻で笑われるだけだ。勘違いするなよ。お前なんざ、あの中じゃ補欠にもなれねえよ。『エース』だ? そんな肩書き、あの灰色の機体のパイロットには通じねえ」
新兵の背筋に、冷たい汗が伝う。
「イオリ少尉。味方部隊が撤退する為に活路を開き、撤退する部隊を援護する為、敵モビルスーツ部隊の指揮官と互角以上に渡り合った奴だ。敵部隊がその名を聞けば震える“ヘルウルフ”さ」
「……」
新兵は拳を握りしめた。その悔しさは、ただの嫉妬ではない。自分が本当の戦場を知らずに、“強さ”を語っていたことへの羞恥だった。
そのとき、灰色の機体――イオリのイフリートが、ゆっくりと振り返った。
モノアイがこちらを見た――そう感じた。
光ではない。瞳だった。
鋼鉄の奥に、確かに宿っていた“覚悟”。
誰かを守るために、自分を燃やし尽くす覚悟。
生きて帰るという誓い。
そして――仲間と生きるという、意志。
その視線が、新兵の中にあった“傲慢”を、音もなく砕いていった。
(……あれが……本物の“パイロット”……)
その日、新兵の中で何かが崩れ、何かが芽生えていた。
ーーーーーー
澄んだ山岳の空気に、戦場の残り香のような熱気が漂っていた。白銀の峰々が陽光にきらめくその谷間、訓練場の静寂を破るのは、モビルスーツの駆動音と、模擬弾が標的に命中する鋭い炸裂音。それは、まるで戦場の亡霊が、ここに在る者たちに問いかけるかのようだった。
そんな中、低く響き渡る声があった。
「――よーし!訓練はここまでだ!!」
クラウス少佐の号令。
それは、戦場の終息を告げる鐘の音のように、鋭く、確かに全機の神経を引き戻した。
その瞬間、まるで糸が張り詰めた弓から放たれるように、モビルスーツたちが一斉に機動を収束させ、ぴたりとクラウス機の元に集結する。
どの機体にも疲弊の色は見えず、それどころか、苛烈な訓練の後とは思えぬほど統率のとれた動き。
これが、“シーウルフ”と呼ばれる精鋭の所以だった。
クラウスのグフカスタムが小さくうなずく。
通信回線が開かれ、その低く力強い声が機内スピーカーに響いた。
「――全員、いい動きだったぞ」
その言葉は、誰よりも戦場を知る男の評価であり、誇りだった。
兵たちの胸に、無言の光が灯る。
すると、やや茶化すように、ハンスが笑いながら言葉を乗せた。
「隊長こそ、新しい機体なのによくそこまで使いこなせますね」
新たに配備されたグフカスタム―クラウスの腕なら当然と言えるが、それでもあれだけの機動を見せるのは尋常ではない。
するとすかさず、通信に割って入る渋い声。
「馬鹿野郎、隊長はお前と違って機体の特性を熟知してから訓練に臨んでんだよ」
それはグスタフの声だった。
長年の相棒として、誰よりもクラウスの努力と下調べを知る男の言葉だった。
クラウスは、そのやり取りに笑いを漏らしながらも、すぐに別の名を口にした。
「俺のことより、イオリだ。イオリ、その機体はどうだ?」
問いかけられたイオリのイフリートが軽く姿勢を正す。
その灰色の機体には、猛る炎を内に宿すような静かな気迫が漂っていた。
「そうですね……この機体、イフリートは相当なじゃじゃ馬ですよ」
コックピットの中、イオリは苦笑して答えた。
「スラスターの出力が高すぎて、ザクみたいに踏み込むと過剰に前に出すぎてしまう。でも、レスポンスは驚くほど素直です。こっちが思った通りに反応してくれる。ちゃんと乗りこなせれば――この機体、化けますよ」
そして、彼の言葉には、確信に満ちた熱が宿る。
「――使いこなしてみせますよ」
その瞬間、誰よりも長く彼を見てきたシーマの心に、ひとつの“安心”が灯った。
(身体は問題なく動いてるようだね)
その一方で、カールが訓練の疲れを笑いに変えるように大げさに肩をすくめた。
「いやー、でも、早すぎるっすよー。ついて行くのに精一杯っす!」
するとエリックが笑いながら頷く。
「たしかに。我々はいつも以上に踏み込みをキツくしないといけませんね。まあ、訓練あるのみです」
仲間たちの言葉が、戦場の緊張を解きほぐす。
だが、そこへさらに茶々を入れる二人――ハンスとエーリッヒが、何やら意味ありげにニヤつきながら声を重ねた。
「でもよ、そんな早い少尉さんに、ある人はその背中にべったりだったぜ?」
ハンスが。
「うんうん、まるで寄り添うように、そのそばにいたなぁ」
エーリッヒが続ける。
その瞬間、全員の通信に鋭い舌打ちと共に、あの女の声が割って入った。
「ふん、アンタらが遅すぎて、イオリが孤立しないようにしてるんだろ? ふざけた事言う前に腕を磨いたらどうなんだい?」
シーマの鼻を鳴らす声音には、どこか照れ隠しのような微妙な揺らぎもあったが、それを突っ込む者はいない。
「おぉー、怖い怖い……」
「さっさと逃げよ……」
ハンスとエーリッヒはおどけて笑いながら反応し、部隊全体に和やかな空気が広がった。
そんな空気を一喝するように、クラウスが号令を発する。
「よし、全員格納庫に戻り、機体のチェックに入れ。イオリはその機体のカスタムについて、クルトに話を詰めておけ」
「了解!」
全員の応答が、次なる行動への切り替えを告げた。
ーー格納庫・整備区画ーー
訓練を終えた機体が順に収まり、広大な整備区画に戻ると、モビルスーツの装甲を撫でるような作業音が響く。
その一角、整備主任クルトは、いつものように酒瓶を片手に腰掛けていた。
「おう、どうだ、新しい機体は」
声は飄々としていたが、その目は確かに機体の様子を観察していた。
「はい、かなりのじゃじゃ馬ですよ」
イオリが口を開く。
「コイツのカスタムについて話をしたくて来ました」
クルトは鼻で笑いながらうなずく。
「お?なんだ、言ってみろ。可能な限り応えてやるよ。まあ、飲みながらな」
するとすかさず、隣のカールが口を挟んだ。
「どんな感じにするんすか? 重装甲にするとか、肩にキャノンを載っけるとかっすかね?!」
興奮気味に目を輝かせるカール。その隣で、エリックが冷静に言葉を返す。
「いや、少尉はヒートホークに変えるんじゃないのか? あれの方が慣れてるし、格闘戦では有利だろ」
イオリは、そのふたりを見て、苦笑しながら首を振る。
「残念、2人とも違う。重装甲やキャノンは確かに魅力だが、それじゃこの機体の俊敏性が台無しになる。ヒートホークも悪くないが、接近戦で重要なのはリーチだ。だから武装は今のまま、ヒートソードをつかう」
一瞬、静かになる整備室。
その言葉に、誰もが納得しつつも、次の一手を待つ。
クルトが目を細める。
「……じゃあ、何しようってんだ?」
イオリは少し間を置いてから、静かに言った。
「実は、つけて欲しい機能があるんですよ。それは――」
言い終えた直後、クルト、カール、エリックの三人は顔を見合わせる。
「お前らしいな」
とクルトが笑いながら答える。
「あぁ、それとな。コイツを持って来たシンシア大尉が言ってたんだがな。このイフリートってやつは生産機数が本当に少ないらしい。それこそ、指折り数えれるくらいな。だから、各機体には固有の名前が付けるのが普通らしいぞ。お前もなんか考えとけよ」
とクルトが思い出したように告げる。
イオリは
「名前…ですか。分かりました考えときます」
と頷き、イフリートを見上げる。
これから始まる“改修”の未来が、確かな輪郭を持ち始めていた。
この“じゃじゃ馬”は、まだ真の力を見せてはいない。
だが、これからそれは、イオリの手によって“戦場を踊る魔獣”へと――進化を遂げるのだった。
ーーーーーー
訓練終了後、イオリの部屋には静寂が戻っていた。
薄暗い照明の下、彼は机に肘をつき、目の前の分厚い戦技マニュアルを真剣に読み込んでいた。
ページを繰るたび、イフリートの挙動、スラスター制御、重量配分、応答速度などが頭の中で緻密に構築されていく。
癖のあるこの新型機を、文字通り手足のように操るためには、機体のことを「知る」必要があった。
そして、知ることで自信が生まれ、仲間を守れる力になる。
それがイオリの信念だった。
──不意に、ブザーが鳴った。
「……?」
思考の深みにいた彼は、一拍遅れて顔を上げ、扉のスイッチを押す。
そして、現れた人物に息を呑む。
「……シーマさん……」
そこに立っていたのは、制服の前を少し開けたままのシーマだった。
凛とした彼女の雰囲気はそのままに、わずかに乱れた服装がどこか艶を帯びている。
無防備にあらわとなった胸元に、イオリの視線が思わず吸い寄せられてしまう。
シーマはその視線に気づき、唇の端をゆるく持ち上げて言った。
「どこ見てんだい?別に見たって構わないけど、場所を考えてくれるかい?」
はっと我に返ったイオリは、辺りを見回し、通路であることを思い出して真っ赤になる。
「し、シーマ中尉!早く入ってください!」
彼は慌ててシーマの手を引き、自室の中へと招き入れた。
「なんだい?強引だね。……嫌いじゃないよ、そういうの」
と、彼女は愉快そうに笑いながら中に入った。
イオリは困惑と羞恥を交えながらも、つい怒ったように言う。
「シーマさん!基地の中をそんな格好で歩かないでください。誰が見てるかわからないんですよ!」
それに対し、シーマはおかしそうに肩を揺らした。
「ハハハ!なにをそんなに必死になってるのさ。部屋の前でだけ開けたんだよ。……冗談、ってやつさ」
イタズラに成功した少女のような笑顔。
そのあまりの無邪気さに、イオリは力が抜けたようにため息をついた。
「はぁ……まったく、からかわないでくださいよ」
「はいはい、ごめんよ」
シーマは言いながら、手に持っていた缶を差し出した。
「ほら。こん詰めてやってると、パンクするよ。息抜きしな。冷えてるから、ちょうどいい」
イオリは缶を受け取り、少し笑った。
「ありがとうございます」
その一言が、ありきたりの礼ではなく、どこか深く、温かい。
シーマはふっと視線を逸らすと、踵を返して出て行こうとする。
「じゃ、アタシは邪魔しないように帰るとするよ」
だが、イオリはその背に静かに呼びかけた。
「シーマさん、もし時間があるなら……ここにいてくれませんか?」
シーマの動きが止まった。
振り返った彼女は、真剣な瞳でこちらを見つめるイオリに、言葉を詰まらせる。
数秒の沈黙。やがて、ほんの少しだけ顔を赤らめて答える。
「……そ、そうだね。少しだけ……ね」
二人は並んでベッドに腰を下ろす。沈黙の中、距離は自然と縮まっていった。
「それで、どうだい?新しい機体は」
と、シーマが柔らかく問う。
イオリは少し空を見上げるような目をして、語り始めた。
「……まるでバケモノですよ。スラスター出力がザクの1.5倍はあります。踏み込みをミスれば、一気に前に出すぎてしまう。でも……」
そこで一拍置き、口元を緩める。
「楽しいんです。素直で、強くて、応えてくれる。まるで、生きてるような機体ですよ」
「ふふ、そう……でも、今日の訓練では、もう乗りこなしてるように見えたけどね?」
「いえ……まだまだですよ。俺の踏み込みは甘すぎる。あの機体は、もっと速く動けるはずです。性能を引き出し切らなきゃ……アイツらには、勝てません」
イオリの目に宿るのは、覚悟だった。
ただの操縦士のそれではない。
仲間を守る者としての、責任と信念の瞳だった。
その目を見て、シーマの表情が曇る。
「イオリ……言っておくけど、無茶はしないでおくれよ。アタシたちは部隊、家族なんだ。アンタ1人で背負い込むことはない」
その言葉には、戦友としての思いだけでなく、もっと深い、胸の奥の叫びが込められていた。
イオリは一度うなずき、はっきりと口にした。
「大丈夫です。皆には、シーマさんには……もう、心配はかけません」
その言葉の重みが、シーマの心の奥に染み込んでいく。彼女はそっと体を預けるように、イオリにもたれかかる。
「……もう嫌なんだよ。あんな気持ちになるのは……アンタが、目を覚ますのを、待つのは……」
小さな声。それでも確かに震えていた。
イオリは、そっと腕を回し、彼女を強く、優しく抱きしめる。
「もう、1人にはしません……絶対に」
静かに、けれど確かな決意を持った声。
目を閉じて、シーマが顔を近づける。
イオリもまた、ためらいなくその距離を詰める。
そして、二人の唇が重なる。
長い、優しいキス。
過去も、痛みも、誓いもすべてがそこに込められていた。
やがて、二人はそのままベッドに横たわる。
夜の静けさの中、室内の灯りはただ穏やかに、彼らを包んでいた。
この瞬間だけは、戦火も、任務も、忘れてもいい──そう思える時間だった。
おいおい。シーマさんいきなりデレすぎじゃない?笑
でも、普段ツンツンしている女性が付き合うとデレデレになるのって萌えませんか?笑